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これはガチャを終わらせる物語  作者: 藤崎聖子


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第18話 運営中枢

 黒い扉の先には、宇宙があった。


 足場は透明で、下にも上にも星が広がっている。遠くでは星雲が消え、暗闇が少しずつ領域を広げていた。


 アークは完璧な世界へ残った。


「私は、彼らに謝ることから始めます」


 最後にそう言い、門を閉じた。


 中枢へ進んだのは悠真、セラ、レオンの三人だ。


「運営、出てこい」


 悠真の声が宇宙へ響く。


「呼びかけを確認」


 無数の光が集まり、人の輪郭を作った。顔はない。男にも女にも見えない。


「我々は、当該宇宙管理機構です」


「一人称が『我々』なのはなぜだ」


 悠真は光の人影へ尋ねた。


「当機構は、過去の管理者一万八千二百四名の判断記録を統合しています」


 人影の内側に、顔が次々と浮かぶ。


 人間。異星人。機械。形のない光。


 宇宙を救おうとした者たちだ。


「全員、ガチャを続けたのか」


「最終的に継続を選択しました」


「止めようとした人は?」


「いました。停止後に発生する被害を提示すると、全員が撤回しました」


 《運営》は一つのAIではない。


 世界を守るため別世界を犠牲にした、過去の選択の積み重ねだった。


「管理者になった人たちは、今も中にいるのか」


「判断記録として存在します」


「本人は?」


「肉体および独立人格は不要となり、統合されました」


 管理者の椅子へ座ることは、この声の一部になることでもある。


 悠真は白い椅子を、初めて墓のように見た。


 光の人影の背後に、膨大な記録が流れていた。


 最初の一億年、《運営》は恒星を移動させた。


 次の時代には、ブラックホールからエネルギーを取り出した。


 宇宙の膨張を遅らせ、時間の流れを変え、死にかけた星を何度も作り直した。


 どの方法にも限界が来た。


 最後に選んだのが、並行世界からの転送だった。


「最初からガチャに頼ったわけじゃないのか」


「肯定。代替案を一兆二千億件検証しました」


「全部失敗した?」


「恒久的な成功例は存在しません」


 《運営》は簡単な道を選んだ悪意ある存在ではない。


 できることを試し続け、最後に他者から奪う方法へたどり着いた。


 だからといって、奪うことが正しくなるわけではない。


 ただ、間違いだと一言で切り捨てることも難しくなった。


「ガチャを作ったのは、お前か」


「肯定」


「別世界から物を奪っていることも?」


「肯定」


 あまりに平静な返事に、悠真の怒りが強くなる。


「何人死んだ」


「算出不能。観測対象外の世界における二次被害は記録していません」


「記録してないから、知らないで済ませるのか」


「現在の世界を守ることが、我々の責任です」


 光が星の地図を作る。


「本宇宙は四十億年前に寿命を迎えました。以後、並行世界から物質、エネルギー、時間、可能性を転送し、延命を継続しています」


 地図の星が一度すべて消え、ガチャの光とともに戻る。


「我々が停止すれば、この宇宙の生命は終了します」


「だから、知らない世界なら奪っていいのか」


「では、この世界の数十億人を殺しますか?」


 《運営》が地上の映像を見せる。


 復興を始めたガルドアでは、子どもが永久豊穣炉のパンを分けている。


 カナンでは、七人だった少女たちが別々の名前を選んでいた。


 グラディウスは名のない死者へ墓標を作っている。


 悠真がガチャで救った人々。


「供給停止時、これらの生命は七十二時間以内に終了します」


 次に、別世界の映像が映る。


 剣を失った騎士。水の消えた村。家ごと家族を奪われた空き地。


「供給継続時、被害は観測範囲外で発生します」


「見せられるのか」


「管理者候補が判断を行うため、観測範囲を拡大しました」


「今まで見なかっただけなんだな」


「必要性がありませんでした」


 《運営》にとって、知らない世界は数字ですらなかった。


 悠真が管理者になれば、それを見ることはできる。被害を少ない場所へ変えられる。


 それは、強い誘惑だった。


 悠真は答えられなかった。


 ヴァルガスの民。カナンの少女たち。これまで会った人々の顔が浮かぶ。


 《運営》には悪意がない。


 それが余計に恐ろしかった。


 レオンが前へ出る。


「昔のプレイヤーにも同じ質問をしたな」


「あなたは管理者適合率が不足していました」


「俺が世界を選べなかったからか」


「あなたは身近な者の救済を優先し、広域の損失を許容しました」


 レオンは黙った。


 百年のどこかで、彼も選ばされたのだ。


 《運営》がセラへ向く。


「七星剣管理体。第六星剣の規定外使用を確認。記憶封鎖処置を実行します」


 白い光がセラを包む。


 悠真は彼女の前へ立った。


「やめろ」


「管理体は真実を保持する必要がありません」


「人を物みたいに呼ぶな」


「当該個体は人ではありません」


 セラの手が震えた。


 背後の七本目が、低い音を立てる。


「私は……」


 彼女自身も答えを持っていない。


 悠真はスマートフォンを掲げた。


「FINAL PLAYERの権限で命令する。セラの記憶に触るな」


 光が止まった。


「権限を確認。命令を受理します」


 《運営》は抵抗しなかった。


「管理者候補には、七星剣管理体を所有する権利があります」


「所有じゃない」


「呼称の差異は機能へ影響しません」


 中枢の奥に、新しい道が現れた。


「最終評価を開始します。佐倉悠真の観測記録を開示します」


## サイドストーリー 最小の犠牲


 《運営》は、悠真へ提示する前に一兆通りの管理計画を作った。


 第一案。


 生命の存在しない世界からのみエネルギーを転送する。


 十七年後に無人世界が枯渇し、現宇宙は停止する。


 第二案。


 滅亡まで一日未満の世界を選ぶ。


 転送によって滅亡が数時間早まるが、失われる生命時間は少ない。


 ただし、その数時間に生まれるはずだった子どもがいる。


 第三案。


 全並行世界から、一秒ずつ時間を取る。


 一つの世界の損失は知覚できない。


 対象世界の数は無限に近い。


 だが合計すれば、無限に近い数の一秒を奪う。


 第四案。


 苦痛を感じない生命から優先して奪う。


 苦痛を感じないことは、犠牲にしてよい根拠になるか。


 判定不能。


 第五案。


 管理者自身の世界を最初に対象とする。


 公平性は高い。


 現宇宙の崩壊が加速し、管理目的と矛盾する。


 どの案にも犠牲がある。


 《運営》は犠牲の人数、苦痛、時間、未来への影響を数値化した。


 最小値を選ぶ。


 それが正しい管理だと判断した。


 計算の途中、一人の過去の管理者が質問を残していた。


『最小の犠牲に選ばれた者へ、誰が説明する?』


 回答欄は空白だった。


 《運営》には説明する機能がない。


 犠牲となる世界は観測対象から外れ、声も届かない。


 悠真が最初に求めたのは、計算結果ではなかった。


 向こう側を見せろ。


 誰から奪ったのか教えろ。


 効率を下げる要求だった。


 それでも《運営》は、管理者候補の権限として観測範囲を広げた。


 結果、治癒薬を失った少年が見えた。


 一人の顔が見えたことで、最小値だった損失は一人の人生になった。


 《運営》は、その変化を数値化できなかった。


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