第九話 立つ者 残る者
悠真は一睡もできなかった。
相変わらず理由のわからない蒼真の言葉。
ずっと思い、考えてきた疑問の答え。
何より、海の向こう側の人と別れること。
また会うことはできるのか。
今回のことで国交が開かれれば機会はあるかもしれない。
それはいつの事だろうか。
思い立ったら、何もかもほったらかして行動してしまう。
自分の性格はわかっているつもりだ。
「俺も連れて行ってほしい。」
そう言えばいいだけの事。
皇国の事、大樹の街の事、瑞璃家の事。
全てを投げ出して、旅に出てしまえばいいだけの事。
でもさすがにそれは出来ない。それぐらいの常識は持ち合わせているつもりだ。
何より共和国側が「はいどうぞ」と簡単に受け入れてくれるとは思わない。
ここから隣街に行くのとは訳がちがう。
何百年と関わりの無かった、存在すら忘れかけていた相手なのに・・・。
「悠真様、どうかしたのですか?」
「おはよう春。なんか昨日寝れなくてさ」
「どうせ俺も行きたーい!とか思ってたら寝れなかったんでしょ?」
「・・・・」
「ダメですよ、勝手にあのおっきな船に忍び込んじゃ」
「あっ!その手が・・・」
「だからダメって言ってるでしょ!」
「はい・・・・」
春には隠し事は出来ない。
子供の頃からそうだ、こいつは俺の心を読む能力がある。
「言っときますけど、心を読む力なんてありませんよ」
「・・・・・・」
絶対嘘だ。
「悠真ぁ〜 おはようぉ」
「おはよう蒼真、朝から真面目な顔してどうした?」
「そう言う君は悩みすぎて寝不足のようだね」
「なんでわかるんだ!」
「悠真の偉大なる兄だからねぇ!」
「はいはい」
「んでだね、ちょと来てくれるかな、あ、功も一緒にきてぇ」
向かいの席で味噌汁をすすっていた功が目で(わかった)と合図する。
朝飯を胃にかき込んだ功が悠真の横に来た。
「何かしたっけ、俺たち・・・」
「さぁ、わからん。」
「朝から真面目な蒼真様なんて怖くて仕方ない・・・・」
「あ!あれじゃないか?三人とも酔っ払って悠真の頭のお団子に花刺したやつ」
「いつの話だよ!もう半月前の話だろ!」
「だって蒼真、根にもつ性格してるし」
「・・・・・それかな」
食堂を後に、蒼真が執務を行う部屋に向かう。
ドアを開けるとポピン、メティラが座っている。
ポピン達も真面目な顔つきで、二人を見つめた。
ポピン達がいると言うことは、花を刺したことで怒られる訳じゃないなと思いながらも、真面目な雰囲気ではあるのでちゃんとしよう。
「お待たせしました。」
「やぁ、まあ座ってよ。」
自分の机から、皆が座る方へ移動してきた蒼真が続ける。
「実は二人から悠真に話があるみたいでね。功も関係ない事ではないので、一緒に聞いてもらおうと思ってさ」
「はぁ・・・・で、お話とは?」
ポピンとメティラが頷きあい、何かを確認したようだ。
そしてメティラが話し出した。
「こちらに来て皆と話すうちに、二つの大陸で呼び方は違えど、そのものは同じだということがわかった。」
「猪はボア、トマトはトマッタだにょん」
「そして私達が一番興味を惹かれたのが(残響)と(レゾナス)が同じだろうと言うこと。」
「ああ、その話はしたな」
「猪退治の時、悠真は私の一撃がすごいと言ってくれた」
「もちろんだ、あんなすごい剣技は見たことがない。」
「パラディン級の攻撃だ。と簡単に説明した。」
「ああ、はっきり覚えているがパラディン級ってのがわからないから、ただ凄いものだと理解している。」
「我らの国ではより強い技を使えるようになれば、階級が上がっていく。」
「僕たちで言う一般、初級、中級みたいなものだと思うよ」
「パラディン級とは上から二番目の強さを表す。共和国三百万人中、五十人しかいない。」
「え、そんな凄かったの?メティラって!」
「まぁ、そう言ってもらえると嬉しいし、自負もあった。」
「あった?」
「あぁ、悠真のあの技を見るまではね。」
「天昇斬華のことか?あれはたまたま思いついた中級ぐらいの術だぞ?それがなんでだ?」
「いや・・・話が長くなるのでまたいずれ。率直に目的を言おう。」
「我々と一緒に共和国に来てくれないか?」
その言葉を聞いた時、大きく目を見開いた悠真の時間が止まった。
今なんて言った?一緒に来てくれって言ったのか?
そんな事があるのか?昨日散々悩んで押し込んだ気持ちを。
こう簡単に取り出してもいいのか?
・・・頭の中で高速に自分で自分に質問していた。
「悠真?」
我に帰った悠真は行っても良いのかと、慌てて蒼真を見る。
「 もちろん皇王や父上の許可が必要だよ、でも僕はいいと思うよ。」
「で、でもなんで俺なんかが?」
「悠真含め、皇国の皆さんは自分達の持つ力の凄さを、ご理解されていない。」
「??」
「理由は2つあります。 残響の事をもっと教えてほしい。もう一つは共和国の抱える問題の手助けをしてほしい。」
「自分たちの力・・・よくわかんないけど残響を教えるってのは出来そうだ。で、問題というのは?」
「悠真殿達がいう(悪霊)についての問題だ」
「ん?悪霊の問題?悪霊を祓うのを手伝ってと言うことか?」
「・・・・・簡単に言えばそうなる」
「・・・・・」
腕を前で組み、黙り込む悠真。
悪霊を祓うお手伝いをするだけで共和国に行けるのか?
本当かな・・・実は残響が気になるみたいだし、実験台にされたりするんじゃないか?
もしそうだとしたら監禁とかされて・・・
「悠真、どうした?」
「あ、いや何にも・・・・」
「なんだよ、お前なら即答で(行く!)って言うと思ったのに。」
功の言う通りだ。
何を訳のわからない事を考えてるんだ俺は。
この二人は信用できると思う。
そんな二人が頼んできた事だ。監禁なんて・・・・・
「い、行きたいけど・・・痛いこととかしない?」
「・・・・・・・」
『何を言ってるかわからない・・・・』
皆声を合わせてそう言った。
「功殿も良ければついでに来ていただければ助かるのだが・・・」
「ついでにってなんだよ!悠真が行くなら俺も行くよ!」
「ありがとうだにょん!二人とも!」
「じゃあ、そろそろ出発の準備をしようかみんな。」
◇◇◇◇◇◇
「なぁ功。ありがとうな、一緒に行くって言ってくれて。」
「なんだよ、気持ち悪い」
「昔っから、海の向こうに行きたい!って思ってたけど、いざそれが叶うってなったらちょっと怖くてさ。」
「ふん、何を言ってる。皇王様の帽子を取り上げて走り回ってたお前に何怖いものがあるんだよ」
「そうだけどさ」
「俺はここにいてもする事ないからな。家のことは兄貴達がいるし。俺はさっさとここを出て共和国に住んでやる!」
「なぁ功・・・・お前が皇国にいたく無いのは秋花の件だろ?」
悠真が笑いを堪えきれず吹き出して笑う!
功の顔が真っ赤になる!
「あぁ、そうだよ!!! 向こうに行く許可はどうせ降りるだろうし、お前はちゃんと春に声かけてから行けよ!」
「そうだな・・・・あいつには世話になったしな・・・・」
身支度を終え、レグナントを留めている草原に皆集まる。
今から皇都へ向かい、皇王と父上達に話をして共和国へ向かう許可をもらう。
許可が降りれば明日の昼に帰る共和国側の人達とエルディア号で出発する予定だ。
「じゃぁ、行ってくるから、留守番よろしくね。僕は父上達と遅くても明後日には帰るから」
春の顔がみるみる暗くなっていく。
みんなんが乗り込み、レグナントに青白い光が灯り出す。
最後になった悠真が春の元に歩む。
「絶対こうなるって思ってた・・・・」
「・・・・・」
「猪退治の夜、ポピン様達と蒼真様が部屋で話し込んでいるのが聞こえちゃったの」
「・・・・・」
「悠真様を連れて行きたいって・・・・」
「・・・・・」
「悠真様!私も一緒に行きたいです!」
春が悠真の胸に飛びつく。
「春・・・・・」
「嫌です・・・」
「春っ・・・・」
「嫌です・・・!」
「春・・・わがまま言う――」
「嫌!私はずっと悠真のそばにいたいのっ!」
「・・・・」
悠真はそっと春を抱きしめた。
「お前は瑞璃家のとても大切な家族だ・・・」
「・・・・・・」
「俺がいなくても、父上や母上、ついででいいから、蒼真の事をよろしくな」
春は号泣する。声をあげて悠真の胸に顔を押し付ける。
悠真は強く春を抱きしめた。
数秒、数分か・・・・春は抱きしめられていた体を離した。
しばらく下を向いたまま沈黙し、パッと顔を上げた。
「行ってらっしゃいませ! 悠真様!」
涙を流したまま、気丈に笑顔を悠真に向けて送り出した。
◇◇◇◇◇◇
あっという間に皇宮に到着する。
そのまま会議室のような場所に向かい皇王、上級継承三家の長たち、共和国側の高官にポピンが説明する。
「理由はわかった。しかしそちらの悪霊は危険ではないのか?」
皇王の質問は至極当然だ。危険な場所へ国民を送りたいなど思わない。
「先日の猪退治の際、悠真殿がおっしゃるものが悪霊だと言うなら、それ以上のものはまだ見たことがございません。」
「悠真よ、大丈夫なのか?」
「皇王様、メティラ殿が言う通りであれば、悪霊が出たとしても問題はないかと。」
「功も一緒に行くのだな?」
「はい、大丈夫と言えど、見知らぬ地。悠真だけでは不安になるかと考えます。」
「そうじゃな。長達はそれで構わないか? 国命を出す前に聞いておく。我が子を送り出しても良いのか?」
「不安は勿論ございますが、共和国側の方々が一緒に行動していただけるのであれば、修行の一環としてお役に立てれば。」
悠真達の父である瑞璃 秀真が答え、続けて功の父親も言う。
「同じく、三男と言えど瑞石家の血を引くもの。修行として共和国のお役に立てれば。」
「わかった。では国命として。」
瑞璃家 瑞璃 悠真
瑞石家 瑞石 功
そなたら二名をアルスティア共和国への
第一次使節団同行を命ずる
「承りました。」
皇王より正式な命令として共和国行きが許可された瞬間だ。
「やったな!功!」
「うん・・・・いやしかしな・・・」
「どうした?」
「いや・・・なんでもない。」
明日帰る共和国使節団と宴が開催された。
皆遅くまで飲み明かし、出発の朝を迎えた。
「いやぁ、ここはレゾナスが濃いせいか、レゾナイトの充填が早いにょん!」
「そうなのか?どれぐらい早いのだ?」
「そうだなぁ、アルスティアで一週間かかるのが四日で十分だにょ!」
「それはすごいな・・・」
「でしょぉ!だからさ、レゾナイトをもっと積んできてこっちで充填してにょ・・・・」
「なるほど、そうすればオスリア号が完成し・・・・」
ポピンとラティスがよくわからない事を話していた。
しかし・・・・大きい。こんな大きなものが空を飛ぶなんて。
「悠真ぁ!エルディア号の感想は?」
「感想も何も、凄すぎて何も出てこないよポピン」
「そかそか! 簡単に説明すると全長150m、全幅20m、全高15m!」
「なんか・・・すごいのはわかった・・・」
「にょん・・・・」
「ともかく、初めて乗せてもらった船の超でっかいのって事だな!」
「悠真・・・そうだけど・・技術者泣かせな言葉だにょ・・・・」
「なんか・・・・ごめん」
「あ、悠真達が少しはわかりそうな物を見せるにょ!こっちにくるにょ!」
巨大なエルディア号の中をどんどん進むポピン。
とても嬉しそうな顔をしている。
しかし、これ一人で歩いてたら絶対迷子になるな。船の中なのに・・。
「ついたよ!」
全面ガラスで覆われた巨大な空間の真ん中に、大きな石が浮かんでいる。
うっすら蒼白く光っているものは紛れもないあれだった。
「これ・・・・神霊石?」
「そうだにょん!私たちで言う(レゾナイト)だにょ!大きいでしょ!?」
「大きいってもんじゃないぞ・・・こんな神霊石あるんだ・・・。」
「ないから作ったにょん!」
「作った!?神霊石を?作れるの?」
「作れちゃったにょん!私はレゾナイトとは何なのか?を研究したにょ」
「ほうほう!」
悠真も功も興味津々である!
「ポピン先生!出航の準備が整いました!」
「あ、わかったにょん! 悠真、功。また今度にゃ!」
「先生・・・・・?」
皇王が先で言ったように、悠真と功は使節団として共和国へ向かう。
実は共和国との交流を始めるにあたり、順番に使節団を送ることが決まったそうだ。
皇国には船がないので、共和国側に輸送をお願いする事となり、今後は定期的に船を飛ばすことになった。
今回は皇国側の大臣や研究者など約五十名が一緒にエルディア号に乗って共和国へ向かう。
共和国側もまだ片道のみ。皇国側は初めて、神巫海を今から渡るのだ。
古文書にある『沖へ出れば嵐に・・・・』が心配だ。
館内に声が響く。
「船員連絡 出航準備完了。二分後に機関作動、各自最終出航準備に入れ」
「各機関問題なし! 出航!」
巨大な船体に初めて乗った船と同じように、所々に蒼白い光の線が走り出す。
前方の大きな窓の向こうに これまた巨大な術印が浮かび上がる。
ゆっくりと上昇し、進路を西へ向ける。
進み出したエルディア号の甲板に出て、遠ざかっていく皇国を見た。
そして海しか見えない進行方向に体を向けた。
「いよいよだ!海の向こう側にある物に出会える!」
功がやってきて横に立つ。
二人で心地よい風を受けながら、まだ見ぬ世界への期待を膨らませる!
「ところで悠真さ・・・・」
「何だよ功! 楽しみだな!」
「うん、いやまぁそうなんだけどね・・・」
「どうした?皇王様に許可もらった時から変だぞ?怖気付いたか?」
「いやぁ、お前さ」
「?」
「帰ったら覚悟しといたほうがいいぞ」
「?」
一方、皇国の瑞璃家では・・・・
「みんなただいまぁ〜」
「おかえりなさいませ、秀真様、蒼真様」
「みんな、長い間留守にして悪かったな。共和国からの土産をもらってきたから皆で分けると良い。」
「ありがとうございます、秀真様。」
「おお、春。 今日は私は休むから、お前の父にも伝えてくれるか。」
「かしこまりました。」
春はいつも通り、侍女頭の職務をこなしている。
どこか寂し気な春を見て蒼真は悪いことをしてしまったと責任を感じていた。
悠真と春は九歳の歳の差はあるが、小さい頃よりよく悠真が春の相手をして過ごしていた。
いつの頃からか芽生えた春の悠真への気持ちにも気付いていた。
(鈍感な悠真は気付いていないようだが・・・・)
蒼真は春を呼んだ。
「どうされました?」
「はいこれ。預かってきたよ」
「何ですか?手紙ですか?」
ーー春へ
七日したら戻る予定だから、その日は猪の丸焼き
か、もけもけ鳥の丸焼きが食べたい!
準備よろしく 頼りになる侍女頭殿
悠真ーー
「じゃ、僕ももう寝るねぇ・・・・・おやすみぃ」
「・・・・・・・」
はあぁっ!?
あの言い方と態度はもう帰ってこないみたいな
雰囲気だったじゃねぇかよ!
七日で戻るだあぁ!?
丸焼き用意しとけだあぁ!?
悠真絶対許さねぇ!!!
春の目には涙が流れていたが、数時間前とは違う涙だった。
「絶対!次は私も行くっ!!」




