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これはガチャを終わらせる物語  作者: 藤崎聖子


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第23話 世界を引き直す剣

 第七星剣を見たレオンは、すぐに距離を取った。


「抜くな」


「何を知ってる」


 悠真が尋ねる。


「昔、一度だけ起動したのを見た。国が一つ消え、誰もそれを覚えていなかった」


「なぜ、あなただけ覚えているのです」


 セラが尋ねる。


「プレイヤー権限で、変更前の記録が残った」


 レオンは一本の古い剣を床へ置いた。


「この剣を作った国だった。クロノスを使う前は鍛冶で栄えていた。使ったあとには、剣だけが倉庫に残った」


 誰も国の名を思い出せない。レオンだけが、その剣を百年間持ち続けていた。


「国を消した奴は、戦争をやり直したかった。次の可能性では戦争自体が起きず、多くの命が助かった」


「なら、成功したのか」


「消えた国を数えなければな」


 結果だけ見れば、よい世界へ変わった。それでも、存在した人々をなかったことにはできない。


 セラは黒い剣へ触れた。


 記憶が戻っている。


「第七星剣《回帰星クロノス》。時間を戻す剣ではありません」


「ゲームの説明はERRORだった」


「機能を過去へ送れば、《運営》に検出されるためです」


 セラが剣をわずかに引く。


 周囲の景色が変わった。


 新宿が消え、無数の世界が現れる。


 一つの宇宙が枝分かれしている。


 右を選んだ世界。左を選んだ世界。生きた世界。滅びた世界。


 悠真自身の可能性もあった。


 最終日にログインしなかった世界。


 FINAL GACHAを時間切れで引けなかった世界。


 怖くなって召喚ボタンを閉じた世界。


 どの世界にも、別の悠真がいる。仕事を続け、ゲームを忘れ、普通の朝を迎えている。


「このどれかへ替われば、俺は元の生活へ戻れるのか」


「現在のあなたは消えます。替わった先のあなたは、何も知りません」


「戻るんじゃない。俺がいなかったことになるだけか」


「はい」


 クロノスが救済に見えるのは、消える側の声が聞こえないからだ。


 可能性の枝が、終わりなく広がっていた。


「クロノスは、世界を一つ前の選択まで戻します」


「そこで別の選択をする?」


「いいえ。別の可能性を無作為に選びます」


 悠真は黒い刀身のRETRYを見る。


「宇宙規模の、ガチャの引き直しか」


「その通りです」


 現在の宇宙が光の球として浮かぶ。


 クロノスを使えば、別の球と入れ替えられる。


 そこにはガチャのない宇宙もあるかもしれない。


 今より豊かな世界も。


 すでに生命が滅びた世界も。


「結果は選べないのか」


「選べません。再抽選です」


「今の世界はどうなる」


「消えます。歴史も、ここで生きた人々も、私たちの記憶も」


 レオンが腕を組む。


「だから使えなかったのか」


「はい。問題を解決する剣ではありません。問題が起きなかった世界に、すべてを交換する剣です」


 悠真は自分のスマートフォンを見た。


 爆死したから引き直す。


 気に入らない結果だからリセットする。


 ゲームなら、それでいい。


 だが、今の世界には人がいる。


 都合が悪いからと消していいはずがない。


 《運営》の声がクロノスから響いた。


「管理者候補へ最終選択を提示します」


 黒い空間に、三つの選択肢が現れる。


 一、ガチャを継続する。


 現在の宇宙は生きる。接続された別世界から供給を再開する。


 二、ガチャを停止する。


 別世界は解放される。現在の宇宙は消滅する。


 三、クロノスによる再抽選。


 現在の宇宙を破棄し、別の可能性へ置換する。


「どれかを選択してください」


「残り時間は?」


「四十八時間」


 悠真は三つの選択肢を見た。


「どれも選ばない、と言ったら?」


「選択肢は三つです」


「それは、お前が作った選択肢だ」


 悠真はクロノスから手を離した。


「なら、四つ目を探す」


 《運営》は初めて、すぐに返答しなかった。


 やがて宇宙全体に警告が響く。


「管理者候補による選択拒否を確認」


「強制執行を開始します」


## サイドストーリー 名前を呼ぶ声


 無名王は、新宿の地下で一人、消えた世界の記録を探していた。


 第五星剣に能力を斬られた今、彼の姿は鏡にも映る。


 足音も残る。


 だが名前だけは戻らない。


「無名王」


 レオンが入口から呼ぶ。


「その名で呼ぶな」


「ほかにない」


「王でもない」


「なら自分で決めろ」


 レオンは紙とペンを投げた。


「新しい名など、過去を捨てるだけだ」


「名前が戻るまで空欄でいるつもりか」


 無名王は答えない。


 端末には、断片的な家族の映像が映る。


 娘が口を動かしている。音だけが削除されている。


 何度再生しても読めない。


「名前は、自分だけのものじゃない」


 レオンが壁にもたれる。


「呼ぶ奴がいて、初めて役に立つ」


「百年一人だった男が言うか」


「だから知ってる」


 無名王は紙へ一文字書き、消した。


 そのとき、第二星剣から残った小さな骨兵が部屋へ入った。


 骨の手には、古い金属片がある。


 消えた世界の墓から拾ったものらしい。


 金属片には二文字だけ刻まれていた。


 アレン。


 無名王の体が震える。


 娘の口の動きと重なった。


「それが、俺の名……」


 記憶が一つ戻る。


 幼い娘が、遠くから父を呼んでいる。


『アレン』ではない。


『お父さん』


 無名王――アレンは顔を覆った。


 名前を取り戻したから泣いたのではない。


 娘が自分を呼んだ声を、ようやく思い出したからだ。


 レオンは何も言わず部屋を出る。


 扉の外で、小さな骨兵が悠真の名を練習していた。


「ゆう、ま」


 誰かの名を呼ぶこと。


 呼ばれた者が、ここにいたと覚えていること。


 それだけでも、消去へ抵抗する力になる。


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