第六十五話 七宝玉
ユズハが加護を発動した途端に、作物の芽が生まれた。
ポコポコと土の中から双葉を開いていく。
あっと言う間に実をつけた茄子を見て、悠真はおどろく。
「ユズハの加護はすごいな…」
「生命を操ってるにょ…」
ようやく目を覚ました農夫は、畑をみて混乱している。
騎士達も同じだった。
「なんだ?どうなってる?」
農夫は目を擦りながら立派に育った茄子が実る自分の畑にふらつく足で近づいた。
「俺は…めちゃくちゃになった畑に鳥の死骸があってあんたらを…」
「そうだったな、鳥の死骸が数羽あってそれが悪霊になったから退治しといたぞ」
「悪霊?死骸が数羽?そんなはずが…」
「みてみろ、被害も特になく、立派に茄子が育ってるじゃねぇか」
「そう…だな。確かに俺の畑の茄子だ…」
あまり、加護の力を広めたくない悠真は嘘をついた。
特に春とユズハの力は説明がしにくい。
農夫はまだ半信半疑だったが、畑が無事なことに安堵の表情だ。
そして自分が混乱して幻想を見ていたのだと納得したようだった。
「さて、待たせたなポピン。次は山だ」
「待ってましたにょ!」
「でも一旦帰るぞ」
「にょ…」
念のため、騎士団にはまだ浄化をしなければならないと、巡礼碑が埋まっていた場所を中心に警備に当たってもらった。
農夫から礼だと言って収穫したての茄子を籠一杯にもらい、宿にもどった。
「私は駐屯場にいって、お姉様に連絡するよう伝えてくる」
「私も一緒にいくわ」
ラティスとユズハが出かけた後、ポピンと向き合う悠真。
男が言っていた虎目石について話を始めた。
「もう一度おさらいだ。わかっている神霊石は?」
「無、朱、翠、藍、透黄と私が作った蒼にょ」
「陽菜様が教えてくれた昔話は確か…」
「七つの石にょ…」
「……」
『あっ!』
重大なことを思い出した二人。
慌てて春と功を呼んで確認する。
「藍の神霊石の件で陽菜様の所に行った時に昔話してもらっただろ!?」
「うん、教えてもらったね」
「ちゃんと覚えてるか!?」
「俺が覚えてるわけないだろ…」
春はハァッっとため息をついてから言葉にする。
幾百年かすぎた頃。
大地には八百万の神々が住む。
偉大なる力が充満する。
それは幾万の物に力を与える。
大地には何千万の人々が暮らし。
活気が熱を帯びる。
それは穀物に力を与える。
神は――
ななつの石に強い力を授ける。
広い大地に石を分ける。
人は――
ななつの石に祈りを捧げる。
ななつの場所に祠を祀る。
神は祈りをさらに力に変へ。
人の命をさらに支える。
春は一言一句間違うことなく、スラスラと昔話を口にした。
「神霊石のある場所にも祠があるんだよ!」
「すっかり忘れていたにょ…」
「本当だ、私も覚えているだけだった」
「でもあの爺さんが見せてくれた地図にはもっと祠があったぞ!?」
「後に建てられたものも書かれているから!?」
「巡礼碑の場所が元は祠だったりするかも…」
「あの山の鉱山跡に祠か何かがあれば…」
「神霊石があるかもしれないにょ!」
メティラ達が戻るとすぐに出発した六人。
騎士団に警備を頼んだ場所から山の方へと道が続く。
農夫の言ったように今は使われる事がないためか、草は道を隠すかのように生えていた。
幸い、道の上には雑草だけが伸びていたため、道を逸れる事はなく山の麓までたどりくつ事ができた。
「別に鉱山ってわけではないのだな」
「農夫も石が取れていたとしか言わなかったし、事業として鉱山があったのなら記録が残っているだろう」
「第三廃坑のようにだにょ」
「そうだ」
「ここで行き止まりのようだ」
ーー神々の残響よ
我が眼となりて隠れしものを映したまえ
神響術 【索】
「はく、お願いにょ!」
「シュッ!」
ジ・・ジジッ
ポピンの右目に術印が浮かび回転し、瞳に吸い込まれた。
神との繋がりを発動させたポピンは周りを見渡す。
範囲探索術の功も意識を集中していた。そして意外と早く感知する。
「ポピン、左側の山の下の方何かないか?」
「にょ!」
言われた方向に進みながら、ポピンは山裾をじっくり観察する。
進むポピンの後をメティラがついて行く。
「あ、何か強い光が見えるにょ!」
ポピンの神との繋がりは残響を蓄積する無機物を色と光で判断できる。
ポピンの誘導で、メティラが先に光の強い場所へ向かった。
「もうちょっと左に行くにょ〜!!」
ポピンの声に合わせて動くメティラ。
「そこ!そのあたりにょ!」
メティラはウルを飛ばし、そのあたりを上空から確認するよう指示を出す。
黒牙も匂いを嗅ぎ回っている。
メティラの元まで辿り着いた皆は祠らしきものがないのか探すがそれらしきものは見当たらない。
「こんな石だらけの場所のどこで虎目石が取れるってんだ?」
「わからんが、ポピンが見てる反応が何なのかそれが優先事項だな」
「この下にょ。」
「掘らないといけないの?」
「それは結構大変ねぇ」
「では温泉の時のようにルクス・ドミナを打ち込もうではないか!」
「やめとけ、地滑りでも起きたら大惨事だ」
「まさか手作業で掘るつもりかっ!?俺はごめんだぞ!?」
「俺も嫌だよ…」
「ふっふっふ!この天才ポピン様に任せるにょ!」
ポピンは全員を退避させ、大きな鞄から丸い鉄の塊を取り出した。
「なんだ?今日は珍しく鞄なんて持っていると思ってたが」
「何が入ってるの?」
「あぁ、こら春!中身は企業秘密なにょ!」
「いいじゃん別に!」
「とにかく、今はこっちを見るにょ!行くにょ!」
ポピンは大きく振りかぶって、鉄の塊を投げた。
「ポピ〜ンッ!ボンボンッ!!」
弧を描いて投げられた鉄の塊が岩に触れる。
ボカァーンッ!!
大きな爆発とともに、石や岩が吹き飛んだ。
その場は大きく穴があいている。
「何だそれ!すげーな!」
「ふふん!もっと驚くがいいにょ悠真!私の新たな武器にょ!」
「名前は相変わらず微妙だね…」
「確かにな…」
「ポピンちゃん、名付けの才能はないんだねぇ」
「うるさいにょ!もう一発行くから退避〜っ!」
ボコォォーンッ!
「成功にょ!」
さらに深く大きな穴が空いた場所を除くメティラ。
「これは…地下道ではないのか!?」
「結構深いな」
「でも行くにょ!」
戻った時に引っ張り上げて貰うためにも、巡礼碑を警備していた騎士団に来てもらった。
高さは3メートルはある地下道に降りた六人。
「当然だが、真っ暗だな」
「怖いよ悠真…」
悠真の腕にしがみつく春。
「私も怖いにょ!」
「わ、私もだ!」
どさくさに紛れて悠真にしがみつくポピンとメティラ。
春に思いっきり抓られて泣きそうになる悠真。
それを見て笑っているユズハと呆れながら神響術【無暗】を発動させて地下道を照らす功。
「かなり奥まで続いてやがる…」
「位置的に山の反対側へ向かっているのか?」
「そうだな悠真。まっすぐ続くようなら、大陸の西側の海へ向かっているようだ」
「だったらかなりの距離じゃないの?」
「大丈夫だ春、この山脈はさほど大きくはない。長くても500メートル程だ」
「じゃあ、それまでに何かあるって事よねぇ」
「光はこの奥からにょ」
「何も獣らしき気配は感じないな、大丈夫そうだぞ」
「わかった、進もう」
幅2メートルほどのまっすぐな地下道を進む。
等間隔で壁に見えてくるのはランプ台。
人がここを使っていた事は確実だった。
「こんな地下道があるのは初めて知ったのだ…」
「うん、聞いたことないにょ」
「キャッ!」
「どうした春?」
「なんか動いた…」
功が明かりを春の足元を照らす。
そこには後ろ足が発達し、大きな羽を持った虫が歩いていた。
メティラは急いで悠真の後ろに隠れ、ポピンはユズハの後ろへ隠れた。
「この虫…」
「わかるのかユズハ?」
「タイリクハマトビムシね、砂浜にしかいない虫よ」
「砂浜?」
「やっぱり海まで続いてるにょ?」
「早く行こうではないかっ!」
メティラは悠真と春の背中を押して、前へ進むように促す。
ユズハは躊躇いなく虫を捕まえ、鞄から出した小瓶に入れた。
降りてから400メートルほど進んだところで、先に光が見える。
「出口じゃねぇか?」
「走るにょ!」
興奮気味のポピンについて走り出す六人は出口の眩しさに目を瞑る。
「うわぁ!本当に海だよ!」
先に声を上げたのは春だった。
そこに広がるのは向こうには何も見えない海。
砂浜が広がり、背には山がそびえ立っている。
「こんな場所があったのか…」
「綺麗だねぇ」
そして、目的のものはそこにあった。
砂浜の端に建てられた祠。
ここにも長く人が訪れていないのか、ボロボロの祠だった。
「ここもひどいな」
「周りは綺麗なのにね」
「ポピン、光はここからなのか?」
右目を閉じて祠を見つめるポピンが頷いた。
「うん、その中に神霊石があるにょ」
「じゃあ、開けるぞ」
誰も躊躇わなかった。
この祠からは黒の神霊石の【邪】を感じないからだった。
悠真が扉に手をかけてゆっくりと開ける。
そこには…
「これは…間違いないな」
「そうだな、残響が溢れちまってる」
「虎目石だぞ、ポピン!」
しかし、ポピンの様子がおかしかった。
目の光がなく、見開いたまま石を見つめている。
「どうしたの、ポピン?」
「ポピンちゃん?」
「お、黄土の神霊石…」
ポピンが呟いた途端、神霊石が輝き、祠から飛び出してきた。
同じくして悠真の腰にさげた革鞄の中にある朱、翠の神霊石、功の無、ポピンの鞄から蒼と藍の神霊石、メティラの防護服に埋まった透黄の神霊石が動き出し、黄土の神霊石の元に集まる。
「何だ!?」
「あ、あれ?体が勝手に…」
春が神霊石の下に歩み寄る。
そして光に包まれ姫巫女の姿へと変わった。
「春?」
西に傾く太陽の光を神陽の小鏡で受け、その光を神霊石に当てる春。
神霊石は眩しい光を放ちながらブクブクと沸騰するかのように泡立ち、丸い形に姿を変える。
シュンッ
形を変えた神霊石は六人の前に一瞬で移動し、浮いている。
太陽を背に両手を広げた春が呟く。
――ここに、
七宝玉が揃いました。
それぞれの宝玉を授けます。
さらに我らの力を使いなさい。
災いを防ぐために。――
□□□□□ラティの日記□□□□□
◯月×日
地下通路を発見した。
これはどこから続いているのだ?
誰がこの通路を使っていたのだ?
まだまだ謎だらけだ。
しかし、宝玉が揃ったと春が言った。
少しは進展したのかな




