第三十四話 セレノス大神殿
神々は迷い苦しんだと言ふ。
消滅か分断か。 神々は分断を選んだ。
神々は消え去った。
人は間違いを悔やんだ。
またそれで争いが起こった。
神々は神界から覗いていた。
一人の神は言う。 なんとも惨めな。
一人の神は言う。 なんとも悲しげな。
一人の神は言う。 消滅の慈悲を。
多くの神々は嘆いた。
神々はそれでも人を信じた。
一人の神は言った。
哀れで愚かな人に。
わが力を持って消滅の慈悲を与える―――
◇◇◇◇◇◇
「このまま南下するのか?」
「そうにょ!私の故郷も寄りたい所だけど、まずはメアナへ向かうにょ!」
「どれぐらいかかるの?」
「このレグナントで約二時間てとこにょ。」
「広いねぇ!皇都から大樹の街まで、数十分で着くのに・・・。」
「春、メアナの先にはまだ二つの国があるんだぞ!」
「まだ国が二つなのよね・・・すごいわ」
「んで、メアナって確か皇国と似てるとか言ってなかったっけ?」
「にょ、功居たのか。」
「お前そのゴーグル塗りつぶして見えなくしてやろうかっ!」
「なんでそんなガキンチョみたいなこと言ってるにょ。」
「なんだろう・・・めっちゃ腹たつ!」
「メアナは我々も皇国、特に大樹の街に行った時は驚いた。」
「へぇ、そんなに似ている所なんだね。」
五人はアルスティアを超小型レグナント【カイト級7号】で出発していた。
功はすでに飽きていて、居眠りをしている。
皇国ほど自然はないが、澄んだ大きな川や草原、背の高い山々は見事なものだ。
初めてみる景色に、悠真は興奮していた。
「そろそろ見えてくるぞ。」
「セレノス大神殿は共和国で一番大きな神殿にょ。」
「誰を祀ってあるんだった?」
「主神は【セレノス神】様だ。あと【アルシア神】様もいらっしゃる。」
「セレノス、アルシア・・・何の神様なの?」
「セレノス様は月の神、アルシア様は太陽の神様にょ。」
「月と太陽・・・・か。」
その言葉に少し引っ掛かった悠真は、功をちらっと見た。
功は手を振って俺は知らないとでも言うかのように目を瞑った。
これは何か気づいたのだろうと悠真は思った。
「あれにょ、遠くにうっすら二本のでっかいトンガリが見える?」
「あぁ、見える見える。」
「うわぁ、真っ白な建物だね。あのトンガリの先端についてるのは三日月かな。」
「そうだな、もう一方は太陽なんだろうな。」
「・・・・そこまで見えるのか?」
メティラは目を細めてじーっと眺めるが全く見えない。
ポピンも同じくであった。
「逆に、あれがなんで見えないのか不思議。目が悪いのね二人とも。」
「それは私たちが言いたい。目がいいのね二人とも・・・」
イビキをかいて寝ている功の腹の上で、コンとしろは昼寝場所の取り合いをしていた。
国に近づくにつれ、見えてきたのは広大な【畑】だった。
メティラとポピンが言うように、段々な丘に長く続く緑の畑。
突然現れた木々、そして背の低い家屋。
アルスティア国のような要塞国とは全く違う長閑な国がそこにあった。
「この辺りは結構田舎にょ。もう少し先は普通に発展してるにょん。」
「発展してるとは言え、アルスティアとは全く違うがな。」
十分程飛ぶと、神殿がはっきり見えるようになり村から街へと景色も変わった。
巨大なトンガリがさらに大きくなってゆく。
神殿は五百人は入ることが出来るであろう、巨大なものだった。
真っ白な石造りの複雑な建物。石柱が無数にありそれぞれに神の姿であろう彫刻が施されていた。
「あそこに降りるにょ。」
「久しぶりに来たな。」
着陸中にも窓から見える神殿に、メティラは目が奪われていた。
カイト級7号は何かの建物の屋上にある駐機場に降り立ち、神殿の前まで徒歩でやってきた。
すでに見上げなければトンガリの先は見えない。
十五段の石階段を登り、入口に来た。
「ようこそ、旅人たちよ。」
銀白の生地に赤の線が縁を飾り、中央にはこの神殿の紋様である月と梟の刺繍が施された法衣。
そして黒地に金色の豪華な刺繍が施された帯状の布を左右の肩から垂らしている人物が待っていた。
「お久しぶりですな、ラティス姫様。」
「これはサイカス大神官様!」
「皆さんもよう来られた。さぁ中へ。」
巨大な空間には柱が全くなく、どうやってこの巨大な屋根を支えているのか・・・。
天井高くには見事な天井画。月と太陽の神を描いているのだろうか。
壁には天井画の端から垂れ下がった色とりどりの布が伝っている。
そして一番前には巨大な神の像があった。
「悠真、あの像がセレノス神様だ。」
初めて見る皇国側の三人はその巨大な女神像に見惚れる。
美しく、力強く、そして穏やかな表情。
肩には梟が停まり、片手にはレイピア、もう片方には書物を持っている。
「なんとも力のある女神様だ。」
「お分かりになりますかの、太陽の子よ。」
「?」
「おや、まだ自覚がないようですな。」
「大神官様、申し訳ないが仰る意味が理解できません。」
サイカスは笑顔を見せた。
そして皆に(座りなさい)と勧め、像の前にある講壇に立った。
皆を見渡し、セレノスの像に胸の前で手を組み、祈りを捧げた。
「では少し、神話をお話ししましょう。」
――大昔、アルシアとセレノスは最果ての地に降り立ち
近くに流れる聖水を飲み、あまりの清らかさに感動した。
喜んだアルシアは聖水を(神の流れ)と名付けた。
これほど良い聖水があるのならば植物もよく育つと
種を蒔いた。
暗くては育ちが悪いと、セレノスを呼び、夜の時間を作った。
植物が育ち、二人では食べきれないと
アルシアは多くの人を産んだ。
アルシアから生まれた人は知恵を持ち
自分でなんでもできた。
楽しい暮らしに多くの神々もやってきてワインを飲み交わした。
いつの頃からか、セレノスは西側の人と仲良くなり
そこで暮らし、人を見守った。
やがて太陽は東から昇り、西へ沈むと月が出るようになった。――
三人だけ、目を大きく見開き、驚きの表情でお互いを見合う。
それは、紛れもなく姫巫女の陽菜が聞かせてくれた昔話と同じだった。
「・・・・」
春とポピンは何も分からずただ三人の反応を見て少し怖さを感じていた。
メティラは疑問が頭の中でぐるぐる周っている。
「大神官様。質問しても?」
「何かな?」
「セレノス神様はなぜ女神のお姿なのですか?」
悠真の質問にさらに訳がわからなくなったメティラ。
生まれてからセレノスは女神としか思っていない。いや、考える理由などないからだ。
なのになぜ今、悠真は(女神なのか?)と聞いている・・・。
サイカスは穏やかな表情を浮かべたまま答えた。
「女神様だからじゃの。」
「質問を変えても?」
「かわまぬよ」
「なぜ、アルシア様は男性のお姿を?」
サイカスの目が鋭く悠真を貫いた。
それは決して敵対の目ではない事はわかっていた。
「其方はもうわかっていたようじゃの。そちらの友も。」
「確信はありません。あくまでも疑問です。」
「さようか。今でもそう思うかの?」
「いえ、確信に変わりつつあります。なぜ、姫巫女様がここに行けとラティスに仰ったのかも。」
サイカスは笑顔になり、ラティスはもう考えるのを辞めた。
功はまた面倒くさそうと俯いてため息をつく。
「今、わからないのがひとつ。いや二つ。」
「なにかの?」
「なせ、私が太陽の子なのか。なぜラティスが月なのか。」
「うむ。それは運命としか言えぬ。」
「運命ですか・・・」
「あ、あの・・・あのな悠真・・すまないが説明してくれないだろうか」
ラティスが珍しく気弱になっている。
無理もない。全く違う大地の昔話と神話が同じ物で、そこに自分が行けと言われ、初めて会う俺に太陽の子と言った・・・でも
「メティラ。まだまだ頭を悩まさないと行けないと思うぞ。」
「それは・・・」
サイカスは悠真をみて頷き、奥へ消えた。
「初めて大神宮に行った日と万氷冷器樹の山脈で聞こえた声覚えてるか?」
「あ、あぁ」
「あの声は【天照】様だ。」
「天照様・・・」
これにポピンも驚く。
春は息を飲み聞き入っている。
「そして、陽菜様が月詠様はここにはいないと言った。」
「覚えている・・・」
月詠は西の椅子にすわった・・・月が昇った
セレノスは西の人と仲良くした・・・月が昇った
偶然とは思えない。
――でも証拠がない。
「だからこそ、陽菜様は俺達をここへ向かわせたんだと思う。」
ここには、まだ誰も知らない何かがある。
悠真は静かにセレノス像を見上げた。
その女神はまるで、全てを知っているように微笑んでいた。
□□□□□ラティの日記□□□□□
◯月×日
なんか・・・凄い事になった。
私は何の為に大神殿に行けと
言われたのだろうか。
太陽の子とは。
月とは?




