第四話 来訪者
「明日かな...」
蒼真が呟いたその言葉が頭から離れない。
飲みすぎて頭も痛い。
でも考えずにはいられない。
「なあ蒼真、本当に何が起こるのかわからないのか?」
朝から部屋には悠真、蒼真、功と春の四人だけがいた。
悠真は気を使わない仲間だけの時は兄を【蒼真】と呼び捨てにする。
「わからないよ」
いつもの事だから慣れているはずなのに、なぜか今回は何度も蒼真に問いただしている。
「まぁまぁ悠真様、お茶入れましたから飲んで下さい」
「そうだぞ悠真、あんまり蒼真様をいじめるなよ」
春と功にそう言われると、気持ちを押さえるしかなかった。
気持ちを切り替える為にもなにかしなければと、悠真は街に出た。
ちゃっかりと春も付いてきている。なぜか功も。
「そういえば功様〜 私に聞きたき事あったりしません〜?」
「ん?何もないぞ?」
功は秋花の事を春に知られた事に気付いていなかった。
「本当ですか〜? 私、こう見えて侍女頭なんですよ〜?」
「え・・・それがなにか?」
「私、侍女の事なら悠真様より詳しいんですよ〜」
功は理解し始めた。今自分は蛇に睨まれたカエルなのだと。
「な、何を言ってるんだい春ちゃん?」
「秋花可愛いですよねぇ〜」
功は石になった。
「悠真!春に言ったのかっ!?」
「いや、俺はなんにも」
春は目の前のカエルをどう食すか考えている。悪い顔で。
「じゃあなんで!?」
「なんでって、昨日自分で言ったんだよ。俺に秋花は元気かって聞いただろ?」
「あぁ」
「その時お前の真後ろに春がいたの気づいて無かったのか?」
「え・・・」
功は岩になった。
そして春は大きな口を開き、岩の様に動かなくなったカエルを飲み込みはじめた。
「功様?秋花の理想の男性しってますぅ? つい最近そんな話で盛り上がったんですよねぇ」
「お、教えてくれるのか?!」
功は飲み込もうとする大きな口を両手で掴み堪えた。
「はてはて、何を教えるのですかね?」
「・・・」
「私、お腹すいたなぁ!あそこの串焼き美味しそぅ!あっちの大福もっ!」
「・・・」
功は抵抗虚しく、まずは腰まで飲み込まれた。
「悠真様!功様が奢ってくれるとおっしゃるのでちょっと行って来ますね! さぁ功様、お待たせしました!」
功、ご愁傷様。もう逃げる事はでき気ないだろう。
しかし自由な侍女だ…
2人をほっといて悠真は皇宮のすぐ横にある社にやってきた。
術に使う護符の紙をもらうのである。
神響術は言霊を唱え、護符に神々の残響を集めて行使する。
書ける物ならなんでも良いのだが、神に使える役目を持つ神主や巫女が作る護符用の紙は威力が違うのである。
「八十吉さん!」
「これはこれは悠真殿、ご無沙汰しております」
この社の神主、八十吉に声をかけた悠真は欲しい紙をつたえる。
「三束でよろしいのですね?」
「はい、お願いします。」
「どうですか、上級に近づきましたかな?」
「まだまだですよ。先日も父上の見様見真似で行使した【天照ノ焔】は護符を焦がしただけでした。」
「ははは、そうでしたか。悠真様はまだ28歳でしたかね?これからでございますよ。」
まもなく本殿から巫女が紙の束を運んで来た。
「お待たせいたしました。綴神の残響紙でございます。」
「ありがとうございます。それではまた来ます」
悠真は紙代となる賽銭をし、手を合わせた。
「さて、あいつらどこ行ったんだ?」
功と春と落ち合おうと考えて歩き出した時、皇宮の何千枚とある瓦が光を放つ。
「これは!?結界が発動したのか!?」
術印が刻まれた瓦は、普段から皇国全体を包むように結界を発動している。その瓦が更に力を使おうと出力を上げたのだ。
「何が起こった・・・?」
皇宮の入り口までやってきた所で皇護衆達が防衛陣形を組み始めている事に気づいた。 やはり何かあったのだ。
「おい!上級神響術、瑞璃家の者だ!どうした!?」
近くにいた皇護衆に聞くが、彼も訳が分からず動いているようだ。
無理もない。もう何百年と争い事は無かったのだから。防衛陣形など使う事があるとは思っていなかっただろう。
「はっきりとわかりません! 陣形の指示があっただけでして」
皇護衆の声が終わる前に、空から低い唸りのような音が響いた。
ゴォォォォォ・・・・
地鳴りのような重低音。
周囲の者達も一斉に空を見上げる。
「なんだ・・・?」
悠真も視線を上げた。
青空の彼方。
雲の向こうに巨大な影が見える。
最初は山だと思った。
だが違う。
その影はゆっくりと動いていた。
やがて雲を突き抜け、その全貌を現す。
巨大な船が空を飛んでいる・・・
白銀の船体には無数の術印が刻まれ、船体は蒼い光が流れている。
何枚もの浮遊帆が風もない空で大きく広がり、船首には翼を広げた神鳥の彫像。
「あれは敵襲なのか!?」
誰かが叫んだ。
その声に周囲がざわめく。
悠真は思わず息を呑む。
次の瞬間。
皇宮上空に浮かぶ物体へ向け、結界の光がさらに強く輝いた。
歓迎ではない。
明らかな警戒だった。
悠真は驚きと恐怖と高揚感を隠せない。
「どう悠真?」
そこには、いつの間に現れたのか蒼真が立っていた。
「蒼真、これは・・・・」
悠真の脳裏には昨夜の言葉が蘇る。
蒼真は空に浮かぶ神翔船を見上げながら、静かに笑った。
「ね、今日世界が変わったでしょ?」




