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「ねーライト、もしかして捨てられたことって、あんまり言わないほうがいいのかな」
「……」
一瞬の沈黙に、やっぱり駄目だったかなと思う。
人付き合いをまともにしたことがないので、自分の生い立ちが意外と衝撃なことに気がつかなかった。
失敗したかなと思っていると、しゅると黒猫の姿が掻き消えた。
次の瞬間には尊大な態度で足を組んで座る少年のお出ましだ。
びっくりするほど偉そうである。
「そもそもお前、そのことに何とも思ってないんだろ」
「うん別に」
気負うことなくチェリルはこくりと頷いた。
「師匠に聞いたときも、そっか、と思っただけで親に会いたいとか悲しいとか、なかったかな」
「じゃあ訊かれたら言えばいい。自分から吹聴することじゃねぇがな」
なるほど。
納得する答えだ。
「そういえばライトも驚いてたね」
チェリルの言葉に、あからさまにトライワイトの眉が寄った。
あきらかにちょっとご機嫌斜めだ。
「お前、母親とも祖母とも言わずに師匠呼びだったからな。気づいてもおかしくなかった。てっきり師匠が親族で修行の一環で一人暮らしだと思ってたのに」
「もしかしてすねてるの? 気づかなかったから」
もしやと予想を口にしたら、当たっていたのか舌打ちされてしまった。
「ライトは上品な見た目なのに柄が悪いよね」
「ほっとけ」
「ふふ」
ノーブルな外見とまるでチンピラのような口調が合わないのが、なんだかおかしい。
そんなことを思いながら、チェリルはがばりとトライワイトに抱きついた。
「おい!」
その途端抗議が飛んでくるけれど、気にせずぎゅうぎゅうと抱きしめる。
少年らしさのある体は、抱きしめると何だか安心する。
きっと家族だからだと思いながら、チェリルはけらけらと笑った。
「気づかなかったの悔しいなんて変なの」
「コラ! 離れろ!」
「何で? このあいだは抱きしめてくれたじゃない」
抱きしめて慰めてくれたばかりだ。
それに対してトライワイトはギリギリと眉を上げた。
「あのな! 見た目がこれでも俺は男なんだよ」
「小さい子だもん」
三歳は年下に見えるトライワイトは、チェリル的には弟だ。
恥ずかしがることなど何もない。
けれどその言葉にカチンとトライワイトはブチ切れたらしい。
「は、な、れ、ろ!」
顎を掴んでぐいーっと顔を押し返されてしまった。
「えぇー……」
不満そうにすると、今度は遠ざけていたのをやめて顎を掴みなおされた。
なんだと思っていると、ノーブルな美貌がぐっと近づく。
その黒い目が至近距離で真剣に見つめてきた。
「軽々しく男に抱きつくな」
少年らしい声なのに、なんだか言い聞かせるような声音が年上のように聞こえる。
おもわずその顔と声に、一瞬不整脈のようなものを感じて、かくりと人形のように首をぎこちなく動かして頷いた。
そのチェリルの様子に、トライワイトがふんと猫に戻る。
「つ、れない」
おもわず声がうまく出なかった。
年下の十三歳の少年だ。
動揺なんかするわけがない。
というかトライワイトは家族だ。
猫のときだったら、もっと距離が近い。
(弟、なんだよね?)
一瞬疑問系になってしまった自分の考えに、チェリルは動揺してトライワイトを見下ろした。
尊大で、粗野で、なのにチェリルにはとびきり優しい。
(家族だもん)
まるで言い訳するように、チェリルはトライワイトから目線を外す。
今日は猫の姿でもなんだかちょっとだけ、近づきにくいような気持ちが少し沸いた。




