行方
はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。
本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。
https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896
何から考えればいいのかわからなかった。
はっきりとは思い出せないが、わずかに思い出せたこと―――。仲の良い家族だったと思う。朝夕の食事はみんな一緒に食べ、一日の出来事を互いに話して笑い合う。休日には誰かの観たい映画を一緒に観たり、正月には父方の祖父母の家を訪れおせちを食べ、夏休みには旅行を楽しむ、そんな家族だった。
そして、わずかに思い出したにも関わらず、その両親はもう居ないという喪失感。もうあの二人には会えないのだという胸を締め付けるような痛みがあった。
さらに双子というからには同い年だったはずの兄タクミにはもう孫がいるという。アリアに着いてすぐにコールドスリープから解凍されているのだとすれば、70年自分よりも人生を生きたことになる。時間の流れがいかに残酷か。コールドスリープ技術の弊害とも言える。頭の中はぐちゃぐちゃなのに、気づけば涙が出ていた。
そして、―――妹?
はっとした。涙を服の袖口でぬぐい、ルナの方に頭を向ける。この手紙には両親のことよりも、匠のことよりもずっと大切な事が記載されていた。
「……ルナさん。
僕が見つかった空洞に、もう一つコールドスリープポッドはありませんでしたか?」
手紙の最後、追伸には妹が自分と同じ空洞に格納されたと記載されていた。だが、ここに妹は居ない。
「いえ、ツカサさんだけです。どうしましたか?」
「これを」
手紙をルナに渡す。ルナの瞳の光が手紙の上をするする滑る。
「これは……グリム、ツカサさんを救助した際の映像を出してもらえますか?」
「ん?おう」
「グリムさん、これを見てください。最後の追伸の部分です。
僕の妹も僕と同じ空洞に格納されたと記載されています。」
グリムの声がうわずった。
「は?
いやいや、あの空洞には他にコールドスリープポッドはなかったぜ。そもそも空間がそんなに広くなかったんだ。
っと、映像を見ながらのほうがいいな。
モニターに出すぞ」
モニタはベッドの頭側にあるため、ベッドに寝たままでは見ることができなかった。体を起こし、ベッドから降りる。
すぐにモニタに映像が映った。天然の洞窟の中にコンクリートのような素材で四角い人工の部屋があるのがわかる。
「空間の寸法は横幅が3m、奥行きは5m、壁の高さは4m。
天井はぼろぼろで、部屋の中央で手前から奥にかけて大きく割れている。
床も中央で手前から奥にかけて大きく割れていて、部屋の左側が右側に対してわずかに低くなっている。左右の壁は大きくは歪んではいなかった。
ちょうど一つの箱を中央で2つに割ったような感じだな。
1m四方の核融合炉が左側の左奥に一つ、コールドスリープポッドは右側の右奥で幅1.5m、長さが3m。核融合炉から電源ケーブルは一本のみ出ていて、そのケーブルはコールドスリープポッドに繋がっている。いわゆる石室というやつだな、比較的深さの浅い空洞でみられるが、格納されるポッド数は少ない」
「石室……」
思わず口ずさんだ言葉に、グリムが説明をしてくれた。
「深さの浅い空洞は温度が上がりやすい。そこで断熱効果のある素材で空洞に部屋を作りその中にポッドを入れたんだ。
あの時……避難の後半、それも昼がやってくる直前だな。どんな方法でも、1人でも多く避難させようとしていたからな」
「……あの時……」
思わず口に出た。
「グリムはミラの搭乗員ですよ。
不時着後、多くの命を救うために奔走したんです」
「お前もだろ」
「ええ、ですが今は置いておきましょう。
……横幅だけ考えても、もう一つポッドを入れると1m + 1.5m * 2 = 4m つまり、空洞の幅3mを超えています。横向きにすれば入らなくはないですが……」
ルナの言う通り、ミラにグリム、ルナが搭乗していたことは今は重要ではない。全員が部屋の内部を録画した映像を食い入るように見つめる。
「……言っている意味はわかるが、正直この空間にもう一つポッドがあれば、見落とすわけがないだろう」
「そうですね。何らかの事象で部屋から出てしまったということでしょうか。
部屋を開ける前の状態はどうでしたか?」
「今モニターに出す。ちょっとまて」
モニタの映像が切り替わった。いかにも坑道といった洞窟の壁をグリムの腕が叩いている。採掘をしているというより、採掘前にこの場所を掘っても良いのか、検査をしているかのようだった。
「ここだな。鉱山の壁を叩いたときに、壁の奥が崩れる音がしたんだ。
鉱石が落ちる音ならもっと重い、金属音に似た音になる。が、聞いての通りそんな音じゃねぇ。軽い素材だ。何度か叩いて、この奥に……それもすぐそこに大きな空洞がある。そう確信した」
再び映像が切り替わる。
「掘ってみた結果がこれだな。さっきの部屋の手前の壁だ」
「手紙には同じ空洞に、とあります。同じ空洞の別の部屋という可能性は無いんでしょうか」
「可能性は0ではありません。
……ただ、先程の映像を見る限り、もう一つポッドを置こうと思えば置けるわけです。
なのにあえて別の部屋を作って格納するでしょうか」
「少ないだろうな。核融合炉はそんなに大量にあったわけじゃない」
「一つの核融合炉で2つの石室の電源を供給することは?」
「ああ、そういう事例はたしかにあったが……」
「いえ、でも核融合炉からケーブルは一本しか出ていませんでした」
「それだな、核融合炉があっても電源ケーブルがなければポッドは長く持たない。
ケーブルが一つしか出ていない。ツカサはこうして生きている。つまりあのケーブルはツカサのコールドスリープポッドに繋がっていたはずだ。
それがこの部屋には一つしかポッドがない何よりの証拠じゃないのか?」
ルナ、グリムだけでなくラビもエドガーも映像をみていた。グリムのいうことは正しい。ケーブルが一本しかないのであれば、それはあのポッドに繋がっているはずだ。
……なんだろう、わずかばかりの違和感があったが、その正体ははっきりしない。
「一本の電源ケーブルから2つに分岐することはないんですか?」
「ケーブル1本で2つのポッドに送電することはないな。
そんなケーブルは見たことがない。
核融合炉から2本ケーブルを出すか、ケーブルが繋がれたポッドから別のケーブルを出してもう一つのポッドにつなぐかだ」
「そうですね。私も二股のケーブルは見たことがありません。探せばあるのかもしれませんが。
核融合炉AにポッドB、ポッドCを接続する場合、A-BとA-Cでケーブルを分けてつなぐ、またはA-B-Cのようにケーブルを数珠繋ぎにする必要がありますね」
「では、ケーブルが抜けた可能性はどうでしょうか?」
「可能性は……無いとはいわないが。
ケーブルの差込口は少々のことでは抜けないようにできてる」
「そうなんですか?」
「差込口が壊れるということは核融合炉が壊れる可能性を秘めているんです。差込口のひび割れから過電流が流れたり、錆がでることで内部に水が染み込むようになったり。
そんなわけで差込口というより核融合炉自体かなり頑丈に作られているんですね。
加えて、あえてケーブルをちぎれやすくしています。
核融合炉が故障するということは電源を消失するということですが、ケーブルはちぎれても交換すればいい、そんなところでしょうか」
「なるほど」
「ルナ、どうする?」
「他に格納できる空間がありませんしね……辺り一帯を掘り返すのなら、援軍を呼ばないと私たちだけではどうにもならないでしょう」
「だな」
ちょうど映像に核融合炉とポッド、それをつなぐ一本のケーブルが映っていた。ずっと頭の中にあったぼやけた違和感が、焦点を結んだ。そんな気がした。
「あの、ここ……。核融合炉から出たケーブルが地面に落ちて、地面を這ったケーブルが僕のポッドに繋がっているように見えますよね。
地面をケーブルが這っているちょうど中間くらい、土がケーブルに被ってます。
これってほんとに繋がってるんでしょうか?」
「……繋がってるように見えたな……それに、もし切れてたらツカサのポッドは電源を喪失してる」
「それは、そうですね……ポッドのバッテリーはもって10日といったところですし」
「A-B-Cのパターンを考えていたんです。
核融合炉から伸びたケーブルは一見僕のポッドに伸びているように見えた。つまり動画を見ると僕のポッドはBのように見える。でも僕のポッドからケーブルは出ていない。つまりA-B-Cの考えでは僕のポッドはBではあり得ない。
で、僕のポッドをCだと考えてみたんです。
普通に考えればAからCにケーブルが繋がっていて、これも否定できると最初は思ったんです。でも、さっきの土に覆われたケーブルが気になるんです。核融合炉Aと僕のポッドCの間にツムギのポッドBがある、と仮定すると、核融合炉Aから出たケーブルはポッドBにつながっていて、僕のポッドCにつながるケーブルはポッドBからでていることになります。
このわずか10cmの土をどけると、核融合炉AからポッドBへ向かうケーブルとポッドBからポッドCに向かうケーブルが現れたりしないでしょうか」
「……」
ルナが静かに息を飲む。グリムはモニターを食い入るように見つめていた。
「イメージで言えばA-B-Cのうち、何かの理由でBの部分が地下に沈み、あるいはAとCの部分が隆起し、偶然にもA-Cにケーブルが繋がっているように見えている。
つまり、あの部屋の下にもう一つコールドスリープポッドが……ツムギが眠っている」
誰も何も言わない。沈黙が続き、列車が揺れガタンゴトンと音を立てる。
「行ってくる」
そういってグリムが立ち上がった。
「待ってください!今からもどっても昼に追いつかれてしまいます。
動画を見る限りあの部屋の下に埋まっているなら密閉度はそれなりに高いでしょうし、断熱素材がポッドの上に落ちている可能性も高い。A-Bの電源も生きています。
次の週にすることを考えてもいいのでは?」
「……悪い」
大きな体が、わずかに沈むように見えた。
「グリム、どうかしましたか?」
「あ!」
モニターの映像が移り変わる。グリムが核融合炉をあの石室から運び出していた。
「核融合炉は貴重だからな。ツカサを収容した後、もどって取りに行った」
「ということは……」
「ツカサを長年活かしてくれていた核融合炉は、この列車の貨物車にある」
「ポッドの電源はもって10日……。次の週まで持ちませんね。」
誰も何も言わなかった。ルナが静かに、しかしはっきりと口を開いた。
「わかりました。腹を括りましょう!
ラビはこの列車よりも足が速い。
今すぐツカサさんを助けた空洞へ。ソナーであの部屋の地下に空間があるか確認してください。」
「わかった!」
ラビが駆け出した。一瞬でその背が扉の向こうに消える。
「グリムは穴掘りの準備をしてください。
ラビの調査結果を受け、もし地下に空洞がないようであればもう一度周囲を確認し戻ってきてください。空洞があれば、いえ、ツムギさんがいれば救助をお願いします」
グリムが短く頷いた。もう迷いはないようだった。
「エドガーはこの列車の後ろに他の列車がいるか確認をお願いします。
後続車がいるのであれば事情を伝えて迂回を依頼してください」
「カァ!」
エドガーもすぐに窓から飛び出していく。
「私は列車を反転させます」
「ツカサさん、この列車は温度の高い場所まで引き返すことになります。
人間であるツカサさんにはキツイ行程になると思いますが、覚悟をしておいてください。
あと、可能な限り、みんなの動きはモニタで確認できるようにしておきますので、何か気づいたことがあれば教えてください」
「はい」
ルナが前を向く。グリムが貨物車へ向かう。列車がこれまでとは違うリズムで揺れ始めた気がした。窓の外の荒野を見つめる。太陽は相変わらず動いていない。
「ルナさん、ツムギをよろしくお願いします」
「おまかせください」
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
ツカサの出番が再びやってきました。ツムギを探す推理がみなさんの目にどう映るのか、少し不安です。
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