第二十九話 巫女姫の舞
皇宮の応接室・・・・。
そこに、瑞穂皇国皇王、瑞璃秀真、春の父親、アルスティア国王、セイラ第一王姫が話し合っていた。
「今すぐの話ではございません。ただ今後、お互いの発展を考えれば悪い話では無いと思いますわ。」
「何より、本人の意思も大事だと思うのだが。」
セイラの発言に皇王が続けた。
皆が腕を組んで、目を瞑り考え込んでいる。
「ま、まあセイラ様。あなたのお考えは十分理解した。この話はいずれ・・・。」
「そうですな・・・。まだまだ先の話でもあろうて。」
「私目には・・・・お話が大き過ぎまして、なんとも・・・。」
「皆さんのご意見はごもっともですわ。ですから、先にお話だけでもと思っておりましたの―――」
◇◇◇◇◇◇
次の日の正午ごろ。
皆は【大樹の街】に帰ってきた。
わずか一ヶ月ほどだが、巨大なクスノキが懐かしく感じる。
メティラとポピンは春と一緒に、街の商業地へ出掛けていった。
「悠真よ、例の神霊石を見せて欲しいとポピンに伝えてくれるか」
「わかった、親父。」
悠真は一人、あの草原へ向かい海を見つめる。
(ここに帰ってくると、どうしてもこの景色を見たくなるな・・・。)
この数ヶ月の間に起こった出来事を思い出しながら、悠真は肩肘をついて寝そべっていた。
「悠真さまー!」
悠真は微笑む。何も変わらない日常が、ここにはあった。
毎日のように俺を呼ぶ春の声。
心地よい風と永遠に続くような大海原。
「悠真様!またサボりですかっ!?」
「サボりも何も、今日はする事ないだろ?」
「あ、そうでしたね。あははは」
春が横に座り、海を見つめる。
「急激に変化しちゃいましたね、私たちの時間」
「・・・・」
「まさか海の向こうに行けるなんて!」
「そうだな。」
「毎日馬鹿みたいに(この向こうには何が――)って言ってた人いましたね」
「馬鹿言うな。」
「そんな馬鹿な事が馬鹿じゃ無くなっちゃいましたね!」
「お前、わざと馬鹿を連発してないか?」
春は笑いながら悠真を見る。
「私達、これからどこへ向かうのでしょうね・・・。」
「さぁな、気の向くまま、風の吹くままだな!」
「何それ!?だざっ」
「お前はさっきから喧嘩売ってるのか?」
「じゃぁ・・・その向かう所には、私も一緒にいるんでしょうかね・・・・。」
「?」
春は立ち上がってお尻の砂をパンパンッと払い、悠真を見る。
「親父様に神霊石見せるんじゃなかったんですかぁ?」
「あっ!」
「ほら!する事あった!やっぱり悠真には優秀な私が必要ですね!」
屋敷の居間に、みんなが集まった。
ポピンが箱から、藍の宝玉を取り出す。
「ほぉ・・・・確かに初めて見るな。うん、ちゃんと残響も感じる。」
「水・氷の残響術を補う効果があるようです。」
「水と氷か・・・・・【澪】程度の話ではないと言うことだな?」
「はい。激流が舞い、的に当たる直前に氷の刃となりました。」
「それを悠真が発動したのかぃ?」
「はい、残響を込めている時に何故か言霊が浮かびまして・・・。」
「すごいじゃないか!さすが悠真だねぇ!」
「いえ、たまたまです。水・氷を得意とする蒼真兄様が発動していればもっと強力な術となったでしょう。」
「・・・・・神の言葉とでも言うのか・・・。」
父親が言った言葉には触れず、今までに何度か導いてくれた優しい女性の声の事も言わなかった。
「悠真、その言霊教えてくれる?」
「もちろんです、兄様。」
「やったー!これで僕もちょっとは強くなれるねぇ!」
「ポピンよ。」
「はい。」
「これを本物の神霊石にしてみる気はあるのか?」
「できるにょ!・・・・・できるのですか!?」
「確実に・・・とは言えないが、試してみる価値はあるが。」
「ぜひお願いします!」
「では明日、神陽大神宮へ行ってきなさい。巫女姫様にお会いしてきなさい。」
ラティスがハッとなる。
万氷樹の山脈に向かう前に訪れ、小鏡を頂いたの巫女様。
その小鏡は常に首から下げている。
あの時言われた(もう一度だけ声が聞ける。)その声はすでに聞いた。
それを考えると少し不安になったラティスだった―――
夜。
皆食事後の居間で団欒していた。
「あの小鳥のパイは絶対!皇国でも人気が出るにょ!」
「そう?私はまずラテが買えるようになって欲しいわ。」
「いっそ料理人も入れ替えてみるか!?」
「ラティスはまたでっかく考え過ぎにょ!」
たわいも無い食べ物の話で盛り上がる。
蒼真は酒をちびちび飲みながら、皆を見守り悠真に声をかけた。
「明日はきっとすごいことが起こるんだろうね。」
「親父が姫巫女様に文を出したんだろ?いくらお布施がいるんだよ・・・」
「ははは、それは気にしなくていいよ悠真。それは大丈夫」
「なんで?そんなに金ないの知ってるぞ?」
「今は共和国との貿易で、それなりにこの街も賑やかになってね。儲かってるんだよぉ」
「?」
「税金がわんさかとね」
そう言って月見台に出た蒼真。それを追って、悠真も出た。
空になった蒼真の杯に酒を足す。
「いい夜空だ。しかも明日は満月かぁ・・・・・」
「?」
悠真は蒼真の変化に敏感になっていた。そう、今この時も。
「明日はメティラ、小鏡を忘れないようにね。ポピン、大きな鞄も持って行きなさい。それから春。君も行きなさい・・・・」
呼ばれた三人はビックリする。
春はまだしも、メティラは蒼真が小鏡の事を何故知っているのか不思議だった。
ポピンは黙って蒼真をただ見つめていた。
「春も?なんで?」
「なんとなく縁があるからかな?」
いつもの蒼真だった。
ポピンが贈ってくれたレグナントをポピン自らが操縦する。
彼女は感慨深げだ。夢を追いかけ初めて作った試作機が、今こうして大地を飛んでいる。
しかも、共和国ではなく皇国で。
「さすが私!天才!」
操縦しながら自負する声に誰も反論する事もなく、拍手を送った。
もともと持っている残響が少ないポピンでも、神陽大神宮の気配にはなにか感じる物があるあらしい。
沢山のお参りにくる人達と同じなのかも知れない。
正宮でお参りをしていると、大宮司がやってきた。
「悠真殿、話は通してあります。姫巫女様がお待ちです。」
皆は奥宮で、八咫の鏡に祈りを捧げる姫巫女【陽菜】が待つ部屋に向かう。
「お久しぶりですね、皆さん。」
「お忙しいのにすいません。」
「いいのですよ、今回は神楽を舞えと秀真から文が来ましたし、本来の私の仕事ですからね」
さほど関わりがあるとは思えないだけに、陽菜が秀真と呼んだ事に驚く悠真だった。
「秀真は私がここに入る歳までよく面倒をみて下さったのよ」
陽菜は、さらに驚いた表情の悠真をみて笑った。
そして次にポピンを見た。
「あなたがポピンね、初めまして。」
「は、初めましてです。よろしくお願いします!」
「あらあら、そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
「はいっ!」
「ちょっとポピン、こちらへおいでくださる?」
呼ばれたポピンは言われるまま、正座した膝と膝が付くぐらいの距離で陽菜の目の前に座った。
一瞬、陽菜の後ろにある八咫の鏡が光った気がした。
ポピンを見つめる陽菜。
「あら、あの子も・・・。助かるわ。」
『?』
「その右目。今は不安でしょうが、必ず貴方の助けになります。皆に打ち明けても大丈夫。」
その言葉を聞いて目を大きくひらくポピン。
突然、自分しか知らない事を言われたからだ。
「あ、あの!この目はいったいなんなのでしょうか?」
「そおねぇ・・・【神との繋がり】と言いましょうか・・・【神眼】と言った方がわかりやすいかしら?」
「・・・神との繋がり・・・ですか」
「色々試してご覧なさい。でも使いすぎると体に負担がくるから、気をつけなさい。」
「はい、ありがとうございます・・・」
「さぁ、ラティス」
「はいっ!」
「まだ大神殿には行ってませんね?」
「はい・・・申し訳ありません。」
「責めているのてはないのですよ、でもそろそろ時期が来ましたよ。」
「はい、わかりました。次戻った際には必ず。」
「貴方に渡した【神陽の小鏡】を持っていますね?」
「はい、ここに。」
陽菜はそれをラティスから受け取った。
「もうこれは貴方には必要ありません。」
「そうですか・・・」
俯き、悲しげな表情のラティスに陽菜は微笑む。
「これは必要ないだけですよ。神殿で待つ貴方の新たな声にしたがいなさい。」
バッと顔をあげ、お辞儀するラティス。
そして陽菜は小鏡で八咫の鏡が反射させる月の光をうけた。
「この小鏡を本来持つのは春、貴方です。」
「私ですか?」
陽菜は小鏡を春に渡した。
「今はまだ、その意味はわかりません。ですが必ず必要になります。」
「わかりました・・・」
「さあ、お仕事をしなければ!神楽殿に参りましょう。」
シャンシャラン
姫巫女が鈴を手に静かに舞い始める。
その後方では、神詠師が厳かに祈りの詞を詠み上げる。
その声に呼応するように、奏詞官たちが笛、篳篥、龍笛、太鼓、鉦鼓による神楽囃子を奏で始めた。
笛と太鼓の音色は大神宮の境内へ鳴り響き、神聖な空気が静かに満ちていった。
澄み切った旋律が大神宮に満ちると、祭壇に安置された海青石は淡い藍色の光を帯び始める――。
天照大神よ。
月詠ノ神よ。
幾年の時を越え、なお世に響き続ける御声よ。
この御石に眠る小さき残響を
神々の大いなる残響へと導きたまへ
水の流れは命
氷の輝きは邪を断つ
その二つをもって世を守る神威となさん
いま姫巫女が舞を捧げ、祈りを捧げ、
神々の御加護をここに願い奉る。
御心を映し給え
御力を宿し給え
この御石に神々の御力を宿したまへ
畏み、畏みも白す―――
まるで、天女を観ているようだ。
姫巫女が舞う足元は無数の蝋燭の灯りに染まり、その身は満月の光に優しく包まれていた。
神楽囃子に混ざる陽菜の鈴の音が、今にも皆を幻想の世界へ連れていってしまいそうな・・・
メティラもポピンも涙をながしていた。
陽菜は祭壇の前に静かに座し、鈴をそっと脇へ置いた。
「――畏み、畏みも白す。」
最後の祈りを捧げると、深く額が木の床につくほど頭を下げる。
誰一人として息をすることさえ忘れた神楽殿に、笛の余韻だけが細く流れていた。鈴はもう鳴っていない。それでも神楽殿には、なお清らかな響きだけが残っていた。
そして―――
海青石を包む藍色の光が静かに膨らみ、まるで神々が応えたかのように神楽殿全体を優しく照らした。
「神が答えてくれましたよ。藍の神霊石が蘇りました。」
皆、深く頭を下げた。
『ありがとうございます』
「そうそうポピン。そろそろかしらね。私にも会わせていただけるかしら?」
「どちら様と・・・誰様と?何と・・・??」
先程まで天女の如く舞っていた陽菜に突然振られ、ポピンは何を喋っているのかわからなくなっていた。
皆はそんなポピンを陽菜はクスクス笑う。
「さぁ、卵を持ってきなさい」
「あっ!」
ポピンは慌てて部屋の隅に置いていた大きな鞄をもってくる。
陽菜は卵に手を当てて目を瞑った。
「もう出てきても大丈夫ですよ。」
ピシッ――
割れた卵の隙間から、真っ赤な目が見えた。
そして、中から押し割ろうとしている。
ひび割れが広がり殻が落ちた。
「シュッ!シュシュゥー!」
まだ20cm程の真っ白な鱗に包まれた体。
真っ赤な宝石のような目。
紛れもなく、あの廃坑で対峙した白蛇だった。
「可愛い!」
「な、なんだ!蛇なのに可愛いとは!」
陽菜も優しい目で見つめている。
白蛇はキョロキョロしてからポピンを見つけ、肩まで登った。
ポピンをじっと見つめながら、舌をシュルッとだした。
「シュゥ!」
白蛇はポピンにすり寄り、右目をペロペロと舐めてきた。
くすぐったいポピンと、構わずすり寄る白蛇。
「さて、白蛇よ。少しこちらへ来てください。」
陽菜が言葉を出した時、また八咫の鏡が少し光った気がした。
白蛇は素直に言う事を聞き、陽菜の前に止まった。
「少し話をしてくれますか?」
「シュッ!シュシュ!シュシュシュッ。シューッ!」
当然だが、何を言っているかわからない。
それは、ポピン以外には。だった。
「そうですか・・・守ろうとしてくれたんですね。ありがとう。ところで金山彦は元気にしているのですか?」
「シュッ!シュッゥ!」
「そうですか、それは問題ですね・・・わかりました。貴方はこれからどうしますか?」
「シュシュッ!」
ポピンの目が大きく見開き、笑顔になった。
「そうですか、それでは頼みましたよ。ポピン、この子の名前は決まってますか?」
「はい!【しろ】です!」
「・・・・【しろ】ですか?」
「はい、陽菜様!その子の名前は【しろ】にします!」
「なんだか・・・お犬さんみたいですね――」
『プッ・・・』
陽菜から発せられたまさかのツッコミに皆たまらす吹き出してしまった。ポピンは皆をムッとした顔でみた。
□□□□□ラティの日記□□□□□
◯月×日
神霊石が出来た!
姫巫女様のおかげだ!
あの素晴らしい舞はいつか姉様にも見せてあげたい。
まさしく!神のようだった。
そして新たな仲間、しろが生まれた!
陽菜さまのツッコミには参った。
悠真にはコンがいるし・・・
私もほしい!




