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森のなかは暗くなるのが外より早いのだ。
さっさと帰りたいのに、いつもプルートが邪魔をしてくるのがイライラしていた。
普段は森の入り口までついてきては絡むけれど、今日は追ってくる気配はない。
素晴らしいことだ。
溜飲が下がりそのまま帰路につくと、森の一部の開けた場所に一軒家が現われる。
茶色のレンガ造りに青い屋根。
もともとはフリがひとりで暮らしていた家だからこじんまりしている。
「ただいまー」
何となくの習慣でしてしまう挨拶を口にしながら玄関を開ける。
扉が開かれれば、そこは薄暗くガランとしていた。
明かりがついていないのは当然だ。
出かけていたのだから。
別に物がないわけじゃない。
むしろ何に使うかわからないフリの物やチェリルの物だって、いっぱいある。
なのに、家のなかが空っぽの真っ暗闇に思えた。
本音を言えば家にひとりなのは、やっぱりちょっと寂しい。
少し俯いて靴を見たけれど、プルートの言葉が頭に響く。
誰もいない森のなかで、ぼっち。
「……ふん!」
ぎゅっと拳を握ると、チェリルは居間へと飛び込んだ。
壁に立てかけてあった箒を手に取り勢いよく家を飛び出す。
そのまま緩い坂になっているところに来ると、箒にまたがり走り出した。
スピードに乗って、自分の胸の中にある魔石を意識する。
飛べ、とイメージを描いてジャンプしても一瞬浮遊感を感じただけで、浮いたりはしない。
いつもそうだから、チェリルは気にせず坂の下までくるとまた元の場所へと歩き出す。
フリの教えだ。
『練習しても上手くいく保障なんてないよ!でもやらなきゃ、いつまでもやれないままだ』
フリはきっぷのいい人間だった。
『出来なくても別にいいけど、続けることは大事だからね。それと工夫することはやめるんじゃない』
いつも言われた言葉だ。
お手本通りじゃなくてもいいと豪快に笑っていたのを思い出して、また箒にまたがり走り出す。
何度か足がもつれて転んだ頃、気づけば暗くなっていた。
「必死すぎて気づかなかった」
ぽかんと空を見上げたときだ。
鼻の頭に、ぽつりと冷たい雫が落ちてきた。
それに目を丸くしたあと、慌ててチェリルは箒片手に走り出した。
すぐにパラパラと雨が降ってくる。
「ひゃー」
それなりに雨量が多くなってきたので、泥を跳ねさせながら走っていると、視界の端で何かが動いた。
野生動物は奥まで行かないと出てこないので気のせいだろうと思うけれど、なんとなく気になってチェリルはそちらへと足を向けた。
木の根元、そこでふるりと動いたのは黒い塊だった。
「……猫?」
そろりと近づいても動かない。
おそるおそるしゃがんでみると、やはり黒い猫だった。
「え、ちょっなにこれ!」
よくよく見ると、黒猫はところどころ怪我をしていた。
雨で洗い流された部分はともかく、そうでない部分が赤くなっている。
「し、死んでないよね!?」
覗き込むと、震えているので生きている。
大丈夫だ、よかった。
正直、猫の死体を一日の最後になんて見たくない。
「つれてかなきゃ」
手当をしなければ死んでしまう。
「ひえぇ」
抱き上げようとしたら想像以上に柔らかくて、思わずチェリルは悲鳴を上げた。
動物なんて触ったことがないのだ。
悲鳴くらいは許してほしい。
力の抜けた黒猫の体を抱き上げると、そのくんにゃりとした感触に本当に大丈夫なのかといっそ涙目になりながらチェリルは家へと駆け抜けた。




