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「言っておくけどな、お前の薬作りの腕は相当なもんだ。前も言ったがな」
そういえば以前褒められたなと思い出す。
けれど授業のことを思い出して、へにょんと眉を下げた。
「でも今日……」
「わかねぇ奴はわかんねぇ。使えば一発でわかる。魔力増幅薬だってな、飴にまで効力を凝縮させるなんて、考える奴も作る奴もいねぇんだよ」
「だって、クロ、ライトは飴じゃないといつでも食べれないでしょ」
学園に入学するさいに一番の懸念事項はクロロの薬をいつでも準備できるかということだった。
けれど実習室があっても頻繁には使えないだろうと思ったから、試行錯誤して飴にいきついたのだ。
飴にいきついたのは、それが一番てっとりばやく口に入れられると思ったからだ。
チェリルとしてはなにか特別なことをしたつもりはない。
頭に思わずハテナを飛ばしていると、ぐいと両頬を手で挟まれて目線をあわせられた。
「そういうのは思いつく知識があって、お前の腕があるからはじめて作ることができんだよ。胸を張れ、この俺が保証する」
なんて傲慢な言い草だ。
褒められて嬉しいのに、チェリルは何だかおかしくなった。
「なにそれ、ライト凄い人みたい」
「まあな。しかし前から思ってたが、よくもまあたいして量りもせずに、ぽんぽん入れて完成させられんな」
その言葉に、むしろチェリルは反対のことを思っていたのでトライワイトが手を離したことで首を傾げた。
「私ここに来て吃驚したんだけど、魔法って意外と理論的なものなんだね」
魔法陣も規則性が基本にあるし、魔力石も工程や入れる魔力の量などが規模によって明確に基本の作り方が決まっていた。
それを思い出しながら伝えると「なにを言ってんだお前は」と半眼を向けられてしまった。
「やっぱりライトもそう思う?」
「当たり前だ」
「師匠は魔力石作るときもそうだったけど、どれくらい入れるのって聞いたら、ひとつまみとか言ってたの。失敗しちゃうよって言ったら、大体目分量だって。主婦なんてレシピ毎回見なくても何十回と料理してるから失敗なんてしないでしょって言ってた。あと材料がいつも同じ状態なわけないんだからって」
チェリルの言葉に、トライワイトは明確に絶句していた。
どう見ても彼のなかの何か常識的なものが覆された顔だ。
ここに来て思ったけれど、チェリルはだいぶ自分が特殊な教えを受けていたのだと薄々気づいているので、トライワイトのなかでもカルチャーショックが爆発したのだろう。
「フィーリングの人だったんだよ」
「だから作り方が全部大雑把なのか」
「大雑把なんて思ってたんだ」
ここにきてまさかの真実だ。
森で薬作りをしているとき、いつも肩に乗って見ていたのは大雑把な作り方に度肝を抜かれていたのかもしれないと思い出にはせる。
「普通はミリグラム単位で量るんだよ。他の奴もそうしてただろ」
そういえばクラスメイトはちまちまと何度も量り直していた。
一体なにをやっているんだろうと思っていたけれど、そういうことかと腑に落ちる。
(なんか師匠のやり方と全然違う)
もしかして師匠やチェリルの方法は物凄く原始的なのでは?
そんなことが脳裏をよぎったけれど。
「いい師匠じゃねぇか」
トライワイトの言葉に目をぱちくりとさせると、彼は不敵に笑っていた。
「……そう思う?」
「当然だ。お前の発想もよく出来た薬も、何度も作り続けた経験が生きてんだよ。お前のなかの師匠の教えがな」
思わぬ言葉に、またじわりと泣きそうになってしまった。
あんなふうに馬鹿にされたあとでその言葉はずるい。
ずっと大切にしてきた胸の内を、柔らかく撫でられたようだった。
「私、師匠とずっと二人で暮らしてたの。褒められたくて頑張ったのに、最後まで未熟なままだった……でも、ちょっとは師匠が認めてくれる弟子だったかな」
「安心しろ。師匠ってのは結構弟子がかわいいもんだ」
「ライト、なんだか年上みたい」
「……あー……」
笑いながら言うと、何故か心底悩んでますという反応をされた。
何故そんな反応になる。
そんなライトを見ていると結論が出たらしい。
「冷やさねえと腫れるぞ」
ぶっきらぼうに、そう言われた。
「ふふ、うん」
なんだか絶望的な気持ちはいつのまにか晴れてしまっていた。
壊滅的に口が悪いのに、言っている言葉も仕草も優しい。
(ライトがいてよかった)
じゃないときっと今頃、落ちこぼれとして立ち直れないくらい沈んでいただろうし、箒だって何だって出来るようになんて努力を今ほど出来たかわからない。
多分、途中で折れて挫折していただろう。
猫に戻って「飴」というトライワイトに丸缶を出しながら、チェリルはしんなりとオレンジ色の瞳をたわめて微笑んでいた。
翌日は普通に学校に行けた。
トライワイトのおかげで気持ちは持ち直した。
むしろ薬作りを褒められて、フリのことも認められたから絶好調だ。
我ながら安易だとは思うけれど、元気がないよりはいいだろう。




