第六十六話 それぞれの神霊石
――わたくしの子には【朱】の宝玉と巫女には【無】を
猿田彦の子には【黄土】の宝玉を
月詠の子には【透黄】の宝玉
もう一人には【藍】を
少彦名の子には【翠】の宝玉を
そして…そなたはまだ逢えていないのですね…
石凝姥の子よ…其方には【蒼】の宝玉を――
春から発せられる言葉が途切れた。
それを待っていたかのように、それぞれの前に浮かんでいた神霊石が心臓に向かって入り込む。
防具を通り、肌着を通り、皮膚を通って体内に痛みもなく吸収された。
――まだまだするべき事は沢山あります。
皆、よろしく頼みましたよ――
太陽は海へ沈み、夜が訪れた。
春はその場へ崩れ、両膝で立つ。
皆、体の様子は特に変わりなく、ただ驚きが隠せないだけだった。
「春、大丈夫か?」
春を抱きかかえ、悠真が尋ねる。
疲れた顔の春は、弱々しい笑顔でこくりと頷いた。
「石凝姥……」
「春が天照様なのか?」
「そんなわけないでしょメティ…憑依みたいなものじゃないかな…」
「みんなも声は聞いたんだよな?」
「ああ、聞いちまった…最高神様の声をな」
「優しくて、力のある声だったわ…」
天照の声を聞いた事のあるメティラは感動していた。
陽菜に、もう聞くことが出来ないと言われていたからだ。
そして…
「ポピン、やっと分かったな」
「うん、なんかみんなと違う知りかただけどね…」
「そんな、にょんを忘れるぐらいの出来事か?」
「あ…そうだね」
小さく口角を上げるポピン。
自分で見つける事ができなかった悔しさもある。
「石凝姥命様って言ったら、結構な大物だぜ、ポピン」
「そうなんだ…」
「ポピンにぴったりな神様だな」
「どんな神様なの…」
「なんたって、技術者達の守護神って立場を務める神様だからなっ!」
「そうだ、神陽大神宮にある【八咫の鏡】を作ったとされて、未知の物を理解して創り上げる神だ」
「……私みたいだね」
「その話を聞く限りで想像が付くのは……イシュメリア神様か?」
「そうだよ…サイカス様イシュって言ったし…」
「そうだったな春。イシュメリア様で間違いなさそうだ」
ピクッとポピンの眉が動きメティラに問う。
「メティ、春!なんて言ったの?」
「ん?石凝姥様の話をアルスティアの神で言えばと…」
「その神様は誰だって言った?」
「イシュメリア様じゃないかと」
さっきまでの弱気な姿が嘘のように、みるみるポピンに笑顔が戻る。
そして波打ち際まで進み海を見つめて大きく息を吸った。
「にょぉぉぉぉぉお!!」
「なんだ、おかしくなっちまったか!?」
「多分…大丈夫だろう…」
「どうしたんだポピン?」
「イシュメリア様と言ったら私の生まれたエリーテレルが崇拝する偉大なる神様にょ!」
「おお!たしかそうだったな!」
「そんな神様の魂を継いでいるのかと思ったら嬉しすぎるにょ!」
「じゃぁ、そこに居るかも知れねぇな」
「にょ!エリーテレルに行くにょ!」
いつもの調子に戻ったポピンを見て、悠真に抱きかかえられたままクスクス笑う春。
「お前もよく頑張ったよ」
「ありがと」
「春ちゃん、滋養強壮薬飲む?」
「うん、もらおうかな」
「私ももらえるか?」
「いいわよぉ、みんなの分あるわよ」
鞄から六本の小瓶を取り出して配るユズハ。
皆一気に飲み干した。
「本当にこれは飲みやすいな」
「ありがとう、なかなか作るの苦労したのよ」
「何が入ってるんだ?」
「薬草と…効能の決め手はねっ!」
「決め手は?」
「イボガエルの粘膜なの!あれを採取するのが大変だったのよぉ!」
『……』
「おえぇぇぇ!」
「大丈夫かラティ!?」
「あらあら」
「美味いんだから、想像するな」
「そうにょ、あきらめるにょ。薬はそんなもんにょ」
月の光が海面を照らす。
浜辺には皆の笑い声が響いた。
「さて、戻るか」
「悠真ありがと、もう歩ける」
再び真っ暗な地下道を戻り、降りたところまでやってきたが、反対側にも道は続いている。
「どうする?」
「ここまできたら、行くしかないだろうよ」
「導きの功様が言ってるし、行くか」
「何だよそれ」
「すまない、このまま反対側へ進む。もう少し待ってってくれ」
「了解しました!」
メティラは穴に待機してもらっていた騎士に声をかけた。
それから真っ暗な道を進むが、200メートルほどで行き止まりだった。
「階段だな」
「塞がれちまってるな」
「どうする」
「爆破にょ!」
暴走するポピンをおいて駆け出す六人。
ポピンは鞄からあの鉄の塊を取り出す。
「爆破ぁぁ!」
放り投げて駆け出すポピンだが、足は遅い。
「馬鹿野郎!自爆するつもりかっ!」
ドゴォォン!!
完一発、功の結界で守られたポピンは大笑いしている。
呆れる功だったが、大きく開いた天井を見て驚いた。
「ここって山道の入り口じゃないのかよっ!」
「本当にょ!」
穴からは警備に当たっていた騎士が剣を構えてのぞいていた。
警備中の場所が爆発したのだから無理もない。
騎士達は穢人ではないことに安堵した様子だった。
「かなり前に塞がれたんだろうな」
「なぜ塞がれたか、理由が知りたいな」
「それは学者に任せよう。それに腹が減って何もしたくない」
「あぁ、私もだ」
「春も疲れてるし、外食だな!」
「やったぁ!家事をおさぼり!」
騎士団はしばらくの間、二十四時間体制の警備を行うと言う。
遺跡のような場所に結界を張る事になったのだった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日の朝、メティラとポピンはフェルナ国城へ向かった。
こちらへ来てから、昨日までの出来事を国王に伝えるためだ。
本来は悠真も行くべきだが、堅苦しい事が大嫌いな悠真は全て二人に投げた。
「メティ達が帰ってきたらアルスティアに戻るの?」
「あぁ、何もなければな」
「じゃぁそろそろ帰る準びでもしようかな」
「どこか行きたい場所とかないのか?」
「うーん、街も回ったし食べるもの食べたし。私はもういいかな」
「功は?」
「俺はいつでも早く帰りてぇよ」
「ははは、功は変わらないねぇ」
それから三時間が経過したが、二人が帰ってくる様子はない。
痺れを切らした功が街でも散歩してくると言って出かけた。
ユズハは部屋に篭ったまま、何をしているのかわからない。
「どうしちゃったのかしらね」
「さぁな。もう厄介事は終わったはずだが」
「お茶飲む?」
「あぁ、頼む」
それからさらに一時間後、ようやく二人はぐったりとして帰ってきた。
「随分と長かったわね」
「次から次へと関係者がやってきてずっと話を聞かれたのだ…」
「疲れたにょ」
「帰るのは明日にするか?」
「あぁ、夕食は城で祝勝会を開いてくれるとの事だ」
「…大変だな。頑張って行ってこいよ、俺は寝るから」
すぐさま春に襟元を掴まれる悠真。
「もちろん、悠真も含めたヴォルテクス・レゾナ全員が招待されているぞ」
「断れませんよ、悠真王子」
「そうにょ、行かなきゃダメにょ」
「……いやだ」
夜遅くまで盛り上がった祝勝会も終わり、さっさと楽な服装に着替える悠真。
春もドレスからいつもの侍女服へ着替えていた。
「やっぱりこの服が一番落ち着くのよね」
「俺も同じだ。なんで首しめたまま飯食わなきゃならないんだか」
「でもご飯はおいしかったね」
「うん、あの肉料理なんだろうな」
「骨のついたやつでしょ!?美味しかった!」
「酒もうまかったな」
「赤ぶどう酒ってやつね」
「あれは何杯でもいける」
「多くのお姉様達に言い寄られながら、さぞ美味しかったでしょうに」
「なんの話やら」
「…お風呂入って寝よ、疲れた」
「そうだな。先入っていいぞ」
「わかった、早く準備して」
「?」
「一緒に入るんでしょ?」
「先に入っていいと言った」
「一緒に入るって?」
「先に入っていい――」
「一緒に入って」
「先に――」
「一緒に」
「…一緒に入るか」
「素直でよろしい」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「じゃあ出発するにょ!」
「一泊二日の予定がえらく長引いたな」
「本当だねぇ」
「私はお城のお仕事がなくなって、ちょっと嬉しかったけど」
「春!私も同じだ!」
「お姫様は大変にょ!」
「でもさ、これ帰ったらすぐにセイラ様にお呼び出しだよね」
「確定事項だな」
「お姉様はきっと待ち構えているだろうな」
「俺いまから風邪ひこうかな」
「それどうやるにょ!?」
「ユズハ、風邪ひく薬とかないのか?」
「あるわけないでしょ」
「だよなぁ」
皆重い空気の中、アルスティアへの帰路についた。
功はもう寝ている。
ユズハは紙にずっとメモをしている。
春も今回は疲れたのか、悠真の肩に頭を預けて寝ていた。
「ポピン、エリーテレルってどんな国なんだ?」
「技術と鍛冶の国にょ!」
「なんか楽しそうだな」
「街が三つあって鍛冶中心、研究中心、開発中心にわかれてるにょ」
「ポピンは何処の出身なんだ?」
「私は技術の街に産まれて、学校は研究の街に行ったにょ」
「だから両方できるのか」
自慢げなポピンは前を向いてレグナントを操縦しているが、ドヤ顔をしているのは後ろ姿でわかった。
遥か地上にはメアナ国が見えてきた。
ユズハもメモをやめて故郷を眺めていた。
「三つのなかでも一番大きい街が、研究の街【テレルシア】にょ」
「街に名前があるの初めてだな」
「あら、そんな事ないわよ。メアナにも街の名前あるわよ」
「そうだったのか?」
「まあ今までは、行った街で完結出来てたからにょ」
「ほかの街は?」
「技術の街が【エルシア】、鍛冶の街が【スティーシア】にょ」
「ポピンちゃんは鍛冶は全くなの?」
「ふっふっふ 実はできるにょ」
「そう言えば、天機師って二人いるんだろ?」
「そうにょ?」
「もう一人は何処にいるんだ?」
「私もポピンちゃん以外しらないわぁ」
「そりゃそうにょ、私が産まれたぐらいから天機師らしい事はしてないらしいにょ」
「でも今も天機師ではあるんだろ?」
「もう引退してるようなもんにょ、家で好きな事やってるにょ」
「爺さんかよ、引退って」
「そうにょ、私のお爺ちゃんがそうにょ」
『えぇ!』
「あれがエリーテレルにょ」
悠真の肩にもたれかかって寝ていた春がビクッとなる。
驚いている間も与えてくれず、窓から地上を眺める。
今まで何度か通ったはずの場所だが、意識して見たのは初めてだった。
はっきりと見えはしないが、黄土色の街並みが見える。
モクモクと煙をだす煙突が、メアナやフェルナとまったく違う印象を与えていた。
「さぁ、アルスティアが見えてきたにょ。みんなを起こしてにょ」
無事に到着して間も無く、予想通りその日はセイラに捕まったのだった。
そして瑞璃家の蒼真の部屋では…
コロンッ
「ん?」
「おや、悠真達ちゃんと七種みつけたんだね」
そっと藍の宝玉を胸に当て、吸収した蒼真がいた。
□□□□□ラティの日記□□□□□
◯月×日
お姉様は大興奮で待っていた。
夕食の間も、皆が帰った後も。
こんな時は城で暮らす私は損をした気分だ。
あげく一緒に寝るといいだした。
春…王姫になったのだから
たまには城に泊まってくれないかな
そしたら私は解放されるのに…




