答え
はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。
本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。
https://kakuyomu.jp/works/2912051599391516896
しばらくは荒野を眺めながらこの星のことを考えて過ごした。
たまに窓の外に目を向けるが、窓の外は先程まで岩がゴロゴロと転がる礫砂漠の様相を呈していたが、今はさらさらの砂ばかりの景色に変化している。
なお、目が覚めてからというもの、この荒野では一度も植物を見かけたことはない。
やがてグリムとエドガーが出かけていき、その少し後にはラビも出かけていった。
ルナは一度部屋を出ていったが、しばらくすると戻ってきて、また目の前の小さな椅子に腰を落ち着けている。
「ルナさん」
「はい」
少し迷ってから、口を開いた。
「太陽の高さが何時間経っても変わらない件、僕なりの答えが出たので答え合わせをお願いできますか?」
「はい」
ルナが静かにこちらを向く。
「先程の歴史の解説の中でアリアの自転速度は地球よりも遅いことを教えてくれましたが、これだけでは太陽の位置が変わらない問題は解決しない。
つまり、自転速度が地球の42分の1だとしても太陽が登ってしまえば僕達は結局600度の熱で焼け死んでしまうことに変わりはないはずです」
「そうですね」
「太陽が何時間経っても高さがかわらない原因は、この列車ですね?」
ルナは何も言わずに、静かな笑顔でこちらを見つめている。
答えの続きを待っているように。
「この列車は僕が目が覚めてから以降、ずっと走り続けています。
どこの駅にも停まらずに……まるで何かから逃げるように。」
一度、息を整えた。
「最初、昇る太陽から逃げるなんて絶対にできないと思っていました。
実際、地球であれば不可能でしょう。
でもここは地球ではない。
……試しに計算してみたんです。
地球で太陽が昇る速度は、地球の円周約40000Kmを24時間で一周する。
なので約1600Km/h、これは普通なら列車が出せるスピードではありません。
ですが、ここアリアでは、自転速度は42分の1。つまり地球の42分の1の速度で走ればいいんです。
1600Km/h ÷ 42 およそ 40Km/h弱。
この列車の速度も体感ですが大体40km/h前後じゃないでしょうか。
この列車は目的があって西へ移動しているんじゃない。
昇る太陽から逃げるために西へ移動し続けているんです」
「どうですか?」
ルナはすぐには答えなかった。表情を変えず、瞳の青い光がこちらを見つめている。
「時速40km/hという数字は地球の大きさ40000kmを24hで割った1600km/hを元に出した数字ですね。
ここは地球ではありません。そこはどうお考えですか?」
「確かに。
普通に考えれば『アリアの大きさ』と『アリアの自転速度』を用いて計算しなければ意味がありません。
ですが、ここアリアで感じる重力は地球のものと大差ないように感じました。
人類が生存できる環境なら、惑星の比重は地球と大きくは変わらない。つまり―――。
もしアリアが地球より大きい惑星であれば、僕が感じる重力は大きくなり、小さい惑星であれば、僕が感じる重力は小さくなるはずです」
ベッドの脇にあった小さなネジを手にする。
ゆっくりと頭の高さまでネジを放り上げる。ネジはゆっくりと落下し元の手のひらに収まった。
「ネジを投げてみたんです。
僕の感覚ですが、重力加速度は地球の9.8m/s2と大差ない。少なくとも僕の感覚では。
つまりアリアの大きさは地球と大差ないのでは?」
ルナの表情が、ほころんだ。頬にある歯車がくるくると回っているのがわかる。
「ふふ、正解です。
私たちは迫りくる死から逃げているのです」
ルナはゆっくりと視線を窓の外に、動かない太陽に向け、言葉を続ける。
「夜の面では寒すぎて凍えてしまう、逆に昼の面では熱すぎて焼けてしまう。
でも夜から昼へ、あるいは昼から夜へ、一瞬で600度から-150度へスイッチのように切り替わるわけではありません。
ゆっくりと温度は変化し、やがては600度、あるいは-150度を向かえるのです。その温度変化の狭間には、わずかながら生物が生きていくことができる領域が存在します。
地球ではハビタブルエリア、生存可能領域と呼ぶ場所……それがここ、私たちが走っている場所です」
窓の外には相変わらずの荒野と赤い空、そして水平線上には―――。
「このアリアでは極地と地下を例外とすれば、このハビタブルエリアから出ることはできません。
それはすなわち死を意味するからです」
ルナを見る。表情から感情は読み取れない。
ガタン、と少しだけ大きな揺れ。
「すっきりしました。ありがとうございます」
「ふふ、どういたしまして。
それにしてもツカサさんは頭が良いのですね」
「いえ、そんなことは……」
ルナは穏やかに、しかしはっきりと言った。
「あります。私はこれまで何度か人類の解凍に立ち会っていますが、ツカサさんのように状況から現実を推測できた方はいませんでした」
過酷な世界に来てしまったのだな、そう思う反面、自分の中の謎が一つ解けたことが今は嬉しかった。
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