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神々の残響  作者: 蒼凪 悠
瑞穂皇国

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9/18

第八話 知らない不穏

見慣れた大樹(たいじゅ)が見えてきた。

大草原と立派な樹々に囲まれた街

【大樹の街】である。


「わぁ!ここも大自然にょん!」

「そうでしょ!?綺麗な所でしょ?!ポピンさん!」


春が自慢(じまん)げに言う。

彼女はこの街の色鮮やかな大自然が自慢なのだ。


「あの草原へ降りてもらえるか?」

「了解にょん!」


ポピンの操縦でゆっくり、静かに着陸する。

八角形の石を枠から抜いた途端、青い光は出発時と逆の順番で光が消えていく。


「はい!降りて大丈夫だよ」


太陽が心地よく照らす草原を抜け、石畳に差し込む木漏れ日を越えると、クスノキの大樹が皆を迎えてくれた。

一人そわそわしている男がいた。 功である。


「春、功はなにそわそわしてるんだ?」

「決まってるじゃないですか、秋花ちゃんを探してるんですよ」

「あぁ、なるほど」


功はちらっと春を見る。秋花はどこだ?と心の声がだだ漏れである。まぁ、春もその気持ちがわからなくもない。同じ恋する人間として、一肌脱ごうではないか。


「悠真様、私は先に侍女部屋に行ってお迎え準備してきますね」

「あぁ、よろしくな春」


春は足早に悠真に手を振りながら去っていく。


「わぁ!おっきな池だにょん!」

「ポピン、あんまり騒がないてください。」

「ラティもおいでよ!おっきな鯉もいる!」

「ははは、ポピンちゃんは春に負けないぐらい元気だねぇ」


普段は家に着くとすぐに自分の部屋に(こも)る蒼真も、めずらしく一緒に庭散歩をしている。

庭を一回りして屋敷の入り口にくるといつもの元気でお転婆な春の姿はなく、(りん)とした表情に綺麗な姿勢をたもち、横一列に整列した侍女達の中央に立っていた。服装も客人の出迎え用である。

一歩前にでた春が背筋の通った見事な一礼をしながら


「お帰りなさいませ、蒼真様、悠真様。一同お帰りをお待ちしておりました。」


続いて皆が礼をする。


「お帰りなさいませ!」


頭をあげた春が続ける。


瑞石家(みずしけ) 功様、共和国よりポピン・オスリア様、メティラ・カレストラ様 皆様もようこそ瑞璃へお越し下さいました。」


ポピンもメティラも、先程までとは別人の春をみて呆気(あっけ)にとられている。


「ささやかではございますが、ご昼食の準備ができております。花月(かげつ)の部屋にご案内いたします。」


スッと春を含め、侍女達が左右に分かれて列になり廊下が前に広がる。


「蒼真様、悠真様には私が。 功様には秋花、ポピン様、メティラ様には優、紗也がおつきなさい。」

「承知したしました。」


なんの迷いもなく、流れるように指示をだす春に悠真は尊敬さえおぼえる。

びっくりして春を見る功に、春はいつもの笑顔を向け胸元で拳を握る。春なりの気遣いだ。


【稲盛 春】 19歳

 金色の街より、父親が瑞璃家の従者となる為に5歳の頃に大樹の街へやってきた。悠真達とは幼馴染だ。14歳で正式に侍女になり、その才を認められ若干18歳で侍女頭に抜擢された、実はかなり出来る子であった・・・



◇◇◇◇◇◇



 昼食が終わりお茶が出された頃、その男は動いた・・・

男は迷いなく1人の侍女の立つ方へむかう。男は腰の革鞄(かわかばん)に手を伸ばし、何かをつかんだ。ゆっくりと取り出した物を侍女へとむける!


「あ、あの秋花ちゃん・・・皇都で見つけたんだ。秋花ちゃんに似合うかなと思って・・・受け取ってもらえるかな?」

「え!良いのですか?!」

「あぁ、ぜひ受け取ってほしぃ」

「わぁ!ありがとうございます!功様!」

「喜んで貰えてよかったよ」


功はやった!頑張った!気を寄せる秋花に愛の贈り物を差し出し、受け取ってもらったのだ!

そっと見守っていた蒼真と悠真も表情がやわらぐ。


「こんな可愛い(かんざし)!嬉しいです!ちょっと失礼します!」


功は顔には出さないように頑張ってはいるが、喜びが絶頂に達しているのは隠しきれていない。皆に見せたいのか、秋花は侍女達が集まっている場所に向かった。


「見てください 寛太! 功様が私にお土産をくださった!」

「本当か!? あの上級神響術継承三家のご子息に!?」

「えぇ!どうしましょう! 嬉しくて!」

「本当に嬉しいな! 秋花が頂いた品だけど、いずれは俺たち二人の家宝にしよう!」

「そうね寛太!」

「俺も特別に頂だけるぐらいがんばるよ!秋花。」



(・・・・んんっ?)


功が止まった。蒼真、悠真も止まった。

ポピンとメティラはお茶を飲みながら侍女と楽しく会話している。


「あ、あのぉ秋花ちゃん。さっきの男性は?」

「はいっ!従者の寛太と申します!」

「寛太くん・・・で、家宝にするってのは?

「聞こえてましたか?すいません、お恥ずかしい。」 


秋花は頬を赤らめて視線を寛太にむける。


「実は来年、結婚するんです!だから本当に頂い・・・」


秋花が何か話ているが、功の魂はここにはすでにいなかった。

頭の中が真っ白である。それ以上なにもない。


「って、展開はやすぎないっ!?」


悠真が呟いて春を見たとき、春は片目を(つむ)り舌をすこし出して(やらかしちゃった?)と言わんばかりの表情をよこした。

こいつ・・・知ってたな。


「功様!」

「あ、はぃ・・・」

「功様には本当に感謝しています!」


優しく綺麗な目が真っ直ぐ功を見つめる・・・


「結婚式にはぜひお言葉だけでも頂けると嬉しいです!」

「・・・・・・・・よろこんでぇ」


【瑞石 功】 28歳

上級神響術継承三家の三男

頑固物だが憎めない、悠真の悪友である・・・

彼の淡い恋は秋の花が咲く前に散ったのである。



◇◇◇◇◇◇



日が落ちようとする頃、蒼真は宝物館にいた。

毎月1回保管品を確認するのだが、今月は既に終わった職務なのになぜか確認したくなったのだ。

いつもする様に右の棚から見てまわり、中央に差し掛かった時、無造作に置かれた見た事のない宝玉(ほうぎょく)があった。


「なんだろうね、これ・・・」


蒼真は疑問には思ったものの、それを手にとり腰にぶら下げた革鞄にいれた。 残りを確認して宝物館を後にする。


「異常なしっ! さぁ、皆なにしてるのかなぁ」


夕食後、お茶を飲みながら話で盛り上がっていた。


「なぁポピン。共和国ってのはこの国とはどうちがうんだ?」

「そうだねぇ こんなに自然豊ではないにょ」

「へぇ、じゃあ石だらけとか?」

「うーん、建物がいっぱいだね。街も空から見た限りここの三倍はあると思う。アルスティア国の王都と皇都を比べたらもっとかな?」

「私もそう思います。皇宮は大変素晴らしい建物でしたが、我が国のアルスティア城だけでも皇宮の五倍の広さかと」

「なんだよそれ!すげーっ!」

「共和国は名の通り、アルスティア国を中心とした、メアナ、エリーテレル、サイリス、モータリアの5国からなりたっています。アルスティアが一番大きな国です。」


共和国の話をしてくれるラティスを見つめて、知らない世界の話で悠真の好奇心値が上昇しようとした時ガチャっとドアが開き、蒼真が入ってくる。


「お楽しみの所悪いけど、明日の猪退治の話しなくちゃ」

「あぁ、そうだな。すっかり忘れるところだった」

「では、内容なんだけどね。とりあえず猪がいっぱい出るみたいなんだよ。」

「相変わらずざっくりだな、兄貴・・・・」

「そう?だってそれだけしか情報ないんだよ」

「自警団も対処できないとなると、五匹とかか?」

「うーん・・・毎日、5匹とかだね」

「おいおい、それは確かにやばいな」


スウッと蒼真の目つきが鋭くなり、声が変わる。

真剣になった時の蒼真の目だった。


「ともかく・・・怪我人も出ている。悠真には早急に解決してきてもらいたい。」

「承知しました、兄上様」


瑞璃家の長男と次男の関係が形をなして皆に伝わった。お互い、その関係は必要な時に形を変えることを理解している。


「私たちもお手伝いするにょん!」

「えぇ、ぜひお手伝いさせていただきたい。」

「それはありがたいね!じゃぁお願いしようかな、ポピンさん、メティラさん」

「我々もこちらの大陸の生き物を見てみたいのもありますので」

「よろしく頼むよ。さぁ、早く寝てね。明日は朝早く出発だよ!僕は寝てるけどね」


一瞬で元に戻るのも蒼真のいいところか・・・・

皆、まだまだ話をしたかったが、今日の所は足早に床に着いた。




「ポピン、メティラおはよう!今日はよろしく頼む」

「悠真おはようにょん!」

「おはようございます。」

「功も行くのか?」

「ふぁぁっ・・・・あぁどうせ暇だし、ここに一人でいたくないしね・・・」


秋花の件だな・・・・まぁそうだよな。

そんな功の姿を見て春はクスクス笑っている。

半分はお前のせいだと思うがな・・・・。


「ここから目的の村までは馬で1時間って所だな、ポピン、ラティスは馬乗れるよな?」

「私は大丈夫だが、ポピンは乗れない。」

「そうか・・・ポピン!俺の前に乗るか?」

「いいにょん!?」

「ポピンが嫌でなければだけどな?」

「私は構わないにょ・・・・」


ためらうポピンの視線の先には獣の顔をした春がいた・・・今にも飛びかかって来そうだ。ある意味、猪より厄介だ。


「なら私が乗せていこう」


ラティスの提案で即解決。一同は出発する。


「いってらっしゃいませ、悠真様、皆様。お気をつけて。」


春たち侍女に見送られて南へ向かう。その時悠真は本当にまだ寝ていた・・・。


「悠真殿、猪とはどんな獣なのですか?」

「大きさは1メートルぐらいで毛むくじゃらで大きな牙があって、四本足で突進してくる獣かな?」

「・・・・想像するに我らで言う『ワイルドボア』みたいなものかな、ポピン」

「だねぇ、そんな感じがする。」

「やっぱり呼び方違うんだな、てか同じ生き物いるんだな!」

「実際に見ないとわかんないにょん。でも同じ可能性はあるよ。」

「可能性?」

「悠真殿は知らないか?我らアルスティア共和国がある大陸とこちら瑞穂皇国のある大陸が大昔はひとつだったと言う伝説を。」

「あぁ、古文書で読んだだけだが。」

「あくまでも伝説にょん。」

「しかし瑞穂皇国にもあるのだな。なら伝説は本当かもな・・・」

「可能性が広がったにょん!」

「確かにそうだな。」

「まったく知らない人のはずなのに、言葉は一緒だにょん。呼び方とか文化は違っても。」

「本そういえば、当たり前のように同じ言語だな・・・・・」

「それに驚いた事があるにょ。メアナ国にちょっと似てるところがあるにょん!」

「そうだ、私も思った。建物とか名前とかだな。近いものを感じた」

「同じ大陸だったから・・・?」


悠真は静かに興奮している。子供の頃に読んだ本がこんなにも真実に近いとは・・・・

帰ったら読み直そう。いや、もっと本を探そう。そう思っていた。


「お、見えて来たな、蒼真」


功に言われて我に変える。今の時期は野菜が沢山植えられている畑が視界いっぱいに入ってきた。


「美味しそうな野菜がいっぱいだにょん! お!あれはトマッタにょん?」

「トマッタ? あぁ、トマトか」

「あれは?キューリコ?」

「きゅうりだな」

「なんか微妙な名前だな・・・てかもう同じもの確定だろぉよ」


そう言って功が笑っている。確かにそうだ、どちらにしてもそのままだ。


村長に迎えられ、話を聞く。

村の南側の林から出てくるらしい。

その向こうは距離はあれど、功たちの【静海(じょうかい)の街】だ。

どちらの為にも早く片付けないと。

悠真たちは即、林へ向かう。


「ここいらで範囲警戒術(はんいけいかいじゅつ)しとくか。」


功は護符(ごふ)を取り出し言霊(ことだま)を唱える。


  神々の残響よ 

  我が眼となりて

  隠れしものを映したまえ

  神響術 【(さく)


護符が一瞬で燃え上がり、同時に功の脳内に周辺1キロ程度の

地形や生命の居場所を流し込んでくる。

目を瞑ったまま、功が伝える。


「悠真、このまま真っ直ぐ300m程、林の中にいる・・・・」

「やるね功! 数はどうだ?」

「それが・・・・五匹どころじゃねぇぞ・・・」

「?」

「五十・・・いや・・・」


功は集中して情報を読み込んでいる・・・

悠真はここで迎えうつ準備をする。


「ポピン、メティラ。ちょっと予想以上すぎる事態になった。」

「どうしたにょん?てか今功は何してるにょ?!」

「話は後だ!ここで迎え撃つから、二人は退避してくれ!」


遠くから地鳴りが聞こえてくる・・・・


「悠真!来るぞ!! おいおい・・・百匹はいるんじゃねぇか・・・」

「嘘だろぉ・・・・」


悠真は刀を抜き構え、向かってくる猪を切り捨てる。

その動きは俊敏で、獣の突進の速度を上回る。

猪の動きを読み、太刀筋一閃(たちすじいっせん)で1匹を退治していく。


「すごい・・・・・」


それをみて一番驚いたのはメティラであった。

己が騎士であるが故。

悠真の動きを認めざるを得なかった・・・・

功も攻撃に加わる。功もまた、悠真ほどの数ではないが猪を一刀両断していく。


「私も加わります! ポピン、動かないでください!」


二人の剣技を見て、我慢できなかった。


「私にはあの二人ほど力はない。だがレゾナスアーツがある・・・」


メティラはレイピアを抜き額の前で構え、唱える。


 神よ

 我が魂と共鳴したまえ・・・・

 レゾナス解放


メティラの体とレイピアが蒼白い光に包まれた。

赤く吸い込まれそうな瞳が輝きを増す・・・


「悠真殿、功殿! 一度私に場を譲ってください!」


メティラの姿をみた二人は目を疑う・・・・

彼女の周りの残響(ざんきょう)がレイピアに吸い込まれている・・・


「なぁ功、あれって・・・・」

「あぁ、残響技(ざんきょうぎ)だな・・・それもかなり上位の・・・」


二人は言われた通りにメティラより後方に下がり、とてつもない力に圧倒される・・・



 神よ

 我が剣に終焉(しゅうえん)の炎を宿したまえ

 レゾナスアーツ・・・


 【|イグニス・ヴォルテクス《渦炎斬》】


巨大な炎の渦が一気に猪を焼き尽くす・・・・

その渦の中心にいるメティラが最後の一突きで確実に仕留めていく・・・。

恐ろしく強力で、可憐で、鮮やかな攻撃でもあった。


「すげーっ!てか、かっこいい・・・・」


悠真と功は見惚れている。

レゾナス解放を解いたラティスはひと息ついた。


「やるじゃん!てかどうやるんだそれ!俺にもできるかな!?」

「わからないが、鍛錬を積んでパラディン級までくれば使えるのではないか。」

「なんだ?パラディンって??」

「階級のことだ。でも悠真殿たちがさっき使っていた剣の技術だがあれはただ切っているだけなのか?」

「刀か?ただ切っている・・・・じゃなかもな。残響をある程度(まと)わせているから猪でも一撃で切り裂けるって言うの?」

「その残響というものが気になるんだ」

「そう!それが私たちでいうレゾナスじゃないかと考えたにょん!」

「レゾナスって・・・さっきラティスが光る前に言った言葉だよな?」

「そうだ。実はこの大陸へ来た時から思っていたのだ。我らは共和国中にあるレゾナスという神の遺産を体や武器に纏わす技術を持っていて・・・」

「待て、神の遺産?国中にある?纏わす?」

「それって残響のことじゃ・・・」

「あぁ、そうっぽいな功!これはすごいぞ!」

「やっぱりレゾナスと残響は同じにょん!?」



  ーーーーーーーー!!!



突然恐ろしく禍々(まがまが)しい(よど)みを感じた。

まるで悪夢に飲み込まれるかのような・・・


「なんだこれっ!」


悠真はこの邪悪な重圧がどこから発せられているのか探す・・・

その横ではラティスが顔色を失っている・・・・

ポピンは震える手でポケットから何かを取り出した・・・


「ポピン・・・?これはっまさかっ・・・」

「あぁそうにょ・・・まちがいないにょ。」


猪の死骸で埋め尽くされた奥の方・・・ゆるりと何かが動いている。周りは黒い霧のようなもので覆われてよく見えないが、この気配は確実にそこからだった。


「あそこかっ・・・なんだよ、でっかい猪でもまだいるのか?」

「悠真、さっさと片付けないと精神が持たんぞ・・・」

「あぁ、そうだな・・・・功、朱護符(あかごふ)持ってたりするか・・・?」

「朱護符ならあと一枚あったような・・・。」

「結構強い悪霊っぽいけど、ぶっ放したい気分だ。」

「しらねぇぞ、ぶっ放し損でも・・・・失敗したら護符代よこせよ!」

「わかったよ!」


功が腰に下げた革鞄の中から朱色の護符を取り出し、悠真に渡す。


「悠真!功! あれはやばいにょん!!逃げるにょん!!!」

「悠真殿! あれは私でも無理なんだ! 一旦引こう!」


悠真はすでに護符を額の前にかざしていた・・・。


「ああ、なかなかやばいな。でもまぁ見てなよ! (はら)えなかったらすぐ逃げようぜ!」


黒い霧が少しずつ人型にあつまっていく。

邪気が擬人化したかのように・・・真っ黒でただ邪悪な物体が目に見えた。それはどんどん大きくなり、白い目と赤く大きな口を開けて奇声をあげる・・・



悠真は集中し、言霊を唱え始める・・・

体が蒼白く光り周りの空気が変わる

残響が震えだし、悠真の体と護符に吸収されていく―――

 


 神々の残響よ

 我が願いを聞き届けたまへ

 神国(しんこく)の子らを滅ぼさんとす悪霊に

 獄炎(ごくえん)(さば)きを 

 (けが)れを(まと)

 魂の(なげ)きを(はら)い 

 安らかなる

 黄泉(よみ)(かえ)したまへ


 

悠真は刀を抜いて護符を刀身に重ねる・・・

刀身は朱色(あかいろ)の炎を纏った・・・・


 

 神響術 【天昇斬華(てんしょうざんか)



蒼の炎が邪悪を両断すると同時に護符の朱色の炎が

燃え移り、焼き尽くしていく。

護符が燃え尽きるのと同じくして悪霊が天へ吸い込まれてゆく・・・・



あたりは静まり返った。

残ったのは丸焦げた大量の猪たちと腰が抜けた悠真以外の三人・・・・・


「よしっ! 新術完成っ!」

「いやいや・・・・新術ってめちゃくちゃかよお前は」

「悠真殿・・・これは一体・・・・」

「にょん・・・・・」


悠真は気にすることなく猪を見ている。

大きな炎の柱を見てか、不安顔の村長が警護団を率いてやってきた。


「悠真様!大丈夫なのですか?!」

「あっ、村長! 終わったよ。どうもかなり強力な悪霊がいたみたいだった」

「そうなんですね・・・・」

「なんとか祓えたから!もう大丈夫だと思うよ」

「おおっ!さすが瑞璃のご子息様・・・なんとお礼を・・・」

「俺たちの役目だよ。それより村長・・・・」

「はいなんでございますか?」

「この猪、美味そうに焼けてるし、もらってもいい?」

「は?」




悠真は丸焦げ猪二匹を馬にくくりつけ、帰路についている。

みんな無言の中、悠真だけはご機嫌である。

新しい術の成功と美味い猪を手に入れたからである。

しかも、調理済みだ。


「あの、悠真殿?先程の技は・・・?」

「ああ、なんか真っ黒だしすごくやばい気配だったろ?だから早くしないとみんな大変だなと思ってさ。まぁ、悪霊なんだろうなと思ったからさ、攻撃と祓を一度にできないかなぁって神頼みしてみた!」

「神頼みですか・・・・」

「いやぁ、さすがに驚いたにょ・・・・あんなの初めてみたにょ・・・」

「相変わらずメチャクチャだよ、お前は!」

「しかし、あれは悪霊では・・・」


何かを言いかけて、ラティスはやめた。悠真は気にする事なく、笑顔で待ちきれないと猪を頬張っている・・・・

ポピンとラティスは同じ事を考えていた。

この国にも穢人けがれびとが出る・・・・・


「悠真、さっきの黒いの本当に悪霊だったにょ?」

「あぁ、あれは浄化もされたから悪霊だよ。普段から俺たちが祓って黄泉へ還しているんだ」

「悪霊・・・・」

「しかし今日のは本当にやばかったな功!あんな大きくて禍々しいのは初めてだ!」

「そうだな・・・・でもあれ本当に悪霊か?」

「悪霊だろ?祓えたんだから」

「そんなもんかねぇ・・・」





「お帰りなさいませ悠真様!」


春が優しい笑顔で出迎えてくれる。


「おお春!お土産があるぞ!」

「えっ!なんですか!?婚約指輪(こんやくゆびわ)ですかっ!?」


春は頬に手を当てうっとりとしている。

本当にこれが昨日の侍女頭なのだろうか・・・・


「何言ってるんだよ、相変わらず面白いやつだ!」

「ムスッ」

「猪の丸焼き二匹分! 今晩の夕食だ!」

「・・・・いらない」

「なんでだよっ!」

「自分一人で食ってろ!」

「おまっ!それは無いだろ!丸焼きいらないって!」

「そこっ?」

「何が?」

「はあっ・・・・」


不機嫌な春に困った悠真はとりあえず逃げる。


「さ、兄様に報告、報告! みんなも来てくれるか?」

「もちろん!」


蒼真に一通り話終わり、明日ポピン達は皇都へ戻ることになった。


「ともかくみんなお疲れ様でした。ポピンちゃんもラティス嬢も助かりました。今日はゆっくり休んでね。」

「あの、蒼真殿、少しお話が・・・・・」



日が落ち、月が代わりを始めた頃、悠真は草原にいた。


(今日は疲れた・・・・メティラのあの技、綺麗だったな。

彼女が使っているレゾナスが本当に残響を指すのであれば、俺もあの技を使える可能性がある。

でももう帰るんだよな・・・・知りたい事ばかりだ。またあの子達に会えるのは一体いつになるか。)


いつもと変わらぬ風景。広大に広がる草原と神巫海。


【この海の向こうには何があるのだろう・・・】


いつもいつも思っていたこの疑問は


【この海の向こうには国があり人がいる】


に変わった。


しかし自分自身は何も変わらない。


時間だけが過ぎていく中、珍しく蒼真が横に座った。


「なぁ蒼真」

「ん〜?」

「俺が瑞璃家の人間じゃなかったらさ」


風がスゥっと取りすぎる。


「海の向こうへ行けたのかなぁ・・・」


「・・・・・」


「色んな国を見てみたい」

「色んな人に会ってみたい」

「まだ知らない事を知りたい」

「なせこの海を作ったのか、神に聞いてみたい」


「・・・・・」


「でも俺は瑞璃家の人間だ。大樹の街を守らないと行けない」

「親父も蒼真も春も・・みんな心配だし」


悠真は少し笑う。


「・・・・・」


「聞いてるのか?蒼真?」


黙ったまま、蒼真は懐から宝物館で見つけた透明の宝玉を

そっと取り出し悠真に渡す。


「なんだよこれ?」


「この宝玉、悠真に渡しておくよ」


「宝玉というか、残響(こも)ってるし神霊石(しんれいせき)じゃないか?」


その瞬間、また風が悠真の頬を優しく撫でた。

月の優しい光に照らされた蒼真が呟く。


「大丈夫だよ」


「何がだよ」


「知らないよ」


「はぁっ!?」


「だから大丈夫だよ」


もうしばらく、仲良い?兄弟の問答は続いた・・・

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