第五十二話 瑞璃悠真
三人が振り返る。
一人離れた場所にいた春に、守る術はなかった。
声も出せない。なにもできない。
向こうから自分目掛けて悪霊が迫ってくる。春には、それしか分からなかった。
せめて天照様に祈りを――
春は龍神の爪に捕まれ空へ舞った。
「春!」
「春ちゃんっ!」
斬撃を出そうか迷ったメティラに蒼真は手をかざす。
やめろの合図だった。
悠真は龍神の真下まで走り見上げる。
龍神は悠真を見下ろしながら、春を自分の胸に押し当てた。
ズブズブズブ―――
霧のなかに埋め込まれていく春。
龍神は咆哮をあげた。
「春・・・」
春を取り込み終わった龍神は、悠真に攻撃を始めた。
受け流すが、返す事ができない。
春に影響するのかがわからないからだった。
蒼真達も加わるが、防戦一方となりやがて弾かれた。
吹き飛ばされ血を流す三人。
「春!春を返せこの穢れめっ!」
メティラが突っ込むも尾で弾かれる。
まるで子供が石ころを蹴飛ばしているかのように、巨大な龍神にあしらわれた。
ポピンとユズハは祈る事しかできない。
功は回り込み、祠に向かっていたが龍神に気づかれ深傷を負った。
蒼真は考えているが、正解を導きだせなかった。
なにが有効なのか分からない。
悠真は尾の先を切りつけた。
春には影響がないのかもしれないが、すぐに元にもどる。
なにも手立てがないまま、三人はボロボロになっていった。
何度も切り掛かる悠真。
その度に弾かれ、龍神の爪が脇腹に突き刺さった。
内臓が傷つき、一気に吐血した悠真。
力と目の光を失い、投げ捨てられた。
「悠真!」
ユズハがすぐに薬を与えに行くが、龍神はその道すら塞いだ。
蒼真達が引きつけ、気を引いた間に薬を飲ませようとしたユズハは、薬瓶を落とした。
悠真の鼓動は・・・止まっていた。
「悠真!だめ!死んじゃだめよっ!」
ユズハは無理やり薬を胃に流しこむ。
ありったけの薬を傷口に塗った。
ポピンも駆けつけて、悠真を木の陰へ運び、胸の辺りを激しく推し続けた。
「悠真、しっかりするにょ!」
「ゆ、悠真・・・」
なんとか戻ってきた功も悠真をみて愕然とした。
「くっそ!くそっ!」
泣きながら、メティラはもう諦めたかのように斬撃を放った。
しかし、その斬撃さえも龍神には効かなかった。
真っ暗な球のなかで意識を戻した春。
うっすら外に見える戦いの景色。
――ここどこだっけ
あぁ、そうだ
私、悪霊に捕まったんだ
私はこれで終わりなのかな
穢人になっちゃうのかな
役にたてなかったな
悠真
悠真のそばにずっといたかったな
でも迷惑だったかな
迷惑だよね
だったらこのまま
私は終わった方がいいのかな
そうすれば悠真もきっと楽になれるよね
どうせなら
悠真に祓ってもらいたかったな
天照様
そんな最後の願いを叶えてくれますか―――
ゴブッ!
血を吐き息を戻した悠真。
目の瞳孔は開いたまま、意識はない。
――ポピン?ユズハ?
何を言ってるんだ?
ちょっとどいてくれ。
行かないと―――
悠真の意識は静かな(無)の中にあった。
一歩、また一歩、ゆっくりと
光に照らされた道を歩いていた。
その先に居るのは黒い霧だった。
そして黒い霧につつまれた春を見つける。
春?
春?なにしているんだ?
なんで何も話さない?
なんで、そんな悲しい顔をしている?
・・・・・
あぁそうか
俺がそうさせたのか
俺が悪いんだな
・・・・・
そばにいて欲しい・・・
嘘じゃないんだ
でもお前を守る力がないんだ
どうやっても上手くいかないんだ
だから逃げていたんだ
勝手だよな・・・
でも間違ってたんだな
お前が横にいるから守れるんだな
そうだよな春・・・
ごめんないつも迷惑ばっかかけて
もう迷わないよ
お前のために戦うよ
春のために
災厄を終わらせたらいいんだ
だから笑ってくれ・・・
まだ俺を愛してくれるなら
俺も迷わずお前を愛すから・・・
光の道が消えた。
悠真は悪霊の前に立っていた。
手に握る天霞が眩い光を纏い、龍神を切り裂く。
霧が元に戻らず、切られた場所から浄化されていく。
(なんだ・・・この力は・・・何の力なんだ)
覗いていた夜過神は想定外の出来事に赤い口をとじた。
龍神も腹から下を切り裂かれ浄化が始まっているので、うまく身動きが取れない。
(俺の春をかえせ)
言葉は発していない。
だが、その思いは全員に聞こえた。
悠真の体から神々しい光が放たれる。
この世の全ての生き物も、神すらも眩しい光だった。
唯一その光を見れる者・・・
―― ようやくですね、悠真。
あなたに加護を授けます。 ――
悠真の体が宙に浮かぶ。
背中が焼けつく熱さを感じる。
皆には、悠真の背中が燃えているように見えた。
そして・・・悠真の背中から光の翼が広がる。
燦々と輝く太陽の様に、悠真は空から龍神を見下ろした。
「もう、お前に与える慈悲はない。魂まで焼き尽くす・・・」
――神響術
天照の焔【獄炎】――
護符も使わず、言霊すら唱えなかった。
炎の渦に包まれた龍神の周りの水は一瞬で蒸発し、剥き出しの大地が裂け、その隙間から獄炎の溶岩が吹き出した。
龍神と祠、黒の神霊石もが真っ赤な溶岩の炎に包まれ、焼き尽きた。
(天照 これが始まりだ・・・・)
獄炎が消滅し光が地面を這うと同時に、泉は清らかな水にあふれ平穏な空気に包まれた。
光に包まれ、浮かんでいた春が悠真の腕に落ちる。
「ゆ・・・うま・・・・?」
朦朧としている春に涙ながらに柔らかな微笑みを向ける悠真。
春を壊れ物でも扱うかのように優しく横抱きにし、皆の方に泉を渡り始めた。
澄んだ水に眩しい太陽の光が反射し、二人を輝きの中へ導く。
悠真は何も躊躇うことなく素直に呟いた。
「愛しているよ 春・・・・」
□□□□□ラティの日記□□□□□
◯月×日
我々はまだまだ非力だ。
夜過神。
倒すことができるのか。
それから。
悠真・・・・背中に翼が生えてた・・・
あいつ・・鳥だったのか・・・




