表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神々の残響  作者: 蒼凪 悠
アルスティア国

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
43/59

第42話 命を育む者

まだ早朝だと言うのに、分院は慌ただしかった。

しばらくして、朝の回診に来てくれた医師の態度でおおよその見当がついた。


「お、おはようございます皆様!」

「先生おはようございます」

「ラ、ラティスさん...様!お身体の具合はいかがですか?」

「うむ、痛みはまだ残るが、折れたところも動くようになった。先生のおかげだ!」

「め、滅相もございません!私ごときが治療を施すなど…」

「どうしたのだ先生?」

「いえ、昨日までの無礼な言葉遣い…お許しください、何卒…」

「何を言っているのだ!患者に厳しく注意をするのは医師の勤ではないか?」

「いや、そうではございますが…はははっ…」

「?」

「ゆ、悠真様もかなり回復されたかと思いますがいかがですか?」

「俺にまで敬語か?まぁ先生のおかげで良くなったよ」

「功様も…」

「先生さ、ひょっとして俺たちが何者なのか気づいたのか?」

「ア、アルスティア軍特殊部隊の方々とは知らず、とんだご無礼を!」

「ははは、気にしないでくれ先生!俺たちはただの重症患者だよ」

「…ラティス様がまさか王姫様だったとは想像もせずどうしたら良いか…」

「そんな事は気にしないでくれ!私はただの軍人だ!」

「ま、まもなく王都から医師団が来られますので…し!失礼します!」


皆の気力が一気に下降した。


「これはお姉様が来るな」

「ああ、それでこの慌ただしさって訳だな」

「怒られるのか俺達…」

「どうだろう」

「セイラ様…来ちゃうの…」


ゴォォォー


いかにも巨大な物と思わす轟音が響いてきた。

窓から空を見上げたメティラが気弱に言った。


「軍の医療用レグナントとお姉様だな…」

「やっぱり来たの、セイラ様・・・・」


医療用レグナントに続いて、アルスティア国の紋章が描かれた皇族専用機と護衛機が続いていた。

今、メアナは共和国の長たるアルスティア国の皇族専用機を目にして、街中が大興奮であった。

子供はレグナントを見上げ手を振り、大人達は巨大な医療用機に驚いていた。

やがてレグナントは屋上に着陸し、慌ただしさを増す。


カッカッカッ!!


いつにも増して早歩きのヒールの音が響いてきた。

三人は寝具から動けないが春共々、背筋はピンッと伸びた。


ドンッ!


ドアが勢いよく開かれ、そこには息を切らしたセイラが立っていた。


「お姉様…」

「セイラ様…」


息を整えながら四人を順番に見つめるセイラ。

歩き出したセイラは悠真、春と功の頭をそっと撫で、メティラに抱きついた。


「もう!貴方達は!心配させないでくださいまし!」

「ごめんなさいお姉様…」

「ラティス、頑張ったわね…無事ならそれでいいの…」


本当に心配していた姉の目には涙が溢れている。

メティラもようやく気が抜けたのか、セイラにしがみ付き声を出して泣いた。


悠真達も仲睦まじい姉妹愛を見たからか目が潤んだ。

優しくメティラを抱きしめたままセイラは悠真達に視線を向けた。


「本当に…悠真も春も功もお疲れ様でした…」


セイラは涙を流したまま、皆にそう言って微笑んだ。

三人はなぜか恥ずかしくて、笑いながら俯く。


 ありがとう、大切な妹を守ってくれて―――


抱きしめていたラティスが落ち着いたのを見計らってセイラは立ち上がり、入り口の手前で待機していた軍医達に合図をした。


「まずは体を治しましょう」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


医療用レグナントの中はまさしく、空飛ぶ病院だった。

最先端の設備が揃い、全ての治療が出来るらしい。


「皆さん、ご気分はいかがですか?」

「ユズハさん!」


ニコッと笑うユズハには、もう不安は無さそうだ。

アルスティアに行く直前まで分院長と話込んでいたのを見た春は安心した。


「薬草を煎じて体全体を浸からせる、お風呂みたいなのに入るんだって」

「あぁ、薬浸包(やくしんづつ)の事だな。あれは気持ち良いんだ」

「なんだ?風呂みたいに入ったらいいのか?」

「呼吸器を付けて薬浸包のなかに沈むんだ」

「私、泳げないから怖い…」

「ははは、大丈夫だ春。体は固定されて息もできる」

「私が特別に薬草を調合しました、効き目があれば良いのですが」

「ありがたいユズハ殿!」


着衣はなにも付けずに入る為、男性用と女性用の部屋があり、それに従事する担当官も性別にあわせていた。

薬浸包は顔から胸の辺りまでが透明の、それ以外は中が見えない磨りガラスになっていた。

台の上に横になり、管が付いた何かを三箇所に貼り付けられ、呼吸器をつける。足首を固定され、包が被された。


「それでは注入します」


包の中にどんどん薬液が入ってきて、体全体を包み込む。

やがて薬浸包は垂直に稼働し、

少しぬるっとした液体の中で体の重さが消え、宙を浮いているような感覚だった。

体に貼り付けられた管で、体温や心拍をも確認できるらしい。


「ユズハ、貴方が言っていた事を見せてください。」

「はい、セイラ様」


浸かり初めて十分程たった時、ユズハが春とメティラが並ぶ薬浸包の前にきた。二人の包に手を添えてから、目を閉じて集中した。 今、ユズハは残響を集めているのだった。包に添えた手と、パッと開いた眼は翠色に輝いていた。


薬液の中に、添えた手の辺りから小さな気泡が発生して春達を包み込んでいく。


二人の心拍、体温、脈拍が上昇し、明らかに何かが起こっていた。 そこにいた医官達も不思議な光景に見入る。


やがで春とメティラの体が翠色の光に包まれ、光が消えると同じく、心拍なども正常値に戻った。


「終わりです。もう大丈夫。」 

「ユズハ、それが貴方の力なの?」

「はい、少彦名様から頂いた加護の一つ。【神の抱擁(ヴィータ・サルース)】です」

「……」


「薬液、排出し処理にはいります!」


薬液が抜かれて体温より少し低いお湯が注入され、それも排出された。


元の位置に戻った薬浸包が解放されるや否やメティラが叫んだ。


「なんだ!今のはっ!」

「うん、体が喜んでる!」

「どこも痛くない!」


メティラは薬浸包から飛び出し、素っ裸のまま跳ねまわる。

呆然とみていたセイラが我に返り、慌ててメティラを叱る。


「こらラティス!状況を考えなさい!幼子じゃあるまいし!」

「あ、ごめんなさい…」


布を被される二人。

ユズハを見返すセイラ。


「すごいわね…」

「でも、いつでも誰にでもとは行かないようです」

「それはどう言う事ですの?」

「この癒しの力は、試したわけではありませんが神に選ばれし人だけ効果があるようです…そんな気がします…」

「なるほど…」

「しかも、特別な薬草を必要とする…」

「それが、今回調合した物なのですね?」

「はい、あの祠の周りにだけ生えていた薬草です」

「神の薬草が必要…神も万能ではないのですね…」

「はい」

「でも誰もが欲しがる力には変わりないわね」

「…」


ユズハは同じ事を悠真と功にも行い、治療は済んだ。

その後は念の為、色々な検査を行い解放されたのだった。


「すごいなユズハさん!」

「びっくりだよ!完全に治っちまった!」

「なんか私!胸おっきくなったかも悠真!」

「……そか?」

「はい、むかつく」


医療用レグナントから皇室専用機へ移った皆はセイラからの質問攻似合っていた。

皆は初めて猪を見つけた所から話をする。

前もってセイラはポピンから話は聞いているので、再確認といった所だ。


「それでは今回の件は終了という事で大丈夫そうですわね」

「はい、お姉様」

「ところでサイカス大神官はどこへ行ってしまったのやら…」


ラティスは何も言わなかったが、知っていた。

月詠の眷属の白梟が命により長年、大神官として人化していた事。

そしてユズハを祠の神に会わすように伝えられた事。

この事は後にヴォルテクス・レゾナのメンバーにだけ明かした。

話も速やかに終わり、久々の自由となった皆は残りの今日を楽しんだ。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


次の日。

悠真、春、功、メティラ、ユズハの五人は薬草畑にやってきた。

あの日、少彦名から言われた通り種子を撒きに来たのだ。


「ユズハさん、種を撒くって意味わかった?」

「わからない…けど、多分…」


猪に荒らされたままの畑に踏み潰された薬草が無惨に枯れかけていた。

ここで多くの農夫が穢人と化し命を落とした。

その悲しい畑に再び生命の息吹を与えることこそが、ユズハの役目だった。


「春さん。いえ姫巫女様、お祈りをしていただけませんか?」

「私?」

「はい、それが必要なんです」

「わかった、やってみる!」


春は小鏡を手に、祠で行ったように祈りを捧げた。


「……」

「春、変身しないのか?」

「しないね…」

「なぜ?お祈り間違ったんじゃねぇか?」

「わかんない」

「春さん…きっとそのままでいいんですよ。」

「そのままで?」

「はい。だって今日は神様と繋がる訳じゃないですから、きっとそのままで」


春は困った。

あの時は陽菜様を思い描くと、自然と祈りの言葉が出てきた。

今回はユズハの言った通り、神と繋がるのではなく、亡くなった農夫を弔うのが目的だ。


「私ただの侍女なんで、弔いの言葉知らない…」

「難しく考えずに、農夫達の事を祈ってやったらいいんじゃないか?」

「俺もそうだと思うぞ」

「あぁ、春ならできるさ」

「あぁ、なるほど。それならできるよ…多分

春は小鏡を手に目を瞑った。

あの日の光景を思い出す…

そして心中で言葉を紡いだ。


 ――悪霊の手に(おち)て亡くなった農夫さん達

   辛かったよね 痛かったよね (くや)しいよね

   でももう大丈夫 (かたき)は取ったよ

   残した家族の事も心配だよね  

   でも大丈夫 みんなの分もきっと生きてくれるよ

   だから安心して 神様の元へ行ってください

   そしてみんなを見守ってあげて 

   それが みんなの次の役目だよ――


手にした小鏡が光、畑一面を包み込む。

彷徨っていた魂が、一斉に天へ登り始めた。


 ――ありがとう――


そう聞こえた気がした。

魂が昇天されたと同時にユズハが春の横で目を閉じた。

胸の翠の神霊石の首飾りを握りしめて呟く…


 ――無惨に散った薬草達

   貴方達の命を次の芽へ託しましょう

   この寂しげな大地の神々に

   貴方達の力を見せるのです――

  

   【生命萌芽(ヴィータ・ジェネシス)



ポッ ポッ ポッ ポッッ


ユズハが呟き終わった途端、畑のあちこちから薬草の芽が生えてきた。

双葉になり、茎は伸び無数に葉を付け風に揺られて甘い香りを放つ。

太陽に照らされ緑の葉達は生々と茂る。

あっという間に荒らされる前の薬草畑へと戻った。


「すげーっ!」

「これもまた…神秘だな…」


そしてユズハの近くには異様に葉が大きく、真ん中に人の顔ほどの膨らみがある薬草が育った。

中でモゾモゾ動き出し、その膨らみが裂かれた。


キュルルー!!!


中から飛び出てきたのは真っ白な体に、翠のまん丸とした瞳と額に金の模様がはいった毛皮をもつ【(うさぎ)】だった。

兎はユズハを見るなり耳を垂らし、可愛い鳴き声をあげて周りを飛び跳ねている。


「これがユズハさんの眷属!?」

「そう…なのかしら」


嬉しそうな顔をしてユズハはしゃがみ、兎の頭を撫でた。

兎も喜びされるがまま動かなかった。


「よろしくね」



□□□□□ラティの日記□□□□□

◯月×日


いやぁ、ユズハ殿はすごい!

包風呂の中であっ!軍内では(薬浸包)のことを(包風呂)って呼ぶのだ。

その包風呂のなかにアワアワが来た時の気持ちよかった事!

そしたらあっと言う間に痛みやら怠さがなくなったんだ!

悠真達にも見せてやりたかったぞ!

あ、悠真達もしてもらったのか。

しかも見せてやりたかったって、裸を見せることになるではないかっ!

まぁ…悠真ならいいかな(ポッ)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ