4話 『乱入者』
A級刃金隊が全滅。赤子同然に蹂躙された。
「嘘……」
順が青ざめ、膝を震わせる。
逃げるべき。常識で考えれば、自分たちが敵う相手ではない。
だが、奏斗の瞳には、逃亡の意志など微塵もなかった。
脳裏をよぎるのは、一年前のあの日。
自分たちを庇い、散っていった親友、風見隼人の背中。
『俺たち四人で、最強の部隊になろうぜ。誰一人、欠けることなく』
「……怜、順。作戦を伝える」
奏斗は静かに、だが鋼のような意志を込めて口を開いた。
「俺が囮になる。俺が奴を釘付けにしている間に、二人は順のシールドで守りながら接近しろ。怜は『骸識』で核の位置を特定、俺がそれを最大火力でブチ抜く」
「なに言ってるの奏斗! 無茶、撤退よ、あんなの私たちに敵う相手じゃない!」
「そうっすよ! C級部隊が手を出していい相手じゃないです!」
怜と順が全力で奏斗を止める。
「お前ら、なに自信なくしてんだ! 俺らは元々B級部隊。それにA級を相手にしてきたこともあっただろ! C級になったからって俺らが弱くなったわけじゃない。その事は、一年間鍛錬してきた俺らが一番わかってるだろ!」
奏斗は、二人に向かって鬼気迫った表情で怒鳴りかける。
下を向き、唇を噛み締め苦悶の表情を浮かべる二人。
「ここで逃げたら、虚獣の被害は向こうの市街地までに及ぶ。それに、俺ら以外に今、戦えるやつは居ないだろ」
「そうだけど……」
「そうっすけど……」
奏斗の瞳に宿る決意を見て、怜は息を呑み、順は力強く頷いた。
「……分かったわ。あなたを信じる」
「……わかりましたよ。とことん付き合いますよ、隊長!」
その二人の言葉に、奏斗はニヤッと笑い、右手に紅蓮の炎を灯す。
「こっちだ、化け物!」
駆け出す奏斗。
「奏斗、おそらくだけど敵の念動力の発動の条件は"対象物の1秒以上の視認"! 見つからないよう、ヒットアンドアウェイで攻撃しながら敵をひきつけて!」
本体を視認され、能力を発動されたらジエンド。
虚獣に向かって炎の矢を放ち、クレーンや鉄骨が入り組む迷宮へと駆け込む。
巧妙に隠れる奏斗に対し、能力は発動できない虚獣。だが、大体の位置把握している。
その位置に向かって凄まじい質量のコンテナ群を放つ。
奏斗は落下してくるそれら鋼鉄の凶器を、最小限の炎で逸らしながら、パルクールのように鉄骨を跳び移る。
極限の集中。一歩でも間違えれば圧死する。
「怜さん、俺がやつの攻撃を防御します! ついて来て下さい!」
その隙に、順と怜が死角を縫って虚獣の足元へと迫る。
木堂順の能力『応報の盾』。
自身が触れている物質に「衝撃を反射・無効化」する性質を付与する。
流れ弾のように飛んで来る瓦礫は、彼の能力が付与されたシールドによって弾かれる。
数分後――
怜と順が虚獣の足元に迫る。
「捉えた、虚獣の核! ……でも核は三つ! 頭、右肩、左腹部よ!」
インカムから響く怜の悲痛な声。核が三つある虚獣はそう居ない。
「上等だ……! 憎しみを焚き、猛れ!」
同じく、虚獣の近くまで迫っていた奏斗。
全身の霊力を右腕に集約し、炎を灯す。
腕を虚獣に向かって構え、出力三本の炎の槍を放つ。
「『燼滅炎・速槍』!!」
紅蓮の槍が夜空を切り裂き、左腹部と右肩の核を正確に貫く。
だが――最後の一本、頭部へ向かった槍は、虚獣が咄嗟に掲げた左腕に阻まれ、腕を吹き飛ばすに留まった。
「防がれた……!」
自身の持つ最大火力を放った奏斗は、膝をつき肩で大きく息をする。
炎への耐性を持っている奏斗でも腕が焼けるほどの炎。その代償は大きかった。
「グォォォォォォォォォォ!!」
激怒した虚獣は、落ちている瓦礫群を浮かび上がらせ、奏斗に放とうとする。
絶体絶命のその時だった。
炎によって暖められた空気と埠頭の冷たい海風によって発生した霧を切り裂き、乱入者が現れる。
虚獣に向かって、流線形の黒い鎧のようなものを全身に纏った人影が跳躍する。
その人影、乱入者は、人間ではありえない速度で虚獣の身体を駆け上がり、頭へと向かって行く。
得体の知れない敵への危険性を感じたのか、虚獣の注意はその乱入者へと向く。
だが乱入者は、虚獣が彼を捉えるよりも早く、虚獣の頭へと到達した。
乱入者の右腕に、黒い鎧が蠢きながら収束し、異形の『衝角』を形成する。
「――消えろ、デカブツめが」
凛とした声が戦場に響き渡った直後、黒い衝角が虚獣の頭部へと差し込まれ、最後の核を粉砕する。
全ての核が破壊されたことにより、虚獣の五十メートル級の巨躯は崩壊を始める。
乱入者は、崩れ行く肉体から飛び降り、衝撃に耐えるため鎧を全身に纏わせる。
奏斗たちへの眼の前へと落下してきた乱入者は、鎧をシュルシュルと波が引くように解除した。
そこに現れたのは――数日前、雨の降る屋上で奏斗が傘を貸した、あの銀髪の少女だった。
血のように赤い瞳が、冷たく奏斗たちを見据える。
それに気づいた奏斗は、肩で息をしながら立ち上がり、少女を見つめる。
腕の火傷によって体温も急激に上昇している。目がかすみ、意識が飛びそうになる。
「ハァ、ハァ…… おまえ、この前の……」
「私を、お前たちの組織の偉い奴のところへ連れていけ」
「あ……?」
「断るなら、お前ら全員ここで殺す」
その言葉を聞き、少女へと明らかな敵意を向ける奏斗。
返すように、少女の瞳には明確な殺意が灯る。
「奏斗、聞いて……」
怜が震える声で呟いた。
「あの女の子……筋肉や臓器の構造は私たち人間と一緒。でも……心臓だけが、虚獣の『核』と全く同じ反応を示してる」
生きた人間に、虚獣の核が埋め込まれている。
その信じがたい事実に奏斗たちは息を呑む。
「それで、どうする。私を案内するか、今ここで死ぬか。さっさと決めろ」
少女が再び黒い衝角を展開しようとした、一触即発のその時。
バチッ!!という鼓膜を破るような炸裂音と共に、夜空を金色の雷光が切り裂いた。
「ハイハーイ、ストップストップ」
少女の背後に、いつの間にか一人の男が立っていた。
驚愕して振り向く少女の顔面に、男は雷を帯びた拳を容赦なく叩き込む。
少女は一撃で意識を失い、糸が切れた人形のように崩れ落ちた。
金色の電光を纏う青年が、やれやれと首を振る姿を見たのを最後に、すでに限界を迎えていた奏斗の意識もまた深い闇へと落ちていった。
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