表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
これはガチャを終わらせる物語  作者: 藤崎聖子


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/27

第11話 先輩プレイヤー

「レオン?」


 悠真が名前を呼ぶと、男は眉を上げた。


「俺を知ってるのか」


「ゲームのフレンドに、同じ名前の人がいた」


「よくある名前だ。そいつとは別人だろ」


 男――レオンはセラへ目を向けた。


「七星剣の管理者まで引いたのか。運がいい」


「あなたは何者です」


 セラが悠真の前へ出る。


 レオンは剣を肩から下ろした。


「昔のプレイヤーだ」


 レオンは自分のステータス画面を悠真へ見せた。


 レベル九百九十九。


 職業欄には、剣士、鍛冶師、料理人、船乗り、墓守など、百を超える名称が並んでいる。


「全部やったのか」


「百年あった」


「ゲームなら、普通は上限まで数年だろ」


「現実になってからは、スキルを覚えるのに本当に修行が要る。料理レベルを一つ上げるため、三年店で働いた」


「戦闘だけしてたわけじゃないんだな」


「人は戦うだけじゃ腹が減る」


 レオンは空間収納から小さなパンを出し、三人へ渡した。


 見た目は硬そうだが、中は温かい。香草と肉が練り込まれている。


「うまい」


「レベル八十七の料理だ」


 セラも一口食べる。


「ガルドアの永久豊穣炉より味があります」


「機械の飯と比べるな」


 ぶっきらぼうに言いながら、レオンは少し嬉しそうだった。


 百年間で身につけたものは、敵を倒す力だけではない。


 悠真は、数字の高い先輩プレイヤーではなく、長く生きた一人の男として彼を見るようになった。


「ファンタシースタープリンセスの?」


「知らん。俺が遊んでたのは『エターナル・クロニクル』。百年近く前に終わったMMORPGだ」


 悠真はレオンの外見を見る。


「百年前?」


「こっちへ来たときは十四だった。今は百十四だ」


「四十くらいにしか見えない」


「レベルが上がると老化耐性がつく」


「便利すぎるだろ、MMORPG」


「お前はガチャで街を出したそうだな。人のことを言えるか」


 レオンは端末を操作した。


 地下施設の地図が表示される。


「ここへ新宿を落としたせいで、封印が解けた。俺も外へ出られる」


「閉じ込められてたのか?」


「自分で残った。誰かが来たとき、説明できる人間が必要だった」


「百年も?」


「最初は、次がすぐ来ると思った。十年で来なかった。五十年でも来なかった。そこまで待つと、途中でやめる方が損した気分になる」


「ゲームのログインみたいに言うな」


「同じだ。今日やめれば、昨日まで待った意味が消える気がした」


「本当は消えない」


「分かってる。だが人間は、分かっていても続ける」


 レオンは悠真を見た。


「お前もそうだったから、最後に残ったんだろ」


 二年間と百年間では比べられない。それでも少しだけ似ている、と悠真は思った。


 短い言葉だった。


 悠真には、その百年の長さを想像できなかった。


「歴代プレイヤーは、ほかにもいるのか」


「いた。戦争で死んだ奴。元の世界を探しに行った奴。《運営》側についた奴。全員が仲間だと思うな」


「運営会社があるのか?」


「お前が考えてる会社じゃない」


 レオンが壁をたたく。


「この世界を管理してる何かだ。俺たちは《運営》と呼んでいる」


 施設が揺れた。


 天井から黒い機械兵が落ちる。人型だが顔はなく、胸に七星剣の紋章があった。


「管理者情報への不正接続を検出」


 機械音声が告げる。


「旧世代プレイヤーを削除します」


 百体の機械兵が武器を構えた。


 機械兵は三人を一度に狙わなかった。


 半数がレオンへ。残りは記録端末へ向かう。


「説明役より、記録を先に消す気だ!」


 悠真が叫ぶ。


 機械兵の光線が端末へ集中する。セラが氷壁を作った。透明な壁の中で光が何度も屈折し、跳ね返った光線が敵自身を撃ち抜いた。


 レオンは正面の敵を斬りながら、悠真へ短く指示する。


「左の盤。赤い鍵を抜け」


「どれだ!」


「赤いのは一つだ!」


「全部赤く光ってる!」


「なら右から三番目!」


 悠真が鍵を引き抜くと、端末の記録がスマートフォンへ移った。同時に施設の床が傾く。


「それは重力制御の鍵だ!」


「先に言え!」


 三人と百体の機械兵が天井へ落ちた。


 セラだけが空中で姿勢を変え、悠真を抱えて着地する。レオンは天井に剣を突き刺し、ぶら下がった。


「新人。次から触る前に聞け」


「指示したのはそっちだろ!」


 戦闘中でも、レオンの口元は少し笑っていた。百年ぶりに誰かへ指示できることを楽しんでいるように見えた。


 レオンの体が光る。


 革鎧が黄金の重装甲へ変わった。片手剣は、身長を超える大剣になる。


「装備変更。竜王一式」


 レオンが踏み込んだ。


 一振りで、前列の十体が両断された。


「強い」


「百年レベル上げしたからな」


 機械兵が光線を放つ。


 セラが氷壁で受け止めた。悠真はスマートフォンを開き、タイタン・ゼロを地下へ呼ぼうとする。


「大きすぎて召喚不可?」


「椅子を出してください」


 セラが言った。


「何に使うんだ」


「通路を塞ぎます」


 悠真は空間収納から木製の椅子を百脚出した。


 通路が椅子で埋まる。機械兵が進めなくなった。


 レオンが大剣を振り回し、椅子ごと敵を砕く。


「もっとましな物はなかったのか!」


「在庫処分も兼ねてる!」


「戦場で節約するな!」


 セラが第一星剣を抜く。


 通路を満たす冷気が、機械兵だけを一瞬で凍らせた。


 レオンの大剣が床を打つ。


 百体すべてが砕ける。


 最後の一体から、小さな記録装置が落ちた。


 レオンが拾い、端末へ接続する。


 新しい映像が流れた。


 現代の会議室。悠真が知るゲーム会社のロゴが壁にある。


 開発者たちが、七剣姫のデザインを見ていた。


『このキャラ、誰が企画したんだ?』


『分かりません。AIの出力フォルダに入っていました』


『七本目の説明が壊れてる』


『直して実装候補に入れますか?』


『いや。触らない方がいい気がする』


 映像の中で、開発者がファイルを未実装フォルダへ移す。


 セラは黙って自分の七本目を見た。


 黒い鞘から、脈打つような音がしていた。


## サイドストーリー 東京を残した人々


 西暦四十一億年まで、新宿の一部が形を残したのは偶然ではない。


 最初の保存計画は、都市が海へ沈む前に始まった。


 歴史学者たちは、世界中の街から一画ずつ選んだ。


 王宮でも遺跡でもない。


 人々が働き、食べ、帰宅した普通の場所。


『英雄の建物だけ残せば、未来人は過去に英雄しかいなかったと思う』


 計画責任者の女性はそう言った。


 コンビニの商品棚。


 小さな定食屋。


 会社員の机。


 駅の忘れ物。


 生活の痕跡を保存する。


 一万年後、保存区画を管理する文明が滅びた。


 次の文明は目的を知らないまま、聖域として守った。


 百万年後、地殻変動で地下へ沈む。


 未来の技術者が発掘し、過去観測の基準点へ使った。


 その技術者の一人が、定食屋の壁で古い写真を見つけた。


 会社員たちが笑っている。


 端には、存在しないはずの銀髪の女性。


『時間の重なりだ』


 技術者は写真を保存し、施設の中枢へ移した。


 何十億年もの間、誰かが次の時代へ手渡した。


 悠真が歩いた新宿は、彼の時代の街そのものではない。


 無数の人が守り、修復し、意味を変えながら残した新宿だった。


 ガチャは、その全員の努力ごと地面から引き抜いた。


 人がいなければ奪ってもよい。


 《運営》はそう判断した。


 だが無人の街にも、残そうとした人々の選択が積み重なっている。


 悠真が新宿を返すと決めたのは、自分の故郷だからだけではない。


 知らない誰かが四十一億年間つないだものを、自分の所有物にはできないと思ったからだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ