ヴァルVSリリィ
リリィが倒れたグラウルを見る。
(鑑定)
(名称:グラウル)
(種族:魔獣)
(危険度:中〜高)
(状態:死亡)
(属性:土・毒)
(特性:強靭な鱗/毒牙)
(備考:大型の蛇型魔獣。高い防御力と強力な毒を持つ。単体でも危険だが個体によっては群れを形成することもある。肉は食用不可、皮は硬質素材として利用可能)
「……やっぱりちょっと強かったんだ」
「……“ちょっと”で済ませるな」
ヴァルが呆れたように言う。
「え?」
「その危険度はな、普通の冒険者なら単独で挑む相手じゃねぇ」
「そうなの?」
リリィはきょとんとした顔をする。
「……そうなの、じゃねぇ」
ヴァルは小さく息を吐いた。
「下手すりゃ、全滅する…それをお前は一人で倒したんだ」
「……でも、動きを止めて切っただけだよ?」
「……」
だからそれがおかしいんだろうがと言いかけて言葉を飲み込む。
「……普通はな、そんな簡単にいかねぇ」
少しだけ言葉を選ぶ。
「そうなんだ…次はもうちょっと警戒する」
「……」
ヴァルはしばらく黙ったあと、
「……ああ、それでいい」
短くそう返した、その表情は複雑だった。
「……なあ」
ヴァルがぽつりと口を開く。
「なに?」
「少し手合わせするか」
「……え?」
リリィがきょとんとする。
「戦い方を見てみたい」
「……さっきやったよ?」
「それとは別だ」
ヴァルはゆっくりと一歩前に出て、リリィに近付く。
「相手が動いてる状態でどう対応するか見たい」
「……」
リリィは少しだけ考えて、
「でも、ヴァル…怪我してる…」
「問題ない」
「でも……」
「……分かった、お互い無理はしない…ならどうだ?」
リリィは不服だったが、ヴァルの諦める気ゼロの雰囲気に渋々頷いた。
「……いいよ」
「無理はするなよ」
ヴァルの言葉にこっちのセリフなんだけど…と思うリリィだった。
そしてお互い少しだけ距離を取る。
森の中に静かな緊張が広がる。
「……来い」
ヴァルがニヤリと笑い、リリィが動いた。
風を纏い、一気に距離を詰める。
「(速いな)」
ヴァルは一気に距離を詰めてきたリリィの速さに感心した。
距離を詰めたリリィはヴァルに蹴りかかり、かわされると次は傷付けない威力の風でヴァルに襲いかかる。
ーーキィン
ヴァルは剣で風を切った。
「……?」
もう一度言う。
剣で、風を切った。
「……え???」
「なんだ?」
「いやいやいや!!風切った!!え!?何処から剣出た!?!?」
「?鞄からだが?」
そう言って、ヴァルは腰に下げている小さな鞄を叩いた。
「その小さい鞄からどうやって剣を!?!?入らないでしょ!!!」
「収納鞄だからな…アイテムボックスは分かるか?」
「…アイテムボックスは分かる」
「見た目は鞄だが、中身がアイテムボックスで何でも入る」
「へぇーー」
「納得したなら、続き行くぞ」
そう言って、次はヴァルの方から仕掛けてくる。
リリィはすぐさまヴァルの足元に水を展開し、水の檻に閉じ込めようとするが、
「遅い」
檻が完成する前にヴァルが抜ける。
そのままリリィとの距離を詰める。
「……っ」
リリィの目がわずかに見開かれる。
近い…!
咄嗟に風を使い、後ろへと跳ぶ。
「いい判断だ」
ヴァルは止まる。
「……」
リリィも動きを止める。
強い…
これ、勝てる気しない。
というか、怪我人の動きじゃないし…
しばらくの沈黙の後、ヴァルが剣を下ろす。
多分終わりの合図。
「……どう?」
リリィがヴァルに近付いて少しだけ不安そうに聞く。
「……悪くはない」
ヴァルは短く答えた。
「ほんと?」
「ああ」
「無駄も少ない」
リリィは少しだけ安心したように息を吐く。
「ただ……」
「え?」
ヴァルが一歩、近づく。
「甘い」
「……」
「最初の風」
「…うん」
「コントロールは十分だった、気になったのが威力の方だ」
「…………」
「手加減したな」
「…………はい」
小さく頷くリリィ。
「……理由は」
何となく分かっているがヴァルはあえて聞く。
「……怪我してるから」
「(やはりな)」
「それに……」
リリィは少しだけ言葉に詰まる。
「……痛いのは……」
「……」
ヴァルは少しだけ目を細める。
「(……そういうやつか)」
ヴァルは小さく息を吐く。
「……別に悪くはねぇ」
「え?」
リリィが顔を上げる。
「加減出来るのは強さだ」
「……」
「だがーーー」
少しだけ声を低くする。
「これが手合わせじゃなく、お前の命を狙う奴だったら…」
「……」
「殺す気で来てる相手に」
「……」
「手加減するのはーーー」
「……」
「ただの隙だ」
「……!」
リリィの目が見開かれる。
「自分から死ぬ隙を作るな」
「……」
さっきの光景が頭に浮かぶ。
ヴァルが距離を詰めた瞬間、咄嗟に後ろに飛べたけど、ヴァルが本気で剣を降っていたら当たってた……
「殺ると決めたなら、迷うな」
怖いことを言う。
けれどーーー…
「……うん」
リリィは小さく、でもはっきりと頷く。
「……分かってるならいい…後、距離を詰めすぎだ」
「……え?」
「最初、お前から距離を詰めてきたが…その時にこっちが一発当てれば終わる」
「……」
リリィは言葉を失う。
確かにーーー
「……じゃあ、どうしたらいいの?」
「簡単だ」
ヴァルはあっけらかんに言う。
「近づかせるな」
「え?」
「お前の戦い方は…今は距離を取る方が向いてる」
「……うん」
「無理に詰めるな」
「……分かった」
リリィは頷いた。
「……もう一回やるか?」
「……うん!」
さっきよりも少しだけ強い目でリリィが構える。
その様子を見て、ヴァルの口元が緩んだ。
「来い」
短い合図をした瞬間ーー
リリィは動かなかった。
さっきとは違う。
距離を詰めてこない。
ヴァルがわずかに目を細める。
ちゃんと言われた通り距離を保っている。
そして、ヴァルの足元に水が現れると一気に範囲を広げ、間を置かず空気が動く。
水が風に乗って渦を巻きながらヴァルの周囲を囲む。
「……ほう」
ヴァルが感心しながら一歩踏み出すと渦から風に乗って水が攻撃をしてきた。
「……っ」
渦の中に居るヴァルは四方八方からくる水を交わしたり剣で弾いたりした。
逃げ場が少ないーーーが、ヴァルが大きく剣を振り渦を断ち切る。
「!!」
リリィは驚くがすぐさま水の矢を無数に出し攻撃する。
間を詰めない。
距離を保ったまま、攻撃を重ねてくる。
ヴァルは矢を弾きながら小さく息を吐く。
「……いいな」
そのまま、一歩踏み込む。
あえて、強引に。
「ーーーッ!」
リリィの目が鋭くなる。
距離を詰めてくるヴァルの足元を土魔法で崩す。
ヴァルの体勢が崩れた瞬間、風が一直線に走る。
「……!」
ヴァルがギリギリで交わす。
なんで、空中で体勢変えれるの…!!
ヴァルの身体能力に驚き固まるリリィ。
「……もういい」
そして、ヴァルが剣を下ろした。
「え?」
「十分だ」
「……」
リリィは不安になった。
「だめ…だった?」
「いや………」
ヴァルは少しだけ考え、
「……すごいな」
と呟いた。
「え?」
「さっき言ったこと以上の事をやってきた」
「……」
「飲み込みが早ぇ」
「……えへへっ」
リリィは照れたように笑う。
その様子を見てヴァルも笑う。
「(……面白いな、こいつ)」




