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そして謝罪をペロッとしたライに向き直る。
「あんた素直な奴ね」
普通そんなに素直に謝罪は出ないと思う。
オフィリアが確かにというように頷いて、にまにまと笑った。
「友達になってあげようか?」
「んな! だ、誰が」
「あ、これ友達いないわ」
「うっ」
オフィリアの言葉にライが詰まる。
けれどチェリルは励ますようにライに向かって笑いかけた。
「いいじゃない。私もいないし」
「待って私友達と思われてなかったの? 衝撃なんだけど」
オフィリアが愕然とした顔でチェリルを見ると、チェリルはぽかんとしたあとで慌てたように両手を胸の前で振った。
「ちが、友達出来ると思わなかったから、どこから友達なのかわかんなかったのよ。前いた村では出来なくて、プルート以外誰も話してくれなかったから」
「あー……ね。一緒の出身地って言ってたね。それでかあ……」
「幼稚な奴だよな」
「何が?」
「何でもないわ」
話が見えなくて首を傾げると、この話は終わりとばかりにオフィリアに会話を切られてしまった。
内容がまったくわかってないのに。
そして話題を変えるように、ライがコホリとわざとらしく一度空咳をする。
「まあ、だから、とりあえず何が言いたいかというと、薬学、とりわけ薬作りの腕だけはライバルと認めてやる」
「うわ、自信満々すご」
オフィリアが呆れた様子でライを見ると、ライバル宣言したライはふんと鼻を鳴らした。
「当たり前だろう。うちは代々魔法使いや魔女を輩出してるんだ」
「おー、凄い」
「ふ、うん?」
ぺちぺちと小さくオフィリアが拍手をすると、ライがドヤ顔で胸を張る。
それに対してチェリルは凄さがまったくわからないなと、ぎこちなく生返事を返した。
「おい、なんだそのどうでもよさそうな反応は。どれだけ優秀な家系だと思ってる」
その言い草とさきほどのライの言葉を反芻して、チェリルは目を丸くした。
「え、魔法使いとか魔女って珍しいの?」
「はあ?何言ってるんだ」
ライがあからさまに呆れた口調で眉を上げた。
そんなチェリルの反応に、オフィリアが「もしかして」と前置きする。
「小さい頃から魔法使いか魔女に習ってた?」
「うん、魔女に習ってたけど……習ってたら何か違うの?」
「うーん、そもそも人に教える魔女や魔法使いってあんまりいないのよ」
「そうなの?」
思わずぽかんとしてしまう。
衝撃の事実だ。
まったく知らなかった。
「人に教えられるような実力の人は魔法を使う仕事につくから、魔法使いや魔女で集まっちゃうのよ。そうすると自分の子供とか、魔法に関わったことある人の子供の先生になることが多いの。だから必然的に優秀な人が集まるってわけ」
その説明に、なるほどと思う。
魔法を使う人間が集まるのなら、確かにチェリルは例外的な存在だ。
それにしてもとちらりとトライワイトを見る。
興味なさげに座っているけれど、以前師匠は弟子がかわいいものだと言っていた。
(あれって自分のことだったのかな)
トライワイトに弟子がいるかもしれない。
けれどあんな小さな少年が弟子を持つか、とも疑問に思う。
ただ弟子のいる可能性になんだか胸の奥がもやりと渦巻いた気がして、これはなんとなく深追いしない方がいいと考えないようにした。
そのあいだも二人の説明は続いている。
「だからそういう子達がここに推薦されて、卒業したらその先生と同じようになって繰り返すってわけ」
「魔法使いや魔女を多く輩出してるってことは、それだけ優秀な魔法使いがいるって証だ」
なんかものすごく狭いコミュニティのような気がするなあと思いつつ、賢明にもチェリルは口を開かなかった。
代わりに自分の環境を「んー……」と辿るように思い出す。
「私の師匠は人と関わってなかったよ。森で一人で住んでた」
「そういう人は卒業しても仕事につかなかった人ね。たまにいるわよ」
「実力が足りない場合とかな」
「ちょっと!」
「本当のことだ」
オフィリアがたしなめるように鋭い声を出すのを、ライがハッと声を出す。
チェリルをおいて争われても困るのだが。
それより気になることがある。
「落ち着いてよ。えーと、つまり魔法の先生って実はその辺にあんまりいないってことよね?」
「私は父方の叔母さんよ」
「僕はおじい様だ」
「なるほど」
確かに身近だ。
それならチェリルは例外だろう。
ただ、弟子になった経緯自体が例外的だよなあと、自分の生い立ちをかえりみる。
「私捨てられてたのを拾ってくれたのが師匠だったからなあ」
ぶっちゃけ赤ん坊のときから魔女がいる。
考えてみれば英才教育なのに、何故こんななのだ。
そんなことを考えていると、何故か全員固まっていた。
オフィリアもライも顔色が悪い。
トライワイトも目をかっぴらいてチェリルを見ている。
全員どうした。
首を捻ると、ライがおそるおそるというように、声を震わせる。
「お、お前、捨てられてたって……」
「森にね」
「ちょっいきなりセンシティブぶっこんでこないでよ」
森という単語に、さらに二人の顔から血の気がひいた。
トライワイトもチェリルをガン見している。
オフィリアの言葉で、ようやくチェリルはこの状況に気がついた。
なんか自分の出自がドン引かれている。
「あの、別にセンシティブでもなんでもないから気にしなくていいけど」
「え、そうなのか?」
「気にしないほど小さいことではないわよね」
なんかまだ顔色が悪い。
安心させるために、チェリルはへらりと笑って見せた。
「捨てられただけで別に覚えてるわけじゃないし、捨てられて困ったことないし、別にいいっていうか」
つるっと感想を言えば、二人はマジかよという顔をしていた。
なんか色々な意味で衝撃だったらしい。
ちなみにトライワイトは気にして損したと言わんばかりにあくびをしていた。
「もしかして、にゃんこ君も?」
オフィリアがトライワイトを見ると、高貴さが天元突破している黒猫はツンと顔を背けた。
「森で怪我したのを拾ったの。師匠は死んだから、私の大事な家族」
「うわあ、やっぱりセンシティブ」
オフィリアが呻く。
けれど、その言葉に納得したようにライがうんうんと頷いた。
「それで魔力があったから、わざわざ主従魔法してまで連れてきたのか」
「え?」
一瞬ぽかんとしたけれど、ぺんっとトライワイトに尻尾で叩かれてからチェリルはハッとした。
そういやそんな設定だった。
「そう、そうなのよ、契約して連れてきたの!」
思わず大声になってしまった。
危ない。
設定をすっかり忘れていた。
ごまかせたかなと二人をちらりと見ると、とても気の毒そうな顔をされていた。
解せない。
そんな昼休みを過ごしてから、今日のぶんの授業も無事に終わり自室に入るとトライワイトは身軽な動きでチェリルの肩から椅子の上へと移動した。
それを見つつ、鞄を机に置くと昼間のことを思い出す。
実はずっと引っかかってはいたのだ。




