第五十一話 瑞璃蒼真
こんな蒼真は誰も見た事がなかった。
いつも飄々とし、何を考えてるのかすらわからない男。
常に笑顔で、情けないところしか思い浮かばない。
「僕の大事な弟を穢れにしようとは・・・・流石にちょっとね・・・」
その鋭い眼光は龍神を射抜いていた。
体から湧き上がる恐ろしいほどの残響。
それでいて光は包み込むように揺らぐ優しい蒼色。
「今日はね、我慢の限界なんだよ・・・・。」
龍神も霧を吸収しながら蒼真を見つめる。
少し震えているようにも見える姿は、蒼真の圧倒的な力を前にしたからかもしれない。
「終わりにしよう。」
ガァ!ガァガァ!!ガァガァガァガァ!!!!!
再びカラス達の鳴き声が聞こえてくる。
「我が眷属達よ・・・其方らに命ずる。やつを捕えろ・・・・」
カラスは一斉に龍神に覆い被さり、三本の足を喰いこませた。
そして一つの大きく太いしめ縄へと変化する。
ヒュウゥゥー・・・・
周りの残響が一斉に蒼真へ吸収されていく。
朱印を刻んで集中している蒼真に吸収された残響が天へ昇りその道を通り光が降りてきた。
ドクンッ!
一瞬、蒼真の体が波打つ。
そして、少し笑顔を見せたのちメティラに視線を向けた。
「メティラ、お前も我の子なら見ておくが良い・・・・ま、これは此奴しか使えんがの。」
「蒼真殿・・・?」
蒼真の右手のひらが、龍神に向けられた。
―――共鳴神怒【極】―――
一瞬だった。
その言葉が発せられた途端。
手の平から放出された光は龍神を包み、そして消滅した。
何も華やかな演出などない。
ただ・・・いつもの蒼真からは想像もできない
恐ろしい力だった―――
「すごい・・・やっちまった・・・」
「蒼真殿・・・・感謝する・・・」
「兄貴・・・・」
蒼真はまだ警戒を解いていなかった。
やがて・・・祠の扉が勝手に開く。
そこにはやはり黒い神霊石が置かれてあった。
そして大気中の何かが祠の中に勢いよく吸い込まれていく。
再び扉が閉まった祠・・・。
全員が息を呑み、見つめる。
「悠真とメティラの回復を急げ」
「はいっ!」
蒼真に言われてユズハは薬を飲ませ、神の加護で二人を癒す。
「ポピン、レグナントはすぐ飛ばせれるか?」
「大丈夫!」
「功、もう護符はないのだな?」
「はい・・・先ほど三束使い込んでしまいました。」
「春」
「はぃ・・・」
「・・・・下がっておけ。」
ドンッ!
祠の屋根を突き破り、黒く禍々しい龍神の形をした霧が天へのぼり、渦をかく。
膨張した霧は白い目を見開き、龍神の形が失われた悪霊が空に現れた。
蒼真は【月影】を抜き、迫る悪霊の攻撃を弾き返す。
何度も繰り返される攻撃に蒼真は後ろへ押されていくのだった。
――神響技【満月】――
月影をひと回しして、円を描く。
書かれた円は光の壁となり、攻撃を防ぐ盾となった。
キンッ!と悪霊の攻撃を防ぐ間に言霊を唱える。
――神々の残響よ
我が寒固の牙となり悪霊を封じたまえ――
神響術【氷牙】
百本の氷の牙が悪霊に突き刺さるが・・・・すぐに元に修復された。
その間にも蒼真の足は前へ進んでいた。
やがて泉の辺りまで進む。
「メティラ、動けるか?」
「大丈夫だ蒼真殿!」
メティラは蒼真の後ろまで進んだ。
「意識を集中しろ。其方も我の子なら、加護を意識するのだ。」
「加護・・・」
メティラは目を閉じ、月詠の声を思い出す・・・。
(わが魂の・・・セレノス神様・・・・)
ふっと体が暖かくなった。
残響を多く蓄積できるようになった時とは違う暖かさ。
手の甲の紋章が光る。
「メティラ、手数で押し切りたい。残響が続くまで斬撃を打ち込んで欲しい。」
「承知した!」
銀針セレネスが無数の斬撃を繰り出す。
蒼真自身も【氷牙】を放ち続け、黒い水を渡ろうとしていた。
「蒼真様!水は危険です!」
「功、案ずるな。」
蒼真は浮いていた。
黒い水の上に氷を作り、その上を歩いているのだ。
「なんと・・・・」
「すごいにょ・・・蒼真。」
メティラの斬撃で悪霊は削られては戻りの繰り返しだった。
追い討ちの氷牙を打ち込んだ時、悪霊が動いた。
黒い霧が蒼真目掛けて伸びてくる。
そして蒼真の直前で分裂し、四方八方から打ち込んだ。
「ほぅ」
――神響技【夜水面月】――
月影で描かれた円は無数にわかれ、全方位を防御した。
悪霊は一歩さがった。
「メティラ!斬撃をとめるな!撃ち続けろ!」
「はいっ!」
ひるむ悪霊に近づいていく蒼真。
悪霊はたまらず霧で水を汲み、後ろの功達に投げつけた。
――神響術【焔】――
投げつけた黒い水に【焔】をぶつけ、蒸発させる。
蒼真は皆に向けて言った。
「お前達は次の行動が遅い。一つ仕掛ければ終わり。続けて攻撃されれば、防御にたよる」
「・・・・」
「先を読め!すぐに行動しろ!もっと想像しろ!」
もちろん、誰も言い返す言葉はない。
今それを実技指導されているようだった。
「メティラ!前にすすめ!」
言われるがまま進むが、黒い水の手前で止まった。
――神響術【氷板】――
水が蒼真の周りから凍っていく。
泉一面が氷となった。
「すすめ!まだまだ斬撃で悪霊をひるませろ!」
「うおぉーっ!」
メティラの斬撃が勢いをまし、悪霊を削っていく。
蒼真は頷く。
「そうだ!策がないなら、一番有効なものを当てつづけろ!」
「はいっ!」
「足場が悪ければ解決策をさがせ!攻撃が効く、効かないよりよっぽど解決策はある!」
蒼真は祠を視界にとらえていた。
離れて祠を狙っても悪霊が身を挺して守るだろう。
蒼真はやはり直接叩く事をえらんだ。
「メティラ!まだ大丈夫だな!?」
「いけますっ!」
「右半分.上半身だけを狙え!」
メティラは一度深呼吸し、銀針を握り直した。
――レゾナス・アーツ――
残響をさらに纏い、力をこめる。
速度のあがった斬撃はどんどん悪霊を削った。
再生が間に合わないほどに。
「いいぞ!そうだ!それを忘れるな!」
蒼真は再び前に進みながら言霊を唱えた。
――神々の残響よ
我が極寒の氷粒となり悪霊を貫きたまへ――
神響術【氷結】
幾万の氷の粒が悪霊に向かって降り刺さった。
悪霊はうめき、悶えながら消えていく・・・
泉の水からも黒い霧が蒸発し、再び清らかな水へと戻った。
「やった・・・」
メティラが座り込む。
功とユズハがメティラに向かってきた。
「大丈夫?はい、回復薬飲んで」
「メティラやったな!よく頑張った。」
ポピンも座ったままの悠真の肩に手を置いた。
「蒼真すごかったにょ。」
「あぁ、俺の兄貴はすごいだろ・・・」
「あ、あの悠真・・・」
「春か、どうした?」
「あの、ごめんね・・・私なんにも役に立ててない・・・」
「仕方ないさ。」
向こうを向いたまま、投げられた悠真からの言葉。
春は自分一人、置いて行かれている気持ちになった。
首を降り、少し離れた場所に座った春。
その顔から笑顔はとっくに消えていた・・・
「蒼真様、黒の神霊石を潰さないと・・・」
「功、そうだね・・・」
「?」
蒼真は目を瞑ったままだった。
なにかを探っているような、頭痛を我慢しているような表情をして、それ以上はなにも言わず、動きもしなかった。
そして、蒼真は月影を握り直した。
「功、メティラとすぐにさがれ!」
「は、はいっ!」
言われた通りにメティラに肩を貸して岸まで戻った功。
ポピンとユズハも功の横にならんだ。
「どうしたにょ?」
「わからん・・・蒼真様が下がれと。」
「まだ・・・終わってないの?」
皆が見つめる先・・・
災いが起ころうとしていた。
黒の神霊石が、祠から浮かび上がる。
再び噴き出す黒い霧。
霧は、空を覆うほどに膨れ上がる。
人の形にも、龍の形にも見える。
だが、その輪郭は常に揺らぎ、誰一人として正確な姿を捉えられなかった。
ただ二つの白い目だけが、こちらを見ていた。
そして闇の奥で、耳元まで裂けた赤い口がゆっくりと笑った。
「な、なんなにょ・・・」
「嫌だ、嫌だ・・・」
ポピンとユズハは抱き合って恐怖を感じていた。
他の者も、足がすくみ体が勝手に震えている。
それは闇に響く声で話し出した。
(残念だ・・・神の子がそろってしまったようだ・・・)
揺れる赤い口がさらに笑う。
(おや、その中にいるのは月詠かい?久しいねぇ・・・)
月詠と言われた蒼真はその霧をすごい形相で睨んでいた。
(睨まないでよ・・・私は消滅の慈悲を与ようとしてるだけ・・・)
月影を握り締めた手が震えていた。
「・・・夜過神」
(はっはっは そうだねぇ 今はそんな呼ばれ方だったねぇ)
(もう邪魔はしないでくれるかな)
「馬鹿な事を。」
(馬鹿・・・そうだね そうなんだろうねぇ)
(だからやっぱり消滅の慈悲を人共には与えるべきだ・・・)
再び赤く大きな口が笑った。
(さあ 龍神 まだ役目は終わってないよ・・・)
空を覆い尽くしていた霧がしぼみ、蒼真が【夜過神】と読んだ霧は龍の形をした悪霊へと変化していった。
(そうそう 月詠 もう君はなにもできないよ)
(術を掛けたからねぇ 神は大人しく神の場所に戻るべきさ)
蒼真は龍神の悪霊へと変化している霧を見ながら後ろに下がった。
(私も下がってゆっくり見せてもらう あとは龍神にしてもらう・・・)
――龍神 姫巫女はじゃまになるねぇ――
霧は勢いを増して龍神の悪霊となり、夜過神の気配が消えた。
更に力を増した悪霊が咆哮を上げる。
蒼真は悠真や春達をみてから、メティラにいった。
「我はここまでだ。 先程の事を忘れずに戦うのだぞ。」
「は、はいっ!」
蒼真の体が一瞬光り、ふらついた。
「蒼真殿っ!?」
「メティ・・・もう私は、共鳴神怒【極】の様な大技は使えないからね・・・」
「承知した・・・今は蒼真殿なのか?」
「いゃあ、頭に血が登ってねぇ・・・でも詳しくは倒してからだ。」
「わかった。」
龍神が襲いかかってくる。
蒼真は腰の鞄に手を入れて、功に投げる。
「つかえ!」
「ありがとうございますっ!」
一束の護符だった。
すぐさま功は身体強化、結界をかける。
メティラは効果があった斬撃をくりだす。
蒼真も反対側から切り込こんだ。
「俺ももう大丈夫だ、行ってくる。」
「無理するなよ、悠真。」
「あぁ!」
三人係で切り込んだ時、龍神は垂直に避けた。
そして、角度を変え一直線に飛んだ。
春目掛けて・・・
□□□□□ラティの日記□□□□□
◯月×日
蒼真殿、いやセレノス様?
強い。
かっこいい。
でも、等々災厄の正体がわかった。
夜過神・・・一体なにものなんだ――




