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黄昏急行 ~昼が来れば焼け死ぬ星で僕は仲間と旅をする~  作者: わけあり団子


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東へ

はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。

本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。

https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896

 ターンテーブルと呼ばれる列車の反転装置で列車を反転し、東に向けて走り出してから10時間が経過した。地平線の上にあれほどしつこくとどまり続けていた太陽は、今やあっさりと地平線から手を離し空に昇ろうとしている。


「日が昇ってきましたね……」

 タウセチ、あるいは恒星が昇ってきたというべきかもしれない。ただ、どうにも慣れなかった。目が覚めて以降、空気は晩秋のような冷たさがあったが、わずか10時間で初夏のそれに変わりつつある。


「ツカサさんは中へ。少しでも日のあたらない場所にいてください」


「いえ、これくらい大丈夫です」


「……これからもっときつくなります。

 計算では80度……場合によっては90度、100度まであがるかもしれません。

 湿度は低いとは言え、これは生物には非常に厳しい温度です。今はまだ体力を失うような無理をするところではありません。

 グリムと中に居てください」


「わかりました」

 先頭車両から客車に戻ると充電ステーションのグリムが目に入った。ルナの説明では、ラビはこの列車より早く走れるがグリムはこの列車とほぼ同程度の速度でしか走れないらしい。つまり今出発しても列車と並走するだけで無駄なエネルギーの消費となるわけだ。

 大きなリュックの隣にすわって、腕を組み、じっと反対の壁を見つめている。充電中なのだろう右手の甲からは電源ケーブルが出ていた。


「となりに座っても?」


「おう」

 声をかけるとすぐに了承の返答があった。脇にあった椅子をグリムのすぐ横にガラガラと引き寄せ腰を下ろす。


「グリムさん。今回の作戦、仮にツムギがあの空洞にいるとして、無事に救助できる可能性は何%くらいだと思いますか?」

 しばらく答えはなかった。横顔を見るといつもより真剣な顔つきに見える。が、何を考えているのかはわからない。


「……ツカサは俺が憎くないか?

 俺があんな見落としをしなければ、ツムギはツカサと一緒に助かって今ごろこの列車に居たかもしれない。俺が核融合炉をもってきてなければ、ツカサまで命の危険を冒してこんな作戦に参加しなくても良かったかもしれない。


 そんな風に思ったことは?」

 正直に答える。


「……そんな風に考えたことがありませんでした。

 ツムギのことで頭が一杯で……」

 グリムと同じ壁を見つめる。ガタンゴトンと体を揺らす感覚がいつもよりも速い。


「……実をいうとグリムさんの記憶にあるコールドスリープポッドをみたときに、少し昔のことを思い出したんです。たぶん、ミラに搭乗する日のことだと思うんですが……。

 どうしてかわかりませんが、あの日、ミラに搭乗する直前。エリアAに両親と匠、僕の四人が割り当てられ、ツムギだけがエリアBに割り当てられたんです。エリア毎にコールドスリープ前の身体検査や問診、投薬が行われることになっていたのに、一番幼いツムギだけが1人で搭乗準備をすることになってしまって……。

 きっと怖かったんでしょうね。エリアが分かれる通路でツムギが泣き出してしまったんですよ。なので、ちょっと無理を言って僕もエリアBに搭乗できるよう変更してもらったんです。

 結果、僕とツムギはエリアBのとなり同士のポッドになって……。

 だからですかね、素直に両親の調査結果を信じる気になったのは。ミラから避難するときにとなり同士のポッドだったのであれば、同じ空洞に格納されるというのもわかるような気がして。


 それで―――。


 なんだかあそこに、あの空間にツムギがいる。そんな気がしたんです。助けられるのは自分しかいない、って」


「なるほど……。

 ツカサはいい兄貴だな」

 気温のせいではないと思う。顔が少しだけ暖かくなるのを感じる。


「いや、なんだか少し恥ずかしいですね」


「はは」


「それに、グリムさんを憎むと言われても、あの映像を見る限り異変に気づけないでしょう?

 僕もツムギが同じ部屋に格納されたと聞いて、あそこにいると予感がして、必死で考えなければ普通にスルーしていたと思います。

 ……あとは、そうですね。

 大事なことを忘れているかもしれませんが、僕の推論が間違っていてあの土の下にツムギはいないかもしれません。そうなると僕は的はずれな推論で皆さんの命を危険に晒した大間抜けだということになります」


「……ははっ!……確かにそうだな!」

 その可能性もあったのか、そう言わんばかりに右の手のひらを顔に打ち付けるグリムは少し愉快そうだった。少しの間があってグリムが口を開く。


「……64%だな」


「え?」


「ツムギがあの下に埋まっていて、この作戦が成功する確率は俺の計算では64%だ」

 具体的な数値は予想していなかったが、グリムの口から告げられた数値は思っていたよりも低い数字だった。どんな計算なんだろう。そう思った。


「根拠を聞いてもいいですか?」


「俺はルナほど計算が得意じゃないから単純な計算になるが。

 ツムギがあの下にいるとわかれば今回の残りの作業は4つ。

 1 床を砕いて、ポッドが取り出せるサイズの穴を作る。

 2 ポッドに被った土と岩をどける。

 3 ポッドを取り出して列車に運ぶ。

 4 昼から逃げる。

 ……このうち、

 1は大した問題じゃない。俺の腕はあの部屋の床なら簡単に砕ける。なんたって断熱素材でできた床だからな。

 2は80%ってところだな。ルナの予定では4m、10時間を見込んでいるがそれより深さが深い場合や、大量の土砂がポッドを覆っていた場合はそれなりに時間がかかるだろう。それにポッドを割らないよう加減が必要になる。

 3も大した問題じゃないな。ツカサの時に同じことをやればいい。ポッドをどこかにぶつけないよう慎重にやるだけだ。

 そして4は俺の作業というよりルナの担当する部分が大きいが、成功率は80%くらいか。実をいうと半々だと思っているが、ルナが『腹をくくる』、そう言っていたからな。

 あいつ、ミラを不時着させる時、同じことを言ってたんだぜ。 エンジン不調で昼のど真ん中に落ちるはずだった俺達を、コールドスリープ区画と中央制御室以外のエリアをパージしまくって昼と夜の境界線に不時着させたんだ。

 ……お陰で不時着した後、機材やら資材やら、いろいろと不足して大変だったけどな!


 ま、そんなわけで今回もなんとかするだろうさ」

 二人で笑っていると、機関車からルナの声が聞こえた。


「グリム、そろそろ出発の用意をお願いします。

 あ、ちょうどラビから信号が来ましたね」


 談笑をしていた空気が一瞬にして変わる。


「どうだ?」


「……ツカサさんのポッドがあった地点、ほぼ真下5m……ポッドと思わしき空間を検出。です」


「行ってくる!」


「グリムさん、よろしくお願いします!」


「おう!任せとけ!」


 充電用のケーブルを腕から外し、大きなリュックを背負う。客車から飛びだすと、その反動でわずかに車両がゆれた。


「ツカサさんもラビが戻ったら出発です。そろそろ準備をお願いします」


「わかりました」

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

文字通りのターニングポイントです。西へと進んでいた列車が東へ向かう、この世界でそれがどういう意味なのか。そしてツカサとツムギの過去を交え描いてみました。グリムの始めての見せ場でもありますね。


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