第四十三話 平和な日
「さぁ!帰りますわよ!」
セイラ様の声が昼食後のまったりとした時間を突き破る。
薬草畑でユズハが神の力を使った次の日の事だ。
「ユズハ、分院長さんに挨拶はしなくていいのかしら?」
「はい、もう済ませて来ました」
「そう、では参りましょう」
悠真達は世話になった国立治癒研究所メアナ分院を後にする。
浮かんだレグナントを、分院の皆が手を振って送り出してくれた。その中には分院長ユウコの姿もみえた。
―みんな行って来ます。ユウコさん…お元気で―
ユズハにとってユウコは、薬草学の師匠であり長い時間共にした親とも呼べる相手であった。最近は体調を崩し気味な事が心配で、アルスティアにポピンと行く前の日の夜も、遅くまで悩み相談したのだった。
―あなたの運命は人々を救う事。その中に私も含まれているのよ―
悩むユズハにユウコはそう言った。その言葉で分院を去ることを決めたのだった。
「ところでポピンは何してる?」
「お姉様が言うには、やる事があるとかで研究所に居ると」
「なんかやる事あったか?」
「いやわからん。神霊石の事でなんか思いついたとか?」
「ポピン先生はやはり熱心な方なんですね」
『……』
「いや、ただの研究オタクだな」
「いや、変態だろ」
「何を言う!ポピンはどっちもだ!」
「かばえてないよ、メティ」
「え、そうなのか?」
「ふふふ、メティラさんも皆さん面白いですね」
『…』
「ユズハ殿。もう私達は仲間だ、堅苦しいのは無しだ!」
「あぁ、俺達も今からはユズハと呼ぶ」
「うん、だからユズハも左から(馬鹿悠真)(堅物功)(脳筋馬鹿メティ)(可愛い春)って呼んでね!」
「だれが堅物だ!」
「可愛い春って…」
「脳筋馬鹿…」
「ふふふ、でも王姫様に向かってメティと呼ぶのは」
「その王姫様を脳筋馬鹿と呼ぶ奴もいるから大丈夫だユズハ」
「テヘッ」
「褒めてないし、照れるところでもない!」
「しかもこいつ全く王姫らしい事してないから」
「なにを言う!たまにはしているぞ!」
「そんなメティを初めて見たとき、美人と言ってたの誰だったかな」
「悠真…そんなに私は美人なのか?悠真好みなのか?」
「ははは、なんだよいきなり」
「ゆ、悠真。なんなら隣に座ってくれても良いのだぞ…」
「メティは何を言い出す!」
「遠慮するな!ひ、膝枕ぐらいならしてもいいぞ!」
「ふふふ、仲がいいんだね皆」
春はメティラを睨みながら思いっきり悠真の腕を抓っている。
顔を歪めながら悠真も余計なこと言うなとばかりにメティラを睨んでいた。
「はっはっは!ユズハ、あの二人をからかうのが一番面白いんだ!」
「それは間違いない」
「そうなんだぁ」
「悠真はユズハを初めて見た時、薬草のいい匂いがする綺麗な人って言ってたしな!」
「えぇ…お姉さんちょっと嬉しい……」
「功!黙れ!ユズハまで!」
春の抓る力が益々強くなったのであった。
アルスティア到着後、国王と一時間ほど話し家路についた。
また明日、改めて謁見となる。
「お帰りなさいませ、皆様」
「カルラさん、ただいま!待ってってくれたの?」
「えぇ、春さんもお疲れでしょう。全員のご飯の用意してますから」
「わぁ!ありがとう、助かる!今から作るの嫌だなぁって思ってたんだぁ〜」
「それぐらい、私に任せてください」
「ありがとっ!そだ、紹介するね。新しい仲間のユズハさん!」
「初めまして、ユズハ・カルベートと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。私、功様の侍女のカルラと申します」
「では、私はこれにて失礼いたします」
「え、もう帰っちゃうの?」
「はい、今日は旦那が早く帰ってくる日なので」
「あ、わかった!ありがとうね」
皆は四階の共同で使う居間で夕食を取る事にした。
「カルラさんのシチューやっぱり美味しい!教えてもらおう!」
「確かにうまいな。雇い主の俺には挨拶もせず帰る奴だが…」
「ユズハの家だな。五階の功の横か、三階の俺達の横、あとはこの階の向こう側が空いているけど、どうする?」
「じゃあ景色が良さそうな五階でお願いしようかしら」
「了解、明日の謁見後になるだろうけど、良ければ買い出し付き合うよ」
「うん!私も!」
「俺も暇だし着いて行くとするか」
「あら、功が珍しい」
「なんだよ!」
「ふふふ、みんなありがとう」
「さぁ、食ったし俺は寝るわ。疲れた」
「あぁ、俺達も戻るか」
「うん。ユズハ、お布団とか持ってくるね」
「ありがとう春」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ユズハの加護すごかったね」
「確かに。あんな力、もはやユズハが神様みたいなもんだ」
「綺麗な神様でさぞ嬉しいでしょうね!」
「そんな事一言も言ってないだろ!」
「へへへ、ポピンもめちゃくちゃだったしね」
「あいつが脱出できてなかったらと思うとゾッとするよ」
「ほんと、まさかレグナントで突っ込むなんて…」
「あれで助かった」
「うん。そうだね」
「でもお前の変身もおどろいたがな」
「あれ、なんだろうね」
「本人が分かってないなら、俺がわかるわけない」
「確かに!小鏡を握りしめてたら、ふわっと言葉が浮かんでね、体があったかいと思ったらあんな格好になってた」
「天照様の力なんだろうな」
「うん、あの神霊石に護符貼った時は天照様の声が聞こえたんだよ!」
「なんか、数ヶ月で色々変わったな」
「…本当だね」
『……』
「さ、風呂入って寝る」
「私も一緒にはいるっ!」
「なんでだよっ!」
「入るなら先入ってこいよっ!」
「一緒に入るのっ!」
「先に!」
「一緒に!」
「先にはいれよ!」
「一緒にはいる!」
「先――」
「入る!」
「好きにしろっ!」
「はい私の勝ちっ!」
次の日、皆は謁見の間にいた。
今までと違い、王家がそろい多くの貴族や高官も同席している。
メティラはドレスを着てはいるが、こちら側に居た。だがポピンは未だ現れない。
程なくして、玉座の横の扉が開き護衛に守られた男が入ってきた。見覚えのある顔。
『皇王様!?』
その場に居た者達は深く頭をさげているが、悠真達は礼など忘れて驚きの声をあげる。
「悠真、やっとわしもこちらへ来れたわ!いや、素晴らしい所だ!」
「実は昨日から来られておったが、今日の方が時間がとれると思っての。お前達を驚かせたかったのじゃよ!」
「国王様…」
「ヴォルテクス・レゾナの事も聞いたぞ、頑張るのだ!」
「はい、それはもう…」
「それでは、今回のメアナでの活躍を祝して報奨式を始める!」
「褒賞式?」
国王が宣言し、皆が拍手する。皇王も笑顔であった。
「初めに瑞穂皇国、皇王と話した結果、其方ら【ヴォルテクス・レゾナ】は正式に両国共同特殊部隊となり、ここに承認を得たものとする」
貴族達は歓喜をあげて騒いでいる。
―結局は両方の国の面倒事を片付けろって事だよな―
「次に既に着用しておるが、専用装備の供給、補修、改修、新造は全て国家が保証する!」
「次に報奨金として五千万レナを与える!」
「次に…」
国王はちらっと横の高官を見るが、その高官は横に首を振った。
「次に!セイラよ」
玉座の並びに立っていたセイラが一礼し、数名の事務官を呼ぶ。
次に高官が鮮やかな装飾を施した木箱を開け、中の物を事務官が丁寧に取り出した。
「ヴォルテクス・レゾナよ、人々を穢人の脅威から守護する者達よ!ここに、其方達だけの使用を許可された特別紋章を授ける!」
勢いよく四人の事務官達が広げ掲げたのは紋章。
術印が記された輪の中心から八本の羽が広がり、下には真っ直ぐのびた剣が描かれている。
輪は人々を守る永遠の誓、八本の羽根は八百万の神々を想像し、剣は穢人と戦う力を意味する物とセイラが説明した。
そして中央には共和国の象徴とも言える【碧の神霊石】が輝いていた。
観衆はどよめく。
その理由は国家として認められた紋章が【国家騎士団】しかないからである。
しかもその騎士団でさえ、紋章旗に神霊石が嵌め込まれてなどいないからだった。
しかも、八百万の神々とは瑞穂皇国は常識であっても、共和国には馴染みない言葉であり、この部隊が神巫海を跨ぎ、両国を守護する唯一の部隊として認められた事だと観衆達は思った。
「ありがとうございます」
「国王!ここまで素晴らしい褒賞をいただけるとは…私は感動しております!」
メティラはドレス姿である事を忘れているようで、いつもの騎士のように振る舞っている。
それを見たセイラは頭を抱える。
「では次に蒼星勲章を与える!」
また観衆はどよめく。
「蒼星勲章だって?上位二番目の勲章だぞ!」
「すごいな!」
「でも誰も反対はしないだろうさ!」
この国の勲章は【陽魂・蒼星・神翼】の順で上位勲章がある。
身を持って国を守り、功績を上げた者しか与えられない勲章だ。
「国王様」
「なんじゃ悠真?」
「流石に勲章まではいただけません」
「何を申すか、十分な働きであったぞ?」
「いえ、なんと言いますか…それをもらってしまうと、自由がなくなりそうで…」
「自由?」
「勲章に縛られたくないと言いますか、英雄扱いされたくないと言いますか…」
「困ったの…要らないと言われたのは初めてじゃ…」
「申し訳ございません」
ギュイィィィー!!
大きな音が聞こえてきた。
レグナントの音に似ているが、今まで聞いたことのない音だった。
「ジジッ…みんなーっ!!!!」
見たことのないレグナントの拡声器から聞こえてきた声。
紛れもないポピンの声だった。
「国王様ー!セイラ様ー!!お待たせしましたー!!」
皆は慌てる!
何せ、城の真横までレグナントで乗り込んできたのだから軍の皆は大慌てである。
セイラが月見台に駆け寄り叫ぶ!
「こらポピン!こんな所まで乗ってきちゃダメでしょ!!」
「あ、ごめんなさーいっ!!!」
「もう、あの子ったらにょん忘れるぐらい興奮しているわ、ふふふ」
「まぁ良いではないか。しかしさすが天機師よの。わずか五日ほどの期間でこれほどのものを」
国王はニコニコしながらポピンに早く来いと即した。
しばらくしてようやくヴォルテスク・レゾナ全員が揃った。
「では、最後の褒章として専用レグナントを授ける!」
もう皆は何も言わずに片膝をつき、深く例をし褒賞式は終わった。
皆それぞれ自由に話し始めた。
「勲章を断られるなんて初めてじゃわ」
「国王様、その浮いた資金を研究に回して欲しいにょ!」
「まだ予算が足りぬのか!?」
「ラティス!あなたはドレスをきている事をわかっているのかしらっ!?」
「お姉様ごめんなさい…」
「ユズハよ、其方の先祖はわが皇国にあると聞いたが、もう少し詳しく聞かせてくぬか?」
「はい!もちろんです皇王様」
悠真と春と功はそんな皆を見ながら笑っていた。
「今日は平和ね!」
「あぁ、平和だな」
「さっさと帰ろうぜ」
明日からまた何が起こるかわからない悠真達は、しばらくのんびりすることにした。
□□□□□ラティの日記□□□□□
◯月×日
まさか紋章がもらえるとは思っていなかった!
まさしく特別部隊だ!
ポピンの作った新しいレグナントにも早く乗りたいし!
嬉しいことがいっぱいだ!
お、お姉様は怖かったけど…




