第十話『アルスティア』
共和国へ向けて進むエルディア号に揺られて、もう二時間は経たったであろう頃、航海の為に指示や調整をしていたと、ポピンとラティスがやって来た。
「お疲れ様、ポピン、ラティス。」
「うんうん!悠真も功も船酔いとかしてないにょ?」
「あぁ、大丈夫だ。 共和国までどれぐらいかかるんだ?」
「もう直ぐ中間地点と言った所です、悠真殿。」
「!」
「どうされた?」
「て事は・・・五時間あれば着くって事か!?」
「うまく行けば・・・にょん。でも悠真達の感覚で考えたらダメだよにょ。」
「と言うと?」
「エルディア号は早いからそれぐらいで着く予定だけど、悠真達の馬車で考えたら二週間ぐらいかかる距離にょん!」
「しかもまだ嵐が来てないのだ。嵐に入ると速度を落として進むのだ。」
エルディア号は時速100kmを最高速度としている。
悠真の考えた通り、真っ直ぐ何もなく突き進めば五時間程で着く距離(約500km)に共和国はあった。
しかし、今から言伝え通り神巫海には沖にでれば人々を拒む嵐が待っているのだ。その暴風雨、竜巻などを避けながら航行するため、はっきりとした時間は言えない。
「そんなに早く動いてるのか!?この巨大な船は・・・」
悠真と功は驚きを隠せない。
本当にこんな凄い物を、目の前にいる(にょんにょん)言ってる女の子が作ったのか??
「ポピンって・・・本当に凄いんだな」
「にょ!わかればよろしぃ!」
「ポピンは共和国に2人しか居ない【天機師】の称号をもった国家特別技師団の団長でもあるのだ。階級で言えば私より上だ。」
「・・・・・天機師と言うのは?」
「レグナントのような術式機関開発、設計、色々な研究を扱う最高位技師の事だ。」
「ポピン様!これまでのご無礼お許しくださぃ」
「やめてやめて!私は別にこんな肩書きなんていらないにょん!ただ作ったり調べたりするのが好きなだけにょん!だから今まで通りでいいにょん!それに・・・」
「?」
「こうやって友達みたいに話してくれるの、今までラティスしかいなかったから・・・嬉しいんだょ・・・」
【ポピン オスリア】 19歳 女性
幼き頃より父の影響で機械と共に過ごしてきた。
17歳の頃にエルディア号の核となる人工レゾナイトの開発に成功、エルディア号の設計も自ら行い世界を変えた超天才技師である。
「ポピン先生!前方1kmに嵐の兆候ありです。」
「わかった!すぐにいきます。船長には前回と同じように速度を落とし出来るだけ影響の少ない航路を選んでと伝えてください!」
「はっ!」
ポピンが(にょん)を言わない時もあるんだな・・・
「さぁ、悠真殿達もしっかり捕まれる場所に移動しよう。かなり揺れるからな。」
柔らかな座り心地で体を固定するベルトがついた椅子にみんなが腰かける。窓から見える景色は先程までとは違ってどんより薄暗く、雨風も強くなってきた。
エルディア号の蒼白い光が強さをます。 船体を包むように術印が現れた。
「なあ功。あの術印って防御印だよな?」
「そうだよな、皇宮の瓦屋根の印とそっくりだ。」
「なんか不思議だな、海の向こうは全く知らない世界のはずなのに、いざ足を踏み入れれば、よく似たものばかりで・・・」
「俺もそう思っていたよ。でもさ、俺たちって全然進化してないんじゃないか?」
「どう言う事だ?」
「だってよ、術印やレゾナスアーツだったか?この2つはまだ俺達の残響術と似たり寄ったりだけどよ。」
「あぁ、それは同じだな。」
「俺達は移動も未だ馬に引っ張らせる木の箱だぜ?」
「・・・・」
「こんな鋼鉄で出来た船だとか、メティラ殿や騎士団がつけている防具だとか、何より自分達で神霊石を作ったんだぞ?」
「・・・・」
「共和国からしたら、御伽話の世界に迷い込んだと思ってるじゃないか?本心は。」
功が言った事は間違っていない。
皇国は何百年と変わらない姿がほとんどだ。
俺が持っている刀にしても代々受け継がれてきた一振りだ。
古き良き時代の宝。もはや皇国自体が骨董品なのではないか。
たった数人の、ごくごく一部の共和国の人、物を見ただけなのにそう思えてしまう。向こうに着いたら俺達は過去からきた人間になってしまうのではないか・・・そんな不安がよぎった。
ゴオォオン
エルディア号が大きな音を響かす。
嵐の中に突入したのだ。
激しい暴風雨と、所々に渦を巻いて舞い上がる海水。
その中を左右に移動しながら前へ進んで行く。
竜巻が防御の術印(結界)に触れ,激しく蒼い光を発している。
この中を普通に海の上を渡る事など不可能だ。
(神はどうしてこんなにも人間達ちを引き離したのか・・・)
悠真はふっとそんな事を思った。
エルディア号は続けて大きな音を響かせながら左右に、時には上下に船体を動かして一時間程で抜ける事ができた。
船内からは乗員、乗客の歓喜が聞こえる。あの嵐の中を往復したのだ、乗員達のいやポピンの達成感は最高潮になっていた。
「やったにょん!これでこの子の実用性を証明できたにょん!」
「おめでとう、ポピン。私も嬉しいよ」
「色々な記録も取れたし、まだまだ研究にょん!」
「あぁ、手伝える事があったらなんでも言ってくれ」
ポピンとラティスは硬い握手を交わしていた。
「さぁ!悠真殿に功殿!あとは真っ直ぐ飛ぶだけだにょ!いよいよ見えてくるよ、悠真が見たかった景色がっ!」
「すごいよ、ポピン!君がつくったこの船のおかげた!」
「にょおぉ〜」
「向こうに着いたらまずアルスティア城へ入ってもらい、アルスティア国王と謁見してもらう事になると思う。」
「あぁ!問題ない!」
「他の使節団の方々と違って、お二人は私達の特別招待客として行動を皆さんと分ける事になるが」
「それも問題ないが・・・」
「どうかしたのか?嫌だったか?」
「いゃ、痛い事はしないよな?」
「あははは、まだ仰るか!する訳がない!」
「ラティス殿も笑うんだな」
「悠真、気付いてないなら言っとくけど、ラティスは皇国に着いてから今も、ずっと猫を被ってるにょん!?」
「?」
「なんかお高く気取っちゃってるけど、ラティスもめちゃくちゃ強いただの変態なにょん!!」
「・・・・・」
「なっ・・・! ポ、ポピンっ!!」
ラティスの顔が真っ赤になり、明らかに焦っていた。
悠真も功もなぜか安心した。
「なぁラティス殿、いいじゃないかょ!俺は堅苦しいのは大嫌いだし、それにラティス殿の事はあの猪退治の強さを見てから尊敬している。もしよかったら互いの立場なんかは忘れて、友として接してくれないか?」
功も横で目を瞑り腕を組み、(うんうん)と頷いている。
「いぃのか、悠真殿・・・?」
「勿論だ!これから国交を開いていく国と国の、お友達第一号になろうぜっ!」
「悠真殿!ありがとう!」
「それから、殿なんていらねーよ、悠真、功!でいいよ」
「俺もそうだ、それで良いと思うぞ!」
「で、では私の事も(ラティ)と呼んでくれ」
「わかった、ラティ!これからよろしくなっ!ポピンもっ!」
そう言って悠真は拳を前に突き出した。
ポピン、ラティと悠真、功。
みんなは笑顔でその拳に自分たちの拳をぶつけた。
「よかったね、ラティ!」
「船員連絡 着陸準備〜 総員持ち場確認〜」
「さぁさぁ!みんな甲板にでるにょん!」
ポピンに促されて、外に出る。
心地よい風が吹く空の向こうには、開けた大地の中に周りを壁で囲まれた巨大な都市があった。
綺麗に区切られて立ち並ぶ沢山の家々。
一本の運河と無数に枝分かれした水路。
奥にある巨大な円錐屋根の建造物。
広大な敷地に留まる数機のレグナント。
その都市の後ろにそびえ立つ山々。
見た事のなかった世界が目の前にある。
見たかった世界に手が届いた。
ラティが笑顔を向けて言った。
「ようこそ、アルスティアへ」
◇◇◇◇◇『ラティの日記』◇◇◇◇◇
◯月×日
今日はなんとポピン以外の友達ができた!
お互いを名前で呼び合う関係だ!
こんなのは初めてだ、嬉しくて剣を振り回したいぐらいだ!
ポピンには変態とか言われけど、それを言うならあいつも私以上の超変態のくせに! でもポピンがいたから友達と出会えたのかな。そう考えるとやはりポピンは大切な友達だな。
悠真と功は瑞穂皇国の人間! 初めて行った場所で友達ができるなんて! しかも悠真のつかう神響術と言うものは綺麗で、鮮やかで、かっこいぃんだぁ・・・明日もいっぱい話そうっと!そしてアルスティアに着いて時間がとれたら、絶対にお姉様達に自慢しよう!




