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神々の残響  作者: 蒼凪 悠
フェルナ国編

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第六十三話 神の湯

「神の湯…なんなのですか、それは?」

「ここでよく人間と温泉に浸かったものよ」

「温泉!」

「そうじゃよ。火山も落ち着いてしまって湯も地上から消えてしまったがの」


意外な言葉に、少彦名の声が聞こえている春とユズハは驚いた。

悠真達も、春達が発する言葉しかわからず戸惑う。


「今、春は温泉って言ったのか?」

「そうだな…」

「ここに温泉があるのか!?」

「メティ、興奮しないにょ」

「だけども、温泉だぞポピン!」


皇国では温泉は普通に湧いている。

メティラ達も悠真の家で源泉掛け流しの湯に浸かってから、温泉の良さを知っていた。


「温泉が湧かなくなり、ここは忘れられたのじゃよ」

「忘れられたですか?」

「実は我は温泉の神とも呼ばれておってな、畑に精を出す人間に憩いの場を作ってやろうと思ってな」

「なのに忘れられたとはどういうことですか?」

「簡単なことよ。争いが始まり、我らはここを捨てたのじゃよ」

「争い…」

「我らが離れると湯も枯れる。そしたら人間は近づくことも無くなった」

「人は勝手ですね」

「祠が茂みの中にあったのは忘れられ、誰も手を加えない為なのですね」

「そういうことじゃ。祈りを忘れられた祠は力を持たぬ」

「では夜過神が黒の神霊石を置いていないのも、祠に力がないからでしょうか?」

「それもあると思うが、この祠には決まった神がいるわけではないからの」

「決まった神ですか」

「そうじゃ!そなたら温泉を掘ってはみぬか?」

「?」

「まだ地下には温泉があるのだ」

「ここにですか?」

「人間は誰も近寄らなんだ。だから温泉も枯れてはいるが源泉はあるのじゃ」


突然の神からの依頼に答えを迷う春。

しかしユズハは珍しく興奮して答えた。


「ぜひっ!掘ります!」

「おお、そうかユズハよ。それではまず祠周りを綺麗にしてくれぬか?」

「はいもちろんです!」

「そしたら我が掘るべき場所を光で差し示そう。そこを下に掘るのじゃぞ!」

「わかりました少彦名様!お任せくださいませ!」

「しかし途中で変な虫が出るかもしれぬ。気をつけるのじゃ!」

「虫っ!」

「構いません!大丈夫です!」

「ではよろしく頼む!」


フッと春とユズハの力が抜けた気がした。

皆はそれをみて二人に近づく。

春は今の話を伝えた。


「少彦名様が?」

「温泉!」


メティラとユズハは喜んで飛び跳ねている。

悠真と功は半分呆れ気味だが、神の依頼を受けておいて放置するのはダメだと祠の再生を始める。

姫巫女の姿を解いた春もせっせと掃除を始めた。掃除は彼女の得意分野、みるみる祠周りは綺麗になった。

剣を持つ三人が茂みを伐採し、道を作っていく。

さながら、未開拓地を切り開いているような作業を黙々とこなした。


「こんなもんか?」

「十分ではないか?」

「これで温泉でなかったら起こるぜ…痛っ!」


愚痴った功にどこからか小石が飛んできた。

以前も神の悪口を行った蒼真に小石が落ちてきた事があった。

皆は神の力を思い知ることとなる。

二時間ほどで作業が終わり、あたりは見違えるように綺麗になった。

祠には太陽の光が当たり、本来の姿を取り戻す。

そして一つの火山の中腹に一筋の光が登った。


「あそこか」

「とりあえずレグナントで行ってみるにょ」

「でもどうやって掘るんだ?」

「そんな事は悩むに足らぬぞ悠真!」


上空からカイト級のドアを開けるメティラ。

手にはセレネスが握られている。


「メティ何する気だ?」

「ふっふっふ、こんな岩山など私の光の覇声(ルクス・ドミナ)一発で大穴を開けてやるのだ!」

「メティちゃん!頑張って!!」

「まかしておけユズハ!温泉はもうすぐだ!」

「おい!無茶すんな!」

「レゾナス・アーツ!!」


興奮病まぬメティラから放たれた光の咆哮は岩山を貫いた。

吹き飛ぶ岩石と同時に蒸気が発生する。


ボゴオォォォンッ!!!!


水蒸気爆発が起こり当たりに湯の雨が降る。

そして…


「ん、あれはなんだ?」

「なんだとはなんだ悠真!温泉ではないか!」

「いやそれは分かってるが、あの赤いものは…」

「あ、ほんとだ。なんだろうね」

「何を言っているのだ皆!」


体を外に乗り出したまま、船内の悠真達を見るメティラ。


ピトッ


「ん?」

「あらーっ!!!これはひょっとして!!!」


メティラの頭を見てさらに興奮するユズハ。

沢山ぶら下げてある革カバンの一つから大きな袋を取り出した。


「メティちゃん!それとってこの中に入れてっ!」

「何がだ?この頭の上の重いものか?」


メティラは頭に乗ってある何かを手に取った。


「それはやく!もっと取らなきゃ!」

「…ギャ…ギャアァァァァ!!!」

「危ないメティ!」


危うく落ちそうになるメティラを悠真が引き摺り込む。

代わりに袋を広げたユズハが体を乗り出して袋で受けようとしている。

それは拳二つぐらいの大きさで無数の足が蠢き、硬い殻が幾十にも重なった虫であった。


「ポピンちゃん!降りてよ!もっと取りたい!」

「な、なんなにょそれ」

「これ?これは滅多に取れない虫よ!【アツイノコウブツコウチュウ】っていうの!!」


『へぇ…』


レグナント【カイト級三号】が着陸できる場所を見つけ、皆は温泉が吹き出した穴の近くにいた。

ユズハは相変わらず先ほどの虫を捕まえている。

このような生き物に特に抵抗がない春が助手として袋に詰めるのを手伝わされていた。

しばらくして、さほど遠くない場所で畑に精を出していた農夫達が爆発を見てやって来た。


「これは!温泉ですか!?」

「ああ、そうだ。神の湯だな」

「皆さんが掘り当ててくれたんですか?」

「俺たちというか…神様というか…」

「神様!きっとソフィオス神様のご加護です!」

「おお!ありがたいことだ!」

「なんだ、少彦名様の事知ってるんだね、みんな」


虫拾いの手伝いが終わった春がそういった。

皆は温泉に向かって祈りを捧げている。


「みんな、あそこに見える祠。あそこをちゃんと守ってくれないか?」

「祠?あんなところに」

「あぁ、あの祠を綺麗にしてちゃんと祈りを捧げていれば温泉が枯れることもないはずさ」

「わかりました、皆で綺麗にしますとも!」

「さぁユズハ!温泉に入ろうではないか!」

「そうねメティちゃん!」

「待て待て!皆がまだいるのにお前達は素っ裸で入るのか?」

「あら」

「ぬぬぬ…ここは第三王姫の権力を行使して!」

「ダメだ。とりあえず今日はダメだ」

「分かった」


街に戻り、フェルナ国王に詳細を話した。

温泉はフェルナ国の新たな娯楽事業として、国を挙げて整備を行うことになった。

大通りが繋がり、岩山を登りやすくし、入浴場所を拡張する予定らしい。


「はぁ!いい湯じゃないか」

「そうだな、皇国には敵わんがな」

「悠真ぁ!どう?」

「気持ちいいぞっ!」

「覗くのではないぞ!特に功!」

「なんで俺なんだよっ!」

「悠真には春ちゃんがいるから、のぞいたりしたら天罰が降るでしょぉ!」

「だからって俺が覗くみたいな言い方するな!」

「わかんないにょ…万年モテない男にょ」

「ポピンッ!お前後で覚えてやがれっ!」


次の日の午後、厳選発見の立役者であるヴォルテクス・レゾナは温泉にいた。

フェルナ国王より、いつでも自由に入ってくれと言われ、うるさいメティとユズハを黙らすために、早速やってきた。

心地よい風に流れる湯煙と一緒に、皆の笑い声も流れていった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「ゆうまぁぁ!」

ベットに横になる悠真に春が飛び込んできた。

温泉から上がってもう数時間は経っているが、髪から香るほのかな硫黄の匂いが心地よい温泉を思い出させる。

春はよぼど気持ちよかったのか、ご機嫌だった。


「なんだよ、ご機嫌さんだな」

「だって温泉久しぶりなんだもん」

「皇国じゃ毎日だったもんな」

「そ、温泉が普通だったのにね!」

「ユズハもあんなに温泉が好きなんだな」

「うん、家で入った時感動したんだって」

「何に?」

「効能?お肌スベスベになるでしょ?あれが不思議だぁって」

「確かに、うちの女性陣は皆肌は綺麗だな」

「みんなを見てたのねぇ…」

「あははは…そういう事じゃなくてだな」

「ふーん」

「ポ、ポピン達は何してるんだ?」

「よっぽど温泉が嬉しかったのか、今日は飲むぞぉ!って乾杯してたよ」

「お前は行かないのか?女性陣の集まりだろ?」

「私はいいの!ここがいいの!」


春は悠真の胸に顔を置き、心臓の音を聞くのが好きだった。

子供の頃から変わらない行動の一つ。

大きく変わったのは、二人が夫婦という事だった。


「悠真…んっ」

「なんだよ、急に」

「んーっ!」


夫婦の夜は更けていく。


「さぁさぁ!飲むのだ!」

「明日も温泉行くにょ!!」

「いいわねぇ!行きたいわぁ!」

「行くぞ!行こうではないかっ!」

「飲みすぎたにょ…ちょっと気持ち悪いにょ」

「何を言ってるポピン!夜はこれからだぞ!」

「そうよぉ!薬飲む!まだまだいけるようになるわぁ!」

「怪しい薬にょ…」

「大丈夫よぉ!」


女子会の夜も更けていく。


「グガァァァ…」


功の夜はすでに更けていた。


□□□□□ラティの日記□□□□□

◯月×日


お!ん!せ!ん!!

これから共和国でも温泉に入れるのだ!

皇国より近い!

アルスティアにも源泉あったりしないのかな!

春に頼んでソフィオス神様に聞いてもらおう!

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