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神々の残響  作者: 蒼凪 悠
アルスティア国

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第三十七話 薬草の国の研究者

悠真(ゆうま)おはよぉ!」

「おはよーにょん!」

「おはよう、皆」


女性陣が食堂へ降りてきた。

昨晩は男女別で部屋を分けて宿泊した。

男性陣はささっと寝たが、三人は女子会を行なっていたようだ。


「悠真、(はる)といい感じのようだにょぉ」

「なかなか悠真もやるではないか!少しは見直したぞ!」

「な、なんの話をしているんだ?」


後ろでは顔をいつものように真っ赤にして頬に両手を当てている春がいた。

朝食のパンが運ばれてきて、三人はようやく椅子に腰掛けた。


「ま、神の子の子が産まれるのも時間の問題にょ」

「その時は私にもぜひ抱っこをさせてくれ」

「もぅ二人ともぉ!気が早いぃ!」

「お前…もうそんな関係になってたのよ」

「いやいや……ちょっと待てい!」

「なんだにょ?」

「一体どんな話を昨晩はしたんだ?」

「そんな事聞くもんじゃないぞ、悠真!」

「そうにょ!女三人の秘密にょ!」

「もう、二人ともっ…はーずーかーしーいぃ!」


こうなっては何を聞いても無駄だ。

余計に話を盛ってなければ良いがと思う悠真であった。


「今日はどうする?黒い石の所へ向かうか?」

「今日はやめとこうぜ、俺まだ眠いし」

(こう)みたいに眠いってふざけた理由じゃないけど、行かないのには賛成にょ」

「ふざけ――うるさいぞこの研究オタク!」

「うるさいにょ!はく!やってしまうにょ!」

「シュウゥ!」

「こら!やめろはく!舐めるなこしょぐったいって!あは、あはははは」

「ふっ、私を甘くみるんじゃないにょ」

「そうだ!メティ、白梟ちゃんの名前は?」

「フッフッフ、よくぞ聞いてくれた春よ!」

「あ、決まってるんだ」

「昨日、皆が寝静まった後に考えていたのだ!」

「そうなんだ!で、何でつけたの?」

「こいつの名は【ウル】だ!」


『おぉっ〜!』


「な、なんかちゃんとしてるにょ」

「うん、メティにしては上出来ね」

「そうだろ?でも今褒められているのだよな?私」


コン、はく、ウル

三匹の神獣達は仲良く身を寄せ合っていた。


「今日は国立治癒院のメアナ分院に行くにょ」

「そんなのあるんだ。」

「レグナントを留めた建物にょ」

「あー!それで薬草っぽい匂いがしたんだ」

「そうにょ!主に薬学を研究している施設にょ」


五階建ての四角い建造物は無機質で、これといった飾りもなくただ施設名を記した看板だけがかかっていた。


「おはようございます」


一人のおしとやかな印象の白衣を着た女性が近づいてきた。

右手には書類の束を持ち、左手には薬草か何かが入った麻篭をもっていた。


「なにかご用でしょうか?」

「あぁ、すまない。北部の薬草畑について聞きたいんだが」

「北部の薬草畑ですか?」


女性は同じローブに身を包んだ悠真達を怪しむ目で見ている。

普段から防具でウロウロするのは威圧感があると、皆でお揃いのローブを買ってきていたのだ。

だが、それはそれで怪しさを与えていた。


「我々はアルスティア軍の者なんだ」


そう言ってメティラはアルスティア国の紋章が刻まれた短剣を見せた。防具と同じく新たにあつらえた補助の武器である。


「これは失礼を。それでは分院長に伝えてきますので、しばらくお待ちください」

「すまない、よろしく頼む」


メティラのこういった対応はさすが、元王国騎士団である。

功は悠真に耳打ちする。


「なかなか美人な人だな」

「あぁ、聡明で薬草のいい香りがして、研究者って感じだったな」


ピクッ!


聞こえてはいないが、何かを察したのか春の目つきが獣になり、悠真を睨んでいた。

そこへ初老の女性を連れた先程の薬草のいい匂いがする女性が戻ってきた。

今にも薬草のいい匂いがする女性に襲い掛かろうとしてる春を、ポピンとメティラがドードーと馬を落ち着かせる様にいなしていた。


「ようこそいらっしゃいました、分院長のユウコ・ジャネスと申します」

「ユウコさん?」

「はい、いかがなされました?」

「私!稲盛 春って言います!」

「あら」

「こっちが瑞璃 悠真、こっちが瑞石 功!」

「もしかして向こうの方?」

「そうです!瑞璃皇国から来ました」

「まぁ!そうでしたか!奥へどうぞ」


ユウコはにこやかに、悠真達を応接室へ案内してくれた。

建物内に漂う薬草の香り。

皇国の草原の匂いを思い出し、悠真はなにかホッとする気持ちになった。


―――遥か昔、セレノス様と一緒に

   東の果てから西の果てにやってきた―――


メアナの人間が小さい頃から聞かされる子守唄だとユウコが歌ってくれた。

今となったら悠真達も理解できる内容だった。


「私達は皇国を見た事がありませんが、どうですか?似ていますか?」

「えぇ、とても似ている」

「平屋の家屋や広い畑もそっくりです!」

「この地域は共和国の中でもレゾナス(残響)が濃く残っていると言われます」

「えぇ、それは我々も感じます」

「セレノス神様がおられる場所だからですかね、薬草もよく育つのです」


薬草という言葉が出たところで、悠真は本題に切り替えた。


「その薬草畑、北東に位置する薬草畑の終わりに森があり、忘れられた祠があると聞いてきたのですが」

「祠…ユズハさんはご存知?」

「わかりません…畑から向こうは獣が多いと昔から言われ、誰も行くことがありませんから…」

「獣か…」


ここに来て分院長を呼びに行ってくれた女性も席を同じくしていた。

名前はユズハと言うらしい。

ユズハは少し考え込んだが、わからないようだ。


「そうですか、ではとりあえず向かうことにします」

「お時間をお取りいただき感謝します」


皆が席を立ち、部屋から出て宿に戻る事にした。

ユウコとユズハは何か話していた。


「あの、私もご一緒しては駄目でしょうか?」

「勝手な話ですが、まだ見ぬ薬草もあるかもしれない場所に行けるこの機会を逃したくないのです。皆様がご一緒なら危険も回避できましょうし…」


悠真がメティラを見て頷く。


「それは共和国の薬学発展にも繋がることだ、ぜひお願いしたい」

「ありがとうございます!」

「明日朝に出発するから、準備しておいてください」

「まだお時間があるようでしたら、施設内を見学されますか?」


各階ごとに違う研究がされているようだ。

一階だけ病院機能を備えた場所として誰でも入ることができた。

三階の奥の部屋に案内される。


「ここが私の研究室になります」

「うわぁ、いい匂い!」

「主に万能薬の研究ですが、傷薬を再研究したりもしています」


広い部屋で助手が数名、薬草をすり潰したり煮たりしている。

ユズハに続いて奥へと進む。


カサカサ…

布で覆われた箱の中からなんとも不穏な音がした。

メティラは慌てて悠真にくっつく。

もちろん春はメティラを睨んで反対の腕にくっついた。


「これは傷薬の素材ですね。」

「素材!?」

「はい!ツチナカマルマムシですね。地中で暮らす彼らの体液には殺菌作用が含まれています」


ユズハが布をとると、側面がガラスになった箱の中に数百匹のツチナカマルマムシがうごめいていた。


「きゃーっ!」


メティラはお姫様声で悠真の後ろに隠れる。

それを見てユズハはまたクスクス笑っていた。


「こ、これが傷薬の素材ですか…」

「はい、これと数種類の薬草をすり潰して煮込んで出来上がりです!」

「わ、私は…あの虫を今まで塗りこんでいたのか…」


メティラは寒気がしてさらに悠真にくっつく。

春はそれを剥がそうと必死だが、騎士のメティラには敵わない。

諦めて膨れる事にした。


「すごいにょ…」

「偶然ですよ、転んで切った足の傷にツチナカマルマムシが偶然潰れてて」

「偶然…潰れていた?…」

「なんかそれを塗ったら治りが早かったんですよねぇ…」


『ここにも変態が……』



宿に戻り、明日の行動予定を立てる。

まずは祠の探索。祠を見つけたとしても、明日は何もしない。

もし獣に遭遇した場合は退治、もしくはそのまま逃げる。

ユズハの薬草探索については可能な限り、時間をとり協力する。


「さて、ご飯食べに行くにょ!」

「何が美味しいとかあるの?」

「メアナは薬膳料理が名物だな」

「さすが薬草の街」

「でもそれじゃ食べた気になんねぇよ」

「もちろん普通の料理もあるぞ」

「まぁ、街へ行ってみよう」


◇◇◇◇◇◇


「あらためましてユズハ・カルベートと申します。分院の研究主任をしております」

「よろしくにょ!私はポピンにょ!他四名にょ!」

「え?、ひょっとして天機師(てんきし)のポピン・オスリア博士でいらっしゃいますか!?」

「にょ?そうだにょ!私が天機師ポピン・オスリアにょ!」

「まぁ!そうでしたか!対象は違えど、研究をする者として尊敬しています!」

「にょ?ありがとう!」

「感動です…あのエルディア号を作り上げた大天才とお話できるなんて…」

「そ、そうにょ!すごいにょだ…」

「はい!すごいです!」

「にょぉ…」


褒められ慣れていないポピンは、だんだん恥ずかしくなっていた。

そして、ユズハは褒め上手でもあった。


「あそこに留めても大丈夫ですよ」

「わかったにょ!」


広大に広がる薬草畑の終わりにあった空き地にレグナントをとめる。

降りた途端に心地良い風が吹き、多くの農夫たちが手入れをしている薬草を揺らした。


「ここは止血薬の素材となる薬草を育てています。」

「これが止血薬になるのだな!すごい!」

「これとあと数種類の薬草と昆虫を混ぜて――」

「昆虫…」

「はい!」

「あの昆虫…ですか――」


昨日のツチナカマルマムシを思い出したメティラの顔がみるみる青くなっていく。

今まで傷口に刷り込んでいた物が昆虫だとは、知りたくなかった現実だった。


「じゃぁ、行ってみようか」

「先頭は私と悠真、後ろに春とポピン、ユズハさん。後ろは功で頼む」


六人と神獣たちは森へ足を踏み入れた。

ごく普通の心地よい森の中と言った雰囲気、獣の気配もない。

ユズハがいったように、普段から人が入ることがないので草が腰の高さまである。


「ウル、空から見てくれるか?」

「ピッ!」

「嫌だなぁ…足元が見えないのは嫌いなんだよなぁ」

「功はまだ身長があるからいいにょ!私は草に埋もれそうにょ!」

「日に当たらない生活してきて光合成出来なかったのか?」

「うるさい!私は植物じゃないにょ!」


奥に進むにつれて陽の光も入らなくなってくるが草は減ってきた。

手付かずの森の中に自然の力を感じる。


「春、大丈夫か?」

「うん、今のところ――」

「ピピィィィー!」


ウルが鳴き声を上げてメティラの肩に戻ってくる。

そして何かを伝えるように鳴きながら、前方を見つめた。


「何かいるらしい。気をつけてくれ――」


□□□□□ラティの日記□□□□□

◯月×日


傷薬をもう使う気になれない…

でもあれは重宝するし…

あぁ…

思い出しただけで寒気が…

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