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神々の残響  作者: 蒼凪 悠
アルスティア国

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16/23

第十五話 静海の街の神域

「おーはーよーございまーす!悠真(ゆうま)様ぁ」


朝早くから春の嫌がらせを受ける。まだ怒ってるのか?

何とか機嫌(きげん)を取らねばいつまで経ってもこのままだ。

こいつはそう言う奴だ、昔っから・・・。


「おはよう春ちゃん!今日はいい天気だねぇ・・・」

「ええ、かなり曇ってます。」

「・・・・・」

「もう怒ってないですよ、早くしてください。メティラさんと静海(じょうかい)の街へ行くんでしょ?」

「あ、そうだったな・・・。」


悠真は着替えて食堂に行くと、すでにメティラを含む皆が食事をとっていた。

メティラは真剣に親父の話を聞いている。


「やっと起きたのか。何歳まで春に起こしてもらうつもりだ?」

「悠真ぁ!おはよぉ。さぁ、お兄ちゃんの横に座りなぁ」


朝から小言の|瑞璃家上級神響術継承者《みずりけじょうきゅうしんきょうじゅつけいしょうしゃ》の秀真(しゅうま)と弟大好き継続中の兄、蒼真(そうま)。朝食は一人で食べたいのだが・・・・


「おはよう悠真。秀真様から今日連れていってもらう神陽大神宮(しんようだいじんぐう)の事を教えてもらっていたのだ。」

「そかそか、飯食って落ち着いたら出よう。」

「そう言えば悠真、ドレスを忘れてはいないか?」

「・・・・あ」


すっかり忘れていた春へのお土産。

セイラ様とメティラがせっかく選んでくれたのに・・・・。

でもこれって、俺からのお土産じゃなくて共和国からの贈り物じゃないのか・・・・?


「春!」

「何です?」

「後で俺の部屋に来てくれ」

「な、何ですかぁ!朝からそんな・・・・もぅ悠真様」


何を言ってる?


「いつも世話になっている春にお土産があるんだった。」

「本当ですか!結婚指輪!?」

「前も同じ事言ってたぞ?」

「・・・・・」


相変わらず、女心がわからない悠真である。


「共和国でな、向こうのお姫様が着ていたドレスがとても綺麗だったからさ」

「えええっ!ドレスをくださるんですか?!」

「あぁ!しかも普段着用も含めて四着も!」

「ちょっと感動かも・・・・」

「その話を第一王姫のセイラ様と第三王姫のメティラにしたらさ、選んでくれてさ!」

「?」

「あ、王姫の時はラティスだっけ?」

「ん?そうだが内緒にしてくれ。もちろん、ここでは良いが。」

「あ、悪い!そうだったな・・・んなわけでメティが・・・・・」

「ちょいちょい!悠真様!今凄い事言ってるのわかってます?」

「あぁ、そうだよ悠真・・・・」

「どうした?蒼真まで。親父も目が点になってるぞ?」


『当たり前だ!王姫様を適当に扱うな!』


こっぴどく秀真に怒られたが、メティラが自分から言ったんだと説明をしてくれて収まった。

ようやくドレスの話に戻ったが、服のことなんぞ分かるはずない悠真の代わりにメティラが説明してくれる。


「来てみろよ、春。」

「そうだな、折角だし。私が手伝おう」

「良いのですか、メティラ様・・・・」

「気を使うな春、これからは春と呼ぶからメティと呼んでくれ。」

「あ、ありがとぅ・・・・メティ」


男達は待ちぼうけである。


「よかった、よく似合っているぞ。」

「ほんと・・・こんな豪華な服、着る機会ないけどね・・・」

「何を言う。アルスティアに来た時にきれば良いのだ。」

「そうだね!」

「さぁ、春 悠真に見せに行こう!」


そこにいた誰もが見惚(みとれ)れた。

それほど春のドレス姿は美しかった。


「おぉお・・・・可愛いじゃないか春!」

「ほんと?悠真・・・・。」

「あぁ、ここまで変わるとは・・・・」

「いいよ!春ちゃん!」

「お前の父親を使いに出さなければよかった・・・。帰ってきたら見せてあげなさい。きっと喜ぶぞ」

「ありがとうございます、親方様、蒼真様。」


春の顔は真っ赤になって照れている。


「メティラとセイラ様に選んでもらってよかったよ、ありがとな」

「何!たいした事ではないぞ。悠真が私を見て思ったと言う」


 『清楚』

 『可愛い』

 『可憐』

 『好みの女性だ』

 『大好きだ』

 『素晴らしい』

 『抱きしめたい』

 『愛している』


「それを思い描いて選んだのだ!悠真の好みに突き刺さるであろう?」

「・・・・・」


ゴゴゴゴ・・・・・皆、どこからか地鳴りのような音が聞こえてくる気がした。


「ん?どうした春? 皆もどうされた?」

「・・・・・」

「さ、さぁ。わしは鯉に餌をやってくるかのぉ。」

「ぼ、僕も書類の整理があるんだった・・・」


秀真、蒼真、従者、侍女達も慌てて仕事を始めた。というか、逃げた。

悠真は血の気が引いていく。さすがの彼も今回は察した。


「ま、待て春!!これには訳がある!てかそこまで言ってない!」

「そこまで・・・ね。」

「???」


何事かと首を(かし)げるメティラ。 目が赤くなる春・・・。


「いや、最初は知らなかったんだ!気づかなかったんだ!な!メティラ!」

「そうだったな!玉座の横に並んだ私たち姉妹を見て思ったんだったな。」

「そ、そうだよ!まさか第三王姫様がメティラだとは思いもしなかったし、別人だったし!」

「なっ!別人とはどう言うことだ!そんなに違うか?でも正体をポピンがバラした後に言ったではないか、『普段のメティも可愛いけど』と」

「あー・・・・あれはだな・・・・えーっと・・・もう、何も言うなメティ・・・・。」


春の髪が逆立つ・・・・周りの残響が震えだす・・・


覚悟を決めた悠真がせめてもの和らぎをと、神に祈りを捧げ始めた時・・・

ふっと空気が平常に戻った。


「はあっ・・・・わかってますよ。これでもかってぐらい超鈍感で乙女心がわからない事は。そんな悠真様がそこまで言うとはおもいませんしね。」

「春ぅぅ・・・・」

「それに今回は何だかんだ、私の為にドレスを用意してくれたってことで許してあげます。実際可愛いし」

「そうだ!悠真は春に似合うやつにしてくれよってうるさかったのだ。」

「ふふっ・・・ラティも中々の天然ね。 でも可愛いの選んでくれてありがとっ。大切にするね。」


た、助かった・・・・。



◇◇◇◇◇◇


「キュ!」


コンは自分の中の残響(ざんきょう)が薄れたり、疲れた時は便利なもので神霊石(しんれいせき)に戻ることができる。

家の右側の狛狐(こまぎつね)像はやはり突然消えて大騒ぎになっていたらしい。今は新しい狛狐が()えられている。

秀真と蒼真にそれを説明した時は(信じがたい現象だ・・・)と二人とも言うが、そもそもこれをくれたのは蒼真だ。


「どこから持ってきたんだ?この神霊石」

宝物館(ほうもつかん)にあったんだよ。」

「じゃぁなんで俺に渡したんだ?」

「わかんない。でもそうしなきゃと思ったんだろうねぇ、多分。」


いつもの蒼真である。蒼真が突然発する言葉や行動は何かしら意味がある。秀真もそれはわかっているので今回の出所不明な神霊石の件も追及しようとはしなかった。

本当に謎めいた兄貴だよ・・・。


「さぁ、出発しよう」


悠真は神翔船に乗り込み、操作を始める。メティラに教わり少し練習もした。

静海(じょうかい)の街】はここから馬車で一時間程、神翔船なら10分足らずで着く。

ふわりと浮き上がり、進み出した神翔船を見送りながら蒼真が呟いた。


『いつか分かるよ』


【静海の街】・・・波もなく雨風であっても海水に落ちる雨水の波紋は見えれど音はほとんどしない。常に(なぎ)状態の海。その残響の濃さは皇国の中でも一番である。


 古の時代、まだ二つの大陸が一つだったと言われる頃。

 天照大神(あまてらすおおみかみ)月詠ノ神(つくよみのかみ)が共に降り立った。


古文書に記された内容だ。

その降り立った場所とされるこの静海の街には、天照大神を祀る瑞穂皇国最大の神域【神陽大神宮(しんようだいじんぐう)】がある。年に一度、皇王や上級神響術継承三家はもちろんの事、あちらこちらにある神社の長達があつまり、儀式を行う場所である。


「すごいレゾナス(残響)だ・・・体がビリビリする」

「普段から残響(レゾナス)が薄い共和国のラティはそうだな。()すぎて体の蓄積容量(ちくせきようりょう)を超えているんだろうな。」

「なるほど。」

「だからメティ。こっちにいる間はそれが訓練となる。」

「どう言うことだ?」

「残響の蓄積容量を上げるんだよ」



「よぅ、お二人共いらっしゃい。」

「功、世話になる」

「あぁ、ここの事ならなんでも聞いてくれ。」

「ありがとう。功はその大神宮とやらに関係しているのか?」

「神宮の中の事は関係ないが、警備を行うのは瑞石家(みずしけ)の勤めだ。」

「こいつはやる気ない駄目人間に見えるが、防御や付与系の神響術は皇国一かも知れないと言う、以外な面もあるんだ。」

「そうなのか!功は凄いのだな!いや駄目人間!」

「なっ!駄目人間は余計だ!しかもメティまで言うな!それに駄目人間と言うならそれはお前の方が段違いに上だろ!」



神陽大神宮(しんようだいじんぐう)に到着し、橋の向こうに第一の鳥居が迎えてくれる。橋の下には澄んだ水が流れる天の川(あまのがわ)が神域を取り囲んでいる。 この地に降り立った天照が喉を潤したと伝わる清水だ。 橋を渡るといよいよ神域である。


「ラティス、ここの鳥居をくぐる時は手前で礼をして名をなのるんだ。あ、声に出さなくていいからな。」

「なるほど!わかった!」


メティラは深々お辞儀をする。


「私は!アルスティア国からきたメティラ・カルス・・」

『だから声出さなくていいって!』


第一の鳥居をくぐると玉砂利(たまじゃり)が敷かれた広場があり、奥へ続く参道(さんどう)が中央に走っている。

沢山の巨大で立派な樹々(きぎ)と鳥のなく声。差し込む木漏れ日。その景色はいったい何千年前から変わっていないのであろうか。


「悠真・・・・これは凄すぎるな・・・。」


メティラが小刻みに震えている。高濃度の残響の影響だろう。


「大丈夫か?無理ならやめた方がいいぞ?」

「何を言う。穢人(けがれびと)の 邪気に当たっているわけではないのだ、これは神様の試練だ!」

「なんか違う気もするが、まぁいいや。奥に進むぞ」


石畳を進むと第二の鳥居が見えてくる。 第一の鳥居の半分ほどの大きさだ。

ここでも礼をし、前へ進む。 奥へ進む道は右側に折り曲がるが、その角に舞台のある神秘的な社が見えた。


「ここは神楽殿(かぐらでん)と言って神事(しんじ)の際に巫女(みこ)が舞う場所だ。」

「功、舞うのは何の為に舞うのだ?」

「神をここの地へお迎えし、喜んでもらうためさ!神と人を繋ぐ儀式みたいなもんだ。」

「なるほど。皇国の皆は今でも神が存在すると思っているのだな。」

「存在する・・・か。まぁ、そういう事だ。 共和国は違うのか?」

「我々の認識は存在するではなく、皆の中に神の意識が引き継がれている。だな。」

「これはどっちにしても難しい話だよ。結局人それぞれの気持ちの持ちようだ。」


次に出てきたのは木造の一般的な居住区。ここでは大神宮の神職者達が暮らしている場所だ。

その先にはさらに樹々が立ち並ぶ【神樹の森(しんじゅのもり)】がある。ここを抜けるとさらに神聖な場所と位置付けられている。


「メティラ、これが天照大神が(まつ)られている【正宮(せいぐう)】だ。」

「悠真、どんどん圧がすごくなってくるな・・・・。」

「あぁ、無理そうならいつでも言えよ。」

「わかった・・・。」


十段の石段を登ると木の塀で囲まれた建物があるのだが、どの角度からでも全容は見えない。

門をくぐるとさらに塀で囲まれた参拝所【拝殿(はいでん)】がある。

中央に大きな鈴がついた鈴緒(すずお)があり、正宮の真正面となる。しかし、真っ白な絹の布で覆われていて、向こうはほとんど見えない。


「さぁ、鈴を鳴らして二礼二拍手一礼だ。見本を見せるから、最後の一礼の時に感謝と祈りを捧げるんだぞ。別に願い事しても構わない。」


悠真と功は皇国の神事事に関わるもの者として、綺麗な参拝作法をメティラの前で行った。

二人の体に残響がまとわりついたような気がした。


「さぁ、やってみな。一つ一つの動作にも意味があるんだ。まず鈴緒を振ると鈴が鳴り、俺の残響を散らして神に来たことを伝えてくれる。 二礼は天照様と月詠様への敬意を表している。二拍手は今、自分の残響とこの神域にある神々の残響を共鳴させる。 んで最後の一礼はさっき言った通りだ。」

「奥が深いな・・・・・わかったやってみる。」


メティラは教えてもらった通り、作法を行った。 流石に騎士であり一国の王姫様、動作が綺麗である。

最後の一礼を行うと同じく、メティラは祈りと感謝を捧げた。


(ここに連れてきていただき、あなた方のような偉大な神に出会えたことに感謝します。願わくば問題の解決の為、私も強くなれるようにお力を貸してください・・・)


風がメティラの頬をなぜた。


『ラティス・・・・安心しなさい・・・・』


メティラは慌てて顔をあげ、驚いた表情で正面を見た。少し体も楽になっている。


「どうしたんだ??」

「今・・・・ラティスって・・・・。安心しなさいって女性の声が聞こえたんだ。」

「・・・・・」


功は訳がわかっていなかった。しかし悠真は経験した事があるが故、それ以上は何も聞かなかった。


(俺に【旅立ちの時です・・・】と声を下さったのは天照様だったのか・・・?)




□□□□□メティの日記□□□□□

◯月×日

 神域に行ってきた。凄かった。広さも神々しさも。

共和国の神殿なんて比べ物ならないほど。

そしてお告げを聞いたかもしれない。優しい女の人の声だった。

安心しなさいと言ってくれた。心が救われた気分だ。

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