缶詰
はじめまして、本作を開いて頂きありがとうございます。
本作品はカクヨムでも投稿しています。小説の内容は一切差はありません。
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「長くなってしまいましたね。少し休憩にしましょう」
頭の中はまだ整理ができていない。アリア、ミラ、コールドスリープ、68年、受け取った情報を何から咀嚼すればいいのか。
深呼吸をすると、冷たい空気が肺に入ってくる。火照った体が少しだけ冷めた気がした。
「今、お湯をわかしますね」
ルナが立ち上がり、車両の隅へと向かう。
列車は変わらずに、ガタンゴトンと一定のリズムを繰り返していた。
おそらくもう地球には戻れない。この荒野が新しい日常になるのだろうか。そんな予感が頭をよぎった。
「ルナ、帰った!」
突然、弾むような声が車両に飛び込んでくる。
ウサギを模した小柄なオートマタ。長い耳、丸い目、ふさふさの尻尾、それ以外の部分は金属でできていることがわかる。
「あら、ラビ、おかえりなさい。何か見つかりましたか?」
「捜索隊の古いキャンプで、3つだけ開いてない缶詰を見つけた!」
ラビと呼ばれたオートマタは、手にもっていた缶詰をテーブルの上に、押しやるように丁寧に並べた。
すべての缶詰をテーブルに乗せると体をこちらに向け、丸い目をさらに丸くしてじっと見つめてくる。
「それは嬉しい報告ですね。
ツカサさん、今夜は普通の食事が取れそうですよ」
「えっ、その缶詰は僕のために?」
思わず声が出た。ラビの耳がぱっと立った。
「そう!褒めて!」
本当に小動物が喋っているかのような少し高い声だった。
両手をあわせて体の前に、その仕草に思わず口元がほころんだ。
「ラビは重たいものは運べませんが、グリムより足が速く、ソナーによる探索が得意なんです。
昨日からツカサさんの食料調達をお願いしていたんですよ」
「昨日から・・・。ありがとう」
「どういたしまして!」
ラビが胸を張った。耳がぴんと立っている。
「よう」
今度は低い声が、入口から聞こえた。
グリム、という名前だったと思う。熊型のオートマタが立っていた。肩には鳥形のオートマタ、エドガーが留まっている。
「グリムも帰っていたのですね、おかえりなさい」
「帰る途中、ラビに待ち伏せされてな。荷物持ちをさせられた。
あと、わかっちゃいたがこの辺りはいいタングステン鉱石が取れるな。なので、持てるだけ持ってきた」
ぶっきらぼうな口ぶりだったが、どこか温かみのある声だ。
「いい値段で売れそうですか?」
「おそらくな」
「それは何よりですね」
「で、こいつが持たされた荷物だな。
ラビが見つけた捜索隊のキャンプにあったもんだが、ツカサが着れそうな服と靴。
どれが似合うかわからんから、着替えも含め適当に何着か持ってきた」
どさりとテーブルの上に置かれた荷物は、折り畳まれた下着にパンツ、シャツ、靴下、それに靴。
「あ……。
ポッドを見つけたのも、ここまで運んでくれたのもグリムさんだと聞いています。
本当にありがとうございます」
グリムは視線をわずかに逸らして、片腕を上げる。
「おう……」
「ラビも頑張った!」
「うん、ラビも本当にありがとう」
「カァ」
「えっと、エドガーもありがとう」
お湯が沸く音がした。ルナがこちらへ振り返り、静かに微笑む。
窓の外には、荒野がいつものように流れていく。太陽の高さは変わらない。
昔のことを思い出そうとしても、まだ記憶はもどらないままだ。自分は誰なのか。どうしてミラに搭乗したのか。
自分はこの後、どうなるのか。
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