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そのあとは入学式のために、案内書に書いてあった場所への道順を考えながら歩き出した。
少し早めにチェリルは行動しているから、まだ入学式まではしばらく時間がある。
けれど、果たして本当にオフィリアが入学式に行けるのかは心配だ
「あとは入学式のあとクラス発表を見て、教室で説明会だって。主従魔法を結んでる従だったら、このまま一緒にいられるからね。バレないように頑張ろう」
むんと気合を入れると、クロロの尻尾が返事をするように、ゆらりと揺れた。
「それにしても……私達のほかに主従魔法してる人いないね」
右を向いても左を向いても、動物連れはチェリルだけだ。
不思議に思ってクロロを見ると、たいそう呆れた目をしている。
なんでそんな目で見るんだろう。
どうかしたかとチェリルが口を開きかけたとき。
「おい」
背後からの声に、チェリルはくるりと振り返った。
そして「げ」と顔をしかめる。
そこには会いたくもないプルートがいた。
おもいきり眉をひそめながら、チェリルは嫌そうに口を開く。
「なんでここにいるのよ、あんた」
その質問にプルートは、ふふんとチェリルを見下すような目を向けてきた。
「魔法使いなんだから当たり前だろ」
「あんた師匠なんていないじゃない」
「叔父さんが推薦してくれたんだ」
「ちょっとのあいだ教わっただけで、弟子でもなんでもないくせに」
それで魔法使いだと言うなんて、片田舎の町ならともかく魔法学園では通じないだろうとチェリルが匂わせれば、プルートはぐっと喉を詰まらせた。
「うるせーな! 叔父さんに薦められたんだよ! 優秀だからってな」
「何が優秀よ」
チェリルが言い返すと、プルートがさらになにか言い返そうとする前に、クロロが馬鹿にするようにふんと鼻を鳴らした。
ちろりと目を細めてプルートを見る姿は、完全に見下している。
あいかわらず気位が高い。
そんな態度が気に入らなかったのか、プルートが忌々し気にクロロを見やった。
まあクロロの態度を気に入る人間などほぼいないだろう。
可愛げのかけらもない。
「そいつ、連れてきたのか」
「当然よ」
「そもそもいつのまに飼ったんだ。どこで見つけた」
「あんたに関係ないでしょ」
ハッキリと踏み込んでくるなと拒否すれば、プルートは鼻白んだ。
ギッとチェリルの顔を睨みつける。
「俺が訊いてやってるんだぞ」
なんて傲慢なんだと思う。
チェリルの方こそ鼻白んだ気持ちで「行こう」とクロロに声をかけると、さっさとプルートに背を向けた。
「お前は知らないだろうけどな! 従なんてつれて歩いて恥かくのはお前だからな!」
後ろからの怒鳴り声に、チェリルはうるさい奴がまたうるさい声出してるな、と不快な気持ちでさっさと入学式の会場へと向かって行った。
入学式の会場で椅子に座ったまま、チェリルはなんとなくそっと周りを見回した。
何だか見られてる。
めちゃくちゃ見られてる。
これではクロロも緊張してしまう、と膝に乗せたクロロを見ると座った姿勢のままツンとおすまししている。
クロロは外ではあまり丸くなったりしないのだ。
気の抜けた姿を見せたくないのかもしれない。
猫なのに。
というか、ものすごく堂々としている。
(猫ってこういう生き物なのかな、それともクロロさんの性格?)
不思議に思って考えるけれど、クロロの性格っぽいなとチェリルは思った。
どこにいても堂々としている気がする。
そのあと入学式が始まり、色んな教師や校長だという人の話が続く。
眠気はあまりなかったけれど、暇でクロロに指先でかまっていたらかぷりと甘噛みされた。
真面目に聞けということらしい。
そのあとは前をちゃんと向いていたけれど、意外と入学式は早く終わった。
順番に会場から新入生が出ていくので、自分の順番がくるまで待っていると、視線の集中が凄い。
両隣に座っていた生徒にもずっと見られていた。
「みんな猫派なのかな」
首を傾げると。
「ンナゥ」
膝から肩へとのぼってきたクロロにゴスッと頭をぶつけられた。
「え、なに? あ、順番きてる」
自分のいる列も退場になってみんなが歩き出していた。
チェリルが歩き出さないので、後続が詰まっているのだ。
「次はクラス表を見に行かなくちゃ」
慌ててチェリルも立ち上がって歩き出した。
人の流れについて行ってホールに出ると、大きな紙が四枚宙に浮いていた。
これに名前が書いてあるらしい。
「浮遊魔法あんまり使ったことないなあ」
ぽつりと呟くと、クロロが嘘だろうという顔でチェリルを見た。
それに、ちょっと恥ずかしそうにえへへと笑う。
「料理とか家事、全部手でやってたでしょ? 浮遊魔法とかが苦手だから手でやった方が早いんだよ。もちろん手作業好きっていうのもあるんだけどね」
その言葉にクロロがなるほどと言ったように頷いた。
まあそれよりクラス表だ。
みんなが見上げているのを、同じように見上げる。
クラス名は「ドラゴン」「グリフォン」「ペガサス」「フェニックス」となっている。
本でしか見ることが出来ないような生物を何故クラス名にと思ったけれど、そういえば学校案内に書いてあった。
初代校長がこういった生物が大好きで、名付けたと。
自分の趣味で決めていいのだろうかと思ったけれど、初代だから好きにできたのだろう。
「私、グリフォンクラスだ」
クラスが決まっているのを見ると、いよいよ学校が始まるという実感がわいてくる。
「今日からグリフォンクラスの生徒かあ。頑張ろう」
クラス表を見上げながら気合いを入れていると、クロロがチョイと前足を上げた。
何だろうと前足の先を見て「げえぇ」と少女が出すには似つかわしくない声で顔をしかめる。
その視線の先にはプルートと大嫌いな名前が書かれていた。
「さいっあくだわ!」
思わず大声を上げていた。
すかさずクロロの尻尾が背中を叩いたことで、我にかえる。
ハッと周りを見ると周囲がぽかんとチェリルに視線を向けているのに気づいて、そそくさとその場から離れた。
そして校内案内にあった教室の位置を思い出しながら歩きだす。
早足で肩をいからせて歩いている姿は完全に機嫌の悪さをあらわしていて、そっと周りの人間から道を開けられた。
しかしチェリルがそれに気づくことはない。
チェリルの頭のなかは現在ひとつのことでいっぱいだ。
「最悪! ほんとに最悪! あいつ小さい頃からずっとしつこくついて回って、いい加減にしてほしい」
「ナゥナ」
「クロロさんもそう思うよね⁉ どうせ今回の入学も見栄っ張りだから、私が行くのに自分が行かないのが許せなかっただけでしょ」
イライラとまくし立てるチェリルに、クロロはあきれた様子でため息を吐いていた。
そんな愚痴を吐いていたら、教室についてしまった。
教室内は天井が高いせいか、広く見える。
特に席の場所は指定されていなかったので、適当に腰をおろした。
それと同時にクロロがするりと肩から机へと降りてちょこんと座った。
その背中を撫でる。
やはりいい毛並みだ。
クロロ用のオイルは何度も薬草を変えて作った自信作なので結果が出ると嬉しい。
毛並みがよくなったせいで、ただでさえ高貴な雰囲気だったのがいまや王子様と言わんばかりだ。
しかも有能そうな出来る系の王子。
そろそろ頭を撫でたい。
尻尾も捨てがたいけれど。
そんな邪なことをかんがえていると、フンと鼻息を鳴らされた。
チェリルの考えなんてお見通しと言わんばかりだ。
ジトリとした目がそれを物語っている。
弁明しようかと口を開きかけたところで、教室の扉が開いた。
よく見れば周りはすでに生徒が各自座っていて、クラスメイトは揃っているらしい。
教室に入ってきた女は教師らしく、黒いローブを着ていた。
チェリルが着ている制服はこげ茶色の上着に黒いスカートと落ち着いたものなので、魔法使いや魔女って地味な服がデフォルトなのかな、などと思ってしまう。
ちなみにチェリルが森にいたときは、ミントグリーンのストライプが可愛らしいワンピースなんかを着ていた。
まったく魔女らしくない。
そんなローブ姿の教師の髪は巻き毛という豪奢な外見だった。
魔女というより芝居に出てきそうな女優に見える。




