第七十三話 丘の上
「あれ、ユズハは?」
「あれから本当に痩せ薬を作ってるんだって」
「そんな薬が発明されたら、世の中の女性は大喜びだな」
「私ももらうにょ」
「私は昨日走り込んだから、もう大丈夫だ!」
食べ過ぎ体重増加事件から一夜明け、ユズハ以外は朝食をとっていた。
「まぁそれはともかく、おじいちゃんに巡礼碑とか祠の場所知らないか聞いてみたにょ」
「それでどうだったの?」
「エルシアには無いけど、スティーシアへ行く道沿いにあるって言ってるにょ。でも有名な巡礼碑にょ」
「有名?なら早速行こうか」
「ダメよ!」
「なんでだよ」
「まだ痩せ薬出来上がってないもの!」
「…早くユズハを呼んできてくれ」
エリーテレル国は首都があるテレルシア、ポピンの故郷エルシア、そして一番南にあるスティーシアの三つの街がある。
エルシアからスティーシアへの道は四本あり、悠真たちが目指しているのは一番南にある道だった。
運動のためだと女性陣は歩きを選び、巻き添えの功は面倒くさそうだった。
「どうしたんだユズハ、痩せ薬ができなくてショックですって顔か?」
「違うよ功、ちょっと別の事で考えてるのよ」
「薬ができなくて残念だったな春」
「なんでお腹見て言ったの悠真!?」
「いや別に…で、ポピン、この道は何か特別な道なのか?」
「神殿を巡る道にょ」
「神殿を巡る?」
「道はセレノス街道と呼ばれ、各国の神殿を巡礼しやすいように整備された街道なのだ」
「なるほど、私たちでいう神詣のための神陽古道だね」
「神陽古道は逆に歩きにくいけどな…」
春に頬をつねられたまま、涙目の悠真が不思議に思う。
「そんな道があるなら、もっと巡礼碑なんかがあってもいいのにな」
「そうにょ、私も思ったにょ」
ジェポルを含めポピンの両親や近所の人たちも、巡礼碑や祠を知らないかという質問に対しての返事は、決まって同じ場所だった。
悠真の頬をつねったまま、春も話に加わる。
「その巡礼碑のある場所は何かあるの?」
「何かとは?」
「だって巡礼碑も祠も、何か神聖な場所だから建てたんじゃなかった?」
「確かにそうにょ。その巡礼碑はスティーシア神殿の建築に使われた石を切り出した山があったって言ってたにょ」
「なるほど、神殿建設用の石なら特別なのかもな」
「ただ、お姉様が調べてくれた巡礼碑にこの場所も含まれている。残念ながらと言うべきか、特に危なそうなものは無かったようなのだ」
門から外へ出ると、賑やかな街とは違って静かで綺麗に石が敷かれ、街灯が設置されている。
神殿巡りをする観光客や住人も快適に移動できるようになっていた。
一時間ほど進むと目的のものが見えてきた。
「あれにょ」
3メートルほどの八角形の石造りで、中央に文字が刻まれている。
――神殿建設 採掘場跡――
その巡礼碑の後ろが、多くの石が切り出された採掘場跡だった。
石を取り尽くされた山は低い丘のようになり、観光地によくあるように周りを柵で囲まれている。
「特に変わった様子はないな」
「ただの丘じゃねぇか、ここのどこが神聖な場所なんだ?」
「また功はそんなこと言う!」
「だがな春、何にもないじゃないかよ」
「ブツブツいう前に術を発動して調べてみるとかしなさい!」
「わかったよ…お前の嫁さん怖いんだよ…」
「だろ…」
「あぁ?」
功はすぐさま春から距離を取り、丘へ向かって神響術の策を発動した。
ポピンもはくを呼び、神との繋がりを発動させ丘を調べる。
「どうだ?」
「特に何もねぇな…」
「うん…なんの反応もないにょ」
「じゃぁここは騎士団の調査通り問題なしってことか…」
「せっかく来たんだし、丘を一周するにょ!丘の反対側には休憩所があって、そこのチーズ焼きが美味しいらしいにょ!」
「また食べ物の話か…」
観光用に、柵周りの道は木道として整備されている。
女性陣の頭の中はすでにチーズ焼きの事しかなかった。
「ただの観光じゃねぇかっ!」
「うるさいにょ功。それ以上声出したら奢らすにょ」
「なんだよ!」
木道を進み、ちょうど巡礼碑の反対側の位置に小さなお店と休憩場所があった。
そこにお目当てのチーズ焼きが販売され、丘を眺めながら食すことができるようになっている。
「チーズ焼き六個!じゃなくて十個くださいにょ!」
「はぁい、ちょっと座って待っててください」
「わかったにょ」
「十個って、六人しかいねぇぞ…」
「何を言ってる功。私と春とユズハとメティは二個ずつにょ!」
「二個で足りるかなぁ…」
「私も同意見だ…」
「美味しそうねぇ…私も足りるかしら…」
「ダイエットはどこいったんだよ」
「悠真…そんなものは必要ないにょ」
「そうよ、美味しいものがあるなら食べるべし!」
「私も同意見だ!」
「帰ったら本気で痩せ薬の研究するわぁ」
呆れた悠真は出来立てのチーズ焼きを頬張りながら丘を眺めた。
酸味のきいたタレをぬった粉焼きの上にチーズをのせて焼き上げるおやつ。
トロトロになって伸びるチーズが皆のお腹を幸せにしていく。
「あ、美味しいなこれ」
「でしょ!?もう一つ食べる?」
「いや、いらない」
「なんでよ!ついでにもう一個買おうと思ったのに!」
「まぁ、買いに行くならお願いしようか」
悠真は春のお腹の肉を掴みながら言った。
ドゴォ!
鼻血を出しながら二つ目のチーズ焼きを食べている悠真は、時間が止まったようにじっとしているユズハに気付く。
ユズハは100メートルほど先に見える丘の天辺を見つめていた。
「どうしたのだユズハ?チーズ焼きは苦手だったか?」
「ううん、美味しいよメティ。ちょっと気になった事があってね」
「どうしたんだ?」
「悠真、この丘の天辺に登れないのかな…」
「何か理由でもあるのか?」
「草原の丘だから、薬草を探したいにょ?」
「ある意味そうかもね…あの天辺に生えている草が気になってね」
どこにいても、薬草を見つけると大はしゃぎで変態モードになるユズハがおとなしい。
悠真は、真面目な顔つきで話すユズハの勘を信じたいが、柵に囲まれた場所であるため勝手に入るのもまずいと思い、どこかに警備員や騎士団がいないかキョロキョロと探していた。
「セス、おいで」
「キュル!」
「セス、丘の天辺にある草を見てきて欲しいの」
「キュルルッ!」
「よろしくね、あなたならわかると思うけど…絶対触っちゃだめよ」
「なるほど、その手があったか…そんなに特別な薬草でも生えているのか?」
「まだ確定ではないけどね…」
その言葉を聞いた皆は気を引き締めた。
そして数分後、戻ってきたセスは慌てているように見えた。
「キュル!キュルルル!キュル!」
「そう…やっぱり…ありがとうセス。チャコ、今度はあなたが地中の様子を見てきてくれる?」
「…」
無言のチャコは鼻を数回ヒクヒクさせてから土に潜った。
セスを抱き抱えながら皆の方を向いたユズハが、険しい顔で皆に言う。
「あの山頂の植物…黒カブト草だった…」
「黒カブト草って、あの黒い痣の原因だって言ってたやつか!?」
「そうよ悠真、猛毒」
「だったら早く処分しないといけないな!?」
「そうね、それがいいと思う…でも問題はそこじゃないの」
「どういうことだ?」
「悠真…黒カブト草はこんな所に生えたりしない。洞窟の奥とかに一株単位で生えてるものなの」
「…」
「なのに、こんな日の当たる場所に密集して生えている……異常なことなのよ…」
その場所には誰も入ることができないため事故が起こっていない。
しかしなぜ、そこに大量の危険な猛毒草が生えているのか…
「誰かが繁殖させたの!?」
「可能性はある…しかし春、さわれば即死だとユズハは言っている」
「そっか…」
「ええ、即死に間違いない…でも」
「でも?」
「最近、痣があるのに生きていた男も見たでしょ?」
「…神殿で対峙した痣と紋章の男…」
「可能性はあるかもね…」
□□□□□ラティの日記□□□□□
◯月×日
黒カブト草…
恐ろしい植物だな
ユズハが言うに、さわれば確実に死んでしまうため
どんな症状が出るかすらわかっていないらしい。
痣ができること以外わかっていない植物
怖い…




