第六十二話 祠の意味
「ところでケドラさん。祠とは一体なんですか?」
「フオッフオッ、悠真王子はどうお考えか?」
「祠を建て神を呼び、祈りを捧げる小さな神社の様なものかと」
「それは半分正解、半分間違いですな」
『…』
皆はそれぞれ顔を見合わせながら首を傾げていた。
悠真が言ったことが皆の考えだった。
「祠を建て、神様をお祀りして祈る。間違いないですじゃ。しかしなぜそこに建てたのか」
「建てた理由ですか?」
「そうじゃ。確か皇国では八百万の神が居るとされておるとか」
「はい、神々はすべての物についていると言うのが我々、皇国の考えです」
「フォッフォッ、ではなおさらですじゃ。なぜ祠は八百万に対して数カ所、数十ヶ所しかないのかの?」
「それはわかりません」
「それにもう一つ。祠を見て何か思われなんだかの?」
ケドラの質問に皆は考えこむが思いつかない。
誰も言葉がでない状況のなかで突然、春が顔をあげた。
「祠の形が似ている?」
「似ているとは何に似ているのだ?」
「わからないけどメティ、皇国と共和国で神様の名前も違えば神社と神殿って違いもあるのに、祠は似たような形じゃない?」
「…たしかにそうにょ!」
「良いとこに気づかれましたのじゃ、同じような形の祠。しかもどちらかといえば皇国寄りの見た目」
「まさか、分断される前に作られたものですか!?」
「悠真王子、あくまでも可能性ですじゃ。だが、そう考えられますな」
「では他にも祠のように、夜過神の手が伸びる箇所があるかもしれないと言うことですのね」
「祠の形にばかり気を取られては見逃す事になるかもしれませぬじゃ、第一王姫様」
セイラは再度騎士を呼び、すぐに指示を出した。
悠真はずっと地図を見つめている。
「神々と共存していた頃、特別な場所に力の強い神がいたか、その神がいた場所が特別な場所となった」
「それを昔の人々はわかっていたってか?」
「そして神様の家となる祠を建てたって事なんじゃないの?」
「祠を建て神様を呼んだのではなく、神様が居る場所に祠を建てたにょ!」
「フオッフォッフォッ!そうではないかとわしは考えておりますじゃ」
ケドラの言うことはもっともだった。
猿田彦神が(祠をわかっていない)と功に言った事にも繋がる。
今までの祠を思い出す悠真の横で、功が呟いた。
「清流の街の祠には神は居なかったよな?」
「確かにそうだ龍神だけだった」
「しかしあの祠には夜過神がいたではないか」
「あの祠は夜過神が祀られていたとかにょ?」
「そんな!悪霊を祀る祠なんて…」
「もう一度、全部調べる必要があるな」
「次から次へと…困ったものですわね…」
「オルディス様がいらした祠も調べ直した方が良いのではないか?」
「そうしよう」
この後のすべき事が決まったヴォルテクス・レゾナ。
悠真はセイラ達、共和国の人間に尋ねた。
「こちらで祠のように神を祀る建物はあるのですか?」
「祀るといえば、神殿と礼拝堂と巡礼碑ですわね」
「そうですね、規模で言えば巡礼碑が一番近いかもしれないぞ、悠真」
「巡礼碑はあちこちにあるにょ」
「そうね、メアナで私が知っているだけでも、五カ所はあるわね」
「多いな」
「皇国はどうなのですか?祠以外に何かありますの?」
「無数に」
「祠以外にも、あちこちに地蔵もあるしな」
「絞るのはなかなか難しいよね」
「ともかく、もう一度火山帯に行ってみようか」
解散してそれぞれの部屋へ戻って一息ついた悠真達。
春はお茶を入れている。
「はいお茶をどうぞ、旦那様」
「ありがとう」
「謎だらけだね」
「本当にな。困ったものだな」
悠真の横に座り、胸元から新陽の小鏡を取り出した春。
そこには自分の顔が映るのみだった。
「ここだよ!って教えてくれたらいいのにね」
「そうだな。今回の猿田彦様も自分たちで考えろ、調べろって功に言ったんだろ?」
「なんか謎解きをさせられてるみたいだよね」
「かなり複雑な謎解きだな。しかもこの世を賭けた謎解きだ」
「責任重大ですね、旦那様」
「何だよ、さっきから旦那様って」
「旦那様には変わりないでしょ?」
「そうだけどよ」
「さ、お風呂入ったら?ご飯作ってくるよ、何食べたい?」
「もけもけ鳥の丸焼き」
「久々に聞いた!でも却下」
「…まかすよ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それでは、私達は先に戻ります。くれぐれも気をつけるのですよ」
「はい、セイラお姉様」
「セイラ様、調査の方よろしくお願いします」
次の日、ヴォルテクス・レゾナの六人を置いてセイラはアルスティア城へ戻った。
悠真達も火山帯へもう一度向かう準備を始める。
「ポピン、できるだけ低空で飛べるか?」
「うん、カイト級だし大丈夫にょ」
「何する気だ?」
「いや、巡礼碑ってのがあるか確かめながら進もうと思ってさ」
「なるほど、それは良い考えだな。」
「それじゃぁ出発にょ!」
長い一本道を農家の人たちのレグナントの邪魔にならない高さに合わすポピン。
徒歩から馬、馬から馬車、今はレグナントで農家の人々は田んぼに出かける。
広大な田んぼや畑を移動するのにはレグナントという乗り物は大変役に立っていた。
「ポピンが発明するまでは皆馬車だったってことだよね?」
「そうにょ。だから途中に小さな村があるにょ。今はみんなすぐに街に帰れるから、廃村になってるみたいにょ」
「フェルナが首都だけで民を管理できるようになったのはポピンのおかげなのだ」
「改めてすごいね、ポピンって!」
「そうにょ?もっともっと褒めてくれていいにょ!」
「もともと民の数は少ない方だから、あの小さな首都で収まったのだろうな」
大きな道を観察しながら進んだが、巡礼碑は見つけることができなかった。
火山帯に近づいてきたので高度をあげ、一気に祠の場所へ向かった。
「何も変わってねぇな」
「ああ、祠もそのまま。中には神霊石も置かれていない」
「ちょっと安心だね」
「功はオルディス様と話せないにょ?」
「…どうやって話すんだ?」
「それは知らないにょ」
「確かに、今まで私達から話しかけた事なんて一度もないな」
「確かにそうにょ」
「私も同じねぇ、春ちゃんに言われるがままだったけどね」
皆は一斉に春を見る。
後退った春は両手を伸ばして、手のひらを大袈裟に振る。
「む、無理無理!どうやったら良いかわからないもの!」
「でもメアナでは突然巫女に変身したじゃねぇか!」
「だってあの時は突然頭に祈りの言葉が浮かんだんだって!」
「ではその祈りの言葉を捧げれば良いのではないか!?」
「そんなの無理!あの時はなんかよくわからないままだったしっ!」
「もう祈りの言葉は忘れたにょ?」
「忘れちまったのかっ!?」
「…悠真助けて!」
「春、本当に忘れたのか?」
「悠真まで!?忘れてないよっ!」
「じゃぁ、祈ってみてくれないか?」
「…わかったよ、できなくても怒らないでよ」
皆に見守られながら、祠の前に立つ春。
手に神陽の小鏡を持ち目を閉じた。
――我が母なる天照様
其方より託された神陽の小鏡に
御心を映し給え
御力を宿し給え
畏み、畏みも白す――
メアナの時と同じように、小鏡から光が放たれ春を包み込んだ。
眩しい光がおさまると、巫女装束の春が立っていた。
天照の象徴たる太陽の形を模した日輪の輪を額に付け、白衣は神々しい光を帯びている。
『おおお!!』
「すごいすごい!姫巫女様にょ!」
「やはり美しいな、この姿は…」
「で、ここからどうなるんだ?」
「前はまだ祈ってたんじゃねぇか?な、春」
春は冷たい目で功を見る。
「な、なんだよ」
「何を申すか、無礼であるぞ功!」
「あ、すいません姫巫女様…」
「なーんてねっ!」
『はははは』
「で、本当にここからどうなるんだ?」
「さぁ…わかんない」
「わかんないって…祠に向かって呼びかけてみたらどうなのだ?」
「あのぉ、こんにちわ。春と言いますけど猿田彦様いらっしゃいますか?」
「本当にそれで良いにょ?」
「私の時は確か、祠に宿しとか何か言っていたような」
「ふぅ、わかった!真面目にやる!」
「初めっから真面目にするにょ」
春は目を閉じ祠の前で両手を広げた。
皆は息を呑む。
首から下げた小鏡が微かに光り、春の右手に鈴が現れた。
シャランッ
――祠に宿し神よ
我が名は天照の子 春
我が名においてお頼みもうす
そなたの声をお聞かせたもう――
「おや、姫巫女ではないか?ユズハもおるのか?」
「あ、あれ?少彦名様でいらっしゃいますか?」
「そうじゃぞ?何を申しておるのだ?」
「いえ、先日ここに猿田彦様がいらっしゃった様で…」
「おお、奴なら今は天界に戻っておるぞ」
「お戻りにですか…ではなぜここに少彦名様が?」
「姫巫女よ…それは祠があるからじゃ…」
「申し訳ございません、祠というものが理解できておりません」
「左様か。祠とは我々が人間界を覗くための場所じゃ」
「覗くためのですか?」
「そうじゃ、今となっては精神しかこの世には来れんでの。昔人間が建ててくれた祠にだけ降りることができるのじゃ」
「あの!少彦名様!」
「おお、ユズハよ。なんじゃ?」
「祠は皆様決まった場所にいらっしゃるのではないのですか?」
「決まった場所はあるが、行き来も自由じゃ。其方に助けられるまで、黒い石のせいで動くことができなかったがの」
「では春がお声をかけたら、たまたま少彦名様がいらっしゃったわけですか…」
「そういうことじゃ」
「前回、猿田彦様に言われました。お前達は祠の事をわかっていないと」
「ほう、それで?」
「教えて欲しいと申したのですが、自分たちで調べろと」
「なるほど。それで答えは出たのか?」
「簡単に言えば、神様達がいらっしゃった場所に祠を昔の人は建てた。その場所は重要な場所だったと考えました」
「うむ」
「しかし、何が重要な場所かがわかりません」
「それでもう一度ここへ来たというわけじゃな?」
「はい」
「うむ、間違ってはおらぬぞ。ここも重要な場所じゃ。」
「それはどのような場所なのですか?!」
「ここか?ここは神の湯じゃ」
□□□□□ラティの日記□□□□□
◯月×日
昨日から謎解きのような時間が多い。
困った。
実は苦手なのだ。
頭を使うことはポピンとユズハに任せよう。
悠真達は…ダメだろう




