第四十一話 子守唄の女の子
「魂をお感じになられたと?」
「天照様や月詠様と同じく、我も魂を生み出したのじゃ」
「では・・・ユズハは少彦名様のお子なのですね?」
「・・・ユズハよ。其方は何を得意としている?」
突然話を振られたユズハは躊躇う。
春はユズハに笑顔を向けた。
「何も不安がることはないよ、ユズハさん。」
「あの・・・私は薬学を得意としております・・・」
「薬学とな!では其方、調合をする時などに素材の効能などが目に見えるか?」
「い・・・いえ。」
「そうか・・・確かに我が魂を感じるのじゃが。」
「あの・・・効能が見えるとかでは無いのですが・・・」
「申してみよ」
「すごく集中している時。新薬を発見した時に(目が緑に光っている)と・・・・」
「言われたの?」
「分院長がその時の様子を見ておられて、後で教えてくれました・・・・(不思議な力があるんじゃ無いか?)と」
祠の神霊石が突然に輝き出した。
春は少彦名が何かを確信したと感じ、手に持った榊を胸の前で両手に持ち一礼した。
ユズハは訳が分からず、春と同じように一礼をする。
「ユズハよ、其方の家系に【翠命薬盤】が受け継がれているのでは無いか?」
ユズハは驚いた顔をして祠を見た。
肩から下げた大きな革鞄をごぞごそと探る。
「名前は【薬盤】としか聞いておりませぬが、これは代々伝わるものです。」
ユズハは丸い翠色の石板を手にしていた。
薬として扱える素材は、この盤の上に乗せると淡く翠色に光る。
その光の具合で効能を判断するのだが、カルベール本家の血が流れ更には薬学を理解しようとする者だけが扱える【神具】として受け継がれてきた。
「薬盤も受け継ぎ、使いこなしておるか・・・」
「あ、あとこれも・・・」
ユズハは慌てて鞄から翠の宝玉から作られた匙を取り出した。
その匙を祠へ向けた時、また翠の神霊石が光った。
「ユズハよ!その翠命薬盤は薬神である我が、もう何百年前も昔に其方の先祖に与たものぞ!」
「はぁ・・・」
「そしてその匙で確信したわ!大昔、ユズハの先祖が我に使えと持ってきおった匙じゃ!」
「・・・・」
「こんな大きな匙、我に合わんわっ!と言って突き返してやったのよ!あの時の奴の顔ときたら!はっはっは」
「それはまだ神々と人が共存していた世界の話でごさいますね?」
「おぉ、そうじゃぞ巫女よ。あの頃は神も人も・・・共に歩んでおったわ――」
その言葉を発した少彦名の声は寂しそうだった。
春は何も返さず、再び一礼する。
「まぁよい!それよりユズハよ。其方は間違いなく我が子じゃ」
「そんな・・・私が貴方様の子とは・・・いったい」
「突然そんな事を言われても理解に苦しむわの!はっはっは!」
「・・・・」
「詳しくは巫女に聞くが良い。其方もまた、こやつらと同じく運命に従わねばなるまい。」
「運命・・・ですか?」
「其方に加護を授ける。薬神の子として大いに使うがよい!」
祠の翠の神霊石が浮かび上がり、そこから発せられた翠色の光がユズハを包む。
とても暖かく優しい光が、癒しの時間を与える。
光は一層強くなり、弾けた。
そこには翠色に光る目を持ったユズハが立っていた。
「ようやく我も瑞穂に帰れるわ。」
「少彦名様、天照様もお待ちでごさいます。」
「そうよの、何百年ここへ封じられておったのやら」
そう聞こえた後、翠の神霊石が二つに割れ、ユズハへ吸い寄せられた。
一つの神霊石は首飾りとなり、もう一つは薬盤の中央に埋まった。
「我からの贈り物じゃ、大事に持っておるのじゃぞ。」
「はい・・・ありがとうございます・・・」
まだ放心状態のユズハは無意識の中で礼を返した。
春はユズハのそばに行き、そっと肩甲骨の辺りに手を添えた。
「大丈夫だからね、なにも怖いことなんてないから。」
「ありがとう・・・春さん。」
「そうじゃ、他の神は眷属も与えておるのじゃったの・・」
「少彦名様、白蛇に白梟、狛狐がおります。」
「そうじゃのぉ・・・薬草畑で種を撒けばなんとかなるかの」
「種・・・でございますか?」
「あぁ、いまだ放心状態のユズハに言っても無理じゃの!巫女よ頼んだぞ。」
「承知致しました。」
「ではまたの。」
バタンッ
祠の扉が閉まり、少彦名の気配はなくなった。
ヘナッと座り込むユズハを見てクスクス笑う春は、いつもの姿に戻っていた。
「さて、帰りましょう。」
◇◇◇◇◇◇
ユズハが乗ってきたレグナントで分院へもどり、重症の悠真とメティラは絶対安静の即入院となった。
功も入院となり、動けるのは春とポピンだけだった。
二人はユズハに【神の子】について説明をしていた。
一人では不安だと、分院長のユウコと一緒に聞く事にした。
「私が神の子だなんで、まだ信じられない・・・」
「でも少彦名様に言われちゃったしね。」
春は結構軽かった。
なんにせよ、つい最近までただの侍女だった自分が、八百万の神々の最高神である【天照大神の巫女】となっているのだから。
「なんかこの数ヶ月で色々とありすぎて、驚くことがなくなってきちゃった。」
「確かに、それは言えるにょ。」
「私は信じるわよ、ユズハ。」
「分院長・・・」
「あなたの光る目を見た時からね。」
「・・・・」
「分院長、ユズハさんには私達に同行してもらいたいにょ。」
「私達の役目は【災いを払う事】だから・・・」
「・・・でも」
ユズハは分院長を見た。
――翠の瞳の女の子 優しい心の女の子
その子がそっとふれたなら
みんなは元気になったとさ
薬の神様あらわれて
褒美に匙をいただいた―――
分院長はここに来た日に歌ってくれた子守唄の続きを聞かせてくれた。
そして、ユズハの頭を撫でた。
「私ね、あなたの目を見た時に真っ先に浮かんだのがこの子守唄だったの。」
「分院長?」
「翠の目、優しい心。貴方の笑顔と貴方がつくる薬でみんなが元気になるんだって。」
「そんな大それた事・・・」
「あなたはその力で皆を元気にしないといけないわ。」
「・・・」
「研究の事は心配しなくていいから、いってらっしゃい!」
俯くユズハ。
褒めてもらい、皆の役に立つと言われて嬉しいのと、ここを離れる寂しさが渦巻いていた。
「ユズハ、貴方の役目を務めて来なさい。」
「分院――ユウコさん・・・」
「きっとできるわ、貴方なら。」
「はい、わかりました・・・」
(子守唄の女の子――私の憧れだったのよ、ユズハ――)
◇◇◇◇◇◇
次の日、ポピンはユズハを連れてアルスティアに戻った。
今回の報告と、新たなる子【ユズハ・カルベート】を国王に会わすためだ。
春は入院中の皆を見守っていた。
「悠真、少しはマシになった?」
「なってない」
「こんなボロボロな悠真、初めて見た。」
「毎回言われている気もするが。」
「ま、どれだけボロボロになっても、私の愛で完璧に直してあげるからっ!」
ドンっ!
春はいつものノリでつい悠真の肩を叩いてしまった。
「いって!」
「あ!ごめん!」
「馬鹿か・・・」
「ごめんね、大丈夫?」
「大丈夫だけどさ」
「私ったらつい・・・痛いの痛いの飛んでけーっ!」
「ガキじゃねぇわ」
「よしよし、悠真君泣かなかったねぇ、えらいねぇ!」
『・・・俺ら(私ら)がいるのわかってる?』
「あ、ごめんねぇ!仲良しな所見せつけちゃってぇ」
「うっせえ!お前ら別の部屋へ移動しろっ!」
「仲が良いのはいい事だ!」
一番重症だったメティラも粥を食べるまでに回復している。
やはり、神の子と言うだけあり、治癒は早いのかもしれない。
分院の医師や世話係も驚いていた。
「動けるようになったら、ユズハさんが言われたって言う畑にいかなきゃだな。」
「眷属がどうとかなんだろ?いいなぁ!俺だけ居ない!」
「功の眷属なんて、なる神獣が可哀想!」
「お前そんな事言うか!春もいねぇじゃねぇか!」
「私には悠真と言う眷属がいます!」
(あ、恋人や旦那ではないんだ・・・)
「ここでの件、全部終わったら早いうちに皇国へ帰らないとな。」
「なぜだ?」
「護符ないんだよ。」
「俺もだな。」
「防具も修理しないといけないぞ。」
「それは預けておくとして・・・」
「あの悪霊の力はすごかったな・・・」
皆、思い出して身震いをした。
功は火傷のような後がまだ残る首をさすった。
たまらず話を変える功。
「しかし、春は巫女だったな。」
「巫女だった。」
「あの巫女服にいつ着替えたんだ?」
『・・・』
「あまり、考えないようにしようではないか。」
「そうだな、考えてもわからん。」
「なんだよ、暇なんだし考えようぜ!」
「いゃ、辞めておこう。」
『・・・』
「春の榊と神楽鈴はどこから――」
『うるさいぞ功!』
◇◇◇◇◇◇
「ポピンよ、ご苦労であった。皆は大丈夫なのか?」
「ありがとうございます、国王様・・・」
「どうした?」
「申し訳ありません。私と春以外は重症を負って絶対安静で入院しております。」
「なんと・・・して容体は?」
「ラティス姫と悠真は全身打撲、内臓損傷、五箇所の骨折。功は全身打撲、三箇所の骨折と悪霊に掴まれた際におった首の火傷・・・」
「そこまでの重傷を負ったの!?」
「申し訳ございません、セイラ姫。私の力ではどうする事も。」
「あぁ、ごめんなさい。ポピンを責めている訳ではないのよ・・・」
「それから・・・猪にカイト級七号を体当たりさせて退治致しました。私が七号を修復不可能にしてしまいました。」
「あなた程のレグナントを大事にする者がそこまでしないといけなかったなんて・・・」
「よくやったな、ポピン。お前の心傷を察するぞ。」
「ありがとうございます・・・」
「ポピン、今三人は分院にいるのですね?」
「はい、セイラ姫。」
「これ!今すぐ医師団を向かわす準備をなさい!私も行きます!」
「はっ!」
「それで、そこの者がその・・・最後の神の子なのじゃな?」
「ユズハ・カルベートと申します。」
ポピンはセレノス大神殿での出来事も全て話した。
国王達は驚きの表情を隠せない。
「なんとも・・・神の子じゃとはな。」
「でも、なぜ悠真達が自然と仲間になったのか理解できましたわ。」
「そうじゃな。全ては神が託した運命・・・」
「しかし、ラティスは私の妹である事に変わりないのですね?ポピン」
「はい、そうサイカス大神官様は申しておりました。」
「父上様、私は医師団とメアナへ向かいます。」
「あぁ、じゃか叱ってやるなよセイラ。」
「はい。頑張ったのですから、たまには優しく致しますわ。」
「ユズハと言ったな。其方も運命を受け入れるのじゃな?」
「はい・・・」
「わかった。其方もたった今より、ヴォルテクス・レゾナの一員じゃ。」
「ヴォルテクス・・・?」
「ポピンに説明してもうがよい。 これ、ユズハにも防具を準備するよう、アルガル重工に使いをだせ。」
「はっ!」
「ポピン、貴方も戻るのかしら?」
「いえセイラ様、私には今すべき事がございます。」
セイラはポピンが天機師の表情になっているのを感じた。
研究者、開発者達は自分の分野の事に集中すると、止まらない事もわかっていた。
「わかりましたポピン。貴方も怪我をしているのですから、無理はせずに。」
「ありがとうございます――」
□□□□□ラティの日記□□□□□
◯月×日
体中が痛い――
でも骨はくっついた!
我ながら、人間離れした回復力!
早く治さないとお姉様に怒られる・・・怖い




