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いつかこの復讐が灰になるまで 〜すべてを奪われた青年は、紅蓮の炎で空虚な獣を焼き尽くす~  作者: 不知火 ヌイ


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3話 『A級』

 雨の日の邂逅から数日後。


 深夜の産業道路を、霊対室の特殊装甲車が重いエンジン音を響かせながら疾走していた。


「……にしても、A級任務なんて、今の俺達に振るなんてどうしたんですかね?」


 後部座席で、順が不安を誤魔化すように軽口を叩く。


 紅莉隊は元B級部隊だったが、隼人の殉職による引責降格処分でC級になっている。


 彼の言う通り、C級部隊である紅莉隊がA級案件にアサインされることなど通常ではあり得ない。


「私たちの任務はあくまで後方支援。指定エリアの第7号廃棄埠頭で、残っているかもしれない民間人避難誘導を行うのが目的よ。前面に立つのは、先行しているA級部隊だから」


 運転席でハンドルを握る怜が、ルームミラー越しに冷静に訂正した。


 だが、その声にも隠しきれない緊張が滲んでいる。


 助手席の奏斗は、腕を組んだまま黙って窓の外を流れる暗闇を見つめていた。


 A級虚獣は、街一つを容易に壊滅させる力を持つ、災厄そのもの。

 命を落とす覚悟を持って挑まなければならない。


 車はゲートを通過し、ゆっくりと速度を落とし停止する。


 車を降りた瞬間、三人の鼓膜を叩いたのは、絶え間なく続く金属のひしゃげる轟音と、地鳴りだった。


「――げ、なんすか、ありゃあ……」


 順が呆然と呟く。視線の先、埠頭の中心で一体の虚獣が静かに立ち尽くしていた。

 

 天を突くほどの巨躯。身の丈は五十メートルを優に超えている。


 無数の人間の死体と鉄クズが溶け合い、再構築された歪な人形。

 だが、真に戦慄すべきはその巨体ではない。


 虚獣の周囲には、巨大なコンテナや停泊していた船舶や鉄骨の山が浮遊し、高速で渦巻いていた。


「広域の念動力テレキネシス……! しかも、この質量を同時に操るなんて……」


 怜が恐ろしげにその光景を見つめる。


「でも不自然だな。なぜ虚獣は立ち尽くしたまま動かない? 怜、何か視えるか?」


 奏斗が怜に尋ねたとき、彼らの後ろから挑発的な声が聞こえた。


「――貴様ら、随分と遅い到着だな。お前らがチンタラしている間に民間人の避難は終わったぞ」


 振り返ると、黒い戦闘服に身を包んだ五人が立っていた。


 その中心で腕を組む男の胸には、A級部隊の隊長であることを示すエンブレムが鈍く輝いている。


「A級・刃金はがね隊、私は隊長の刃金はがねだ。貴様らのやることは終わった。我々の邪魔にならんよう、瓦礫の陰で見ていろ」


 不意に、刃金の視線が奏斗を射抜いた。


「貴様、紅莉奏斗あかりかなとか。超新星、B級部隊のレッドエースとまで呼ばれた男が、今やC級にまで落ちぶれたとはな。仲間を一人死なせた挙句、ショックで自慢の炎も制御できなくなった腰抜けが……。お前のライバル、氷室はもうA級だったか?」


「黙ってきいてりゃぁ、あんた……!」


 激昂して殴りかかろうとする順の肩を、奏斗が手で制した。


「構うな、順。……俺のことはどうでもいい」


 奏斗は刃金を睨み、淡々と言う。


「あんたたちの任務は、あの虚獣を倒すことだろ」


 静かな奏斗の声に、刃金は鼻で笑う。


「フン。見ていろ、C級風情が。本物のA級が、貴様らとは次元が違うことを見せてやる」


「勉強させてもらうよ……刃金隊長。でも気をつけろ、あの虚獣なんか変だぞ」


「……何がだ?」


「立ち尽くして全く動かないの、変じゃないか?」


「ハッ、バカが、動かない敵?むしろチャンスだろうが。これだからC級は……。お前らは後方支援だけしていろ」


 刃金の身体中から、霊力がたぎる。


「いくぞ!!」


 刃金の号令のもと、隊員が一斉に駆け出した。


「――行けェ!『万鈞ばんきん鉄槌てっつい』!!」


 刃金の能力『万鈞ばんきん鉄槌てっつい』。

 触れた金属を変形・接合させ、自在に操ることが出来る。


「オラァァァァァァァ!!」


 全身から放たれる霊力の密度は、奏斗たちが普段相手にする虚獣とは比較にならない。


 刃金の咆哮と共に、埠頭に散乱していた鉄骨が巨大な蛇と化して虚獣へと襲い掛かる。


 「お前ら! 出ろ!」


 両手にエネルギー刃を形成した隊員と、衝撃波を放つ隊員が左右から、渦巻く障害物を突破。


 後方からは重力場と音波の能力が展開され、虚獣の動きを制限していく。

 攻撃によりダメージを負ったのか、虚獣は立ち尽くしたままうなだれる。


 攻撃、防御、妨害。息の合った凄まじい連携に、順と怜は圧倒された。


 だが、奏斗だけは違った。彼の胸には、ずっと奇妙な胸騒ぎが渦巻いていた。

 敵が迫っているのにも関わらず、立ち尽くし動こうとしない虚獣。その違和感がずっと突っかかっていた。


「怜、視えるか?」


「ええ、刃金隊の攻撃のおかげで敵の姿と骸粒子がよく視えるようになったわ。 でも、あの虚獣の放つ骸粒子パターン、おかしいわ! これだけ攻撃されているのに、不活性、まるで寝ている時の状態よ!」


 霧島怜きりしまれいの能力『骸識がいしき』。

 常人はおろか、能力者ですら認識できない骸粒子の流れや密度を視認することが出来、敵の能力についての分析や、虚獣の心臓ともいえる『核』の位置を特定することが可能。


 様々居る能力者の中でも特異な能力であり、『核』の破壊が虚獣を倒す唯一の手段の中、一撃で仕留めれる一助となる彼女の能力は非常に重宝される。


「違和感の正体はそれか……!」


 怜が、奏斗の直感を裏付けた。


 その時だった。拘束され、うなだれていたはずの虚獣の巨大な顔が、ゆっくりと上がっていく。

 その視線は、遥か上空――星明かりすらない、厚い雲に覆われた空に向けられていた。


 奏斗は、その虚獣の視線の先、虚獣の頭の更に上を見上げ、絶句した。


 暗闇に紛れ、これまで全く気づかなかった。

 雲の少し手前の高さに、数百を超える巨大なコンテナが、敷き詰められるように滞空していたのだ。


 操られていた地上の瓦礫群は、ただの囮。虚獣の本命は、最初からこの空にあった。


「何あれ……」


 驚嘆する怜と順。


「刃金隊長! 上だ! 上を見ろ!」


 奏斗がインカムが壊れんばかりに叫ぶ。


「虚獣、覚醒状態! 能力が発動される!」


 その時数百のコンテナが、一斉に落下を開始した。

 念動力によって加速された鋼鉄の流星群が、刃金隊へと降り注ぐ。


「ぐっ! 防御態勢! 全員集まれ!」


 刃金が咄嗟に鉄のドームを形成し、攻撃を防御する。


 しかし、前衛に出ていた二人の隊員は間に合わなかった。

 悲鳴を上げる間もなく、彼らに向かって巨大なコンテナが突き刺さる。


 鉄のドームにもコンテナが降り注ぎ、衝撃音と共に、埠頭全体が激しく揺れる。


 数秒後――


 コンテナが突き刺さり、ひしゃげたドームの中から血まみれの刃金たちが這い出してきた。


 右腕と腹部には、砕けた鉄骨や鉄パイプが刺さっている。


 力を振り絞り立ち上がった刃金は、痛み、そして仲間を殺された怒りで理性を失っていた。

 『万鈞ばんきん鉄槌てっつい』で5mほどする巨大な槍を成形、それを虚獣に放ち、絶叫しながら虚獣へと突撃する。


「死ねええええええッ!!」


 だが、彼が放った鉄の槍は、虚獣の目前で念動力によりピタリと停止する。

 決死の抵抗むなしく、次の瞬間、刃金たちの体が、ふわりと宙に浮く。


「なっ……!? ぐ、動けねえ!」


 虚獣の念動力により、拘束、空中へ浮かび上げられた。


 両腕を締め付けられ能力を発動することもできず、もがく刃金たちを、虚獣は自身の目の高さまで持ち上げじっと見つめる――数秒後、興味を失ったかのようにそっぽを向け、能力を解除する。


「「「ぎゃああああああああああッッッ!!!」」」


 数十メートルの高さから、三人の生身の人間が瓦礫群へと叩きつけられる。


 ぐしゃり、という嫌な音が、奏斗たちのいる場所まで響き渡った。


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