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神々の残響  作者: 蒼凪 悠
フェルナ国編

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第七十七話 守りの人骨

「俺は一緒に入らなくてもいいんですかい?」

「あぁ、ここで十分だ。もし丸一日経っても俺が出てこなければ、ガンツさんに知らせてくれるか?」

「わかった、任してくれ。じゃあ俺はここで待たせてもらうよ」


洞窟近くにレグナントを留めて、ここまで操縦してきてくれたシーカーの男に頼む悠真(ゆうま)。

男の力量がわからないので、もし穢人(けがれびと)がでたり、黒の神霊石がある可能性を考えると、とても一緒に来てくれとは言えなかった。

洞窟は、ガンツの言った通り国境にある山々の中で、一番標高の高い山の中腹にあった。

周りは崖で、登山で人が辿り着くには相当な危険を冒(おか)さないと来られないであろう場所だった。

今は、入り口の前にある僅かな平地に留めることができる、小型のレグナントが開発されたおかげでその危険を冒す必要はない。

誰が作ったのか謎の洞窟は、見つかるのを嫌がるかのように入り口も岩で塞がれていたらしい。


「よく見つけたこんな場所…コン出てきていいぞ」

「きゅっ!」


一人で洞窟内へ入った悠真は、無の神霊石の中で眠っていたコンを呼び出した。

真っ暗な中をランタンで照らしながら、ガンツからもらった調査地図を頼りに進むが、今のところ嫌な気配はしない。

ジメジメとした内部にいるのはせいぜい三百本足ムカデぐらいだった。

奥に進むにつれて、暗闇は深くなっていく。悠真はランタンをやめ、神響術(しんきょうじゅつ)【無暗(むあん)】を発動して内部を明るく照らした。


「コン、何かあったら教えてくれよ」

「きゅ」


一人と一匹で進む洞窟内、入ってすぐの開けた場所から細道を100メートルほど進んだところで、直径20メートルほどの円形に広がる透き通った泉に出た。次の広間へはこの泉の縁を進まなければならないが、どうやっても濡れることになるのが嫌な悠真だった。


「コン、お前泳げるよな」

「きゅ!」

「すまんすまん、確認しただけだ」

「きゅ!きゅきゅきゅ!きゅっ!」

「そんなに怒らなくてもいいじゃないか…」

「きゅっ!きゅ!」

「お前…なんか最近春みたいになってきたな…」

「きゅっ!?きゅうぅ…」

「あははは、あんなにわがままじゃないって、聞かれても知らないぞ」

「きゅきゅ!」

「わかったよ、内緒にしとくよ」


結構な深さがある泉に悠真が入ろうとした時、底の方に何かが見えた。

無暗の光量を上げて底を見直した悠真は、ため息をついて上着を脱ぎ出した。


「コン、お前潜れるか?」

「きゅぅぅ…」

「だよな。あの底にあるのって…祠じゃないか」

「きゅ……きゅきゅっ!」

「はあっ…ちょっと潜ってくるわ」

「きゅっ」


深さは5、6メートルはある泉に潜り、祠を確認する悠真。

石造りの小さなそれは、水面から覗いただけでは、ただの石にしか見えないような作りだった。

外のように明るい光を発する神響術だからこそか、天照の子だからなのか、何百年ぶりかに人に見つけられた祠は喜んでいるように感じた。


(どちらさんか、神様はいらっしゃるんで?)


心の中で祠に向かって声をかけるが、なんの反応もない。春がいないと無理かと思いながら、息を吸いに浮き上がった悠真は再び潜った。

もう一度祠を見てみるが、神霊石のような物は祠の中にも周りにもなかった。


(一体なんの祠なんだ…この刻まれた模様…蛇か?)


これ以上は何もないと諦めた悠真は奥へと続く道へ上がる。コンもすでに移動していた。

焔(ほむら)を使ってしばらく体を温める悠真は、祠に刻まれた模様が気になっていた。


「コン、あの祠に蛇のような模様が刻まれていたんだ。何か知らないか?」

「きゅ、きゅきゅきゅ」

「いや、しろじゃない。しろとは似ても似つかない蛇…たくさんの蛇が刻まれて…」

「きゅ」

「龍神じゃないかって?流石に龍と蛇は間違わねぇよ」

「きゅっ!きゅっきゅ!」

「うるさいな、春みたいなこと言うなって!」

「きゅきゅきゅきゅ!」


悠真のことだから、龍も蛇もみみずも一緒に見えるんじゃないかとコンに言われた悠真は膨れていた。

トウはまだしも、コンまで本当に春のようになってきたのが、最近の不安要素の一つだった。


「さぁ、結構乾いたし、奥へ進むか」

「きゅ」


次の広間にも変わった様子はなかったのでそのまま進み、調査地図にある最後の広間に着いた。

少し違和感を覚える悠真。理由は洞窟の中によく書かれている結界印(けっかいいん)が、今通ってきたどの広間より多く記されているからだった。

他の違いと言えば、シーカーが見つけた紙切れが入っていたであろう木箱が数個置かれているぐらいだ。

とりあえず悠真は木箱を見てみるが、もう何も見当たらず、広間を見回した。


「なんか…なんか感じるんだけどな…コンはどうだ?」

「きゅうぅ…きゅう」

「あぁ、そうなんだよ。まだ何かある気がしてならない」

「きゅ、きゅきゅきゅ」

「そうだな、功ほど精度はないがやってみるか」


  ――神々の残響よ 

    我が眼となりて隠れしものを映したまえ――


    神響術【索(さく)】


集中して残響の流れを感じ取ろうとする悠真。コンは頭の上に乗って補助する。

広間の壁際に沿って歩きながら、何か変化はないかと探していた時、明らかに空洞らしき場所を見つけた。

「このあたりだな…何か違う…」


悠真は壁に記された無数の結界印を見つめ、その理由に気付いた。


「無意味な結界印は、これを隠すためか…コン、いくぞ」

「きゅ!」


一つだけ、他の結界印とは違うものが書かれていた。それは素人や共和国の人間には違いがわからないであろうものだった。

ほとんど同じ書き方をされているが、文字が数箇所だけ違うのだ。そしてその意味は封印だった。

悠真は封印を書き換え、解除した。赤く光った印は消えてなくなり、壁が崩れ落ちた。


「見つけた。さぁ、何が待っているのやら」


さらに奥へ続く細道に入った時に感じたのは、やけに冷たく、重い気配。

しかし、穢人や夜過神達のような、禍々しい気配ではなかったが、何かが待っていることに間違いはなさそうだった。

そして弧を描いて進んだ細道の先に待っていたのは、棺(ひつぎ)のような木箱の前に立つ二体の人骨だった。

その人骨の服装からして、かなり昔の戦士か何かだと悠真は思った。

それほどに身につけた防具は重厚で、人骨自体もかなり巨大なものだったのだ。

しばらく様子を見たが、一向に動かない人骨に少しずつ近づく悠真。そしてそれぞれの間合いに入った瞬間、人骨が光った。

咄嗟に天霞(あまかすみ)を抜き身構える悠真に、人骨二体はゆっくりと腰につけた刀を抜き向かってきた。


「おいおい…二体同時は流石にやばいんじゃないか?どうする…」

「きゅうぅぅぅ…」


考える暇もなく斬りかかってきた人骨。一撃が重く、防ぐのがやっとの悠真。コンと連携して攻撃を仕掛けるも全く効いていない。

なんとか二体の攻撃を防ぎながら、一歩ずつ下がり細道へ入ることができた。


「へっ!ここなら一度にかかってこられるほど広くはないだろう!」

「きゅっ!」


しかし期待はすぐに消える。広間から出た途端に人骨は元の位置へ戻ったのだ。

そして体から光を発したまま、木箱の前で悠真を警戒している。


「なんだよ…どれだけその木箱が大事ってんだよ…どうしたもんかな」

「きゅきゅ!」

「なんだよ、そんなこと言っても春がいなけりゃ俺は天照様の加護なんて発動できないぞ!春がいてもできるかどうか…」

「きゅ!」

「うっせぇ、どうせ鍛錬が足りませんよ!」

「…きゅ」

「とりあえずさっきの泉に戻ろう。喉が渇いた」

「きゅっ」


透き通った水の泉に戻り、腰をおろした悠真。洞窟に入ってからもう三時間ほどたっただろうか。

全く歯が立たない人骨との一戦で、わずか数時間だというのに疲労を感じていた。

水面に映る自分の顔をぼんやりと見つめながら、どうしたものか考えるが対策が思い浮かばない。

一旦戻って皆の力を借りることも可能だが、なぜか自分でなんとかしなければと感じていた。

それは普段から、鍛錬をしろと言われたり、皆が忙しいからではなく、魂がそう言っている気がするのだ。


「コン、ここの水飲んでも大丈夫だよな」

「キュ!」


コンは大丈夫だと言うように、先に水を飲み始めた。

それを見た悠真も手で水を掬(すく)い、数回飲んだ。


「うまいな…こんなに水がうまいと思ったのは初めてだ…体も軽くなった気がする…」

「きゅ!きゅきゅっ!」

「そうなのか!?なぜわかるんだ?」

「きゅ!きゅっきゅっ!きゅうぅぅ」

「確かに…お前は神獣だったな…あまりに愛玩動物のようで忘れていたよ…」

「きゅ!!」


ポコッ!


「痛っ!…くないけど悪い悪い。でもお前そんな所まで春そっくりになってるぞ」

「きゅ…」


コンが言うには、この水は癒し効果があり、飲めば疲労と簡単な傷なら癒してくれるそうだ。

神獣としての知識を披露したコンは胸を張っていた。


「さて、ずっとここで休んでいても進まない。もう一度人骨さんと戦ってみるか」

「きゅ」

「しかし、この中の祠はなんのためにあるんだろうな。さっきの人骨と一緒で、あの木箱を守るためかな」

「きゅ」

「そうだろうって言ってもさ、水の中に沈んじまってるぞ」

「きゅぅ…」


悠真は再び人骨が守る木箱の部屋へ向かい、戦闘を仕掛ける。

しかし結果は変わらず、今回は右肩へ一撃を喰らってしまい、なんとか泉へ戻ってきた。

水を飲み、体を癒しながら、どうにもならない悔しさでいっぱいになる悠真。

これほど人骨二体を相手にどうにもならないものかと、また水面に映る自分の顔を見つめていた。

体の具合が戻ったのを確認して、もう一度行ってみようと決めた時、泉の底から気泡が噴き出し、水面で弾けた。


「なんだ?何かしたのかコン?」

「きゅ?」


まだ気泡を噴き出している祠を覗き込む悠真とコン。

一際大きな気泡が祠から噴き出して弾けたとき、悠真は気を失った。

しばらくして開いた目に映った光景は、何もない、真っ赤な空間だった。


「ここは……」

「よぅ…お前が姉者(あねじゃ)の魂の子、悠真だな?」


声だけが聞こえる空間…ポピン達が言っていた神との繋がりの場所…

悠真は聞き覚えのない声に戸惑った。


□□□□□ラティの日記□□□□□

◯月×日


今日は公務が忙しい…

議会の後は剣術大会の優勝楯の授与

その次は城に戻って

皇国からこられた研究者たちとの食事会…

春も同じだ…

今回は完全に出番がなかったな


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