初めての魔獣狩り
初めてルーがラビルという魔獣を狩って来た日から数日が経った。
あれからリリィはキノコや木の実、薬草などを採取し、ルーは魔獣を狩って来るのが日課となった。
今もリリィは森を探検しつつ、食べ物を探し、ルーは魔獣でも探しているのかリリィの近くには居なかった。
「今日はいい感じかも」
アイテムボックスに入れた品数を思い出す。
ミルクベリーに、ルナキノコ、ギモール。
少しずつだけど、鑑定しなくても分かるものが増えてきた。
「……」
ふと、周りの様子に違和感を感じて足を止める。
「……あれ?」
何かがおかしい。
さっきまで聞こえていたはずの音が消えていた。
風の音も、鳥の声も——
静かすぎる。
「……ルー?」
小さく名前を呼ぶ。
返事はない。
胸の奥が、じわりとざわつく。
「……なにか、くる」
そう思った瞬間——
がさり、と背後で音がした。
「っ!」
振り向くよりも早く、影が飛び出してくる。
反射的に後ろへ下がる。
目の前に現れたのは、細い体をした灰色の狼のような魔獣だった。
低く唸りながら、じっとリリィを見ている。
(鑑定)
(名称:フィラット)
(種族:魔獣)
(危険度:低〜中)
(状態:敵意)
(備考:肉は食用可だがとても硬く、臭みも強いのでとても食べれたものじゃない)
「……敵意がある…」
冷や汗が出る。
ルーは傍に居ない。
「……やるしか、ないよね」
小さく呟く。
怖い。
でも、逃げきれる距離じゃない。
リリィは覚悟を決め、水魔法で水の弾を複数作り、フィラットに向かって攻撃をする。
フィラットに何個かの水玉が当たると後ろによろける。
「今……!」
そのまま風魔法で強い風をぶつける。
「ギャッ!」
風魔法が当たったフィラットは後方に吹き飛んで行った。
その隙にリリィは距離を取り、全速力で走る。
風魔法を使い走る速度を上げる。
「はっ……はっ……」
息が荒くなる。
怖い。
でも——
「……動けた」
家の近くまで逃げて来ると、
「……こわかった」
リリィはその場にしゃがみ込む。
身体が震える。
「……でも」
顔を上げる。
「……戦えた」
小さく、自分に言い聞かせる。
そのとき——
「ピピッ!」
風と共に、ルーが戻ってきた。
「ルー……!」
ほっとしたように笑う。
「ちょっと遅いよ」
そう言いながら、そっと撫でた。
「……はぁ」
家の中に戻ると、リリィはそのままソファで膝を抱え座り込んだ。
まだ少しだけ手が震えている。
「こわかった……」
ぽつりと呟くとルーがそっと肩に止まった。
「ピピ」
「……でも」
ゆっくりと顔を上げる。
「逃げなかったよ」
小さく笑う。
「ちょっとだけ、戦えた」
リリィは少しだけ自慢げに笑う。
「ピピッ」
ルーはそれを嬉しそうに鳴いた。
その夜。
ベッドに横になりながら、リリィはぼんやりと天井を見つめていた。
「……戦えた」
昼間のことを思い出す。
怖かった。
でも、動けた。
「……ルーは、いつもやってるんだよね」
ぽつりと呟きながらルーを見る。
ルーは、当たり前のように魔獣を狩ってくる。
それが、この森で生きるということ。
「……」
少しだけ、考える。
そして——
「……わたしも、やってみようかな…」
小さくそう呟いて、リリィは眠りについた。
「…よし」
目を覚ましたリリィは覚悟を決めた。
そして、昼になるとリリィ達は森の奥に向かった。
「……今日は」
ゆっくりと周囲を見渡す。
「……自分で、やる」
少しだけ手に力が入る。
怖い。
でも。
「……だいじょうぶ」
ルーが木の上で見守っている。
「ピピッ」
「うん、見ててね」
ルーに微笑みかける。
そのとき——
がさり、と草が揺れた。
「!!」
小さな影が動く。
ラビルだ。
前に見た、あのウサギの魔獣。
「……っ」
これから、自身の手で命を奪うことに身体が固まる。
でも、目は逸らさない。
いつまでもルーに頼りっぱなしは嫌だ。
「……いくよ」
深呼吸をし、覚悟を決める。
水をイメージする。
今度はちゃんと狙って、水の弾を飛ばす。
「…!」
ラビルが跳ねて避ける。
すばしっこい…!
「もう一回!」
焦る気持ちを押さえて、ラビルが飛び跳ねる進行方向に水の弾を飛ばす。
行く手に弾が来たせいでラビルの動きが一瞬固まった。
その瞬間に風魔法で切りつけ、血を噴きながらラビルはその場に崩れ落ちた。
「……やった…?」
リリィそっと近付いて動かないラビルを見つめる。
「……できた」
ラビルが死んでることを確認するとリリィはぽつりと呟く。
「ピピッ」
後ろで、ルーが嬉しそうに鳴いた。
「……ちゃんと、やれた」
リリィのその声には少しだけ誇らしさが混じっていた。




