第二話 神響術(しんきょうじゅつ)
蒼真は時々おかしな事を言う。
理由も理屈もなく、突然そう思うらしい。そして、その通りになる。
弟大好き変態兄貴だとしても一応は上級神響術が使える家系の長男、予知夢的な能力なのだろうと皆が思っていた。
でも今までとは規模が違う。
(世界が変わるよって・・・何が起きるんだよ兄上様。)
不安と大きな期待を胸に悠真は眠りについた。
◇◇◇◇◇◇
季節は鮮やかな桃色の花が咲き乱れる頃。
毎年この時期に瑞穂皇国の皇都である【瑞穂】で大きな祭りが開かれる。
瑞穂皇国は丸型の大陸で、皇都は中央に位置する。そして皇都を囲む様に五つの街がある。古の時代、神々がもっとも愛した大地として伝えられている瑞穂の名前の由来は、金色に輝く稲穂がよく育つ豊かな大地だかららしい。
悠真たちも祭りに参加すべく、瑞璃家が統治する【大樹の街】から皇都へ向かっている途中であった。
「ところで悠真様、神響術なにか教えてくださいよ」
「春はいつも突然だな」
「はい!そこが良いところですっ!」
「・・・・今はなにができるんだ?」
「まだ焔だけです」
「じゃあ、次は澪だな。普段から使えるのがいいだろ?」
「えーっ!私も悠真様達みたいに爆破させたいっ!」
「何をだよ…そんな術、侍女が覚えてどうするんだよ」
「それはですねぇ、悠真様がサボる度にですねぇ、お仕置きの為にですねぇ、覚えておけは、すべて上手くいきそうじゃないですか?」
「おぉ・・・なるほどな」
―――神響術。
神々が去ったこの世界に残る【神々の残響】を護符や刀の様な武器、または生活道具に宿して使う術のことである。
火を生む【焔】、水を生む【澪】等はごく簡単な術であり悠真達のような上級神響術の家系でなくても使えるのである。―――
「悠真様達は【上級神響術】が使えるのでしょ?」
「俺はまだ中級だな」
「中級?」
「上級家系だからって全員が使えるわけじゃない。認められた奴だけだ」
「じゃあ親方様は?」
「使える」
「鍛錬されている時も、そんな強力な術使ってるのみたことありませんよ?」
「まぁ・・・正直なところ、この世の中で上級神響術使うような事がないしな」
「確かに。毎日平和ですものね、良い事です。」
「父上の上級神響術は一度だけ見たことがあるな」
「どんなです?どんなです?」
興奮して目が輝いている春の顔が迫ってくる。
「近い近い」
「良いじゃないですかぁ、私と悠真様の仲なんだからぁ」
春の顔を押し退けながら悠真は父の術を思い出す。
「出来ないだろうけどやってみるかな」
春は輝く目を見開いて、高速でうんうんと頷いている・・・
道中の開けた場所の湖畔に二人は進む。
「危ないから春はそこに居ろよ」
春は相変わらず言葉を発せず首だけ高速で上下に動いている。
悠真は腰に着けている革製の小さな鞄から護符を取り出し、額の前に掲げ静かに言霊を紡ぐ。
湖面が揺れ、悠真の周囲の残響が震え出す・・・。
春は思わず息を呑んだ。
神々の残響よ
我が祈りを捧げる
願わくば獄炎を行使し
我らの行末を遮る
悪霊を焼払い
光を示したまへ
神響術 天照ノ焔
護符が淡く光る。
次の瞬間!
ボッ・・・・
護符の端っこだけが燃えた。
「・・・・」
「・・・・」
「・・・・終わりです?」
「・・・・終わりだな」
「上級神響術ですよね?」
「上級神響術だな」
「燃えたの護符だけですよ?」
「護符は燃えたな」
「燃やしただけじゃないですか!」
悠真は黙って燃えカスになった護符を見つめた。
「さあ!先を急ごう!早く皇都で(もけもけ鳥の丸焼き)食べたいんだよ!」
「何ですか!その気持ち悪い鳥の名前!絶対美味しくないやつ!」
「お前知らないのか!絶品だぞ!コリコリぬちょっとした食感が!」
「どんな食感ですかそれ!!」
上級神響術への道は、まだまだ遠いらしい。




