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そしてふと、そういえばと思い出す。
チェリルの出自ではなく魔力石の話題だ。
ライはガタガタの石で可哀想だと言った。
チェリルとしては上手く出来た物だった。
トライワイトはそれでよさそうだったけれど、気をつかっているのかなとその胸元を見た。
そこにはチェリルの瞳の石がぶらさがっている。
それを想像しながら「んー……」とやはり気になるなあと思った。
「魔力石さ、気にしてないみたいだったけど、やっぱり綺麗なやつ買おうか?」
元に戻るとわかる。
高貴さを感じる外見にチェリルの作ったものは分不相応だ。
けれどチェリルの申し出にトライワイトは片耳を動かした。
「これでいい」
キッパリ言われてしまった。
嬉しいけれど、あげたときは普通の猫のふりをしていたから自己主張も出来なかったしと訴えれば、トライワイトはあからさまに呆れた顔をチェリルに向けてきた。
「お前、俺が気に入らないもの大人しくつけてると思うか?」
「……思わない」
むしろ何が何でも、かたくなにつけなさそうだ。
短い期間の間柄だけれど断言できる。
「じゃあ、それでいいんだ。つけててくれるんだね」
「だから、そう言ってんだろ」
「うん、ありがとう」
「礼言う意味がわかんねぇ」
ぷいと顔を背けられる。
トライワイトはとても優しい。
口は悪いくせに、いつもチェリルを気にかけてくれる。
だから今回もそうなのだろう。
もしかしたらほんの少しは気に入ってくれているかもしれないけれど。
そうだったらいいなと綺麗な横顔を見ながら、何故かひどく胸の内側をくすぐられているようにチェリルは思った。
□ □ □ □
三人で昼食を食べて以来、ライが普段の行動に加わるようになった。
本当に友達がいなかったらしい。
オフィリアが指を差して笑っていた。
そしてライの座学の成績は本当に優秀だと気づいた。
オフィリアもチェリルも座学の成績は中間くらいだ。
オフィリアはマイペースなところがあるから、座学は自分のペースでやっていくと言ったけれど、チェリルには火がついた。
ただでさえ実技は駄目駄目なのだ。
ライを見習って、もっと頑張らねばと邁進することにした。
そしてチェリルには強い味方がいる。
猫のときでも勉強を見張ってくれたトライワイトだ。
そんなわけでトライワイトを頼ったのだけれど。
「この馬鹿、なんでこの術式とこれが結びつくんだ!」
めっちゃスパルタだった。
わざわざ教科書や資料をめくりやすいように、人間の姿で家庭教師だ。
ありがたいけれど、もう少し穏便に教えてほしい。
「うぅー……ライト厳しすぎるよ」
「お前実技がクソなんだから、座学は徹底的にやっとけ!」
「クソって言った!」
「やかましい!」
チェリルの集中が切れてきたからだ。
今日はそろそろ寝てもいい頃合いだろう。
「飴」
「はい」
丸缶から出した飴を口元に持っていくと、何故か苦い顔をされた。
そして一瞬、口角をさげたあとでトライワイトが飴を口に入れる。
そのままガリガリと噛みだした。
別に噛んでもかまわないけれど、飴なのに舐めないんだ、とどうでもいいことが頭をよぎった。
そしてチェリルの横に立ったトライワイトがぺらぺらと、チェリルのノートを何冊かめくっていく。
「薬学は本当に言うことねぇな」
その言葉ににんまりと笑うと、ノートでぺしりと叩かれた。
「それ以外をもっとしっかりやれ」
頭を使ったからか、なんだか急にとろとろと眠気が襲ってきた。
「スパルタすぎるーそんな上品な顔して口悪いし」
もうこのままベッドに入ったら一秒で寝そうだと思いながら、寝ぐずりのようにうだうだしていると「おい」とトライワイトに顔を覗き込まれた。
「ねむい……」
「そうだな、寝るか」
トライワイトもチェリルが限界だと思ったのだろう。
頷く気配に、チェリルは呻きながらとなりに立っているトライワイトの体に抱きついた。
「抱きつくな! おいこら、待て!」
意識が飛びそうななか、トライワイトの声が聞こえる。
罵声なのに安心できるのが不思議だ。
「離せ! 前も言っただろうが、軽々しく抱きつくな」
そうなのだ。
前回しっかり注意された。
ちょっとなんだか変な誤作動を起こした気もするけれど、多分気のせいだ。
チェリルとしてはトライワイトのことは大好きだし、一緒にいると安心するし、いいじゃないかと思う。
「わたしより、としした、だもん」
うにゃうにゃと反論を返したけれど、それが聞こえたかはわからない。
そのまま意識が飛んだな、と思ったとき頭上からため息が聞こえた。
何もそんな反応しなくてもいいじゃないかと思っていると、何故か抱き上げられる感覚がする。
(あれぇ)
ぼやぼやとして、目があかないけれど、この部屋にいるのはトライワイトだけだ。
(らいとに、だっこは、むりなはず、なのに)
年下で、少年らしい体はチェリルより小さい。
魔力だってあまりないはずだから、浮遊魔法使えるのかなと不思議に思うけれど、この体温に包まれる感覚は浮遊魔法じゃない。
やっぱり抱き上げられているのだと確信しながらも誰かわからないなと思う。
ただ、トライワイトだったらなと思いながら、チェリルは意識を手放した。




