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神々の残響  作者: 蒼凪 悠
フェルナ国編

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第六十四話 成長中だが…

ハアッ…ハァッ……    ガチャッ!


「す!すまないっ!あんたら国王軍の人だよなっ!」

「え…まぁそうだな…」


宿で朝食をとっていた悠真(ゆうま)達のところへ慌てた男がやって来た。

小太りな農夫姿の男は汗をダラダラと流している。

よっぽど急いで来たのだろう。


「どうしました?」

「一緒に畑に来てほしいんだ!」


男に近づき声をかけたユズハに向かって男が言う。

悠真を見て判断を委ねるユズハ。

皆も悠真の言葉を待っていた。


「畑で何かあったのか?落ち着いてもう少し詳しく聞かせてくれ」


悠真は男に水を一杯渡し、座れと椅子を引いた。

一気に水を飲んだ男は少しは落ち着いたのか、椅子へ大人しく腰掛ける。


「すまない…いつも通り畑に向かったんだが、おかしいんだ」

「何がおかしい?」

「大量の鳥が死んでいるんだ…」

「鳥が?」


皆の顔に緊張が走る。

理由はまだ分からないが、大量に死んでいるとは穏やかな状況ではまずない。

ポピンは春にまだ寝ている功を起こしてくると言って食堂から出た。


「大量とはどれくらいなのかしら?」

「…百羽、いやもっとあると思う…」

「そんなにっ!?」


春の驚いた声が食堂に響く。

そこにポピンと目を擦りながら起き抜けの功がやって来た。

面識(めんしき)のない男が座っているのを見た功は、また厄介事(やっかいごと)かと顔を(しか)めて頭をかく。


「その鳥が死んでいるのはどんな風に死んでいるんだ?」

「当たり一面血だらけで…真っ黒になって畑のあちらこちらに落ちている…」

「血だらけで真っ黒?」

「口を開けて…羽を広げたままの姿とか、首がちぎれてるとか…」

「朝から気持ち悪い話じゃねぇか…」

「あんなの呪いか何かだ!俺の畑が呪われちまった…」


男はその惨状(さんじょう)を思い出したのか、ブルブル震え始めた。

春は男のコップに水を注ぎ足した。

震える手でコップを持ち、また一気に飲み干す。


「頼む!来てくれないか!?こんな事は初めてだ…俺も呪われちまったら…」


悠真は皆を見渡してから男の方を叩いた。

ビクッとなり悠真を見る農夫の男。


「わかった、案内してくれ。メティ、もう騎士団は全員帰ったのか?」

「一緒に来た者たちは帰ったが、小隊はフェルナ国に普段から在住している」

「ならそいつらにも一緒に来てもらおう」

「わかった、私から伝えよう」


メティとポピンはフェルナ城の騎士団駐留場きしだんちゅうりゅうばへ向かった。

二人が戻って来るまで悠真はさらに男に話を聞く事にした。


「最近、自分の畑や周りに変わったことは?」

「いや…特には何も」

「場所はどの辺なんだ?」

「歩いたら一時間ほどの所だ、街の南西側の端にある」

「結構街に近いんだな」

「鳥が落ちているのはあなたの畑だけなの?」

「その辺りは俺の土地なんだ…ここに来る途中で他の奴らの畑も見たが普通だった…」

「悠真!十人だが騎士団を連れて来た!」

「ありがとうメティ!じゃあ行きますか」


街の門を出てすぐに広がる広大な田畑(たはた)

フェルナ国の変わらない風景が広がっていた。

大通りをしばらく真っ直ぐに進み、南西へ向けて農道を曲がりさらに一番端まで進む。


「ここだ…俺の畑が呪われちまった…」

「うわっ…」


春とポピンはその光景から目を()らした。

100メートル四方の畑に染みる、黒く変色した血糊(ちのり)と数百羽の鳥の死骸(しがい)

死骸は真っ黒で、内臓が飛び出し首はちぎれ口は…何かを叫ぶように大きく開いていた。


「なんだこりゃ?」

地獄絵図(じごくえず)だな…」

「メティ、残響(レゾナス)は感じるか?」

「いや…感じ取れない。取れないが嫌な感じだ」

「俺も同じだ。嫌な感じとしか伝えられねぇ」

「俺も同じくだ…」


何か嫌な物を感じるその畑を、全員が呆然と見つめる事しかできなかった。

周りの畑に変わった様子はなかった。


「何なんだこの異様な状況は…」

「おい男、あそこに続く道は使われていないのか?」


畑の外側を囲む農道の端に、草木が生茂(おいしげ)った場所があった。

メティラはそこを指差し男に質問していた。


「あそこに案内板のようなものがあるのだし、あれは道だろう?」

「あれは旧道だ、山へと続く道。もう何十年と誰も使っちゃいねぇ」

「旧道…山とは前に立っている山の事か?」

「あの山で昔は虎名石(タイガーアイ)って石が取れていたと爺さんに聞いたことがあるよ…」


石と聞いてポピンの目が輝いた。


「虎目石って言ったにょ!?」

「あぁそう言ったよ…」

「ゆ、悠真!ちょっとあの山へ行くにょ!」

「ダメだポピン。今はまずここの処理だ」

「にょ…」

「ガウッ!」

「こら黒牙(こくが)!どこに行くんだお前!」

「ガウガウッ!」


先ほどから鼻をピクピクと動かし、匂いを嗅ぐ仕草をしていた黒牙。

それをやめたと思った途端に黒牙は旧道の入り口へ駆けて行った。

新道と旧道が交差する、草が生茂った角を黒牙はすごい勢いで掘り返し始める。


「ガウウゥ!」

「功、黒牙は何だって?」

「ここにあるって言ってるな…」


皆が黒牙の元へ向かっている途中で掘り終わったのか、その場にちょこんと座った黒牙は狼らしからぬドヤ顔をしている。

頭を前へ突き出して、功に褒められる準備も完璧だった。


「これ…何だ?」

「これは巡礼碑(じゅんれいひ)だ悠真…」


穴を覗き込んだメティラが呟く。

功は黒牙の頭を()でながら異様な気配を感じた。


「おい!嫌な感じはそれだ、下がれ!!」

「やっぱそうなるよな…」


巡礼碑から黒い霧が噴き出す。

(ほこら)と同じ現象が起こり始めていた。


「おい騎士団!その男を守ってさっさと下がれ!」

「春たちも下がるんだ!」


ボコォッ!


そこからは祠とは違っていた…

巡礼碑そのものが土の中から飛び出し、死骸だらけの畑の上で浮いている。

悠真たちは戦いの準備をしながら、様子を見ていた。

巡礼碑からさらに黒い霧が噴き出し畑へ降り注ぎ、霧が止まると巡礼碑は跡形もなく吹き飛んだのだ。


「何だ?巡礼碑は?」

「砕け散ったようだ…」

「どうなってやがるっ!」


グリュグリュグリュッ…


霧を浴びた鳥の死骸が液体のようになり一箇所に集まる…

ボコボコと沸騰したように黒い塊と化した死骸が宙へ浮いていく。


グエェェェェ!!


叫び声と共に大きく弾けた液体の中から現れたのは悪霊だった。

体は霧となり、白い目、大きな真っ赤な口がこちらを睨んでいる。


「マジかよ…」

「現れたのなら退治するまでではないかっ!」

「悠真、護符くれ…」

「なんでないんだよっ!?」

「数枚残ってたんだが…宿に置いて来ちまった」

「お前…」


受け取った護符を早速人差し指と中指で挟み、額の前で構える功。

集中し言霊を唱える…


  ――神々の残響(ざんきょう)よ 

    御身(おんみ)の守護のため命削らんとす我らに

    その力を分け与えたまえ ――


    神響術(しんきょうじゅつ) 【神威(しんい)


ボッと護符が燃え尽きると同時に悠真とメティラに身体強化の術が掛かる。

悠真は名刀【天霞(あまかすみ)】を、メティラは【銀針(ぎんしん)セレネス】を構えた。


  ――神々の残響よ 

    我が手となりて悪霊を捕らえたまえ――


    神響術  【(ばく)


続けて功が発動させた術で悪霊は身動きが取れなくなった。

今度はメティラがセレネスを真っ直ぐ縦に持ち集中する。


「レゾナス・アーツ…セレネスの加護…」


メティラの周りに漂う残響が彼女の体内に吸収されていく。

さらに手の甲にあるセレネス神(月詠ノ命)の加護である紋様がくっきりと浮かんだ。


「ウル…くるのだ…」

「ピイィィ!」


メティラに呼ばれた眷属(けんぞく)白梟(しろふくろう)のウルが彼女の頭上で羽ばたいた。

全身に(まと)蒼白(あおじろ)い光が渦を巻いた。


  ーー偉大なるセレネスよ

    我が銀針に三日月の加護を宿したまえ――


    【神の斬撃(セレノス・フェルム)


銀針セレネスの刀身から三日月型の斬撃(ざんげき)幾重(いくじゅう)にも繰り出され、悪霊を貫く。


「ウル…」

「ピィ!」


その斬撃を追いかけるように、光を纏ったウルが弾丸のように突っ込んだ。

ウルが悪霊を貫く。


グエェェ!!


悪霊の中央に大きな穴が空き、少しずつ浄化されていく。

しかし、霧の回復も始まっていた。


「やるなメティ!こりゃ負けてらんねぇわ」

「そうだぞ悠真、いい加減にしないと春の雷が落ちるぞ」

「ははは…ぜったい嫌だ」

「悠真、あいつの顔を狙え!」

「何だ功、珍しい――お前…」


狙う場所を指定してきた功を少しからかおうと、振り返った悠真は驚いた。

そこには金色の目で悪霊を見つめる功がいた。


「今のお前が言うならそこを狙うのが一番だな!」

「キュ!」

「あぁコン!俺たちも見せてやろうぜ、こっそり練習してるんだからな!」


コンは悠真の頭に上に飛び乗り集中している。


  ーー我が主神(しゅしん)たる天照(あまてらす)よ 

    御身のお力を我が剣に――


    【天照の(ほむら)


天霞に纏った炎は軌道(きどう)の読めない動きで悪霊を狙う。

そして走り出したコンの姿が普段の三倍の大きさはあろう巨大な狐へと変化する。


ドンッ!


天照の焔が悪霊の顔を吹き飛ばし、コンが鋭利な爪で胴体を切り裂いた。


ズズズズゥ――


一瞬でその場の空気が変わる。息が出来ない程に重苦しく禍々(まがまが)しい空気…


「こ…これは夜過神の…」

「また大っ嫌いな空気にょ……」


(そうか 鳥の死骸じゃダメか 失敗だねぇ)


「夜過神…やはりお前の仕業が…」


(天照の子 何だこの気配でそんな辛そうな顔して 前はすごい力だと思ったけど 本当は大した事ないんだねぇ)


「くっ…」


(まぁいいよ 君たちはいつでも消滅の慈悲を与えてあげるから)


「なぜ…こんな事を…」


(なぜって 人なんか居ない方がいいんだよ 争い事ばかり起こすんだから)


「今は争いなどしていないっ!」


(それはどうかな 毎日どこかであるはずだよ 人には憎しみという感情があるんだから)


「それは神には何も迷惑は駆けていないはずだ…」


(天照の子 もう遅いんだよ 何百年と前に僕が決めた事だ やっと封印が解けた今 人は消滅を待つのみ)


「封印って何だよっ!」


(はっはっは 話しすぎたようだ 次も期待してくれたらいいよ)


シャラン


(巫女か お前はやっぱり邪魔だね )


  ――我が母なる天照様

    其方より託された神陽の小鏡に

    御心(みこころ)を映し給え

    御力(みちから)を宿し給え

 

    (かしこ)み、畏みも(まを)す――


春がいつもの祈りを捧げた。

天に(うごめ)く巨大な夜過神の霧が、太陽の光によって浄化されていく。


(はっはっは 次はもっと上手くしないと 失敗失敗 それまでまた生き延びれたね)


風がひと吹きし、霧は完全に消え去った。

全身の力が抜ける悠真達。

後方で見ていた騎士団と農夫の男は全員意識を失っていた。


「助かった春。」

「まだする事がある…」

「春何するにょ?」

「お清め…かな?」


春はそう言うと畑の中央に進み、太陽の方を向き正座した。

神陽の小鏡と鈴を手に持ち、太陽に向かって深く一礼をする。

そして、鈴の代わりに春が手にしていたのは一枝の(さかき)だった。

それを畑に刺し、再び祈る。


春の周りから光が広がり、死骸や血糊で朽ちた畑がみるみる緑を産む。

数秒で元の肥沃(ひよく)な畑へと戻った。


「夢を見ているようだな」

「春はやっぱり最強なにょ!」

「じゃぁ次は私の番かしらね」


ユズハが春の横に座り、微笑み合う。

二人一緒に目を閉じ、手を合わせた。


 ――かわいそうに…汚された畑…

   でも姫巫女様が元に戻してくれたのよ

   だから貴方達の命を次の芽へ託しましょう

   この寂しげな大地の神々に

   貴方達の力を見せるのです


   【生命萌芽(ヴィータ・ジェネシス)



□□□□□ラティの日記□□□□□

◯月×日


気持ち悪かった…本当は泣いて逃げたかった

あんなに鳥が死んで

かわいそうに

悠真もきっと、もけもけ鳥の死骸を見て

悲しんでるだろうな…

でもあれがもけもけ鳥の子供だって知らないか…

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