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そして次は実習室での薬作りだ。
前回同様にチェリルの順番は最後だった。
ドキドキとしなから材料に目を向ける。
並べられた薬草と小鍋。
そして薬草には間違えないかのテストも兼ねているのか、効能がほとんどないものも用意されていた。
(あのまだら!)
チェリルはほんのりとまだら模様の入った薬草に目が釘付けになった。
色別しにくく、通常の薬草と変わりなく見える。
量を間違えたらすぐに薬が駄目になるから、慣れている人間でも失敗しやすい。
けれどフリはチェリルにそれを使うことを教えてくれた。
『普通はいれないんだけどね、ひとつまみ入れたらよく効くんだよ』
そう言って。
実際に効能は凄かった。
チェリルが興奮して凄い凄いと称えれば「ババアは物知りなもんだよ」と笑っていた。
(あれがあるなら効果の高いの作れる!)
チェリルはにんまりと笑って自分の順番が来たことに、わくわくした。
薬作りは楽しいし、やっぱり好きだ。
ただ、今日こそはと気合を入れる。
棚の方にいるトライワイトを見ると、黒い瞳がじっとチェリルを見つめてくるので力強く頷いた。
薬は実際に飴を食べているトライワイトのお墨付きだ。
飴は今から作るものを基本にしている。
トライワイトの言ったように作り慣れたものだから、失敗はほぼない。
うんと頷くと、チェリルはテキパキと薬草を手に取った。
まだらの薬草を手に取った時にベヘルマの眉が動いたけれど、気にしない。
なんの気負いもなく手を動かしていたときだ。
視界に入ったプルートが面白くなさそうに口をへの字に曲げていた。
そして唇を動かすのがやけにゆっくりと感じる。
また言いがかりをつけられるんだとチェリルは身を固くした。
「おい! こいつまた———」
大きな声にびくりと体が揺れたけれど、次に聞こえたのは素っ頓狂な声だった。
「うわぁ!」
驚きにチェリルの目が瞠られる。
トライワイトが棚の上からプルートの頭の上に着地したのだ。
さすがにバランスを崩すプルートに、しかしトライワイトは落とされることなく器用にその頭や何なら上を向いたプルートの顔も踏みつけている。
「この、なんだいきなり!」
トライワイトが肩に飛び移ったので思わず前かがみになると、今度はプルートの背中へと移動する。
プルートがトライワイトを何とかしようと四苦八苦しているのをぽかんと見ていると、チラとトライワイトが黒い目を向けてきた。
その目くばせにハッとなり、今のうちにとちゃっちゃか手を動かしていく。
「バッカニアさん、この前も言ったけど」
「出来ました!」
ベヘルマの小言が始まる前にと、チェリルはその言葉をぶった切って声を上げた。
「え!? 今の手順で?」
「はい! 自信あります!」
キッパリ言い切ると、ベヘルマが疑わしそうな顔になった。
トライワイトはチェリルの薬は、見ればわかると言っていた。
ベヘルマが万が一見てわからなくても、出来ているのは口に入れればわかるはずだ。
それを邪魔するようにプルートが慌てて口を開こうとするけれど、またトライワイトが頭に乗り上げて「このっ」と気をそらす。
(ありがとうライト)
これはトライワイトが作ってくれたチャンスだ。
生かさなくてどうする。
「これ、ちゃんと作れていなかったら評価無しでかまいません」
チェリルの言葉にざわりと実習室のなかがにわかに騒がしくなる。
どんなに成績が悪くても評価無しになった生徒などいない。
チェリルの箒がいい例だ。
「そこまで言うなら……」
チェリルの真っ直ぐに見つめるオレンジの目に、ベヘルマが若干気圧されるように頷いた。
そしてチェリルが差し出した器の中を覗き込んで、驚愕の顔になる。
「これ、は……出来てるわ。それに……」
「はい、出来てます」
チェリルがこくりと頷くと、プルートが驚いた顔を見せたあとにギッとチェリルを睨みつけた。
チェリルはそれに気がつかなかったけれど、その様子にトライワイトがプルートの上から棚へと戻る。
その方向へ鋭い睨みをプルートが向けるけれど、トライワイトは「なにかありましたか?」という風体でツンとプルートをねめつけていた。
ベヘルマが信じられないという顔でおそるおそるチェリルの薬を少量、口に入れる。
そして呆然とした表情で器を見下ろした。
完全にカルチャーショックを受けた顔だ。
「私、ちゃんと薬を作れます」
「ええ……通常のものより圧倒的な効果の強さだわ。この薬、あの量と手順でどうして……材料だって……」
「ちゃんと師匠にならいました」
プルートに当てこするように言い切れば、ベヘルマがぽかんと目を丸くして教室内も静かになっていた。
前回みんなでチェリルを笑ったせいか、何人かはいたたまれなさそうな顔をしている。
ちなみにライは目を丸くした後に悔しそうな顔をしていた。
プルートはチェリルの当てこすりが自分へのものだと理解しているのだろう。
歯噛みしてこちらを見ている。
さすがに今なにか言うのは無理だとわかっているのだろう。
「あなたの師匠は素晴らしい腕ね」
その言葉に少し泣きそうになった。
じわりと瞳に水分が滲みそうになって俯くと、肩にいつもの重みがくる。
顔を上げるとトライワイトが、よくやったと言うように前足の肉球でぷにりと頬を押してきた。
その感触に、この感動は二人のときに分かち合いたいと思い、チェリルはぐっと奥歯を噛んで泣くのをこらえた。




