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いただきます

「……あ」

リリィがふと空を見上げる。

「どうした」

「もうお昼くらいかも」

木々の隙間から差し込む光を見ながら言う。

「……そんなに経ったか」

ヴァルも軽く空を見る。

「森も結構歩いたし……家に戻ってお昼にしよっか」

「……ああ」

お昼と言われ空腹になったヴァルは素直に頷いた。


来た道を戻りながら、リリィはいつものように軽い足取りで歩く。

「お腹すいた?」

「……まぁな」

「何作ろっかなー?沢山動いたしガッツリいっちゃお」

「ほう」

「朝のラビルも残ってるし」

「……また魔獣か」

「おいしいよ?」

「……否定はしねぇ」

ヴァルが小さく息を吐く。

「楽しみにしててね」

「……ああ」


楽しく話していると見慣れた家が見えてきた。

「ピピィ〜」

家を出る時に別行動していたルーが家の近くの木に止まって居た。

「ルー、ただいま」

リリィがいつものように声をかける。

「ピピッ!」

ルーが嬉しそうに鳴きながらリリィの肩に止まって来た。


家に入るとリリィはキッチンに直行する。

「ちょっと待っててね」

「ああ」

ヴァルは椅子に座りながら、周囲を見渡す。

相変わらず、整っている室内。

どうやってこの魔獣の森でこんな立派な家があるのか不思議に思うヴァルだった。


「よし」

リリィは慣れた手つきで調理器具を扱う。

迷いのない動き。

ボウルに細かく刻んだ木の実や果物を入れ、潰してジャムにする。

次に肉を切り分け、野草を洗い、下ごしらえを進めていく。

下ごしらえが終わると、しばらく寝かせてる間にスープを作る。

ハーブで出汁を取り、キノコを入れたらスープの出来上がり。

そして、また肉に戻り今度は焼いていく。

焼き終わると皿に移し、最初に作ったジャムをかけたら出来上がり。

最後にサラダを作ったら完成。

「……」

ヴァルは無言でそれを見て、手際が良いと思っていた。


「できたよー」

完成された料理を見てうまそうだと腹の虫がなるヴァル。

「ふふっ、食べよ」

リリィも自分の席に着き、手を合わせる。

「いただきます」

「……?朝もやっていたがなんだそれは」

ヴァルは少しだけ首をかしげ、リリィに聞く。

「え?」

「いただき…ます?って朝も今もしただろ」

「………」

リリィ、絶句。

……そういえば、いただきますやご馳走様は日本の文化だった。


「…えっと……いただきますは…“命”を頂くことへの感謝で…動物も植物も生きていて、その命を奪って私達は生きているから……だから……」

少しだけ、言葉に迷う。

「ちゃんと…ありがとうって思って食べたいの」

「……」

静かな時間が流れる。

ヴァルは何も言わなかった。

ただ、目の前の料理を見る。


「……そうか」

ぽつりと呟く。

「いただきます…か」

ヴァルには無い考えだった。

「……いただきます」

ヴァルは少し考え、小さく同じように手を合わせた。


静かな時間の中、食事が進み、皿にナイフやフォークが当たる小さな音だけが部屋に響く。

「……なあ」

ヴァルがぽつりと口を開く。

「なに?」

「さっきの話だが…」

「?」

「……命がどうとか」

「いただきますのこと?」

「ああ」

ヴァルは食事の手を止める。

「……毎回、そう思って食ってんのか」

「うん…できるだけ…だけどね」

いつもご飯が食べれるのは環境が良いからだ。

だから、食べれる感謝はいつもしている。


「……俺は」

ヴァルがぽつりとこぼす。

「そんなこと、考えたこともなかった」

「……」

「腹が減ったら食う…それだけだ」

「……そっか」

リリィは何も言わなかった。

否定も肯定もせず、ただ少しだけ笑って。

「でも…今は思ったでしょ?」

「……」

ヴァルは言葉に詰まる。

「……まぁな」

「じゃあ、それでいいと思う」

「……は?」

予想外の返答にヴァルが眉を寄せる。

「それでいいよ…考え方なんて人それぞれだし…私は」

リリィはそう言って食事に戻る。

「おいしいって思ってくれたなら嬉しい…いただきますって食事に携わってくれた人たちへの感謝の言葉の意味でもある。……深く考えなくていいと私は思う」

「……」

ヴァルは何も言わなかった。

「ヴァルがいただきますを知ろうとした、意味を知った、何も知らなかった頃には戻れないから…」

「……」

「無意識にこれから考えると思うよ?…でもその度に考え込んじゃせっかくの美味しい料理も味がしなくなっちゃう」

リリィはそう言って、にっこりと笑い。

「重く受け止めずに軽くでいいんだよ…食事の前の挨拶程度って感じで」

「……挨拶程度って…軽くないか」

「考えすぎるのもいただく命に失礼だと思うよー」

「…………」

「今日も命をありがとうございます程度でいかなきゃ…食べる命の事を考えすぎちゃ何も食べれなくなっちゃう」

「……確かにな」

「ね、気楽の感謝でよしっ」

ぶいっとピースを決めるリリィ。

「気楽って」

呆れたように言いながらも、ヴァルはわずかに笑った。

その表情を見てリリィもつられて笑う。

気付けば、二人で同じように笑っていた。

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