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冒険者ヴァル

「……あなたの名前は」

リリィがそう聞くと、男は少しだけ間を置いた。

ほんの一瞬、考えるように。

「……ヴァル」

「ヴァル……ヴァルさん」

リリィがそう呼んだ瞬間——

「……さんはいらねぇ」

ヴァルは眉を顰め、そう呟く。

「えっ」

リリィはぱちぱちと瞬きをする。

「えっと……じゃあ……ヴァル?」

少し悩んで、恐る恐る呼ぶ。

「あぁ」

「…ヴァルはなんでこの森に?…傷も魔獣にやられた傷じゃないし…」

リリィの質問にヴァルは少し考えて、

「……仕事だ」

そう答える。


「しごと?」

リリィは首をかしげる。

「冒険者のな…依頼を受けて魔獣を倒して稼ぐ」

「冒険者…!へぇ〜」

リリィは感心したように目を少し丸くした。

「……冒険者を知らないのか…」

「?うん」

顰めた顔のヴァルをどうしたんだろうと思うリリィが覗く。

「ヴァル?」

「…………なんでもねぇ」

「?……怪我のこと聞いてもいい?」

「………冒険者は大きな討伐の時は違うチームとパーティを組む事がある…」

ヴァルは子供に聞かせていいものかと悩む。

「そうなんだ」

「……簡単に言えば裏切りだな」

「!!…うらぎり…?」

「……最初っからそのつもりだったんだろうな…珍しい魔獣は金になるし素材にもなる…別に珍しいことじゃない」

「ヴァルは…同じ冒険者…仲間に殺されかけたの…」

リリィの声は震えて泣きそうだった。

「同じ冒険者なのに…魔獣じゃなくて同じ人なのに…」


どうして、同じ人同士傷つけるの……


「人なんてそんなもんだろ」

リリィが悲しくて俯いていると、ヴァルは淡々とそう呟いた。

「…他人を平気で傷付ける奴なんてこの世に沢山存在する」

「……」

「そして…」

ヴァルは、ゆっくりと手を伸ばした。

ぽんっとリリィの頭に手を置く。

「お前みたいに他人を助けようとする奴も存在する」

「!」

リリィは何も言えなかった。

ただ、俯いたまま——

ヴァルの言葉をゆっくりと噛みしめる。


「……」

「……」

部屋の中に静かな時間が流れる。

裏切られて悲しい気持ちがいっぱいのリリィの心が頭に置かれたヴァルの手の温度で溶けていく気持ちにさせる。


そして、今まで部屋の隅で静かに見守っていたルーが小さく鳴く。

「ピ……」

大丈夫?と言っているみたいだ。

「……うん」

リリィは小さく頷き、大丈夫だと心の中でそっと答えた。


そして、リリィがゆっくりと顔を上げた。


「……あの」

リリィが少しだけ遠慮がちに声を出す。

「ごはん……食べる?」

ヴァルは突然の申し出に驚く。

「えっと…お腹すいてるかなって…」

「……まぁ、腹は空いてるが」

ヴァルは少し困惑しながらもそう答える。

その返事を聞いてリリィは少し嬉しそうにし、

「ちょっと待ってて」

とそう言って、またバタバタと寝室から出ていった。


しばらくすると——

香ばしい匂いが、どこからかゆっくりと漂ってきた。


肉の匂いか…

ヴァルが美味しそうな匂いを嗅いでいると、やがてリリィが皿を乗せた盆を持って戻って来る。

「はい」

盆ごとヴァルの膝に置かれたのは焼いた肉と少しの野草が盛り付けられている皿だった。


「……」

ヴァルは少しだけ迷ったが美味しそうな肉に抗えず、口に運ぶ。

「!!」

一瞬、動きが止まる。

「……どう?」

固まったヴァルを不安そうに覗き込むリリィ。

「……うまい」

「ほんと!?」

ぱっと顔が明るくなるリリィ。

「……ああ」

もう一口、食べる。

「……すごくうまい」

「やった」

リリィは嬉しそうに笑った。

「いっぱいあるから、おかわりできるよ」

リリィがニコニコと笑いながら言うので、ヴァルも釣られるようにふっと笑った。


「……これ」

半分以上食べ終わったヴァルがぽつりと口を開く。

「どうやって作ってる」

「これ?」

リリィは少しだけ首をかしげる。

「焼いただけだよ」

「……それは分かる」

「えっと……火をつけて、焼いて……」

少し考えながら説明する。

「……味付けは」

「木の実やハーブ?みたいなのでやってるよ」

嬉しそうに答える。

ヴァルは黙った。

「森にいっぱい色んなものあるから」

「……お前」

ヴァルが少しだけ眉を寄せる。

「…近くの村で買って来たりしないのか」

「村?この辺りには村はないよ?…人に会うのもヴァルが初めてだし」

リリィの言葉に驚きを隠せないヴァルだった。

「森で…ここで、ずっと一人でやってきたのか」

まるで信じられないという顔でリリィを見る。


リリィが住むこの森は魔獣の森と呼ばれていて、その名の通り沢山の魔獣が住んでいる。

そして、もうひとつ別名があり、死の森とも呼ばれている。

森に入れば生きて帰って来れないと普通の人間ではまず立ち入らない。


そんな森にリリィのような子供が住んでいること自体ヴァルは信じられなかった。


「ルーがいるよ」

ヴァルに一人と言われ、ルーを紹介する。

「ピピッ」

リリィの肩に止まり、誇らしげに鳴くルー。

そんな子供と一匹を見てヴァルは何も言わず、というか言えず、ただ静かに肉を口に運ぶ。


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