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朝の食堂はごった返しているからゆっくり出来なかったけれど、昼食時にオフィリアから声をかけられて一緒に食堂へと向かった。
「昨日大丈夫だった?」
腰をおろしてフォークを取ったところで、オフィリアがおずおずと口を開いた。
朝からチラチラとこちらを見ていたから、何かあるのだろうと思っていたら、心配してくれていたらしい。
「私、薬作りっていうか薬学全般が苦手だから、会話に入れなくて」
「あいだに入ろうとしてくれたの? ありがとう」
素直にお礼を言ったら、こそばゆそうに「いやあ」とオフィリアは頭の後ろをかいた。
そしておもむろに自分の横に顔を向ける。
そこには何故かトレーを運んできた男子生徒が座っていた。
長めの空色の髪に青い目の整った顔だ。
「なんでいるの?」
オフィリアの向ける憮然とした半眼に、男子生徒が口を開くよりも早くチェリルは首を傾げた。
「誰」
「おっまえ、クラスメイトの顔くらい覚えろよ!学年首位のライ・リールだ!」
「学年首位とか自分で言っちゃうんだ」
オフィリアの言葉にライがキッと眦を上げる。
こんなのいたかな。
いやそもそもクラスメイトのほとんどを覚えてないな。
チェリルは頭のなかで思い出そうとして、自分は落ちこぼれと遠巻きにされている事実にちょっとどうかと思った。
トライワイトのいるおかげで全然気にしたことがなかった。
そこで、あれと思い出す。
「箒乗れないの信じられないって顔してた子だ」
そうだ。
飛べなかったチェリルに「嘘だろ」と驚いていた生徒だ。
チェリルが何かリアクションを起こす前に、オフィリアが「ないわー」と首を左右に振った。
その反応にライが微妙にうろたえる。
「箒乗れないことに驚くのは悪くないだろ」
それもそうだ。
乗れないチェリルが少数派である。
オフィリアも「冗談よ」とへろっと態度を翻した。
ライのこめかみが若干ひきつっている。
「それで何の用?」
パンをちぎりながらのオフィリアの問いかけに、やっと本題だと言わんばかりにライはチェリルを見やった。
「話しがあったんだよ」
「え、なに」
チェリルとしては心当たりはない。
警戒した顔を向けると、ライは存外真面目な顔だった。
「薬学の薬作り」
どきりとその一言に、チェリルの体に緊張が走った。
「あれ、失敗じゃないだろ」
疑問系でなく断定だ。
思わずトライワイトの方を見てしまうけれど、素知らぬ顔でササミをはぐはぐ食べている。
今は猫のふりをしているからわかるけれど、なんか目くばせとか欲しかった。
とりあえずチェリルは平静をよそおってフォークでつけ合わせの野菜のグラッセを刺した。
「なんでそんなこと思ったの?みんな適当って言ってたじゃない」
「だってお前、加える薬草がどの部分かとか入れる量やタイミングも迷いがなかっただろ」
「そういやそうね」
ライの言葉にオフィリアも納得したように頷く。
チェリルとしては困る。
あれはいつも通りに作っただけだ。
特別なことはしていないので、迷いようがない。
「あの手際は作り慣れた手つきだ。普通薬学なんて、学校に来て習うものなのに」
そうなのか。
吃驚して目を瞠ったあとにオフィリアを見ると、オフィリアにも肯定するように頷かれた。
「普通は生活魔法とか箒とかを、先に教えられるものだから」
「そうなんだ」
知らなかった。
フリは魔力がいつも枯渇気味だったから、あまりその辺はしっかり教わっていない。
ほぼコツを口頭で教えて貰い、それを実践していただけだ。
「俺は成績首位なのに、薬学の……薬作りは負けたと思った」
「思ったの?」
「悔しいけどな」
本当に悔しそうにライはぎゅっと眉間に皺を寄せて、完全に口角が下がっている。
遠回しに褒めているのだろう。
思わずトライワイトを見ると、ササミの入った皿から顔を上げて、ぴるりと片耳を動かしていかにもふふんと得意気な顔をしていた。
その顔と昨日の言葉を思い出し、思わずにんまりと笑ってしまう。
「おい、あからさまに嬉しそうにするな」
そんなことを言われても頬が緩むものは緩む。
チェリルのそんな顔に、ライは深いため息を吐いてスープ用のスプーンを持った手をゆらゆらと動かした。
「なんで箒にも乗れないやつに敗北感を感じるんだ……」
「あんたがチェリルより上手くないからでしょ」
「ハッキリ言うなよ!」
ライのぼやきにオフィリアが辛辣に答えると、悔しそうに声を上げた。
本当に憤りを感じているらしい。
滲み出る悔しさが尋常じゃない。
「その魔力石だって」
ちらりと見たのはトライワイトが首に下げているペンダントだった。
チェリルの目と同じオレンジ色。
魔力石は凝縮した魔力を込められる。
広範囲にわたる魔法は魔法陣を使い、限定的に使ったり量が必要なものには魔力石を使うのが一般的だ。
そして魔法陣もそうだけれど、魔力石も出来上がりの良し悪しは製作者の力量次第だ。
「魔法陣の授業も下手くそだと思ってたけどさ」
「失礼ね」
「あれ」
ライが指をさしたので、三人の目が一斉にトライワイトの首にあるペンダントの魔力石へと向けられた。
あからさまにトライワイトが嫌そうな顔をする。
その黒い毛並みのなかよく目立つオレンジを指差したまま、ライトはチェリルを見やった。
「凄い下手くそだぞ」
「なっ」
「よくそんなの堂々とつけさせてるな。可哀想だから買ったやつとかにしてやれよ」
「まあ純度の高いものは作るのが難しいからね」
ライの呆れ声に、オフィリアも苦笑する。
魔力石は基本的に美しいほど価値があり、威力も上がる。
ツルリとした凹凸のない表面に艶々とした光を弾く輝き。
純度の高い魔力石は、それだけでキラキラと宝石のようなものなので、高値で売り買いされているとは、チェリルがフリから聞いたものだ。
思わずトライワイトのつけている魔力石を見ると、形はガタガタで表面は小さな凹凸が何か所もありザラザラしている。
言われてみれば、だいぶ酷い。
「……え、と」
これはチェリル的には一番うまく出来た物だけれど、周りから見たらそこまで酷いのかと落ち込んで暗雲を背負った。
(可哀想……そう思われるのはやだな)
トライワイトがそんなふうに見られるのは、チェリルとしてはありえない。
これは近いうちに外出許可を貰って、新しいものを買いにいこうと決めた。
話せるようになった今なら、事前に色などどんなものがいいか確認もとれる。
とりあえず、いつまでもそんなふうに思われるものをつけさせているのはとチェリルはトライワイトのペンダントに手を伸ばした。
けれど、ぺいと前足で手をはらわれる。
「あれ?」
なんで今、手をはらわれた。
首を傾げていると、オフィリアがにまにまと笑いながらライを見やる。
「にゃんこ君は気に入ってるみたいよ」
「む……余計なお世話だったか。悪い」
自分の魔力石を選んでくれたことが嬉しくて、デレッと相好を崩していると「ナン」と注意が飛んできた。
多分顔を引き締めろとかそんなのだろう。




