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チェリルが十三歳のとき、育ててくれた師匠である魔女のフリはベッドの上で笑った。
「私だいぶ長生きしたけど、そろそろ近いうちに死ぬから! この家は好きに使いな」
その翌日フリは死んだ。
そろそろって言った癖に翌日だなんて早すぎる。
そんなことを言いながらチェリルはびしゃびしゃに泣いた。
フリの最後の言葉は、彼女らしからぬ後悔にまみれたものだった。
「未練はひとつだけだね。止められなかった」
チェリルにはなんのことだかわからなかったけれど、フリはそれをぽつりと零したあとに死んだのだ。
そしてそこから三年。
十六歳になったチェリルはフリの残した家で、好きに生活していた。
森の中にある一軒家。
そこに住んでいたのが魔女のフリだ。
森の入り口に捨てられていたチェリルを彼女は拾ってくれた。
この森はフリの持っていた魔道具によって、人間は入ってもすぐに入口に出てしまうようになっている。
おそらく森の中に入れないから入口に捨てられていたのだろうと、フリは言った。
入口でよかった。
おかげでフリが町から帰るときに通りかかり、見つけてくれた。
森の中に捨てられていたら、絶対に死んでいただろう。
何故フリが森に魔道具を使ってまで人を入れなかったのかはわからないけれど、そこでチェリルは魔法使いの女、つまり魔女だったフリに育てられたのだ。
人間はみんな胸のなかに魔石を持って産まれてくる。
それが魔力の元なのだ。
けれど普通は大した魔法は使えない。
魔法使いや魔女に師事して、魔力の操り方をちゃんと学ばなければいけないからだ。
なので、一応フリに魔法を教えてもらったチェリルは魔女と言える存在だった。
森の近くの町にあるいつもの薬屋。
そこにチェリルは商品と交換でお金を受け取った。
「いつも助かるよ」
店主の言葉に、チェリルはふわふわとした淡い金髪のツインテールを揺らして笑う。
オレンジ色の瞳がキラキラと輝いていた。
「チェリルちゃんの商品はよく効くから、評判よくて助かってるよ」
「それはよかったです」
チェリルが薬屋に売っているのは、薬草で作ったさまざまな薬やお茶だ。
フリが教えてくれたことのなかでも、チェリルは薬草を使うことが得意だった。
「一人で大変だろう」
「ううん、魔法の修行もあるし結構充実してるんです」
にっこりとそう言ったときだ。
「なにが魔法の修行だよ」
聞き覚えのある声に、チェリルは顔を顰めた。
嫌な気分で振り返ると、そこには見覚えのある同い年の少年が立っている。
上背のある短めの茶髪は、見慣れたくもないものだ。
一応幼馴染の部類に入るプルートを、しかしチェリルは嫌っていた。
「また薬を売りに来たのか?」
にやつく顔に拳を叩き込みたい。
そんな衝動を抑え込みながら、用は済んだとばかりにチェリルは町の入り口へと歩き出した。
その後ろからついてくる足音がするし、不快な声も聞こえてくる。
「お前半人前以下なんだから、いい加減に魔女やめて町に住んだらどうなんだよ」
「嫌よ」
お決まりのやりとりだ。
プルートはことあるごとにチェリルに魔女をやめるようにと言ってくる。
正直とても鬱陶しい。
「誰も入れない森で一人なんて、ぼっちで恥ずかしくないのかよ」
「別に」
むしろ森の隠蔽魔法のおかげでプルートがついてこれないので、絶対に出る気はない。
「魔女って言っても基本の飛ぶ魔法も出来ないくせに」
痛い所を突かれて、チェリルはぐっと喉を詰まらせた。
魔法の基礎だと言われるものは何種類かあるけれど、そのひとつが飛行魔法だ。
箒にまたがり飛ぶ。
絵本なんかにもよくある、魔法使いや魔女を象徴する魔法。
チェリルはそれが出来ない。
口を引き結んで歩くスピードを上げるけれど、プルートはそれにもぴったりと張り付いてきた。
上背のある彼の方が、歩く歩幅は大きい。
「お前がどうしてもって言ったら、教えてやってもいいんだぜ」
プルートの声は得意気だ。
この町で唯一の魔法使い。
幼い頃にしばらく叔父の家に行っていた時期があるのだけれど、その叔父が魔法使いだったらしい。
魔法を教わって帰ってきたら、やけに自信過剰になってチェリルに絡んでくるようになった。
町の人も唯一の魔法使いであるプルートをもてはやすので、ますます態度が助長していくのだ。
たしかに魔法をちゃんと使える人間がいれば色んなところで助かるけれど、それにしたってもてはやされすぎじゃなかろうかとチェリルは思う。
「いらない」
切って捨てるとムッとした空気が後ろから感じられた。
「うちで世話してやるって言ってるのに断りやがって。チェリルのくせに」
「あんたのところなんてごめんよ。それに、いつまでもここにいるわけじゃないもの」
「は!?」
ひっくり返った声を上げたプルートに肩をぐいと引っ張られて、チェリルは忌々し気に振り返った。
その先にはプルートの愕然とした顔がある。
「まさか……学校か? あの魔法の」
「そうよ」
だから何だと言うように半眼を向ければ、プルートは忙しなく左手を何度も開いたり閉じたりしていた。
わけのわからない反応だ。
「あれ、は魔法使いか魔女の推薦状がないと無理だろ」
「師匠が準備しておいてくれたのよ。あんたともさよならで、せいせいするわ」
ハッと鼻で笑うと、まだ掴まれていた肩からプルートの手をはらってチェリルは早足で歩き始めた。




