第四十話 神を繋ぐ巫女
「クソっ!体が動かない・・」
目の前には悪霊が赤い口を開けて笑っている。
悠真は天霞を杖代わりに立ち上がり、少しずつ後ろに下がった。
「功。どうにもならない時は・・・メティも置いて逃げるんだぞ。」
「・・・・わかってる」
「そんな!何いってるのよ!」
「・・・・うぅ」
「メティ!」
「は・・る・・・どう・・なって・・・」
「喋っちゃだめ!」
気がついたメティはボロボロになり後退している悠真を見る。
そして自分の体が言うことを聞かない事もわかった。
勝手に涙が流れるメティラ。
「こ・・う 逃げ・・ろ」
「馬鹿か!まだ逃げねぇよ!」
春はメティラの手に自分の手を重ね、何も言うなと首を振った。
(あぁ・・・セレノス様・・・私はなんとも情けない・・・)
(ああ・・・天照様・・・私は何にもできない・・・・)
「コン・・・なんとかなんねーかな、ははは」
きゅ・・・・
コンは悠真の頭に乗り、残響を分け与えた。
少しだが、体が軽くなる。
今は残響が足らないのではない、肉体が限界を超えているのだ。
コンには何もできなかった・・・。
猪の悪霊は悠真に攻撃を始めた。
霧でできた腕が伸びて殴りかかってくる。
「ぐわっ・・・・」
幾度か受け流したが、胸に当てられ吹っ飛ぶ。
そして体を地面に打ち付け、吐血する・・・。
骨も何本か折れている・・・。
しかも、悪霊に触れられた部分は黒く焦げていた。
「こりゃ直接皮膚に当たるとえらいことだな・・・」
「悠真!」
「くるなよ!」
走り出しかけた春を止める。
声を出すことも苦しくなってきた。
(コン、もう少し残響を分けてくれ・・・一発返したい・・)
コンは再び悠真の頭の上で集中する・・・
―――神々の残響よ
我が願いを聞き届けたまへ神国の子らを
滅ぼさんとす悪霊に獄炎の裁きを
穢れを纏う魂の嘆きを
祓い 安らかなる黄泉へ還したまへ―――
神響術 【天昇斬華】
激しい炎を纏った天霞が、悠真の代わりに猪の悪霊目掛けて飛んでゆく。
しかし、完全ではない悠真の神響術は悪霊の腕をかすっただけで、弾かれた天霞は祠へ飛んで行った。
その時、悪霊は慌てた様子で祠へ向かい、天霞を手で掴んだ。
グゥ!グゥワアァァ!!
まだ燃え盛る天霞を掴んだ手は腕から焼き尽くされ、浄化される。
しかし瞬く間に黒の神霊石から霧が漂い、猪の悪霊は元に戻った。
「くっそ・・・・不死身ってやつかよ。」
「今のは・・・今のは確実に・・・・」
気づいたのは功だった。
そう、あきらか様に祠を守ろうとした。
「黒の神霊石があいつの元ってことか・・・」
「功!どう言うこと!」
(だとしても、今の俺たちじゃ祠までたどりつけない・・)
功は春を見た。
何か言いたそうな功を見て春は言った。
「私に何か出来るなら言って!」
「いや、危険すぎるんだ」
「どっちみち後がないよっ!」
「・・・・」
「私だって、ヴォルテクス・レゾナなんだからっ!」
功は唇を噛んだ。
本来なら絶対に任せたくない。
だが、今ここで賭けるなら春しかいなかった。
春になにかあったら悠真になんて言ったら・・・
しかし。後がないと言う春の言葉は正解だ。
覚悟をきめて功は悠真の方へ走り寄り、痛み止めをわたす。
そして頭を下げた。
「すまん!」
それだけ言うと悠真から離れるように岸際を走る。
皆から距離を取った所で功は石を投げた。
「さあ猪の化け物!今度は俺が相手してやるよ」
功は自分の周りに結界を張り、守斬を抜いた。
悪霊は気にもしないようだったが、しつこく石を投げる功を嫌がり向かってきた。
功はなんとか立ち回り、少しづつ皆から離れていく。
「あ・・いつ・・・おと・りに・・・」
「へっ!いつも悠真にいいとこ取りされるからな!」
グァアア!
「うるせーよっ!俺は守り専門なんだよっ!」
功は何とか攻撃をかわしながら、悪霊を岸まで連れ出した。
だが、結界は確実に薄くなり、触れられた部分は焦げ体力は削られていった。
(たのむぜ、春・・・)
反対側からせせらぎを渡っているのは春だった。
手に護符を持ち、必死で祠へ向かっていた。
悠真は何も出来ないでいた。
だだ涙を流して春を見守るしか出来なかった。
祠の前に来た春は息をととのえ、功から預かった護符を黒の神霊石に貼ろうとした。
バチッ!
「キャッ!」
神霊石が護符を弾き返す。
それに気づいた悪霊は功に一撃を放ち、祠へ体をむけた。
吹っ飛ばされた功は残りの力を振り絞って切り掛かる!
背を向けていた悪霊に守斬の一閃が入った。
グァアアアァア!
功は喉を掴まれる。
防具の無い皮膚に直接触れられた功は皮膚が焼ける音と一緒に奇声をあげる!
「がああつっっ!!」
悪霊は功を地面に叩きつけ、祠へむかう。
「春・・・」
春はもう一度貼ろうとするが、同じく弾かれた。
悪霊はせせらぎを渡ろうとしている。
どうしようもなくなった春は咄嗟に小鏡を握りしめた。
(天照様・・・力をお貸しください・・・)
願いを伝えた瞬間。
春の周りが光に包まれ、小鏡が光る。
小鏡から発せられた光は黒の神霊石を照らした。
『さぁ、春。今です。』
(天照様・・・ありがとうございます)
春は護符を神霊石に近づけた。
今度は弾かれない。
―――わが母なる天照よ
其方が巫女の願いをききたもう
大いなる災いの元凶を封じる為
御身のお力をお貸したもう
畏み畏み―――
誰に教わるでもない祈りの言葉が発せられた。
護符はその刻まれた文字を光らせ、石に吸い付いた。
漆黒の神霊石は色褪せ、光ない石へと変化しひび割れた・・・
猪の悪霊は同じくして狂いだし、霧が体から消えて元の巨大猪へと戻り、せせらぎの中で力尽きた。
やっと終わったと力を抜いたその時、ひび割れた黒の神霊石の破片が浮き上がり、猪へ取付いた!
「まだなの・・・」
猪は再び起き上がろうとする。
「春!逃げるんだ!」
功の叫び声で我に返った春が慌てて走り出す。
起き上がった猪は春を見据えて唸り声を上げた。
キイィィィー
森の奥から突然聞こえてきた機械音。
それは悠真達の頭上を通過し、猪めがけて飛んでいく。
レグナント【カイト七号】だった。
「わたしわーっ!こんな事しかできないんだよーぉっ!!」
そう叫んで飛び降りたのはポピンだった。
転がり落ち、額から血を流したポピンは仰向けになり笑いながら手を叩いた。
「ドカーンッ!」
勢いを増したレグナントは猪を道連れに爆破した。
バラバラに吹き飛んだ猪と砕けた黒の神霊石の破片。
最後の黒い霧は恨めしそうに(ギギギィ)と鳴き残し消滅した。
そして、せせらぎの向こう岸には【カイト七号】の残骸が残った。
「あははは!・・・おわったにょ・・・ごめん皆んな遅くなって。ごめん・・・カイト七号・・・」
起き上がったポピンは悠真の元へ向かった。
「メティならいつもの事だけど、悠真が珍しくボロボロにょ」
「ポピ・・・たすか・・っよ」
「喋らなくていいにょ、ごめん。私の脚じゃ急いでも今になっちゃったにょ」
悠真は微笑んでポピンの頭を撫でた。
功も戻ってきた。
「やったなポピン。」
「功。今回は珍しく活躍したにょ?」
「うるせーよっ」
いつもの言い合いとは違った。
二人は手を弾いた。
「悠真!」
「はる・・・」
「もう!ボロボロになっちゃって!馬鹿っ!」
優しく春に抱かれた悠真は安心して気を失った。
春は顔をくっつけて抱きしめつづけた。
メティラは動けないが意識は戻り、皆を見つめていた。
(よかった・・・)
「春、無茶な事させてすまなかったな」
「ううん。天照様が助けてくれたから」
「そうか・・・天照様か。最強だな」
「うん!私!最強!」
「それは間違いじゃないにょ・・・」
遅れて分院のレグナントでユズハがやってきた。
「メティラさん、この薬を飲んで。傷薬の強力なやつだから。」
「メティもほっといてごめんにょ・・・」
メティラはポピンにむかって優しく笑いかけてからユズハを見た。
「ユ・・ズハど・・・の ほこ・・・らへ」
「祠?」
「ユズハを祠へ連れて行けばいいにょ?」
「はる・・と」
「わかったにょ」
春とユズハは祠の前に来た。
ポピンは神との繋がりを発動していた。
「なるほど。そこにある石は翠の神霊石にょ!」
「これが翠?でも翠は皇国のだよね?」
「うーん、そこまで解らないにょ」
術印が瞳の中に浮かび、光っているポピンをみてユズハは驚いている。
「春、小鏡は何も反応しないにょ?」
「今はなにも。でもメティが私とユズハさんって言ったんだよね?」
「そうにょ」
「なんだろね」
「ともかくアルシア様に祈ってみるにょ!」
「あぁ、わかった。わかったって言っても祈りって・・・」
春は頭によぎった。
陽菜の神楽を見た時の事を。そしてさっきの突然言葉にした祈りを。
――我が母なる天照様
其方より託された神陽の小鏡に
御心を映し給え
御力を宿し給え
畏み、畏みも白す――
小鏡から光が放たれ春を包み込んだ。
眩しい光がおさまると、そこには巫女がいた。
正しくは巫女装束になった春だ。
額には天照の象徴たる太陽の形を模した日輪の輪を付け、白衣は神々しい光を帯び、朱の袴は風もないのにゆっくり揺れていた。同じく白地に蛇、梟、狐、犬、兎を形どった金の刺繍が施された羽織を羽織っていた。
「だ、だれにょ!?」
「・・・さあ」
「さあ?じゃないにょ!」
「あの・・・春さんですか?」
「はい、春です。」
「なにすまして(春です)にょ!変身してるにょ!」
「ねぇ。もうさっぱり解らないわ」
「あの・・・貴方達はいったい・・・」
「話は後にょ!春、そんな格好になったからには神様となんか話せるにょ?」
「んー、なんかわかんないから祈ってみる」
「にょ・・・」
春は真面目に小鏡と神楽鈴を手にし、祠に向かって話した。
――祠に宿し神よ
我が名は天照の子 春
我が名においてお頼みもうす
そなたの声をお聞かせたもう――
「おぉ、天照様の子か!」
「初めてまして、あなた様は?」
「我が名は【少彦名】と申す」
「初めまして、少彦名様。」
「あぁ、春よ。邪悪な石を取り除いてくれて感謝する。」
「それが、我らの勤めゆえお気になさいませぬよぅ」
「ありがとう。所でそこにいるのは・・・」
ユズハはビクッとなった。
無理もない。
突然、神と話すと言って祈り出したと思ったら、その声が自分にも聞こえて来たのだから。
「少彦名様、お心当たりがございますか?」
「うむ。我が魂を感じる・・・」
□□□□□ラティの日記□□□□□
◯月×日
やっと終わった。
最後はポピンの無茶苦茶な攻撃だったけど。
自分のが作ったレグナントを破壊するのは
辛かっただろうな。
あと、春が巫女に変身って!
いよいよ何でもありになってきた?




