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神々の残響  作者: 蒼凪 悠
フェルナ国編

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第七十話 あの痣

「ごめんなさいねぇ…あの三人、研究や発明の事になると前しか見えなくて…」

「でもレグナントを作るくらいの天才なのだから、仕方ないのかもしれないな」

「レグナントを考えたのは義父(おとうさん)なんです、でも飛ばす方法がわからない…それでポピンは勉強したんですよ」

「そうだったんですか…」

「親バカですけど…それはすごかったですよ。五歳の時からほぼ毎日十六時間近く、本と向き合っていましたから――」



「かあしゃん!これなんて読むの?」

「どれ?…これは輝く石って書いてるのよ。不思議な力があるんだって」

「不思議な力?どんなの!どんなの!?」

「お空に浮かんで太陽に飛んでいくんだって」

「太陽?」

「あの眩しくてあったかくてお空で光ってるものよ」

「ふーん。石はどうして浮かんだの?」

「さぁ、わかんない。そんな石あったらすごいね」

「この石あったら、じいちゃんのお船飛べるね!」

「そうね、きっと飛べるでしょうね」

「かあしゃんは石、見たことある?」

「ないわねぇ」

「とうしゃんは?」

「お父さんもおじいちゃんも見たことないわよきっと」

「なーんだ…じゃあポピンが一番に見る!」

「あら、見つけたら教えてね」

「うん!」



ポピンの子供の頃を聞いて、やはり天才だと再認識した。

父親の影響で鍛冶に興味も持つが、何より祖父ジェポルの設計する色々な物に心を奪われていったようだ。

それから、普通なら十二歳から入学できる、国立エリーテレル工学学院にわずか九歳で入学し、四年生課程を二年で首席卒業してしまった事や、アルスティア共和国立学習院に首席入学した事などを教えてもらった。


ドンッ!!


一時間ほどしてポピンが勢いよく入ってきた。

満面の笑みで悠真の腕を掴む。


「できたにょ!最高の刀が出来てしまったにょ!早く来るにょ!」


皆で外に出ると、これまた満面の笑みを向ける男二人。

ポピンは悠真を引っ張って、ルインとジェポルの所へ連れて行く。


「悠真殿!ぜひ試していただきたい!」

「ここ最近で一番の出来ですぞ!私も久々に腕がなりましたわ!」

「はぁ…」


少し不安な気もしていたが、受け取った天霞を見る。

一見何も変わらないが、鍔(つば)を見て悠真は驚いた。


「これは?朱の神霊石ですか?」

「そうです、穴が空いていた所に埋め込んだのです、そしたらなんと!」

「ええ、私も作りながら驚きました」

「鍔に彫られた龍の口に神霊石が咥えられてるにょ!?」

「あぁ、確かに…」

「きっと!これが本来の天霞の姿にょ!」


悠真はすでに感じ取っていた。

今までとは違う、天霞の残響の濃さと力強さを。


「ぜひ試し切りを!」

「このおいぼれの冥土の土産にぜひ一筋!」

「いやいや…」

「早く悠真!春をぶった斬るにょ!」

「なんで私よっ!!?」


悠真は春の首飾りとお揃いの、三種の宝玉と鳥の羽の飾りがついた鞘(さや)から天霞を抜く。

その残響は凄まじく、鯉口(こいくち)を切った途端に朱(あか)い残響が鞘から溢れた。


「す、すげぇな…」

「功…お前もしてもらったらどうだ…」



 ――神々の残響よ

   我が刃を龍とし悪しき者を祓たまへ――


   【神響技(しんきょうぎ) 龍爪翔(りゅうそうしょう)】


袈裟斬りをした甘霞から巨大な炎を龍が爪を立てて空(くう)を翔る。

的としていた鉄の塊に当たるや否や、真っ赤になった鉄は三つに切り裂かれた。


「す…すごいにょ」

「鉄が溶けて切り裂かれるなんて…ありえない…」

「これは…神のお力だな…」


三人は驚いたままだった。

言うまでもなく、功もメティラも春もユズハも同じだった。


「すごいな…本気でやってないのに」

「悠真…今ので本気ではないのか…」

「あぁ、半分って所だな」

「すげぇよ、相変わらず…」


そっと天霞を鞘に戻し、悠真はジェポル達に礼を言った。


「そうだランヌ、お前の耐久性付与の祈りをしてはどうかな」

「それはいいけど…もう何年もしてないからできるかしら…」


ポピンの母ランヌは、ポピンが産まれるまでは神殿の高官をつとめ、物に耐久性増幅の付与ができる唯一の人物だった。

鍛冶職人の道具はもちろん、武器や防具まで効果を与える事ができた。

国宝級のレイピアを修理できる腕を持つ父、耐久性付与を与える事ができる母、色々な発明とレグナントを設計した祖父を持つ。

ポピンが天才となった理由もわかる気がした。


「じゃぁ、神殿へ行ってみましょうか」

「お願いします」


大きなセレノス神像が中央に据えられ、周りには様々な神の像が等間隔で据えられた神殿は、静まり返っていた。

神官の衣装を身に纏ったランヌが現れ、天霞を祭壇に置く。

皆は席につき見守っていた。


「我が親愛なるセレノス神よ。ここにあなたのお力を分け与えて下さい…」


数分経過して、ランヌが祈りをやめて困った顔をしていた。


「終わったのか?」

「うーん、わかんないにょ」

「久々にするから、セレノス様が声を聞いて下さらないのかしら…うまくいかないわ」

「お前が失敗するなんて、初めてのことじゃないか」

「ルイン…だめね。神への信仰が足らないみたい…」


ランヌはもう一度試すと言って、先程と同じ動作、祈りを行う。

やはり何も目に見えて変化はなかった。


「実はもう付与されているとかではないのですか?」

「そうにょ!」

「いや…彼女の付与が行われる時、不思議な光がその物に宿る。私も何度か見たが、今回は失敗だろう」

「すまない、期待をさせといてこうなってしまうとは」


ルインがランヌの方を抱きながら皆に謝る。

悠真は謝る必要などないと、二人に声をかけた。


「春、どうしたのだ?」

「ごめん、なんか突然…頭が割れるように痛くって…」

「春?」


悠真が慌てて春の元へ向かう。


「い、痛たた…」


頭を抱え込み蹲(うずく)まってしまった春の体は小刻みに震えていた。

悠真は春を抱え、医者に連れて行きたいと伝えたが、春がそれを拒む。


「違うの…悠真…お医者さんに行くような痛みじゃない…これは…」


春の体が一瞬光ると、右手にはいつもの神楽鈴(かぐらすず)が握られていた。

激しい痛みを我慢しながら春は、鈴を功に向かって鳴らす。


「どこっ?」

「なんだよ、とつぜ…」


再度鳴らされた神楽鈴に合わせて、功の目が黄土色に光る。

無言のまま、神殿内を見渡した。


「あそこだ…」


功が示したのは、一体の神の像。

状況はわからないまま春をポピンとユズハに預け、功が指差す像にメティと向かった。

像は台座も含め3メートル程。二人は目視するが何も変わった所はない。

しかしメティラが壁とのわずかな隙間を除いて叫んだ。


「悠真!これはなんだ!?」


メティラがそれを取ろうとするが、悠真は触らないようにメティラを制す。


「なんなのだ?」

「これは…呪いの護符だ」


悠真が言った言葉を聞き、ランヌが駆け寄る。


「呪いの護符?そんなものがなぜ神聖なこの場所に…」

「わかりません…ともかくこれを排除します」


悠真は一枚の護符を、腰に下げた革鞄から取り出し手印を組んだ。

そしてその護符を、隙間から呪いの護符へ重ねる。


バチッ!


悠真が重ねた守護の護符に弾かれ、呪いの護符は剥がれ落ちた。

途端に春の頭痛が消える。 悠真は呪いの護符を手に持ち、手のひらから発する焔で焼いた。


「皆、警戒をして…」


春はセレノス神の像の前まで歩み、祈りを捧げた。


  ――我が母なる天照様

    其方より託された神陽の小鏡に

    御心(みこころ)を映し給え御力(みちから)を宿し給え

    畏(かしこ)み、畏みも白(まを)す――

光に包まれた春は姫巫女(ひめみこ)へと姿を変える。

皆は突然、姫巫女の姿になった春を見つめている。

そして春に言われたように、メティラも銀針(ぎんしん)セレネスを抜き、功も守斬《しゅざん》を構え、警戒をした。


  ――我が母なる天照様

    其方のお力をお借り申す

    今ここに災いの源を示したまへ


    【天光放来(てんこうほうらい)】



 神楽鈴を頭上に掲げ、一度だけ音を発する。

 瞬く間に数珠から幾千もの光の矢が神殿の天井まで登り、雨の如く降り注いだ。


 「うわぁぁぁっ!!」


セレノス神の像の後ろから、男の悲鳴が聞こえる。

春は振り返り、悠真とメティラに指示を出した。


「捕まえなさい…」


黒づくめの外套(がいとう)を纏った男は、その場で気絶していた。

悠真は顔を隠しているフードをめくるが、誰も知らない男だった。

しかし首筋に見えた痣(あざ)が、数ヶ月前の出来事を思い出させた。


「まさか…」


上半身の服を裂き、胸に浮かぶ物を見て悠真とメティラは驚く。


「悠真…この紋章はあの時と同じ…」

「間違いない…黒の神霊石に触れた研究者にもあった紋章だ」


数ヶ月前、ポピンが邪迷病にかかった時、黒の神霊石を手にした研究者の体にあった紋章。

三日月が下を向き、大地を食い尽くさんとする様な、禍々(まがまが)しい紋章。


「なぜこの紋章が…」

「わからん…しかし、呪いの護符を貼ったのはこいつだろう…何か関係あるに違いない」

「この痣…」

「何かわかるのか?」

「この痣…間違えて山菜を食べて亡くなる人にある痣に似ているの…」


ユズハの目が翠色に光り、頷く。


「間違いない。黒カブト草、猛毒よ…なのにこの男…」

「猛毒?どんな症状なんだ!?」

「あまり解明されていないの。なぜなら…食べた途端に死んでしまうから」

「即死…」

「なのにこの男は生きている…」

「間違いってことはないか?」

「えぇ、加護の力で確かめた」

「どうなってんだ…」


今できる事はこれ以上なかった。

男は騎士団に引き渡しアルスティアに送られ、厳重隔離されることになるだろう。


「あなた達は一体…」


一部始終を見ていたルインとランヌ、そしてジェポルはそれ以上の言葉が出ないようだった。


「神の力にょ」

「ちょっと春には、私達でもまだ驚くがな」

「あはは…なんか今日は技使っちゃったねぇ…」

「俺にもなんか暗示かけやがるし…」

「天照様の声か?こうしろって」

「ううん。また勝手に体が動いたの」


落ち着きを取り戻した神殿で、再度ランヌが付与を試した。

祈りを捧げてすぐ、祭壇の天霞が薄緑の光を纏った。

その光は天霞に吸収され、付与は終わった。


「できたわ…久しぶりで疲れちゃった…」

「お母さんすごいにょ!」

「ふふふ、あなた達に比べればどうって事ないわ」

「ありがとうございます、ランヌさん」


朱の神霊石と耐久性増幅の加護を受けた天霞が、喜んでいるように感じた悠真だった。


□□□□□ラティの日記□□□□□

◯月×日


あの痣の原因がわかった。

しかし謎が多い。

あの研究者は先月頃に亡くなったと聞いた。

やはり黒の神霊石いや、夜過神が関わっているのだろうか…

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