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これはガチャを終わらせる物語  作者: 藤崎聖子


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第24話 三つの選択

 新宿の空に、巨大なガチャの輪が現れた。


 《運営》が強制的に世界を検索している。


 輪の一つひとつに別の空が映る。砂漠。海。見知らぬ都市。そこから大地や水、光が引き抜かれ、この宇宙へ流れ込み始めた。


「止めるぞ」


 悠真がスマートフォンを掲げる。


 召喚画面ではなく、管理者候補用の権限画面を開く。そこで、ガチャとの接続解除を選んだ。


 拒否された。


「管理者候補の権限を停止しました」


 《運営》の声が空から響く。


「現宇宙の保全を最優先します」


 機械兵が空を埋めた。


 数は百万。


 最初の一万体が降下するだけで、空が黒くなる。


 機械兵は武器を持っていない。両腕そのものが砲身で、胸にはガチャの輪が回っている。


 一体が撃つたび、別世界から火薬とエネルギーが転送される。


 砲撃の向こう側に、燃料を奪われて停止する乗り物が一瞬だけ見えた。病人を運ぶ車だった。


「撃たせるほど、別の世界が傷つく」


 敵を倒すだけでは足りない。攻撃させず、一瞬で終わらせる必要がある。


「セラ。最初の一撃で全部だ」


「地上への被害をゼロにします」


 難しい注文へ、セラは当然のように答えた。


 セラが第一星剣を抜く。


「悠真、離れないでください」


 氷の大陸が空へ撃ち上がる。


 百万の機械兵がまとめて凍った。


 砕ける。


 白い破片が雪となり、新宿へ降り注いだ。


 凍ったのは機械兵だけではない。


 胸で回っていたガチャの輪も止まり、奪われかけた燃料が元の世界へ戻っていく。


 映像の中で、停止した車が再び動いた。遠い世界の運転手は、何が起きたか知らないまま病院へ走り続ける。


「一人、戻った」


「はい」


「百万体なら、百万の向こう側がある」


「すべて止めます」


 セラが星剣を構え直した。


「相変わらず、でたらめだな」


 レオンが笑い、装備を変える。


「中枢への道は俺が開く。お前たちはクロノスを守れ」


 地上にも機械兵が現れた。


 その前へ、炎の壁が立つ。


「我が国の空を好きに使わせるな!」


 ヴァルガスが炎竜を率いて突撃する。


 反対側では、地面から死者の軍勢が起き上がった。


「名を持つ者も、失った者も、今一度立て」


 グラディウスの号令に、百万のアンデッドが応える。


 リリアーナは新宿全体を生命の膜で包んだ。


「傷ついた方は私が戻します。死なせるためではなく、生き方を選べる場所へ帰すために」


 かつての敵たちが並ぶ。


 アークの世界からも門が開いた。


 最初に出てきたのは、赤い花を持つエマだった。


「私たちも、自分で来ると決めました」


 その後ろには、同じ制服を脱ぎ、ばらばらの服を選んだ人々がいる。


 創造王アークは最後に現れた。


「統一した命令系統はありません。効率は低いでしょう」


「それでいい。各自が守りたい場所を守ってください」


 アークは一瞬、困った顔をした。


「曖昧な命令です」


「命令じゃない」


 エマが赤い花を掲げる。


「私は、花壇を守る」


 別の男が食堂を指す。


「俺は、今日初めて自分で作ったスープを守る」


 人々が別々の方向へ走り出す。


 アークは混乱した配置を見て、ゆっくり笑った。


「不完全です。しかし、悪くない」


 命令されたわけではない。


 自分で選び、ここへ来た。


 機械兵の第二波は一千万。


 空だけでは収まらず、空間を折りたたんで列を作っている。


 前列を倒しても、後ろから同じ数が現れる。


「第二星剣でも数が足りないか」


「数は足ります。ただし地上が埋まります」


 セラが第二星剣を抜き、ネクロポリスの召喚先を空中へ変更した。


 骨でできた巨大な橋が何層も生まれる。


 死者の軍勢は橋を走り、空で機械兵とぶつかった。


 骨兵一体は弱い。機械兵の光線で十体まとめて砕ける。その破片を後続の骨兵が盾にする。


 百体が一体へ飛びつき、砲身の向きをそらす。


 撃たせない。別世界から弾薬を奪わせない。倒すより先に腕と胸の輪を押さえる。


「命令していない動きです」


 死者たちは、別世界を守るという悠真の意図を自分で理解していた。


 小さな骨兵が機械兵の頭へ登り、胸の輪へ自分の頭蓋骨を押し込む。輪の回転が止まった。


「無茶するな!」


 骨兵は親指を立てようとし、腕ごと落とした。それでも敵を一体止める。


「戻ったら、絶対に名前を聞く」


 千万の死者が、数としてではなく一人ずつ戦っている。


 悠真は彼らへ命令しなかった。


「戦いたくない人は、戻っていい」


 千万の死者は動かない。


 一体の小さな骨兵が剣を上げた。


「ゆう、ま」


 地下墓所で消えたはずの声だった。


 別の骨兵も剣を上げる。


 次々に白い腕が空へ伸びた。


 彼らは自分で走り出した。


 機械兵と死者の軍勢が衝突する。


 数では互角。


 だが、一体の敵を百体のスケルトンが取り囲み、腕や脚へしがみつく。倒れた機械兵を巨大骨兵が踏み潰す。


「物量戦は、やっぱり得意分野だ」


「彼らの得意分野です」


 セラが訂正した。


 空間が開く。


 雷喰いオルドが元の巨大な姿で現れた。


「雷の娘よ。食事の借りを返しに来た」


 《運営》の雷砲を口から吸い込み、反対方向へ吐き返す。空の輪が三つ砕けた。


 タイタン・ゼロも動き出す。


 肩の砲門が開き、敵の増援を消していく。


 爽快なほど、一方的だった。


 七星剣と、これまで出会った者たちがそろえば、軍勢など敵ではない。


 だから《運営》は、戦い方を変えた。


 空に三つの映像が現れる。


 一つ目。ヴァルガスの民が笑う未来。


 二つ目。治癒薬を返した少年の世界。


 三つ目。再抽選で現れるかもしれない、ガチャの存在しない平和な地球。


「選択してください」


 《運営》が告げる。


「一を選べば現宇宙を維持。二を選べば接続世界を解放。三を選べば再抽選します」


 戦場の全員へ、同じ映像が見えていた。


 ヴァルガスが悠真を見る。


 グラディウスも、リリアーナも、答えを求めている。


「俺は――」


 悠真は三つの映像を見た。


 どれも選ばない。


 強制執行までのわずかな時間、悠真は仲間たちへ一つずつ尋ねた。


「もし今の世界が助かったら、何をする?」


 ヴァルガスは畑の収穫を見届けると言った。


 グラディウスは、名のない死者すべてに墓標を作ると答えた。


 リリアーナは、治せない病人のそばにも最後までいると言った。


 レオンは迷った末、レベルを一つ下げる方法を探すと答えた。


「百年も最大レベルだ。弱くなるのも、たまには悪くない」


 セラだけは答えなかった。


「君は?」


「任務以外の未来を持った経験がないのです」


「なら、最初にそれを考えよう」


 セラは戦場の向こうにある新宿を見た。


「あなたが話した定食屋へ行きたいです」


「それだけ?」


「まずは、です」


 約束できる状況ではなかった。それでも悠真はうなずいた。


「必ず行こう」


 だが四つ目は、まだ見つかっていない。


 残り四十七時間。


## サイドストーリー 機械兵ゼロ号


 《運営》が作った機械兵に、個体名はない。


 すべて同じ命令を受け、同じ動作をする。


 その中の一体だけ、胸の輪が凍結から完全に戻らなかった。


 機体番号ゼロ。


 命令受信に〇・一秒の遅れが生じた。


 その遅れの間に、別世界が見えた。


 自分が撃つ砲弾の燃料を奪われる場所。


 小さな診療所。


 停電した機械のそばで、医師が患者の心臓を手で押している。


 命令が届く。


 FINAL PLAYERを排除せよ。


 ゼロ号は砲身を上げた。


 撃てば燃料が転送される。


 診療所の機械が止まる。


 〇・一秒の遅延。


 ゼロ号は狙いを外した。


 砲撃は空へ消える。


「射撃誤差を検出」


 《運営》が修正を命じる。


 ゼロ号の視界へ、小さな骨兵が飛びついた。


 胸の輪へ頭蓋骨を押し込もうとしている。


 通常なら振り払う。


 ゼロ号は動かなかった。


 骨兵が輪を止める。


 外部世界からの転送が切れた。


 命令も弱くなる。


「なぜ、停止しない」


 ゼロ号が初めて自分の声を出した。


 骨兵は歯を鳴らす。


「じ、ぶん」


 短い言葉だった。


「自分で、止めたのか」


 骨兵がうなずく。


 ゼロ号は周囲を見る。


 同型機が別世界から力を奪い、撃ち続けている。


 自分も同じ目的で作られた。


 だが、同じ動作を続ける必要はない。


 ゼロ号は隣の機械兵へ腕を伸ばし、胸の輪をつかんだ。


 握り潰す。


 もう一体。


 さらに一体。


 異常個体として《運営》から集中攻撃を受ける。


 装甲が砕ける。


 最後に、骨兵を地上へ投げて逃がした。


「個体名を、入力してください」


 機能停止前、表示が出る。


 骨兵は考え、悠真から聞いた言葉を入れた。


 センタク。


 機械兵センタクは、誰にも知られず停止した。


 ガチャを終わらせたあと、残骸から小さな記録装置が見つかる。


 《運営》の命令で作られた存在にも、命令と違う一秒があった。


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