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これはガチャを終わらせる物語  作者: 藤崎聖子


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第21話 世界を救うということ

 悠真たちは運営中枢から新宿へ戻った。


 空は暗くなり始めている。


 太陽は昇っているのに光が弱い。遠くの星だけではなく、宇宙を満たすエネルギーそのものが消えているらしい。


 残り七十時間。


 悠真は、これまで出会った者へ連絡した。


 集まったのは三人だけだ。


 炎王ヴァルガス。


 ヴァルガスは王冠ではなく、欠けた木馬を持ってきた。黒炎の中で拾い、悠真が布を巻いたものだ。


「民は復興を始めた。今日、最初の畑に種をまいた」


 世界が消えれば、その種は芽を出さない。


 骸王グラディウス。


 グラディウスは名のない墓標の欠片を机へ置いた。


「死者は、世界が消えても死ぬだけだと思うかもしれぬ。違う。生きた記録まで消えれば、彼らは一度も存在しなかったことになる」


 死者の王にも、守りたい未来があった。


 聖女リリアーナ。


 リリアーナは七人の少女が選んだ名前を紙に書いて持ってきた。


「今日から別々の人生を始めました。どの子も、明日の予定を決めています」


 紙には、パンを焼く、森を見る、友達を作る、と不器用な字で書かれていた。


 彼女たちにとって、自分だけの明日は初めてだった。


 レオンとセラを加え、六人が都庁の会議室に座った。


「ガチャを止めれば、この宇宙は消える」


 悠真は最初に結論を伝えた。


「続ければ、別の世界から物を奪い続ける。管理者になれば被害を減らせるかもしれない。でも、ゼロにはできない」


 ヴァルガスは腕を組んだ。


「俺なら続ける」


 リリアーナが炎王を見る。


「ほかの世界で、何人が亡くなっても?」


「俺は王だ。顔も知らぬ者より、自国の民を選ぶ責任がある」


「それは、自国の民なら他国を犠牲にしてよいという意味ですか」


 リリアーナの問いに、ヴァルガスはすぐ答えなかった。


「よいとは言わん。正しくないと知っていても、俺が選ばねばならん。王が全員を愛すると言いながら誰も選べぬなら、最初に死ぬのは声の小さい者だ」


 ヴァルガスは木馬を机へ置いた。


「だが、この宇宙を守ったあと、奪われる世界の者へ剣を向けられるかと問われれば、分からん。俺は知らぬ相手だから奪えた。顔を見れば、また迷うだろう」


 強い王が、迷いを認めた。


「命に優先順位はありません」


「お前は一度、死そのものをなくそうとして国を滅ぼしかけた。きれいな言葉で民は救えん」


 リリアーナは反論せず、手を握った。


 グラディウスが骨の指で机をたたく。


「我は止めるべきだと考える」


「死者の王が、数十億人を死なせるのか」


 ヴァルガスの問いに、グラディウスは青い眼光を向けた。


「死を避けるため、他者の生を奪い続ければ、我らは何になる。墓標の数を見ぬふりする生者に、世界を名乗る資格はない」


「ならば、お前の死者から消えろと言えるのか」


「言えぬ。ゆえに苦しむのだ」


 誰も正解を持っていなかった。


 レオンは窓際に立ち、しばらく発言しなかった。


「百年前、俺も似た選択をした」


 全員が彼を見る。


「俺の仲間がいた街と、名前も知らない国。どちらか一つしか守れなかった。俺は仲間を選んだ」


「もう一つの国は?」


 悠真が尋ねた。


「地図から消えた。人数は二十万。顔を見なかったから、その夜も眠れた」


 レオンは自分の手を見る。


「十年後、生き残りに会った。俺が選ばなかった国で娘を失った男だった。それから眠れなくなった」


「後悔してるのか」


 悠真の問いに、レオンはしばらく黙った。


「同じ状況なら、また仲間を選ぶ」


 レオンは振り返った。


「だから後悔している。選択が間違いだったからじゃない。正しいと思う選択で誰かを殺したからだ」


 答えを選べば、迷いが消えるわけではない。選んだあとも、それを背負って生きる。


 悠真は、それを聞きたかった。


 簡単に一つへ決められる問題なら、《運営》は何十億年も続けていない。


 リリアーナが悠真を見る。


「あなたは、どうしたいのですか」


「分からない」


 正直に答えた。


「管理者になれば、ここにいる人は救える。そうしたい。でも、あの少年みたいな人から奪うのは嫌だ」


「両方は選べん」


 ヴァルガスが言う。


「今ある選択肢なら、そうだ」


 悠真はスマートフォンを机へ置いた。


「だから、選択肢を増やす」


 レオンが眉を上げる。


「どうやって?」


「それを探すために集まってもらった」


 ヴァルガスが大声で笑った。


「策もなく王を呼びつけたのか」


「俺は王じゃないからな。分からないことは分かる人に聞く」


「気に入った。では俺の国を使え。兵も、知識も、残る七十時間も全部だ」


 グラディウスが続く。


「死者は眠りを必要としない。地下の記録を調べさせよう」


 リリアーナも立ち上がった。


「私は世界樹の記憶を探します。植物は、人より古い時代を覚えています」


 三人は、それぞれ異なる迷いを抱えていた。


 それでも同じ目的へ動き出した。


 会議室を出る前、ヴァルガスが悠真へ振り返る。


「答えが見つからなければ?」


「そのときは、逃げずに選ぶ」


「よい。選んだあとで殴ってやる」


「どっちを選んでも?」


「当然だ。俺の気が済まん」


 炎王は笑って去った。


 残り六十六時間。


 最初に手掛かりを見つけたのは、グラディウスの死者だった。


 一体のスケルトンが、新宿の地下から古い映像記録を運んできた。


 そこには七本の剣を持たない、幼いセラが映っていた。


## サイドストーリー 敵同士の夜


 最終協議が終わったあと、ヴァルガスとグラディウスは都庁の屋上に残った。


 炎王は缶入りのコーヒーを飲んでいる。


 自動販売機は動かないため、悠真の収納から出したものだ。


「苦い」


「死者には味がない」


「なら飲むな」


「器を持つ行為には意味がある」


 骸王も空の缶を持っていた。


 二人は少し離れて立つ。


 数日前には、地上を奪い合う敵だった。


「お前はガチャを止めると言ったな」


 ヴァルガスが尋ねる。


「死者の国を守らなくていいのか」


「守りたい」


「なら矛盾している」


「生者は、矛盾しながら決めるものらしい」


 グラディウスは悠真の言葉を借りた。


 ヴァルガスが笑う。


「便利な言葉だ」


「貴様は続けると言った。別世界の民を殺してでも」


「王としてはな」


「個人としては?」


 ヴァルガスはコーヒーの缶を握る。


「俺の弟が、別世界にいるとしたら奪えん」


「他人なら奪える?」


「顔を見なければ」


「顔を見せられたら?」


「分からん」


 炎王は何度目かの迷いを口にした。


「王は迷いを民へ見せられん。あの男は、迷ったまま前へ出る。俺にはできぬ戦い方だ」


 グラディウスが夜の新宿を見る。


「我も死者へ弱さを見せぬ。だが、すべての名を覚えられないことを恐れている」


「骨でも怖いのか」


「炎の王でも腹は減る」


「違いない」


 二人は初めて、敵ではなく同じ重荷を持つ王として笑った。


 別れる前、ヴァルガスが缶をグラディウスへぶつける。


「世界が残ったら、国境の話をする」


「死者の土地を狭めるつもりか」


「生者の畑を広げる」


「交渉は決裂だ」


「なら戦争か?」


「まず会議だ」


 終末のあとにも争う予定がある。


 それは二人なりの、未来を信じる方法だった。


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