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黄昏急行 ~昼が来れば焼け死ぬ星で僕は仲間と旅をする~  作者: わけあり団子


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ルームツアー

はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。

本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。

https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896

謎解きが終わってしばらく経つと、やわらかな眠気が襲ってきた。


目が覚めると体の重みはとれ、足や腕は思うように動くようになった。


少し立ってみようか。そう思い両足をベッドから下ろすとルナがすぐそこに、部屋の入口に立っていた。


「起きますか?」


「はい、大丈夫でしょうか」


「どうぞ。最初は私が支えますので少しずつ足に力を入れてみてください」


細い腕が、確かな力で体を支えてくれる。足に体重をかけると膝が笑いそうになるが、なんとか踏ん張ることができた。


1歩、2歩。最初はルナに支えられながらだったが、歩くうちに体も慣れたのか、列車の揺れがあっても一人であるけそうだった。


「大丈夫そうですね。よければこちらを」


手渡されたのは白いシャツに黒いパンツ。


180年ずっと着ていた病院の検査着を脱ぎ、新しい服に袖を通す。


この衣類は地球のものだろうか、それともアリアで生産されたものだろうか。そんな事をふと考えた。


「よかった、サイズも問題なさそうですね」


「はい。ちょうどいいようです」


「……もしよければ、このまま列車の中をご案内しましょうか?」


「いいんですか?」


「はい。どうぞ、こちらへ」


そういって手を取ってくれる。


「と言っても案内するほど広くも無いのですが……」


ほほを掻きながら少し笑う。


手を引かれながらコンパートメントを出る。


二つの車両の間には金属板が無造作に渡され、板に溶接された金属製のポールからは落下防止用の鎖が張られている。


車両の連結部まで足を進めると、これまで窓越しだった景色が縦に開けた。


頭上を見上げると吸い込まれそうなほどの青い空。群青色の空とはこういう空をいうのかもしれない。


空が白く見える原因は大気中のゴミや塵。それに光があたり乱反射した結果である。


つまり空が青いということはそれだけ大気が澄んでいるということだ。


先頭車両に人の乗るスペースは2畳ほどしかない。


そのスペースは手すりで覆われていて椅子が一つ、正面にはよくわからない計器がならんでいた。


「こちらが1両目。


 見ての通り蒸気機関車になります」


言われてみて気づく。確かに、前方から蒸気機関特有のシュポシュポという音が聞こえてくる。


「……まさか蒸気機関とは思いませんでした」


「ふふ、そうですよね。


 地球ですと随分昔にディーゼル機関に取って代わられましたが、アリアでは化石燃料がほぼ手に入らないので蒸気機関が未だに一般的です。


 電車だと思いましたか?」


「そう、ですね。


 というよりこの列車がどうやって動いているのか、あまり考えていませんでした」


「どうして電車ではなく蒸気機関車が一般的か、わかりますか?」


「えっ……と……」


雑談のつもりかもしれないが、少し尖った質問のようにも思えた。


ルナを見ると、試すような青い目がこっちを見ている。


「……そうですね」


普通に考えれば電車のほうが圧倒的にコスパが良い。


というより蒸気機関のコスパが悪い。


発生した熱エネルギーのうち、蒸気機関車で利用できるエネルギーはわずか10%ほどだったはず。


比べて電気は30%~40%。にも関わらず蒸気機関を使う理由―――。


「……そうか。


 電気は高温になると抵抗が高くなります。


 この星では、何かの拍子で昼に近づいてしまうと、抵抗が大きくなり電車はすぐに動かなくなる。


 蒸気機関であれば蒸気が物理的にピストンを、車輪を回すので高温で動かなくなることはない」


「正解です。


 といっても昼の温度は最高で600度ですので、水だとすぐに水蒸気になってしまいますので他の物質で代用しています」


600度では水がすぐに蒸発してしまうのは分かる。


逆にいえば、600度で蒸発しない物質である必要がある。つまり―――。


「600度で液体、あるいは固体の物質?」


「はい。この列車では水の代わりにマグネシウムを沸騰させて動いています」


「そ……れはすごいですね」


マグネシウムは金属。


つまり、この列車は金属を沸騰させて動いているということになる。


「少し話は変わりますが、列車が走っているとレールの上に岩が落ちている、そんなことが結構あるんです。


 谷間を走っていたりする場所では上から岩が落ちてきたり、このような平地でも風が強くて転がってきたり。


 そんな時、いちいち列車をとめて除去するのは面倒です。


 なので形状もスカートの付いた開拓時代の機関車が合理的だったんでしょう」


「スカート?」


「ご存知ありませんか?


 蒸気機関車の先頭についているラムのような部分です。


 相当頑丈に作られているのでレール上に岩が転がっていても線路上から弾き出してくれます。


 もちろん限度はありますが」


「なるほど……」


ここからは見えないが、確かに記憶の中の西部劇でみた機関車には先頭にスカートのような部分がついていたことを思い出す。


「そして一つもどってここが二両目、客車になります。


 客車と呼べるものでもありませんが、いわゆる私たちのリビングですね。


 ここにある充電ステーションで充電しながらおしゃべりをしたり、あちらのモニタで古い映画を見たり、本を読んだり。


 いつもは人数分のソファーが充電ステーションとは別にあって、時にはみんなでボードゲームなんかもするんですよ。


 今はツカサさんのコンパートメントになっていますが」


「え、っと。


 なんだか、すみません」


「ふふ。そもそも私たち4人には広すぎたので気になさらないでください」


「そして最後の車両が貨物車です。


 見ての通り、大きな箱と棚がいくつも置いてあるだけですが。


 グリムが採掘してきた鉱石や、ラビが見つけてきた売れそうな品々を保管するエリアになります」


「ルナさんの取ってきたものはないんですか?」


「私の仕事はこの列車の運行管理がメインなので、何かを取りにいくという事がありません」


「なるほど」


クックッと笑う声がした。


「ルナは列車より足が遅いからな。


 速度を落とすか、一度列車を止めないと帰ってこれないんだ」


声がする方を見ると、グリムとラビだった。


「グリム、私固有の問題のように言うのは止めてもらえますか。


 どちらかというと二足歩行型の問題であって、私が格別に足が遅いわけではありません」


「砂に着地して、頭まで埋まった!


 掘り出すの大変だった!」


「ああ、あれは焦ったな!


 俺と二人で同時に飛び出して、後ろを振り向いた時には誰も居なかったからな」


愉快そうに笑うグリム。


「そ……それも着地面積が小さい二足歩行の弊害といいますか……」


意気揚々と飛び出した瞬間、砂に埋まっていくルナ。振り返ると誰も居なかった時のグリムの表情を想像すると、思わず声がでた。


「ぷっ」


「ツカサさんまで……」


笑い声が貨物車を包む。


とんでもない世界に来てしまったことはもう間違いない。


けれど、焦りや不安といった感情は全くなかった。


最後までお読みいただき、ありがとうございます。


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