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神々の残響  作者: 蒼凪 悠
アルスティア国

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第十七話 神霊石の呪い

ポピンの知らせを聞いた悠真とメティラは、予定を繰上げ明日の便で共和国へ戻る事にした。

功にも知らせる様、従者に使いに出てもらった。


「一体、何があってポピンはそんな事に・・・」

「分からない。神霊石(レゾナイト)の研究を早くしなくちゃと張り切っていたのに。」

「何か悪いもんでも食ったんじゃ―――やめとこう、今は冗談言ってる場合じゃないな。」

「あのポピンの事だし、すぐ良くなってまた(にょんにょん)言ってくるよな、悠真・・・」

「ポピンとはお前の方が長い付き合いだろ、メティラ。信じてやれ。」

「あぁ。」

「不安で寝れないだろう、一杯飲むか?」

「・・・・そうだな、頂こう。」


悠真は(ひか)えていた従者(じゅうしゃ)に酒を持って来させるよう、頼んだ。

しばらくして、侍女頭(じじょがしら)の春が酒を持ってやってきた。


「失礼致します。」

「春か、ありがとう。」


悠真は礼を言って春から酒瓶と(さかずき)を受け取る。


「メティラ様ご気分はいかがですか?」

「なんとか大丈夫だ。」

「あまり気を落とさぬよう、メティラ様までお倒れになりますよ。」

「ありがとう」


数歩下がった春は、向きを悠真に向けてスッと姿勢を正す。

目には何か決意的な物を感じるが・・・。


「・・・・こんな状況で申し上げにくいのですが・・・」

「なんだ?また(お小遣いくれー)か?」

「悠真様。本日をもちまして、侍女頭の務めを辞する事となりました。」


飲んでいた酒を吹き出しそうになる悠真。盃が口元で止まるメティラ。


「辞めっ!?おまえ突然何を言ってる!それは駄目だ!」


珍しく悠真が(あわ)て、怒りが染み出している。

それを聞いたメティラも驚く。


「もう決めた事ですし、親方様のご理解もいただきました。」

「春、瑞璃家(みずりけ)の中の問題に口を出すつもりはないのだが、それは瑞璃にとって大損失では・・・・」

「メティラ様もありがとうございます。そう言っていただくと、侍女冥利(じじょみょうり)に尽きます。」


春はラティスを見て上品に微笑んだ。


親父(おやじ)が許可したのか!?一体何を考えているんだ!で、お前はどこへ行くんだ!?」

「春、その前にその堅苦しい言葉遣い、私だけでもやめてくれ」

「いえ、メティラ様。今は仕事中ですので―――ってそうですかぁ!?」


「・・・・・・?」


「いやぁ、侍女頭の正装って苦しいんですよねぇ!」

「お、おう。城ではコルセットも巻くことがあるから、多少はわかるぞ・・・。」

「でしょでしょ?いやぁ、さっきまで親方様の来客対応してたからこれ着てるんだけどねぇ!」


無言で春を(にら)み続けている悠真。

突然の変わりように思考が追いつかないラティス。


「で、嘘ではないみたいだな。今後はどうするんだ!?」

「安心してください、悠真様。侍女頭は私が半年育て上げた秋花(しゅうか)が、侍女頭見習(じじょがしらみなら)いとして引き継いでくれます!秋花はもう大丈夫です。」

「だからお前はどうするんだって聞いてるんだ!」


春は怖い怖いっと言った素振(そぶ)りで袖で顔を隠しながら悠真の真ん前に立った・・・。そして満面の笑みを悠真に向けて姿勢を正し、綺麗な所作(しょさ)で礼をしながら言った。



(わたくし)瑞璃家侍女頭(みずりけじじょがしら)【春】は、明日付で悠真様専属侍女ゆうまさませんぞくじじょとしてお仕えさせて致だきます。」


「・・・・・はあぁっ!?」

「プッ・・・プァハハハハ!これはしてやられたな、悠真! アハハハハ!」

「だ〜かぁ〜ら! 明日からはずっとお側に居ますね!」


春は今までの中で一番の笑顔を見せた。


「まさか、共和国までもついてくるんじゃないだろうな?」

「はい!もちろん行きます!」

「駄目だ、危険な事もある!」

「はい!行きます!」

「駄目だ!」

「・・・・そうですか。悠真様は親方様が決めた事に反対すると?」

「そ、それとこれとは違う!」

「違いませんっ」

「・・・・・」


こうなったら何を言っても聞かないのが春である。

それは悠真が一番知っている。


「はあっ・・・・。」

「もちろん、共和国で家を探して住む準備をしてる事も知ってますよ。瑞璃家の分家(みずりけのぶんけ)なら私のような優秀な侍女がいるでしょ?」

「・・・・・・なぜ知っている?」


メティラは全く違うところをみて冷や汗をかいている・・・・・

(お前か・・・メティラ・・・)

春は満面の笑みでこっちを見続ける。


「そ・れ・にっ!瑞璃家の次男に変な虫がついては駄目ですからねぇ、ついでに監視係ですっ!」

(あきら)めろ悠真。春は本気だぞ、侍女頭という職まで辞してそうしたいと言っているのだ。」

「・・・・わかったよ」

「よしっやあぁ!」


春は胸の前に腕を振り上げて、拳を握った。


「春、ありがとう。おかげで気が和らいだ。」

「いいえ、メティラもよろしくね!」

「もちろんだ!」


落ち着いたところで、なぜか蒼真が入ってきた。


「春、うまく行ったかい?」

「はい蒼真様! 悠真様も離れたくないから一緒に来てくれとおっしゃってくださいました!」

「それはよかったねぇ、でも少し嫉妬しちゃうなぁ、」

「何を言ってるんですか、蒼真様ったら!」

『グフフフフフ』


蒼真もぐるだったのか・・・。しかし変な二人である。


「どうしたんだ兄貴。一緒に飲むのか?」

「いや、違うよ。もう早く寝なさいよと言いに来たんだよ」

「そうだな、蒼真殿の言うとおりだな。」

「それからね、今回は僕も同行するよ」

「・・・・珍しいな、兄貴が来ようとするなんて」


蒼真は微笑んだ。


「うん、なんかね。今回は行かなくちゃならないんだ・・・・」



◇◇◇◇◇◇



「わぁぁぁ!エルディア号の中もおっきぃ!広〜いっ!」

「そうだねぇ!すごいねぇ!でも高いのは嫌だなぁ・・・」


初めてエルディア号に乗る春と蒼真は二人でわいわいしている。

悠真、功、メティラはすでに座って話し込んでいた。


「ポピンは何処にいるんだ?」

「おそらく国立治癒研究院こくりつちゆけんきゅういんで治療中のはずだ。」

「大層な名前だな。」

「国家の重要な役職を持ってる人や騎士はここで治療を受けることになっている。」

「国立病院とかじゃないんだな。」

「治癒研究院の本体は残響による体への影響などの研究、薬学、人体学等を最先端で進めている。将来、治癒の道に進もうとする者の学びの場所でもある。」

「なるほどな、そりゃ大層な名前にもなるわけだ――」



晴天の間ははしゃぎまくり、嵐の間はブルブル震えていた春と蒼真をよそに、エルディア号は無事アルスティアに到着した。

馬車を準備してくれていたので、直ぐにポピンの元へ向かった。


五階建ての大きな宮殿のような建物が国立治癒研究院こくりつちゆけんきゅういんらしい。何十人もの医官たちが忙しく動いている。


「メティラ様、ポピン様は地下の隔離室(かくりしつ)にいらっしゃいます。」


地下?隔離?

それを聞いただけでも只事では無い事がわかる。

何重もの扉を抜けて、騎士が三名、警備をしている。

騎士がラティスを見るや重そうな鎧の(かかと)をカンッ!と音を鳴らして揃え、機械仕掛けの様に決まった動作で道を開ける。


「皆ごくろう。」


メティラの声にも微動打にしない。

無視をしている訳ではない。彼らは今、警備中である。それが上官、たとえ姫君や国王であったとしても、直接名を呼ばれて応答する事以外は警戒を解かないよう訓練されているのだ。


「ガルド」

「はっ!」


メティラが名を呼び、その騎士が返事と同じくして、もう一度姿勢を直した。


「この件についてなにかあるか?」

「ご報告がごさいます。お時間を頂戴いたしたく。」

「わかった。この後に頼む。」


ガルドと呼ばれた騎士は再度姿勢をただし、礼をした。



扉の向こうには、ベッドに座り、飾られた一輪の花を見つめるポピンがいた。


「ポピン!意識が戻っていたのか!?」


安心した表情でポピンの横に駆け寄るメティラ。

しかし―ポピンの反応はいつものそれではなかった・・・


「ラティス? あれ、みんなも。 いらっしゃい。」

「・・・・・」

「ポピン?大丈夫なのか?」


悠真も横に立ち声をかける。


「えっと・・・悠真だよね、久しぶり、元気してた?」

「蒼真様・・・これって・・・」


春が不安気に蒼真に小声で呟いた・・・。


「あぁ、記憶が少し混ざってしまっているね・・・・おそらく――」


邪迷病(じゃめいびょう)


悠真と蒼真が揃って口にした言葉・・・・

大量の邪気を体に浴びてしまったものが(かか)る病気・・・呪いのようなものだ。

かかった本人の記憶の時系列がぐちゃぐちゃに混ざってしまう特徴がある。(ひど)くは完全な記憶喪失(きおくそうしつ)

になってしまう場合もある。


「どうしたの?みんな揃って。遊びに来てくれたの?」

「ポピン・・・・・」

「どうしたのラティス?ごめんね、せっかく来てくれたのに。今調子が悪くって。」


メティラは(うつむ)いてしまった。――涙を堪えてるのであろう。

他の者たちもどう言葉にしていいか分からなかった。


「また来るよポピン。早く治せよ。」

「ありがとう悠真。治ったらレグナント見せてあげるね。」

「・・・・」


悠真はラティスの肩にそっと手を乗せ、退室を即した。たった五分も居なかった。いや、そこに居るのが辛かった。が正解かもしれない。部屋を後にした五人は治療院の一室で先ほどの騎士【ガルド】から話を聞く。


「皆に紹介しておく。私が副隊長を務める上級神響技軍じょうきゅうレゾナスアーツぐん 第二小隊騎士のガルドだ。」

悠真様(ゆうまさま)、功様。前回の訓練ありがとうございました。そして皆様、ガルドと申します。」

「早速話を聞かせてくれ。」

「ポピン様が初めて神霊石(レゾナイト)を見つけたと言う洞窟に行かれると言うことで、我々第二小隊に護衛の任が与えられました――」


そこからはこうだ。

数名の研究員とガルド達騎士が五名、ポピンに同行し洞窟へ向かった。そこはポピンが十四歳の頃に見つけた洞窟で、興味本位で入ってみると輝く石を見つけた。それが【神霊石】だ。

ポピンにとって始まりの場所のようなその洞窟に、今研究している【無色の神霊石】がないか、発掘にいったらしい。 そこで見つかったのが黒く光る石だった。


「ポピン様と研究員の男性がそれを掘り始め、男性がその石を手にした時、石から黒い霧が吹き出しました。」


誰もが嫌な予感を感じ、それは的中した。


「霧が男性を包み穢人(けがれびと)変貌(へんぼう)、戦闘となり騎士五人掛でなんとか退治できました。しかしその研究員の真横にいたポピン様は黒い霧をかなり吸い込まれてしまったようで、倒れられ急いでここへお連れしました。」


メティラは足を組み、机に片肘をついて頭を抱えていた。


「ポピン様は聖水を処方(しょほう)され、意識が無くなられていた三日間、器具を使って直接胃へ吸収する処置を行われ、ようやく今朝目を覚まされましたが、お会いになられたとおりです。」


疲れ果てた顔のラティスはガルドに聞いた。


穢人(けがれびと)と化した研究員は?」

「退治したあと、霧だけが抜けました。まだ息があり、穢人の気配が消えておりましたので、同じくここへ連れてまいりました。」

「何処にいるのだ?」

「同じく地下の隔離室(かくりしつ)に収容しておりますが、意識はございません。念のため、結界は張っておきました。」

「万が一に備えて結界を張ったのは良い判断だ。」

「はっ、ありがとうございます。 メティラ様、一度ご覧になられた方が良いかと。」


「なにかあるのだな?」

「はい、黒い無数の(あざ)が。それともう一つ。」

「原因の黒い石が、穢人を退治したのと同時に消えてなくなりました。」


その黒い石が新たな色の神霊石だとして・・・本来、神霊石と言うものはその石の効力を使えば色が薄くなったり、発光が弱くなるだけで壊れたり、消えてなくなったりはしない。しかし、今回の黒い石は消えてなくなったと・・・


(なんなんだよ、いったい・・・)



悠真達は再び地下へ。

ポピンとは違う方向の通路を進むと、術印が発動された部屋が出てきた。 ここも騎士に警備されている。中に入ると、ベットによこたわる男性と一人の白衣を着た老人が立っていた。


「これはメティラ様、お久しゅうございますな。」

「院長先生ではないか、しばらくだな。」

「この者の症状を見に来られたのですな。」

「あぁ、黒い(あざ)があると聞いてな、今後の為にも見ておこうかと。」

「ふぉっふぉっ、メティラ様。(あざ)より見ておいた方がよいものがごさいますぞ」


そう言って院長は男性に掛けられていた布を取った。


無数に現れた大小の黒くて丸い痣。そして胸の辺りに見た事もない紋様があった。それは、三日月が下を向き、大地を食いつくさんとする様な、禍々(まがまが)しいものだった。


皆、その紋様が目に焼き付いた。


「それからメティラ様。ポピン様の事で少しお願いがあるのですが。」

「なんだ!?なんでも言ってくれ!」

「ふおっふおっ!それでは。」


院長は白衣のポケットから絵の描いた紙を取り出し、メティラに渡した。


聖氷樹の実(せいひょうじゅのみ)を取ってきてくださいませんかの」




□□□□□ラティの日記□□□□□

◯月×日

ポピンに会った。意識は回復していた。

していたが。あんなポピンはみたくない!

きっと私が助けてやる!いや、みんなで助けてやる!

だから待っててくれ! 


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