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神々の残響  作者: 蒼凪 悠
アルスティア国

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第三十五話 運命の始まり

しばらくして、サイカスが戻ってきた。

手には一冊の古く重厚に装飾された本を持っている。


「何かわかりましたかの?」

「いぇ、疑問から確信への証拠が見つけれません」

「複雑に考える必要はありませぬよ。其方が思う事がきっと正解なのです」

「それを言われてしまいますと、今度はなぜ太陽と月の子なのか。が疑問になります」


サイカスは講壇の上に持っていた本を置き、ページを開いた。


 大地に災いが訪れても。

 人々の助けになるようにと。

 アルシアは二人の子の魂を。

 それは太陽の炎の子と巫女。

 セレノスも二人の子の魂を。

 それは月の光の子と導きの子。

 イシュは一人の子の魂を。

 それは架け橋の子。

 ソフィオスは一人の子の魂を。

 それは慈愛の子

 オルディは一人の子の魂を。

 それは守りの子。


 大地に災いが立つ時。

 産みの神に導かれ

 七人の魂が集まる。


「これが神話の続きです」

「…神々の魂?子供?」


皆、混乱している。

サイカスはセレノス像を見上げ言う。


「鏡をお持ちか?」


突然の言葉に春がドキッとする。

みな春を見て頷いた。


「は、はい。私が陽菜様より頂きました」

「ほう、そなたが」

「もうすぐ月がでる時間ですな。もう少しまちますかの」


誰一人声を発する事はなく、無言の時間が過ぎた。

サイカスの瞳が次に開くのを待つ。


「鏡で月の光をセレノス様の額にある宝玉に」


春は言われるがまま、神陽の小鏡で月の光を受けた。

月の柔らかな光を受けた宝玉は、その月の光を吸収した。


そして―――


像全体が一瞬光に包まれる。

眩しさで目を背けた皆が再び像を見た時の違和感。


「何も起こらない…?」


それは間違いだった。

表情。

瞳。

力強さ。

拝殿の空気。

目の前に立つのは女神像ではない。

それは男神(おとこがみ)の姿だった。


「証拠になりましたかな?」


やはりセレノス神と月読命は同じ神様。

であれば、アルシア神は天照大御神様と言う事だろう。

なぜ、お二人は逆の姿に変える必要が?

いや、今はどうでもいい。


「ええ、確信に変わりました」

「よろしい。それでは鏡の光を(ふくろう)にむけてくだされ」


春は再び神陽の小鏡を動かし、言われた通り梟へその光を合わせた。

そして光に包まれた梟の像は命を宿し、大礼堂内を飛び回る。


「ラティス様」

「…はい」

「さぁ、あなたの番ですよ。セレノス像の前へ」


メティラは言われるがまま、巨大なセレノス像の前まで進みその顔をみあげる。

なぜだろう。微笑んでいるように見えた。


「クオォォォー」


梟が旋回し、メティラの肩へ留まり鳴き声をあげた。

メティラの鼓動が大きくなる。

視界が消え、次にうっすらと蒼い月夜の空間が現れる。


「久しいな、我れから産まれし魂の子よ」


突然聞こえた優しく、透き通るような声。

メティラは驚くも、このような事は初めてではない。

ただ、久しいと言う言葉の意味がわからなかった。


「申し訳ありません…あなたが誰なのか、存じ上げません…」

「そうか、そうであったな。あの時は女神の声で語りかけたのだったな」

「女神の声…本宮…山脈…」

「覚えていてくれたか?万氷樹(まんひょうじゅ)の山脈ではよく頑張ったな」

「…あの時は助けて頂き、ありがとうございました」

「気にするでない」

「あの…私は…魂とは」

「大神官が申した通りじゃ。お主たちは数百年前、この大地に災いが起こった時に人々がその災いを払いのけれるようにと、我等が産んだ魂を宿しておる」

「…私はアルスティ家の子では無いのでしょうか?」

「それは違うぞ。魂は私の子であるが、お前の親が愛し合い、産まれてきた子には変わりないぞ。ただ――」

「…なんでしょう?」

「今、産まれてきた事には意味がある」

「…災い」

「さよう。災いによってその運命は左右される。違う時代に産まれていた可能性もある」

「……」

「産まれたが災いを払う神の子と言う自覚はないのじゃ。しかし、やること全ての目的が災いへの対処となる」


メティラは震えていた。

どこからか聞こえているセレノス(月詠)が言うことが恐ろしくなったのだ。

「今の私がいないこともあった…全ては決められた運命だった…」

「お前だけではないぞ。そこにいる者たちも同様じゃ」

「悠真も春もポピンも功も…」

「わかるか?お前達に起こることは、偶然ではなく必然なのだ」

「……」


セレノスは続けた。

  

  災いに立ち向かうため、神の魂を持つ子が産まれた。

  アルシアの子は幼き頃に出会った。

  お前は若い頃より騎士の鍛錬を。

  イシュの子は造るべき物を造った。

  オルディの子は守る術を得た。


「全ては必然なのだよ。だが、人として生きてきた今までも偽りではない。これからもじゃ」

「はい…」

「まだまだ聞きたい事はあるだろうし、話したいこともたくさんあるが…」

「はい、沢山…」

「今回は時間じゃ。月がかけ始める時間じゃ」

「わかりました」

「そなたに加護を与える。レイピアを抜いて元の空間で待っておれ。それから我が眷属の梟もそなたに授ける」

「ありがとうございます」

「メティラよ。また会おう」


月の光が眩く辺りを包み、メティラは元の空間で意識を戻した。

皆、大神官に言われて、大人しく座っていた。


メティラは言われたようにレイピアを抜いて、天に(かざ)してた。

セレノスの額の宝玉から光がさし、メティラを包み込む。

碧く優しい光は残響となり、レイピアを握る左手の甲に吸い込まれてゆく。

その甲には月に留まる梟の紋様が浮かび上がった。

そしてレイピアは碧白い光を放ち、姿を変える。


「レゾナス・アーツ…」


誰に言われるでもなく、その言葉を発した。

体を竜巻に包み込まれたメティラはセレノス像の胸の高さまで浮かび上がった。

蒼い光はさらにメティラを包みこみ、弾けた。

暗闇の大礼堂に、逆立つ銀髪と白く美しい顔に真っ赤な瞳が光り輝く。

純銀と月光を思わせる蒼白い装飾の軽装甲。

肩には羽を思わせる意匠。

その真新しい防具の胸の中央あった蒼の宝玉は…

月の欠片(かけら)とされるシトリン(黄水晶)の宝玉に変わっていた。


残響が落ち着きゆっくり降下する。同じ様に梟も降下してきた。

ラティスは力が抜けてその場に片膝をついた。


「さあ、今日はもう休まれよ。明日、もう少しお話しをしましょう」


今夜は大神殿の客間に泊まる事になった。

ラティスはセレノスとの会話を皆に伝える。

ここにいる五人について語られた事。

災いの事。

皆は驚きはしなかったが放心状態であった。

特にラティスの加護を得て右手に宿った術印。

アルスティアの匠が仕上げた特別製のレイピアは…

神の光を浴び、月の紋様と羽を広げた梟が輝く神話級のレイピア【銀針のセレネス】に変わっていた。

そのレイピアを見つめながら、自分自身に起こったことがまだ信じられなっかた。


「皆はともかく、私は一体何の役割があるって言うんだろ」

「それは何かあるんだろう」

「何かって?」

「わからん」

「でも悠真が太陽の子って言われたんだし、春は神陽の小鏡を持つんだからきっと同じアルシア様にょん」

「あ!だから私達一緒にいなきゃダメなんだ!なーんだ!」

「確かにそうだ。特別な術や剣技が使えない春は悠真の補佐的な何かではないのか?」

「何でもいい!もう、神様もやるわね!私たちが結ばれるのは運命だったのね!」

「でも、おなじ神の子兄妹(きょうだい)にょ」

「…そんな事言ったらまた春の機嫌が…」


小声でポピンに注意するメティラ。


「な、なーんだ!か、神様ったら!私と悠真をな、何百年も前から…」


予想とは違い、だんだん大人しくなる春…


「兄妹なの…」

「嘘にょ、産まれたのは違うんだから、兄妹では無いにょ!」

「そうだぞ春!セレノス様も言っていた!魂は神の子であっても、人間として親からちゃんと産まれた事に変わりないと!」

「そうかな…」

「あぁ、問題ないぞ春!」

「だよねメティ!うん!悠真!喜ぶんだぞっ!神様のお墨付きだぞっ!」

「はははは…あぁ…」

「じゃぁポピンはその目を与えてくれたあの祠の神様か?」

「そうなのかなぁ…あの時たまたまだった気がするにょ…」

「もう何百年も前だし、忘れてんるんじゃないか?」

「そんなことあるにょ!?」

「知らんが…」

「やっぱり功は適当にょ」

「けっ!いいじゃねーか!俺なんて神様みたいな気配一度も感じたことねぇぞ!」

「神様がこんな適当なやつ、俺の子じゃなーい!って逃げてるんじゃないにょ?」

「なんだこのちびっ子研究オタク!」

「何だにょ!この適当やる気なし振られまくりやろう!」

「あっ!それ言う?それはダメだろ、言っちゃぁもうやる気無くした!」

「ふんっ!もともとやる気はないにょ!」

「神様の名前が何とか、何をしたとか言われたのだが…聞いていなかったのだ…」


『………そこはちゃんと聞いといてメティ』


「ピィ―――」


そして新たな仲間の白梟は、自分の主人を冷めた目で見つめていた。


「よし!とりあえず寝るぞ!」



□□□□□ラティの日記□□□□□

◯月×日


 一気に進展してわけがわからない。

まずは落ち着いて考える。

セレノス様から与えられた白梟!わたしにも神獣が!

名前をきめないと!

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